音楽、アパレル、釣り。日本レゲエシーンの第一人者に聞いた、“三足のわらじ”のこなし方<JUN4SHOT>|Ome Farm太田太の「僕が会いたい、アレもコレもな先駆者たち」 #001

Text: YUUKI HONDA

Photography: YUUKI HONDA unless otherwise stated.

2018.12.27

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“東京生まれ、無農薬育ちの野菜”を育てる「Ome Farm」代表の太田太(おおた ふとし)さん。もともと国内外のアパレルブランドや会社で海外営業/PRとして働いていたファッション畑出身の彼が“本物の畑”で作る野菜はいま方々で話題を呼び、都内人気飲食店を中心に提供されている。

ファッション×農業という視点から飛び出すアイデアで業界を変えていこうとする太田さんが、同じく複数の分野をまたいで活躍する先輩たちに会いに行って話を聞く連載、「Ome Farm太田太の『僕が会いたい、アレもコレもな先駆者たち』」。

第一回目のゲストは、横浜を拠点に日本のレゲエシーンを牽引するアーティスト・グループ「FIRE BALL」のJUN 4 SHOT(ジュン・フォー・ショット)さん。

音楽活動のみならずファッションにも精通し、自身が代表を務めるセレクトショップ「RAGGA CHINA(ラガチャイナ)」の経営ほか、自らファッションデザインもこなす。また、趣味の釣りが高じて、今秋には海が見えるアウトドアフェス「BLUE CAMP(ブルーキャンプ)」を主宰した。

今回は、そんな”尊敬する先輩”に話を聞いた。

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左からJUN 4 SHOTさん、太田太さん
▶︎太田太さんへのインタビュー記事はこちら

徴兵制より徴“農”制?

JUN 4 SHOT(以下、JUN):太くん久しぶり! 今は農業をやってるんだよね?

太田太(以下、太田):お久しぶりです! はい、「Ome Farm」という名前を掲げて、東京での都市型農業を模索しているところです。

JUN:都市型農業っていうと、都会やその近隣地域で育てた野菜をその街のレストランで使う…地産地消的な?

太田:ですね。アメリカの都市部やフランス、イタリアのような食の先進国は全国的にも地産地消が盛んなんですけど、東京にはそれがないんです。星付きレストランや世界的に評価の高い飲食店はたくさんあるのに、一次産業自体は全然盛り上がってない。だから東京の星付きレストランや人気店がどこから食材を仕入れているのかと言えば、仲卸(なかおろし)の人が持ってきた、誰が作っているかイマイチわからない食材。なんかいびつですよね。じゃあ俺らが作った美味しい野菜を使ってよって、今はそんなことをしてます。

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JUN:へえ〜、面白いね。俺は釣りをやってることもあって一次産業は大事だと思ってるのね。これだけ食品廃棄している国がこれからどうするの?ってことを考えてもね。

太田:食品廃棄は深刻な社会問題ですよね。フランスでは既に食品廃棄の法律も制定されてますが、社会問題と言えば、「BLUE CAMP」の根底には海洋保護の視点があると思うんですけど、「海洋保護について考えてください」って主張が全面に出てなくて、自然に伝えようとしてる姿勢がすごくいいなあと思いました。

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Photo by BLUE CAMP

JUN:イベントの軸として海洋保護は謳ったけど、何も皆が皆大きなことをやればいいってわけじゃなくて、まずは少しの気持ちでいいんだよね。たまたま遊んでいた釣り場や海岸に落ちていたゴミを拾うとかさ。まずはイベント自体を楽しんでもらいたかったし。

太田:大事ですよね、押し付けない姿勢は。こういう農業やっているとエセ環境活動家みたいなのがやたらと寄ってくるんですよ。で、一方的に思想を押し付けてくる。「これがどれだけ地球環境に悪いか知っているのか」から始まり「プラスティック包装するな」や「全部剝がせ」とか。エスカレートしてくると「剥がして〇〇円を値引け」という方もいて、ファーマーズマーケットで困っている農家さんも結構見ます。

JUN:はは(笑)、すごいねえ。でもプラスチックを使わなければ良いって単純な問題じゃないよね。例えば俺がこれ(プラスティック素材の小さな包装紙を手に)をポイッて捨てたら、誰がどう見ても「オイ、お前何やってんだよ!」ってなるじゃん。それは普通。でも、プラスチックを全く使わないっていうのは現実的じゃないから、今は普通じゃない。だからまずは「ポイ捨て」をやめようよ、みたいな。

