「年上の男性が好きなんでしょう?」“性を売る国”というイメージを押し付けられるフィリピンと日本にルーツを持つUni Sakuraが語る日本での人種差別の記憶|イエローライト

Text: Natsu Shirotori

Photography: Takanobu Watanabe unless otherwise stated.

2022.4.26

Share
Tweet
width=“100%"

NEUT 2022年 特集「イエローライト」

 2020年、世界中で新型コロナウイルスが拡大していくと同時に、最初に広がった地域が中国だったことを理由に各国でアジア人に対するヘイトクライムの増加が問題となった。そんななか、欧米を中心に「#StopAsianHate」というハッシュタグの元、アジア人差別に対抗するムーブメントが生まれた。
 NEUT Magazineは、海外におけるアジア人差別に声を上げると同時に、日本を拠点とするウェブマガジンとして、日本国内でおきている同じアジア人への差別に目を向けたい。
 外国で起きているアジア人差別に関するニュースを遠い国の出来事として見てはいないだろうか? 「アジア料理」「アジアン雑貨」「アジア人」。日本国内でアジアという言葉が使われるとき、どこか日本はアジアではないような印象を受ける。意識の奥深くで、他のアジア諸国と日本を区別し、差別してしまっているのではないか? 
 特集「イエローライト」では、日本国内におけるアジアンヘイトに目を向け、日本以外のアジアの国にルーツを持つ人々にインタビューを行っていく。

 初めて会った人と会話するとき、「出身は?」という質問から会話が始まることはよくある。そして、その質問からどうにか会話を広げようと、相手の出身地に関して知っていることやその地域の人のイメージを語ってしまう。
 フィリピンと日本のミックスであるUni Sakuraはこの質問が苦手だと話す。くっきりとした眉毛に長いまつ毛、ぱっちりとした目、褐色の肌。その見た目から、すぐに“純”日本人ではないと周りに言われるという彼女。会う人会う人に「出身は?」と幾度となく尋ねられてきた。自身のルーツについて答えれば、「フィリピンの人って〜」と相手はフィリピンに関するイメージを語り始める。そのなかには「ジャパゆきさん*1」を連想する者や、貧困の国というイメージを持つ者、フィリピン人の顔立ちをうらやむ者とさまざまな人がいるという。
 あなたはフィリピンと聞いたときにどんなイメージを持つだろうか。「出身は?」から始まる人種差別について、Sakuraが教えてくれた。

width=“100%"

(*1)1980年台前半に流行語になった、フィリピンやタイなど東南アジアを中心とした国々から日本に出稼ぎに来ていた女性たちを指す言葉。特に、ホステスなどの水商売に従事した人を指すことが多く、差別的な意味合いで使用されることが多い。かつて日本から東南アジアへ娼婦として出稼ぎに行っていた女性たちを指す「からゆきさん」をもじってできた言葉。

「出身は?」から始まる自己紹介が嫌い

ーまず、あなた自身について教えてください。

Uni Sakuraと申します。普段はレコードカフェで働きながら、ランジェリーブランドのピーチ・ジョンのリアルサイズモデル™️をしたり、「SELFISH CLUB」というWebマガジンを運営したりしています。

フィリピンで生まれて、1歳のときから広島県の呉市に住んでいました。東京に来たのは25歳のときです。広島で美容の専門学校を卒業した後、しばらくは地元でブライダル関係の仕事をしていましたが、小さいときから東京に行きたいという気持ちがあったので、上京しました。

美容専門学校時代にはいわゆる「美人」であることが“カースト”上位に入る条件でした。ミックスで良くも悪くも目立つ顔立ちの私は、正直そういう意味ではカースト上位にいたと思います。私自身も「美しくないと意味がない」と思っていました。でも、仕事を始めてからストレスですごく体重が増えて、東京に来た頃には元々の体重より10kg近く増量していたんですよね。そんな状況でルッキズムの概念に出会って、今までの考え方が豊かではなかったと気づき、リアルサイズモデルや「SELFISH CLUB」の活動を始めました。

