「話しかけるのは怖い」同じアジア人でも、見た目で変わる差別の体験。モデル・PAKの日本での人種差別の記憶|イエローライト

Text: Natsu Shirotori

Photography: KISSHOMARU SHIMAMURA unless otherwise stated.

2022.7.26

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NEUT 2022年 特集「イエローライト」

 2020年、世界中で新型コロナウイルスが拡大していくと同時に、最初に広がった地域が中国だったことを理由に各国でアジア人に対するヘイトクライムの増加が問題となった。そんななか、欧米を中心に「#StopAsianHate」というハッシュタグの元、アジア人差別に対抗するムーブメントが生まれた。
 NEUT Magazineは、海外におけるアジア人差別に声を上げると同時に、日本を拠点とするウェブマガジンとして、日本国内でおきている同じアジア人への差別に目を向けたい。
 外国で起きているアジア人差別に関するニュースを遠い国の出来事として見てはいないだろうか? 「アジア料理」「アジアン雑貨」「アジア人」。日本国内でアジアという言葉が使われるとき、どこか日本はアジアではないような印象を受ける。意識の奥深くで、他のアジア諸国と日本を区別し、差別してしまっているのではないか? 
 特集「イエローライト」では、日本国内におけるアジアンヘイトに目を向け、日本以外のアジアの国にルーツを持つ人々にインタビューを行っていく。

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イエローライト × PUMP management

5月〜7月の記事は、特集「イエローライト」と東京を拠点とするモデルエージェンシー「PUMP management」のコラボレーション。PUMP managementは、カッコイイ・カワイイの固定概念を疑い、個々の魅力を吸い上げてプッシュするエンターテイメントを届けるべく活動をしている。5月〜7月のイエローライトでは日本以外のアジアの国にルーツを持ち、唯一無二の魅力が輝くPUMP management所属のモデル3人にインタビューしていく。

 中国にある新疆(しんきょう)ウイグル自治区の出身。どんな場所で、どんな人たちが暮らしているのか、ぱっとイメージが湧く人は今の日本にどのくらいいるだろうか。今回取材したPAKは、新疆ウイグル自治区から日本にやってきて2年弱になろうとしている。何度も旅行に来た日本を気に入り、留学生として日本で暮らすことになった。
 PAKは「自分は“アジア人”だけど、見た目が“アジア人”ぽくない」と語る。浅黒い肌に大きな目、高い身長。本人の性格とは関わらず、一見強そうな見た目をしているのだ。そんなPAKが日本でしてきた体験は、これまでにこの特集で取材してきた5人とは大きく異なるものだった。
 同じアジア圏の出身でも、見た目が異なるだけで人々の反応が変わるということは一体どんな意味を持つのだろうか。日本における“アジア人”差別をテーマにこの特集で取材をしてきた筆者にとっても新たな、そしてまた1つのリアルな視点を教えてくれたPAKの話を紹介したい。

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PAK

行先は自分で決めてきた

ーまず、あなた自身について教えてください。

PAKです。歳は21歳で、出身は中国の新疆ウイグル自治区です。日本に来たのは2020年の11月くらいです。幼い頃からアニメが大好きで、『NARUTO』や『クレヨンしんちゃん』はよく観ていました。特に『NARUTO』は腕にタトゥーを入れるくらい大好きです。何回も日本に旅行に来たことがあって、名古屋、大阪、奈良、京都、東京といろいろな場所に遊びに行きました。最初はアニメの影響だったと思うのですが、だんだん日本に留学したくなりました。

今はPUMP managementでモデルの仕事をしながら、大学でファッションを勉強しています。地元にいたときから知り合いにモデルの人がいて、自分もやってみたいなと思っていました。友達の紹介で、2021年の10月末に事務所に入りました。

ー幼少期はどんなお子さんでしたか?また、ご家族についても教えてください。

兄弟はいなくて一人っ子で、父と母の3人家族でした。本当に悪いことはしないけれど、いたずらはよくしていました(笑)。両親はそんなに厳しくなくて、「勉強したいと思ったら勉強しなさい。したくないならしなくていい」と言うような親でしたね。でも、将来をイメージしてちゃんと勉強しようかなと思ったので、自分で塾を探して通わせてもらいました。
同じように日本への留学も自分で決めました。最初は大学は地元で通って、大学院に行くときに留学しようと思っていたのですが、高校生のときにどうしても勉強したくなくなって。どう頑張っても興味が持てなくて何も覚えられないような状況になって、そんななかでもファッションと日本には興味が持てたので高校を卒業したら留学に行こうと決めました。やりたいことはほとんど自由にさせてくれる両親だったので、日本に行きたいと言った次の日には入学の手続きを始めていました。

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差別を受けたと思ったことはないけれど…。

ー日本に留学する前後でイメージにギャップがあったことや驚いたことはありますか。

日本人の友達が家に来て「お邪魔します」とか「ここに座ってもいい?」とかって丁寧に聞いてくれるのですが、地元ではこんな習慣はないので、勉強になりました。「お邪魔します」くらいは言うこともあるけれど、私の国では友達の家でも自分の家のようにすぐ横になる人も多いので、違いを感じましたね。

