「レジ袋を最高級ワニ革へ」。22歳、異才の空間デザイナーが今日本で“透明なモノづくり”をする理由│さとり世代が日本社会に起こす、半径5mの“ゆる”レボリューション #004

Text: HINAKO OHNO

Cover: POTECHI

Photography: Ken Nagasawa unless otherwise stated.

2017.10.20

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“さとり世代”と生まれた年代でひとくくりにしないで欲しい。それぞれに色があって、なくなったといわれる「欲」は昔と違うものに向くようになっただけだ。

今回取り上げる彼も、さとり世代のひとり。しかし、彼にその自覚はないし、私も彼はさとり世代の特徴からはかけ離れた人だと思う。

自分がさとり世代という意識をしたことは全然ない。めっちゃ欲があるし(笑)。内向きとか欲がないとかってめっちゃ損してるなって思う。世の中にはチャンスがこんなにも広がっているのに、それを取りにいかないってもったいなくないですか?逆にチャンスをつくってくれている人にも失礼になっちゃうし。

Photo by 撮影者

「未来を担っていく若者」である私たちは物心ついたころには「失われた20年」がはじまっていて、ゆとり教育を受けて育った。この失われたといわれる「時代の産物」である私たちは成長期を終え、さとりがちな大人になりつつある。「不遇の世代」「欲がない」「内向き」など様々なレッテルを貼られることがあるが、「社会を良くしたい」と願い、立ち向かう人はいつの時代にもいるように、私たちの世代にもいる。確かに過去の世代とは違って、熱が失われがちな、引きこもりがちな、スマホと向き合いがちな世代かもしれない。でもそこから私たちのスタイルで起こすレボリューションがあるのだ。

この連載では、さとり世代なりの社会を良くする方法とはどんなやり方なのかを紹介していく。そして、イラストから執筆まで、記事製作を「失われた20年」「さとり世代」でおこなっていく。その名も『さとり世代が日本社会に起こす、半径5mの“ゆる”レボリューション』。

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“捨てられるもの”を“高級ブランドレベル”に変える男子

環境や生産者に配慮された「サステイナブルファッション」や「エシカルファッション」に対する動きが増えてきたそんな中で今、「捨てられるもの」に「価値」を与えてファッションを作り出す若者がいる。彼はこれまでも、ラオスの不発弾をジュエリーに変えることに挑戦したり、渋谷のセンター街に落ちていたタバコの吸殻をシルバーのジュエリーに変えたりしてきた。

そして今彼が創り出しているのは、爬虫類皮革の中でも最高級と言われる「ワニ革」だ。しかし、彼の創るワニ革はワニの皮からできているわけではない。

すぐに捨てられてしまうスーパーのポリ袋を、世界的高級ブランドレベルの価値に上げられないだろうか」という考えから、繰り返し使える、僕は何度でも脱皮できると表現しているんですけど。透明なワニ革を創りました。

透明なワニ革はバックやジュエリーにされている。

「透明こそが最高級の価値かもしれない」

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では、バックやジュエリーにされている“透明なワニ革”とはなにか?

「見た目が透明」であるということ、「製造背景が透明」であるということもだし、あとは「捨てる背景の透明」。自分がこれを捨てることでこの素材はどうなるのかっていうところまで透明にしたい。

透明なワニ革が捨てられたら、それは溶かされ、新たなプロダクトに生まれ変わる。中村暖が手掛けるファッションブランドDAN NAKAMURAのワニ革は何度でも脱皮するのだ。しかし、透明なワニ革の原点は「環境保護」や「動物愛護」というわけではない。

アニマルフェアとか、フェイクレザーなど動物愛護からのイノヴェーションはもちろん大切、じゃあ僕は何ができるか?と考えた時、今ある既存の動物的美しさを永遠に伸ばすことができるかとか、美しさをより美しく残すためにクリエイティブの力が1番重要かなと思っている。

彼は決して「社会課題解決のためにデザインをしている」わけではなく、中立な立場に立っている。これはよくないとか、これがいいとかを決めつけずに「こんなものはどうだろうか?」と社会に提案し続ける。

透明って、少しでも傷がついたらダメだし、ちょっとでも温度があがったらダメになっちゃうし、気泡が入ったら白くくすんでしまう。そして透明に色をつければ何だって作れちゃう。透明を作るのは一番難しい。透明こそ新しい最高級の価値じゃないかなと思って創っている。

彼は透明という色を最高級品へと昇華させようと挑戦しているのだ。

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「皮膚から0.01mm」の空間デザイナーの思想。

彼は透明なワニ革でバックやジュエリーをつくっているものの、自身を「ファッションデザイナー」という風には表現しない。なぜなら、彼のクリエイティブに対する最も根底の考え方には「空間をデザインしたい」という思いがあるからだ。

大学は空間演出デザイン学科というところに4年間いて、自分がデザインしたい空間は何なのかって考えたときに、自分に最も近い空間だった。自分に一番近い空間で誰かが悲しんでいたり、泣いていてほしくないと思った。人間に一番近い空間、つまり皮膚から0.01mmの空間をよりクリエイティブに。

それを彼は「皮膚から0.01mmの空間」と呼ぶ。あなたの皮膚から0.01mmは、今どんな空間だろうか?

彼の「透明なモノづくり」が切り開く、日本の未来。

クリエイターが身近な時代になった。SNSやウェブ上でクリエイターによる作品がところどころで見える。しかし、彼の作品はそのどれとも比較できない、型破りなものだ。もちろん、彼は比較されることを望んでいないと思うが、一般的なジャンルに当てはめられないし、系統が見つけられない。まさに「中村暖」というジャンルをつくりだしていると思う。

彼は取材中、「人に対する敬意は人の30倍意識している」と言っていた。自由で型破りなクリエイターではあるが、周りの人をしっかりリスペクトしている。それが、彼のデザインが、彼自身が人を魅了する鍵なのではないかと思う。近い将来、何気なく人々が「透明なファッション」を身につける日はそう遠くないかもしれない。

Dan Nakamura(中村 暖)

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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