再構築の中に見えた新たな自分。ジャンルを超えた台湾ジャズアーティスト9m88が語る現在地

2025.10.28

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台湾・台北出身のアーティスト、9m88。ファッションデザインを学んだのち、NYの名門『The School of Jazz & Contemporary Music』でジャズを専攻した彼女は、R&Bやソウル、ポップスの要素を自在に行き来しながら、メロウでどこかオリエンタルな音楽世界を紡いでいる。その表現は音楽の枠を超え、映画やドラマ、ファッションのフィールドにまで広がり、台湾の若い世代を中心に強い支持を集めている。

2025年9月18日に新作EP『This Temporary Ensemble Vol. 2』をリリースし、10月31日には恵比寿・BLUE NOTE PLACEでの東京公演も控える9m88に、名前の由来やジャズとの出会い、新作制作を通して見えた新しい自分、そして本公演への意気込みなどを語ってもらった。

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ファッションとジャズ、2つの学びから生まれた独自のスタイル

NEUT:改めて「9m88(ジョウエムバーバー)」というアーティスト名の由来を教えてください。

9m88:私の英語名「Joanne(ジョアンヌ)」の「Jo(ジョウ)」が中国語では「9」と発音が似ていて、「88(バーバー)」は中学時代の学生番号なんです。最初にFacebookのアカウントを作ったときの名前が「Joanne Baba」で、それが言葉遊びみたいな感じで面白くて。そのままアーティスト名として使うようになりました。

NEUT:台湾の大学でファッションデザインを専攻したのち、ニューヨークの名門「School of Jazz & Contemporary Music」でジャズを学ばれていますが、音楽の道を選んだきっかけは何でしたか。

9m88:ファッションスクールを卒業する時点では、また別の学位を取るなんて考えていませんでした。でも偶然、ニューヨークでインターンの機会を得て、ニューヨークの街の多様さや刺激に触れたんです。その中で、幼い頃に抱いてた「歌手になりたい」「音楽をやりたい」という情熱が再び芽生えました。インターンを終えてすぐにジャズスクールに願書を出し、在学中はセレクトショップでアルバイトをしながら、小さな会場でライブ活動もしていました。

NEUT:数あるジャンルの中で、なぜジャズを選ばれたのですか?

9m88:ファッションスクールに通っている頃にジャズに興味を持ち、夏のジャズキャンプに参加したんです。そこで、音楽の世界はもっと自由で広がりのあるものだと感じました。歌詞をただ歌うだけじゃない、新しい表現の可能性を知ったというか。とても解放的な体験でした。

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NEUT:ファッションデザインを学んだ経験は、音楽性や作詞作曲、パフォーマンススタイルにどう影響していますか?

9m88:主にビジュアル面での影響が大きいですね。新しい曲を作るとき、同時にスタイリングや映像のイメージも頭の中に浮かんできます。それらがアーティストとしてのパフォーマンスを助けてくれています。

NEUT:デザインと音楽の間に「つながり」を感じる瞬間はありますか?

9m88:そうですね、デザインと音楽は常に影響し合っていると感じます。多くのデザイナーは異なる時代の音楽からインスピレーションを得ていて、それが空気感やムードを作り出す。音楽を聴くことで、現実を超えた感情や精神状態を感じ取り、それがデザインへと反映されていくんです。私自身も、曖昧な感情を視覚的に表現するために、デザイナーの力を借りることがあります。お互いに刺激を与え合う関係ですね。

既存曲をジャズで再構築し、過去と向き合いながら生まれた新アルバム

NEUT:最新作『This Temporary Ensemble Vol. 2』は、2022年の『This Temporary Ensemble』に続く作品です。既存の楽曲をジャズ中心で再構築することに、どのような意義を感じていますか?

9m88:『This Temporary Ensemble Vol. 2』は私にとって特別なプロジェクトです。普段の作品はシンガーソングライター的で、プロデュースも丁寧に行っているものが多いのですが、このプロジェクトはジャズミュージシャンとのコラボレーションが中心。既存の曲をジャズという文脈で再解釈することで、以前抱えていた小さな後悔を解消したり、作曲家としてカタルシスを得たりできました。また、『Vol. 2』は全編ライブ録音で、普段のスタジオ制作とは全く違う自由な感覚が味わえました。

アートワークは、羊毛フェルトアーティストのAnye TangさんにEPを聴いてもらい、カバーのソフトスカルプチャーを制作してもらいました。音楽を超えたアートとしての広がりも楽しめた作品です。

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『This Temporary Ensemble Vol. 2』のキービジュアル

NEUT:楽曲制作の中で、特に大切にした新しい解釈や挑戦はありましたか?

9m88:『Vol.1』はまだ9m88らしい要素が強かったのですが、『Vol.2』ではもっと大胆な解釈を試みました。たとえば、ソウルのアーティスト・Kim Okiさんを招いて『Love is So Cruel』に、​​詩を音楽のように“話す”芸術表現であるスポークンワードを加えたり、ジャズの枠を超えた表現に挑戦しました。初めは戸惑いもありました。特にボーカルの表現や音域を変えるのには勇気がいりましたが、プロデューサーに背中を押されて思い切ってチャレンジしました。その結果、作品としても自分自身としても新しい領域に踏み込めた気がします。

NEUT:制作中に印象的だった出来事や、アーティストとして変化を感じた瞬間はありますか?

