ササハタハツ再開発プロジェクトTPT× NEUT Magazine
Vol.1では、TPTのボードメンバー3人にインタビュー。プロジェクト立ち上げの経緯から今後の展望まで、TPTが考えるササハタハツの緑道への思いと、再開発をどう捉えコミットしていくのか、話を聞いた。
ー「TPT」の活動拠点、“ササハタハツ”はどんな場所か教えてください。
一言であらわすなら「多様性と美意識と緊張感がある街」。新宿から10分、足を伸ばせば渋谷にも行ける笹塚~幡ヶ谷~初台の3つのエリアをまとめた呼び名です。地政学的視点で川の流れのように考えると面白くて、幹線道路や電車に囲まれている地帯なんですよ。北側に甲州街道、東側に山手通り、西側に環七通りがあり、さらに南に下ると小田急線が通っている。通りと沿線を繋ぐと交通網の四角形に囲まれていて、上手く使うと大体都内のどこにでもアクセスできます。実際に僕らTPTがコミットしようとしている緑道は、この四角形の背骨みたいな場所にあります。さらに代々木上原の辺りには井の頭通りが通っていて、実際には地図上で大きな三角形にあたるところに文化が集中している。その中心地が幡ヶ谷。渋谷、新宿や下北沢、代々木上原といった生活シーンが異なるエリアに囲まれて、そこから流れ込んでくる人たちも多いので、不思議な緊張感と多様性、雑多な感じと美意識が合わさっている。いろんな意味で渋谷の谷間になっていると思います。歴史ある商店街もありながら、街特有のいわゆる地域独自のルールがない。若者が何かをやりたいということに対して受け入れる余裕がある、理解できる大人がいる街。若い人のチャレンジをちゃんと受け入れてくれる場所だなと思いますね。
ー街の開発を専門に行う行政とは別に、そもそも「TPT(ティーパーティ)」というプロジェクトとして活動することになったきっかけは何ですか?
TPTは渋谷区が推進しているササハタハツの緑道の再整備計画「388FARM(ササハタハツファーム)」に、地域住民としてコミットするために立ち上げたプロジェクトです。2020年度に渋谷区の審査に採択され、認定プロジェクトとして活動をしていますが、もともとは街の開発を放っておいたらまずいぞという危機感からスタートしました。本心を言えば今のササハタハツの緑道がとても好きで、できれば手を加えない方がいいと思っています。ただ、そこで反対していても仕方がない。変わっていくことを前提に、じゃあどういう形が良いのだろうということを考えて、積極的に変えていくということをしたいなと。気合と根性さえあれば誰でもゲリラ活動はできるかもしれない。けれど単純に市民団体で終わらせないように、行政とはオフィシャルな関係性を築きながら活動していくことが大事なことだと思っています。ヤンキーイズムでやるのではなく、渋谷区行政の皆さんは一声かけてきちんとした手順を踏めば受け入れてくれる器を持っている。行政に認めてもらいながら、一緒に取り組んでいくプロセスを大切にしていきたいですね。
ーTPTが緑道を“積極的に変えていく“ことを考えるなかで、ここだけは変えてはいけない、と思うところはありますか?
「住んでいる人たちが使い方を決める」ということだけは変えてはいけないと思います。緑道の使い方を決めるのは行政でも企業でもない。最終的に僕らが目指していきたいのはサンフランシスコのパークレットという仕組みで、いわゆる歩道・側道・緑道を利活用するためのシステムです。歩道・側道・緑道にある空いている場所で「パークレット」を使うと、企業、お店、個人、誰でも自由に空いているスペースを使える。もちろん無料ではなく有料で、みんなのもの、という理由で掃除の仕方まで指示されたりと使用ルールが厳密に定められているんですね。TPTも、緑道の使い方そのものも積極的に定義していけるような活動にしたいと思っています。具体的には388FARMの中に「文化のファーム」と「経済のファーム」の2つの拠点をつくることを目指しています。文化のファームはアーティスト・イン・レジデンス、経済のファームはビジネスインキュベーションを想定していて、拠点を置き、使用ルールを明確化することで街に住む人にはもちろん、外部の人、例えば企業にとっても使いやすくなるかもしれない。緑道の位置ってある種のビジネスチャンスにも繋がると思うんですね。2拠点を交流させることでササハタハツエリアの文化経済を耕していければなと考えています。
ー実際には今後、どのような活動をされていくのでしょうか?