あとは、旅行に来ていたときは街がきれいで食べ物もおいしいという、自分の中の日本のイメージそのものだったのですが、日本で生活するようになると違うものも見えてきました。東京にいると時々、電車で酔っぱらいの人が床で寝ているのですが、それを見ても誰も関わらない様子などはギャップでした。それはかわいそうだなとは思いますが、日本は良くも悪くも「自分のことは自分のことだから、他の人と私は関係ない」、そんな意識が強いように感じました。

ー今回の特集では「日本における“アジア人”差別」について色んな方の経験談をお聞きしているのですが、PAKさんは日本で人種的ルーツを理由に差別を受けた経験はありますか。

私自身は差別を受けた経験はないと思っています。私に直接差別的な意見を言ってきたり、喧嘩を売ってきたりする人はいません。見た目で「強そう」とか「怖そう」と思われるみたいで、それも理由の一つかもしれないです。差別を受けたり、下に見られることがないという意味ではいいのですが、時々困ります。他の人が近寄ってきてくれないし、友達ができにくくて。自分でもなんでそう思われるのだろうと思ってたくさんの人に聞いたのですが、「話しかけるのは怖い」と言われてしまいます。モデルの撮影でも私は強そうな顔やポージングを指定されるような気がします。

それから、今回の取材の資料で「“アジア人”が日本人から差別されている」という事実を見て、私はアジアの出身だけれど、顔はアジア人っぽくないから、それも差別をあまり受けない理由なのかもしれないとも思いました。自己紹介をするときに自分の名前だけを言うので十分じゃないかと思っているのですが、アジア人ぽくないからなのか、日本に来てから初めて会う人に必ず「どこの方ですか?」と聞かれるのは少し驚きましたね。出身を言ったところで反応は「あ、そうなんですか」くらいなのですが。

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ーPAKさんご自身は個人的な差別は受けたことがないとのことですが、日本の社会のなかで人種的な差別があるなと感じる瞬間はありますか。

部屋を借りるときに「外国人はだめ」という話をよく聞きます。私自身も大変でした。気になっていた部屋が、外国人だからという理由で借りられないことがありました。借りる部屋が決まったあとも、日本人の保証人が必ず必要だと言われて、日本に来たばかりでそんなことを頼める友人はいないので困りました。最終的には、中国人で日本に15年くらい住んでいる自分の幼馴染でもいいと言われたので、その人にお願いしました。

差別はだめだとは思います。でも、前にある国の人が住んで家賃を払わずに逃げてしまうとかそういう事例があったのを見て、家主さんがまとめて「外国人だめ」「○○という国はだめ」としてしまう考えも想像はできます。

自分は自分のために生まれているのだから

ーモデルとしての活動の中では「男らしさ」や「女らしさ」にとらわれない表現をしたいとお話しされているのを拝見したのですが、それについても詳しく教えてください。

地元では、男性が“女性向け”の服装をしていると日本よりも厳しく叱られたり、周りの人々に舐められたり、嘲笑われてしまったりします。もちろん男の人が化粧するのもだめだし、女性も“男性の服”は着られません。でも日本に来て、そういった雰囲気がないので性別による「らしさ」にとらわれない表現ができると思いました。人生は1回だけだから好きなことをやらないと。自分は自分のために生まれているのだから、本当は他の人が何を言うかは関係ないと思っています。でも人種的な差別に関してもファッションに関しても、誰かに何かネガティブなことを言われるとやっぱり落ち込むと思うので、そういうことを言われないような雰囲気を自分で作っている面もあるかもしれません。

ーもし、周りに差別を受けている人がいたり、自分の身に差別が降りかかるようなことがあったらPAKさんはどう対応しますか。

小さいころから今まで、私はたまたま他の人に舐められたり差別されたりする経験はしてこなかったけれど、もし差別されたらと思うと考えるだけで悲しいです。もし自分の身に差別が降りかかったら、まずは自分を守るのが一番大切だと思うので、どうにか差別を止められるように考えて動くかな。小学生の頃、おとなしいクラスメイトがいじめられていて、本当にかわいそうだったのですが、人は「弱そう」だと思う相手を攻撃してしまうのだと思います。だから、差別もされた側が怒ったり反対しないとずっと繰り返されてしまうのではないかと思います。

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 日本に暮らす外国人、あるいは“アジア人”はみんなつらい経験をしているのではないか。それもまた1つの偏見だったのかもしれない。たしかに外国人が賃貸物件を借りにくい問題など、PAKもシステマティックな差別には例に漏れずぶつかってしまっている。しかし、PAK本人が語るように、個人的で直接的な言葉や行動として差別を受けたことがない“アジア人”がいるのもまた事実であろう。ここまでの複数の取材からも分かるように同じ“アジア人”と言っても、それぞれ異なる経験をし、異なる苦しみを抱え、異なる印象を日本に抱いている。差別はしてはならない、それは揺るぎようのないことだが、「○○人」と一括りにせずに「人それぞれ」に丁寧に向き合い、対話していく必要がある。

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PAK

Instagram

PAK モデル 21歳。中国・ウイグル自治区出身。
東京の大学でファッションビジネスを学ぶ傍ら、モデルとして活動。
ISSEYMIYAKEのコレクションビジュアルに起用されるなど、ハイブランドや雑誌媒体からのオファーも多い。エキゾチックなイメージと細身高身長なプロポーションを活かし、”モデル”のイメージや可能性を更新している。

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