9m88:『Look at My Way』という曲で、自分の歌い方を見直すきっかけがありました。最初はジャズっぽくスキャットで即興しようとしたんですが、その感情には合わないと感じて。そこから、もっと丁寧に「聴く」ことを意識して、感情のままに声を出すことに集中しました。結果的に、自分にとって新しいボーカル表現の方法を学ぶことができ、アーティストとしての成長を感じました。

変化を恐れずに、東京で更新される9m88の新たな表現

NEUT:10月31日(金)に恵比寿のBLUE NOTE PLACEでの公演を控えていますが、どんな世界をステージで表現したいですか?

9m88:東京では何度か通常の9m88セットでライブをしていますが、今回はジャズの要素を強く打ち出す予定です。すごく楽しみなのですが、ちょっと緊張もしています。日本にはジャズに詳しい方がたくさんいらっしゃるので、新しい一面をしっかりお見せしたいです。
特別な一夜になるよう、自由で豊かなステージを作りたいと思っています。

NEUT:日本のリスナーにとって、あなたの音楽のどの部分が特に響いていると感じますか?逆に、まだ十分に伝わっていないと感じる部分はありますか?

9m88:日本のリスナーの方々は、私の音楽にある軽快さやリラックスした雰囲気を楽しんでくださっている印象があります。過去には竹内まりやさんの「Plastic Love」のカバーをしたり、Mitsu the Beatsさんに楽曲をプロデュースしてもらったり、FNCYさんやWONKの長塚 健斗さんなど日本のアーティストともコラボしています。日本のアーティストとのコラボやカバーをきっかけに知ってくれた方も多く、ライブでは本当に温かい応援を感じます。年齢層も幅広く、年配の方が楽しんでくださるのは嬉しい驚きですね。一方で、もっと若い世代ともつながりたい気持ちもあります。どうすれば彼らにも自分の音楽が届くのか、今も試行錯誤しています。


2025年4月20日(日)BLUE NOTE PLACEで行われた「FNCY 春のファン祭り」で披露された、FNCY×9m88「SATURDAYS VIBRATIONS」の映像。

NEUT:今後挑戦したいジャンルはありますか?

9m88:最近よく聴いているアンビエント音楽に挑戦してみたいです。空間的で繊細な音作りを、自分のスタイルに取り入れられたらと思っています。

NEUT:最後に日本のファンへメッセージをお願いします。

9m88:いつも応援してくださってありがとうございます!なかなか頻繁には会えませんが、これからも音楽を通じて繋がっていけたら嬉しいです。引き続きよろしくお願いします!

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9m88

Instagram

「ジョウエムバーバー」。愛称は「バーバー」。
台北で生まれ、大学でファッションを学んだ後、NYの名門校『The School of Jazz & Contemporary Music』でジャズを専攻。R&B、ソウル、ジャズ、ポップスなど様々なジャンルからの影響を感じさせるメロウかつオリエンタルでエキゾチックなR&Bミュージックを奏でる。
2017年には台湾のレーベル「2manysound」からリリースした「Plastic Love」のカバーが日本でも話題に。2018年には「青山月見ル」で来日公演、2019年にはサマーソニックのBillboard Stageに出演。本国台湾ではAAAMYYY、D.A.N.、STUTS、Tempalay、TENDREといった日本国内からアーティストと共演。
台湾国内のツアーは全会場ソールドアウトするなど若者を中心に着実に人気を集めており、台湾のポップ・ミュージック/アート・シーンの次代を担う才能と言われている。

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9m88『This Temporary Ensemble Vol. 2』at BLUE NOTE PLACE

Website

日時:2025年10月31日(金)
【1st】OPEN 17:00 / START 18:00
【2nd】OPEN 19:45 / START 20:45
(※各回60分公演、入替制)
会場:BLUE NOTE PLACE(恵比寿ガーデンプレイス)
入場料:¥7,000(税込)
(※別途1フードまたは1ドリンク以上のオーダーをお願いしております)

出演者
9m88 (vo)
Chun-Yu Kuo (keys)
Devilin Chen (ds)
Brandon Lin (b)
Yu-Jung Hsiao (g)
TBA


『This Temporary Ensemble Vol. 2』at BLUE NOTE PLACE
スペシャルメニュー

ライブとともに“食”でも台湾カルチャーを楽しめる期間限定メニューをご用意。

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「大籠包」と「凍頂烏龍茶・玉響」のペアリングセット

人気メニューの「ダンブリング」を再構築し、小籠包ならぬ「特製大籠包」としてご提供。
台湾を代表する高山茶「凍頂烏龍茶」と、京都・井ノ倉茶園の銘茶「玉響」を合わせ、すっきりとした香りと旨味が口いっぱいに広がる贅沢なペアリングをお楽しみいただけます。

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豆腐花(トウファ)

台湾伝統の豆乳スイーツ。なめらかな食感に黒糖シロップを添え、ライブのデザートや飲茶のお供にぴったりの一品です。

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