まずはメンバーでお金を出し合って、コミュニケーションのハブとなるような移動式の屋台を作る予定です。再開発が5年ほどはかかる予定なので、緑道を定期的にグルグル徘徊してアイツらなんかいるな、くらいに地味に認知を広げていけたらいいなと考えています。単純にテーブルにタイヤがついているだけでも、人が集まって移動できるものであれば“屋台”と呼べる。フードカートもできるだろうし、ワークショップをしていくような場所にもできるかもしれません。TPTの作る場が地域の人同士が交流する場にも、外部との接点にもなれば良いなと。そこからどういうコミュニケーションを生んでいけるか、試運転をしながら考えていきたいと思います。
ー“街の再開発”といわれると、どうしても身近に感じにくい人もいると思います。TPTに参加したい、応援したい人はどうすればよいでしょう?
TPTはティーパーティー(お茶会)の頭文字をとったのですが、お茶会って、話さなくてもお茶を飲めば成立する。特に大した目的や議題がなくてもとりあえずお茶しますか、ということが成立するのがティーパーティーのいいところですよね。文化のファームと経済のファームについて話すことももちろんしていきたいですが、いきなり話すのではなく、間にお茶がある。昔の寺子屋や神社に近いかもしれませんが、誰でも自由に出入りできて、困ったことがあったら相談することができる場所。目的がなくてもOKだし、お茶をするだけで良いと思っています。気軽にふらっと立ち寄ってもらって、緑道で過ごす時間と場所を共有できたら嬉しいですね。“積極的に変えていく”ためにも、行政に届かない声を、自分たちがハブになることで集めていく。TPTを通して、まだ自分たちも知らない緑道の魅力を知っていくことができるかもしれません。一方で、「ボストン茶会事件」や、最近ではアメリカ保守派によるティーパーティ、または不思議の国のアリスに出てくるマッド・ティーパーティなど、さまざまな人間の営みのなかの特異点としてティーパーティが現れるのは興味深いことだと考えています。僕たちはほっこりやろうと思ってますが(笑)。
「緑道が再開発される」と聞くと、どこか自分とは関係のない話だと思って、特に気に留めないかもしれない。いつもそこに存在していることが当たり前で、住んでいる街について意識したり話題にすることも滅多にないのではないだろうか。街のことは行政が決めると思っていた節もあるかもしれない。だからこそ今回のインタビューで話に出た、“積極的に変えていく”という言葉の意味について考えさせられる。変化を受け入れることと、積極的に変わっていくことの違いはなんだろう。変化を受け入れることは容易なことではない。変化することで失われるものもあるし、環境が変わると、枯れてしまう植物もある。変化への無関心は、意図しない暴力に近いのかもしれない。「変わっていくことを前提に、じゃあどういう形が良いのだろうということを考えて、積極的に変えていくということをしたいな」という姿勢のTPTとともに“積極的な変化”についてこの連載を通して考えていきたい。
TPT
TPT(ティーパーティ)は、ササハタハツ(笹塚・幡ヶ谷・初台)に拠点を置く運営メンバーはササハタハツに拠点を置く小田雄太氏(COMPOUND / まちづクリエイティブ)、財津宜史氏(笹塚ボウル)、足利敏浩氏(BLUE LUG)によるササハタハツの再開発プロジェクト。渋谷区が推進している笹塚・幡ヶ谷・初台の緑道の再整備計画「388FARM(ササハタハツファーム)」に、地域住民としてコミットするために2021年に立ち上げられた。▶︎Website
小田雄太(おだ ゆうた)
デザイナー/クリエイティブディレクター
COMPOUND inc.代表/まちづクリエイティブ取締役/多摩美術大学非常勤講師。
平面領域のデザインを軸足にしながら、メディアやファッション、VR、エリア開発、まちづくりまでのリードデザインを手掛ける。最近の主な仕事に100BANCH(インキュベーション)、BONUSTRACK(エリア開発)、Newspicks(メディア開発)、STARTBAHN CERT(ブロックチェーン)、STYLY(VR)、noir kei ninomiya(服)、MADcity(まちづくり)など。
財津宜史(ざいつ よしひと)
笹塚ボウルディレクター
笹塚、幡ヶ谷、初台を中心に、ボウリング場、不動産、飲食店、スポーツジム、音楽教室を経営。「エンタメ × コミュニケーション × 健康」がテーマ!
足利敏浩(あしかが としひろ)
自転車店BLUE LUG(ブルーラグ)代表
渋谷区幡ヶ谷、代々木公園、世田谷区上馬に店舗を構え、自転車の修理や販売はもとより、パーツ、アパレル、バッグ、雑貨なども幅広く展開。BLUE LUG 幡ヶ谷店そばには飲食店「LUG HATAGAYA」、床屋「HUB」の運営も。