ーご家族について教えてください。

日本人のお父さんとフィリピン人のお母さんと、弟がいます。つい最近初めて聞いたのですが、母は横須賀のフィリピンパブで働いていたときに、父と出会ったそうです。

母は6人兄弟の長女で、父親を早くに亡くしています。家計がどうしようもなくなって、1人で日本に来てフィリピンパブで働いていたみたいです。日本で父と出会った後、母が一度フィリピンに帰ってから妊娠が発覚して、私が生まれました。結婚式はフィリピンで挙げて、家族で日本に住み始めました。今回は取材ですが、実は日常のなかで自己紹介で嫌な思いをすることが多いです。

ー自己紹介でどんなことを聞かれるのでしょうか。

初めて会った人との会話が出身やミックスのルーツについてから始まることが多くて、もう何回も同じ質問に答えてきているので、嫌になります。

例えば「出身」といったら、私は「日本です。広島です」と答えるのですが、「嘘でしょ?」とか「沖縄でしょ?」とかって言われるんです。生まれはフィリピンですが、25年間広島で暮らしてきたので広島が私の出身地だと思っているのに。「どこの国の人?」と聞かれることもありますね。

あとは、お父さんとお母さんについての質問も嫌ですね。例えば「どこで出会ったの?」とか「まだ一緒に暮らしてる?」とか。フィリピンに対して実際どんなイメージがあってこういう質問をしているのか分かりませんが、日本人同士の親を持っていたり、欧米にルーツがある人だったら聞かれないんじゃないかなと思います。

width=“100%"

人種差別と性差別の交差点で

ー自己紹介以外では、日本で暮らしていて、フィリピンとのミックスであることを理由に差別をされたことはありますか。

小さいときから今まで、差別を感じない期間の方が少なかったです。小学校・中学校の頃は、同級生に親の真似をされたり、見た目のことを言われたりして、フィリピンと日本のミックスであることが嫌だなと思っていました。

私は眉毛もまつ毛も濃いし、肌の色も違うので、目立つんです。小学生のとき、おばあちゃんにお気に入りの服を着て見せたら「外国人に見えるからやめなさい」と言われたのをすごく覚えています。外国人に見えることは良くないことなんだって。それで、「濃い」=外国人だと思って、とにかく薄く見えるように、眉毛を全部剃ったりまつ毛をなくしたりしていた時期もあります。肌の色はどうしようもないのですが、当時の私の親友がすごく日に焼けた子で。その子が私の肌の色を褒めてくれたので、自分を保つことができました。周りから肌の色について何か言われたときも、彼女が一緒に言い返してくれたりしたのでありがたかったですね。今は、お母さんと弟とそっくりなこの眉毛も、私のルーツであり、私らしさだと気に入っています。

ー大人になってからはどんな経験をされてきましたか。

カラオケバーで働きだしてから、「これってフィリピン特有なのかな?」と感じる差別を経験するようになりました。お客さんのおじさんたちから出身を聞かれてフィリピンだと答えると、その人が考えるフィリピン人女性像を言ってくるんですよね。「束縛が強い」「フィリピンの女性は日本人男性と結婚するために日本に来ている」とか。さっきの話に繋がるのですが、初対面なのに父と母の出会いを聞かれて、フィリピンパブがそのおじさんが求める「正解」だったりして。

フィリピンは性を売る国というイメージがあるみたいです。実際、フィリピンで女性を買ったという話を聞かされることも少なくないです。「年上の男性が好きなんでしょう?」とかって、まるで自分でもいけるだろうというような態度をとってくるおじさんもいたりします。自分もそういう目で、性的な目で見られているんだなということを理解しました。そこからずっと、気持ち悪いという感情は消えません。母や、私が今まで過ごしてきた家庭も全部否定されるような気持ちになります。母も含め、フィリピンパブで働いている人たちが、どんな状況でなぜそこで働いてるのかも知ろうともせずに、水商売と言われるところで働く人を見下すような態度をとってくるのは、自分が”特権”を持っているから言えることですよね。

ですが、残念ながらそう思っているのはおじさんたちだけではないんです。過去に付き合った男性の母親が、フィリピンとのハーフの子と付き合っていると伝えると「大丈夫なの?利用されるんじゃないの?」と心配されたと言っていました。これもフィリピンの偏ったイメージによるものですよね。

ーそのような差別の経験について周りの人に相談したりすることはありますか。

こういった話をすることはほとんどないですね。今まで「フィリピンのハーフってかわいいよね」「フィリピンのミックスならかわいいから良かったね」と言われることも多かったので。嫌な気持ちを思い出すし、かなり重い話になるので友人たちにも自分から話すことはないです。もし、信頼している友人たちからも差別されたら…という恐怖心もあります。