太田:そうですよね…僕としては本当はマーケットでも卸売でもビニール包装は出来る限り減らしたいんです。でも素材の鮮度維持に加えて、現状の日本人の価値観を前に、いきなり”全ての包装はやめます、こっちが正しいから買ってください”とは言えません。でもエセ活動家の頭には「ビニールやプラスチックは悪、私は善」という二極論しかない。それでは押しつけになって、その人の言っていることが逆に敬遠されるんではないかと思うんです。

JUN:まずは関心を持ってもらうことだよね。人それぞれかけられる労力も違うんだからさ、できる範囲で始めればいいと俺は思う。今回の「BLUE CAMP」は結果的に寄付金も結構集まったから、やり方しだいで伝わるんだってことも実感したし。あ、さっき食品廃棄の問題が話に出たけど、教育に農業を組み込めばいいんじゃない? って思ったことがある。馬鹿なアイデアかもだけどさ、誰もが食べ物を作れる能力を学べるし、食べ物について考えるようになるだろうし…いわゆる徴“農”制? 言葉が適切かどうかわからないけど。

太田:良いですね〜 それ徴兵制よりよっぽどいいですよ(笑)。

JUN:そうそう、人を殺す術じゃなくて、生かす技術、生きる技術(笑)。韓国だったら男は2年間みっちり軍隊に入れられるけど、日本は農業でも良いし、漁業でも良いし、何か自分で育てて食べる方法か、とってくる方法を学ぶ、とかさ。良いと思うんだよね!

太田:素敵ですね。さっきお話に出た釣りですけど、そこで得た人との繋がりが今回の「BLUE CAMP」の開催に影響してるんですよね? そうやって、いろんな畑を持つことで、これからの働き方は豊かになるんじゃないか、というテーマで今日は話を聞かせてもらえたらと。

JUN:オッケー、じゃあちょっと歩きながら話そうか。

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趣味を仕事にするメリットとデメリット

太田:趣味や好きなことが仕事になっていった、というのはレアじゃないですか。しかもそれをちゃんと事業にまでできる人は稀ですよね。

JUN:音楽はあんまり”仕事”っていう感覚もないんだけどね。でもさ、音楽もファッションも良い時があれば悪い時もあるよ。お金を使ったし、人も離れていったし。最初は楽しさだけでもやっていけるんだけど、ある程度進むと壁にぶち当たる時がくるんだよね。”好き”だけでは乗り切れない局面が。

太田:そこをどうやって乗り越えたんですか?

JUN:点と点が繋がって線になったんだよね。アパレルはステージに立つ時の服を自分で作りたいってところから始まってるし、そこに今は釣りを絡められるようになってまた一段と楽しくなって、「BLUE CAMP」にも繋がって。行ける場所が広がっていったんだよね。

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JUNさんがデザイナーを務めるブランド「IRIE LIFE」@RAGGACHAINA

太田:起死回生になったのがたまたま趣味だった?

JUN:そう。ヤラシイ話かもしれないけど、自分のライフスタイルや音楽にアパレルを、アパレルには釣りを絡めることでストーリーを作ることができたんだよね。まあ「釣りが仕事になりそうでなんか嫌だ!」って思うときもあるけど(笑)。

太田:それは…しょうがない(笑)。

「やりたいことがないなら遊べばいいじゃん」

太田:大学のゼミ生や、ファッション系の学生達向けにたまに講義を依頼されるんですけど、彼らはひたすら自分の進んだ学科のことや、ファッションビジネス、服作りについて学んでいるから、異業種の「農業×ファッション」って話が珍しかったのか、面白かったのか、レポートには結構農業の話のことを書いてくれてるんですよ。”また農業の話でも良いから授業受けたい!”って。若い人は何か一つのものにこだわらず、複数のものをかけ合わせることに抵抗があまりないのかも。良いことですよね。

JUN:アウトドアブランドが顕著だよね。カフェを作ったり食品を作ったり。この前芸能プロダクションの人たちと話したんだけど、彼らはダンスを極めるためにはどういう食事が必要か?っていう視点から食べ物を作ろうとしてて。もう考えてる人は考えてるよね。一つのことだけをやってたら出来ない発想があるって。今はテクノロジーの進化で情報にも人にもコンタクトが取れるようになったから、あとは情熱だと思う。

太田:その情熱をかけられるものが見つからないって子が多いらしいんですよ。だから、大きく二つに分かれる。出来るだけ大企業に入って安定目指そう、という子か、自分でやりたいと思うことを突き詰めていこう、という子に。どちらかと言えば前者がマジョリティ、後者がマイノリティという所感です。

JUN:遊んでたら良いじゃん。やりたいことができるまで。無理やり組織に就職して働くことないよ。無理やり働こうとするから辛いわけで、だからノルマをただこなすだけ、定時になって「あー終わった」っていう毎日になっちゃうんじゃないかな。

