コオロギ70匹を練り込んだ「昆虫パン」がフィンランドで新発売。今、現代人が虫を食べるべき理由とは

Text: Sara Sugioka

Photography: ©︎Fazer

2017.12.15

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先日、コオロギをふんだんに使ったパンがフィンランドで発売された。

「虫が入ったパンなんて絶対に食べたくない」と嘆く人もいるかもしれない。なかには、見たくもないとか、思わず拒絶反応を示してしまう人は多いだろう。そもそも「虫を食べる文化」がない人々にとっては、まず虫を食べようという発想すら浮かばないものである。

でもそれ以前に今、なぜ虫を食べる必要があるのだろう?
そのストーリーを知れば、あなたの固定観念が少しだけ揺らぐかもしれない。

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「虫は有益な食材になり得る」と国連機関が決めたワケ

実は「虫を食べる」という行為は各国で古くからある慣習。今後それが私たちの日常食になるとして、近年世界的に注目されている。

2050年、地球で暮らす人口は90億人を超えるとされ、人類は食糧危機を迎えるといわれている。食糧危機を引き起こす数多くの要因のうち、人口増加、気候変動がもたらす異常気象による農作物の不作などがあるが、その解決策の一つとして国連食糧農業機関(FAO)が2013年に昆虫食を「有益な食材になり得る」と推奨したことをきっかけに、世界的に見直されることになった。

今年5月スイスでは法律が改正され、特定の虫を食用として販売することが認められたほか、2018年1月よりEUでは昆虫の取引が自由化されるという。

その一方で、ここ日本で実際に試してみようと思う人は、まだ多くはなさそうだ。それでは、虫の気配を感じさせない、こんなお洒落なパンだったらどう思われるだろうか。

フィンランドの朝ごはんの新定番は「コオロギ・トースト」?

Photo by 撮影者

人類は持続可能な、新しい食糧源を必要としています。

そう述べるのはフィンランド「Fazer」 社の商品開発担当者、ユハニ・シバコフ氏。「目的を持った食べ物」というミッションを126年間掲げている老舗食品メーカーだ。

同社は70匹のコオロギを使ったパンを11月にフィンランドで発売。生地は粉末状にしたコオロギに、小麦粉と種を混ぜ合わせ作られている。粉末コオロギはとても軽いため、重さは全体のうちたったの3%。価格は3.99ユーロ(約530円)と、通常の小麦パンより少し高いものの、良質なタンパク質、脂肪酸、カルシウム、鉄、ビタミンB12を含んでおり、栄養価が高い。実際に食べてみたヘルシンキの学生によれば、味は「普通のパンと変わらない」という。

今回の商品についてユハニ氏は、「消費者へ良質のタンパク質を摂取してもらえるだけではなく、昆虫食に馴染んでもらうきっかけを提供している」と話す。もちろん誰しもがそうではないだろうが、新しいことへの挑戦を厭わないことで知られているというフィンランドの人々は、北欧諸国の人々を対象に行われた調査によれば、昆虫食に対し最も積極的な態度を見せているとのこと。

虫の食べられる部分は80%。

昆虫食のメリットには、これまで述べた食糧不足問題の観点、栄養面の観点のほかに、環境問題の観点がある。詳しくはこちらの記事を。

環境に優しいのは、飼育の段階で牛・豚・羊などの家畜に比べ、虫はより少ない水とエサ、土地で成育できることがその理由の1つ。

農場をつくれば、森林伐採などで環境を傷つけ水を汚染することになり、動物は大気を汚染するアンモニアや気候変動の主な原因となる温室効果ガスを排出、そうして地球温暖化による異常気象で農作物も不作になる。このような負のスパイラルを食い止めるためにも、昆虫食はそれらすべてにとって有望なのだ。

また、食べられる部分に関しても牛が40%なのに対し虫は80%。さらに、動物を人道的に扱うという、動物愛護の観点においても支持されている。

「ブランド虫」なんかも出てくるかも。そう遠くない、虫を食べることが普通になる日。

Photo by 撮影者

実際にいまでも世界では、1900種以上の昆虫を摂取する人が、すでに20億人存在するという。つまり、その20億人にとっては、虫を食べるという行為は「常識」なのだ。

自分にとっての「普通」は、必ずしも他者にとってそうではないばかりでなく、時代や状況、経験などとともに少しずつ変化していく。なにより、そんな私たちの意思とは関係のないところで、現在多くの人間たちに忌み嫌われている虫たちが、将来私たちの救世主となる時代がやってくる。
 
とはいえ、ゴキブリや蛆、カブトムシの幼虫、シロアリの卵を口に入れる場面を想像するだけで、筆者はやはり身の毛がよだつ。しかしそれはおそらく、ステレオタイプな昆虫食のイメージが強く染み付いているからで、その実体験がないからかもしれない。現在は日本国内でも様々な昆虫料理が考案され、料理店もでき始めている。たとえば以前「TOKYO GOOD FOOD」で紹介した新宿区高田馬場にある「米とサーカス」。

このような虫を使った食品や料理がどんどん生み出されていけば、きっと虫を食べるという行為自体が、新たな価値観やライフスタイルとして、今後私たちの生活に取り入れられていくかもしれない。少しでも興味を持った方は、一度試してみてはどうだろうか。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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