あと、「フィリピンの人って明るいよね」ってよく言われます。以前、マッチングアプリでも自己紹介のくだりを省くために、フィリピンのミックスであることを書いていたら、マッチして1通目で「フィリピンの人大好きです」みたいなメッセージが来て怖かったです。そういうイメージを持っている人に、差別の経験をしてもあまり響かないだろうなという気がするので、あまり自分からは話しません。家族の話にもなるし、「考えすぎじゃない?」とかって言われるのは嫌なので。

日本も「アジア」の一部なのに

width=“100%"

ー「#StopAsianHate」の動きはこの特集のきっかけでもありますが、この運動について知ったとき、どう思いましたか。

日本でもこの動きが話題になったとき、正直「今なんだ…」と思いました。多分、これまで日本が「アジア」であることを自覚していなかったという理由なんじゃないかなと思うんですよね。「日本人が」となったらすぐに気にするのに、「アジアの人が」となると急に人権がないがしろにされてしまうような感覚があります。もちろん欧米で起きているアジアンヘイトは許されることではないけれど、ここまでならないと日本では話題にならないんだなって思いました。外国人観光客に「日本の良いところ」をインタビューするTV番組も多いですし、まさか自分たち日本人も差別されるとは夢にも思ってなかったんじゃないですかね。

フィリピンに対する性的なイメージもですが、東南アジアで日本人男性が貧しい女性を買春していたり、他のアジア諸国から日本に働きに来ている人の扱いがひどかったりしますよね。日本は、どこか「自分たちはアジアではない」あるいは「アジアで1番だ」というような意識があるように感じます。

ー最後に、今回この取材を受けてくださった理由を教えてください。

フィリピンのミックスの子って日本に多いと思うんですよね。きっと私と同じようにお母さんがフィリピンパブで働いていて、という子も少なくないと思います。そして、それをマイナスに思っている人もたくさんいるのではないでしょうか。でも、海外に1人で来て、日本語を勉強しながら、踊ったりお酒を作ったりして、家族のためにお金を稼いで生活をするってすごいことなんですよ。だから、それを他人の発言のせいで引け目に思ってほしくないんです。

それから、差別って、されて嫌な思いをした方が「それ嫌なのでやめてくれますか」ってなかなか言えないんです。勇気がいるし、傷つけられる可能性もあるし、面倒くさいし、一刻も早くその会話を終わらせたいし。そうすると差別をしている人って一生気づかないまま差別し続ける。でも私は伝える必要があると思って、Twitterの議論だけでは伝わらない自分の思いを話しました。私もそうですが、差別を経験し続けるとどこかで孤独に思ってしまいます。その気持ちを抱えている人に、「自分のせいじゃないよ」「一人じゃないよ」と、この記事で伝えられたらいいなと考えています。

width=“100%"

 日本にはフィリピンをはじめとする東南アジアの国々の女性に対して、人種差別的で性差別的な視点を持っている人が多いのは彼女の体験が物語っている。「インターセクショナリティ」という言葉が広まりつつあるが、人種差別、性差別、ルッキズム、これらの差別は絡み合って複合的に発生している。「差別」は一括りでは語れないこと、そして自分の目には見えない(つもりになっている)複雑な差別の構造があることを、理解しなければならない。
 そのうえで、「出身は?」という質問に立ち返ってみよう。この質問自体が悪なのではない。だが、質問する相手によっては、自分が意図していない、あるいは気づいていない意味合いが生じることがある。「出身は?」の答えから得た国や地域というラベルで決めつけられたイメージは、時にその個人の人間性や人生の歴史を無視した発言に繋がる。言い古された言葉ではあるが、「想像力の欠如」は差別の温床となりやすい。自分の無知さ、偏見へと意識を巡らせて、少しでも相手の立場に立とうとしてみることで見えてくるものがあるのではないだろうか。

width=“100%"

Uni Sakura

Twitter / Instagram

広島県呉市出身。Webメディア「SELFISH CLUB」では運営だけでなく自身でエッセイなど文章も書いている。リアルサイズモデル™️の活動など、表現を通して”全ての人が生きやすい” 世界平和を目指す。

Share
Tweet
★ここを分記する

series

Creative Village