太田:なるほど。

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JUN:仕事にユーモアを持てないと楽しくないからね。だったら遊んでればって。で、遊ぶためにはそれなりにお金が必要だから、重労働のバイトでも何でもして稼がなきゃいけない。そこでのらりくらりやっちゃう人もいるけれど、何かが見えてくる人もいるんだよね。そこは分かれ道になる。そこで犯罪しでかしたらダメよって話で、ただ遊んでればいいって話ではないから。

太田:遊んでるだけのちゃらんぽらんじゃダメだと。

JUN:まあね、小さい頃からやりたいことが決まっているすごい子もいるけど、そういう子はサラブレッドなの。才能の他に親のサポートもあって健康で、という幸運も重なっての結果だから。そういう人は多く見積もっても1割。だから残り9割の「何がしたいかわからない」っていうのは当たり前。俺も音楽的な知識は見よう見まねで学んだし、経営だって最初からイロハが分かってたわけじゃないからね。釣りはただの趣味だし。誰もがみんな基本的には“なにもわからない”っていうスタートラインから歩きだしてるから。

太田:でも、待っているだけではダメですよね。

JUN:そうだね、アクションは大事。プラプラしてたら声をかけられるってこともあるから。おれは結構プラついてるやつに声をかけることもあるし。まあやることが見つからなくても焦らなくてもいいよって話だね。

いつでもシュートを打てる体勢を整えておく

太田:若い世代が出来るアクションを具体的に言うと?

JUN:一つはサッカーに例えると、”いつでもシュートを打てる体勢を整えておく”ってことかな。

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太田:準備ですね。チャンスがいつ訪れるかは分からない。本当にその通りだと思います。ファーマーズマーケットなどで野菜を売っていると、プロのシェフ、飲食店のスタッフ、料理がお好きな一般の方の他に、ペットにあげるために野菜を買いに来てくれる方が結構いるんですね。なるほどなあと思いましたね、「ペットか〜」と。ペットを家族のように育てる人って結構いるじゃないですか。だから今ではペット用の野菜とは言わないですけど、それも意識した陳列を仕掛けているので。

JUN:そういうことだよね。こうして話しているだけでアイデアが出てきたりね。面白いやつと話してるとどんどん出てくるし、膨らむ、発展していく。小遣い稼ぎぐらいの小さな規模かも知れないけれど、何かお金を稼ぐアイデアは意識して遊んでたら意外と見つかるからね。そうして小さな経営者になる。

太田:「小さな経営者」っていい言葉ですね。

JUN:今はすぐにでもなれるじゃない。例えば色んなWEBサービスで自分の力を試せるもん。人の欲求って無限にあるわけで、言い換えれば無限にビジネスのアイデアが転がっているわけよ。人間は生まれた時から欲まみれな生き物だから。

太田:人の欲求を刺激するのがビジネスですからね。そのアイデアを拾うために準備して…。

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JUN:あとは色々なスキルを磨く。若いうちは磨ける時間もあるし、辛い時間も噛み締められるじゃない。年をとるといろいろ人間関係も複雑になってくるし、体も確実に衰えてくるから、他に労力が取られるんだよね。たとえばさ、キャリアの初期なんて「クソッタレな仕事だなあ、全然思ってたのと違うわー」ってことがほとんどだと思うの、実際。でもそういう環境にも得られるものはあるし、嫌なら学ぶもの学んで、習得したらやめればいい。時間の使い方は本当に大事だよ。結局、行動するやつが強いから。

太田:いやもうホント、仰るとおりで。ブラック企業の問題もありますけど、一方でブラック社員の問題もある。ブラック社員の一例は、安定を目指して入ってきて、ずーっとのらりくらりやってる人。ブラック社員本人はそれを意識してないんですけど。まあなんにせよ、行動は大事ですよね。

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情報社会のいま、SNSで活躍する同世代を横目に「何がしたいかわからない」状態に不安を覚えるという人は多いと思う。しかし。

「小さい頃からやりたいことが決まっている子はサラブレッド」だし、「『何がしたいかわからない』っていうのは当たり前」で、「みんな基本的に“何もわからない”っていうスタートラインから歩きだしてる」。そして。

「俺も音楽的な知識は見よう見まねから学んだし、経営だって最初からイロハが分かってたわけじゃないからね。釣りはただの趣味だし」。

レゲエ、アパレル、釣りと好きを仕事にし、かつ事業としてサイクルを回しているJUNさんも、最初は暗中模索からスタートしているという事実には勇気づけられる。

「結局、行動するやつが強いから」。

さあ、動き始めよう。

JUN 4 SHOT(ジュン・フォー・ショット)

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太田太(おおた ふとし)

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