中国からの「技能実習生」が主人公。日本における外国人労働者の問題に切り込み、世界中の映画祭で注目を集めた話題作|GOOD CINEMA PICKS #027

Text: Noemi Minami

2020.1.16

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国内外での数々の映画祭で入選、正式出品し絶賛を受けた『コンプリシティ/優しい共犯』では中国からの技能実習生が主人公だというので、そのテーマからして現代の日本社会の闇を明らかにするような種類の映画なのかと見当をつけた。

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山形県を舞台に、技能実習生としての劣悪な職場環境から抜け出し不法滞在者となってしまった中国人青年チェン・リャンの生活が映画では描かれる。名前を変え他人になりすまし、なんとか小さな蕎麦屋で働き口を見つけたチェン・リャン。大きな秘密を隠したまま、口数が少なく不器用だが愛情深い蕎麦屋の主人・弘や、近所に住むアーティスト・葉月と関係を深めながら、いつしか蕎麦作りに真剣に取り組んでいく。しかし、ささやかだが幸せな日々は長くは続かない。警察がチェン・リャンの正体を突き止めるーー。

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連日ニュースで見かける「技能実習生」の問題。本来は国際貢献が目的であり、日本の技術や伝統工芸を教え母国で生かしてもらうという名目で、外国から労働者を一定期間日本で受け入れるこの制度だが、現実には労働者としての権利を持たない実習生たちが給料もろくにもらえないまま過酷な労働を強いられている場合があるという。いわば日本の労働者不足を補うための不正な制度と化しているという。日本に来るために借金を背負っている人が少なくないなか、実習生なので働き先を変えることもできない彼らに、辞めるという選択肢を選ぶことは難しい。それには母国の悪徳なブローカー、現状を知りながらも低賃金労働者を確保するために実習生から搾取する一部の日本企業、この問題に対して十分な対策を取らない日本政府などの存在が重なりあって成立している。見る前は、そんな非情な実態を見せつけられるのだと、なんとなく心の準備をした。

しかし、この映画は決して日本における外国人労働者問題を細かく暴くような映画ではなかった。外国人労働者の問題はあくまでも物語の背景であり、焦点が当たるのは登場人物の人生であり、感情であり、彼らの間に生まれる絆であった。壮絶な状況に置かれながらも「やりたいことが見つからないこと」や「恋」など、チェン・リャンが直面する問題には共感できることが多い。だからこそ彼に強く感情移入してしまうのかもしれない。

くわえて、蕎麦屋の主人・弘をはじめ、眩しいくらい善良な人々の存在が目立ち、むしろ見せつけられたのは人間の温かい部分だった。とはいえ、だからこそ技能実習をあっせんする理不尽な人々や、父親を邪険に扱い、さらにはチェン・リャンに対して人種差別的な発言をする弘の息子のような存在、技能実習生が置かれたひどい状況が目立った。

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監督は、短編映画『SIGNATURE』が第70回ロカルノ国際映画祭ほかで高い評価を受け、米アカデミー賞公認映画祭であるエンカウンター短編&アニメーション映画祭でグランプリを受賞した近浦啓(ちかうら けい)。今作が長編デビューとなる。ニュースで多くの技能実習生が失踪していることを知り、このテーマにたどり着いたという監督は、初めからこの現状に極めて個人的かつ普遍的な物語を見出していたよう。

失踪した一人一人の若者達に想いを馳せた時に見えてきたものは「淡い期待と、直面する現実のギャップ」だった。少なくとも僕にとっては、連なる「期待と現実のギャップ」を経験し、その現実を受け入れ、それでも少しでも良い方向へ進んでいくことこそが「成長」というものだった。もちろん、異国の地で直面するそのギャップは、他とは比べようもないほど絶望的なものかもしれない。しかしながら、2010年代後半の日本という固有な背景とその前景にある彼らの物語は、抽象化するときっと、他でもなく僕自身の物語であると思った。

ー近浦啓(プロダクションノートより)

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北米最大の映画祭・トロント国際映画祭でワールド・プレミア上映され、続いて釜山、ベルリンと世界の名だたる映画祭へ入選し正式出品、そして東京フィルメックスで観客賞を受賞した本作。日本社会の問題をテーマにしながらも闇の部分だけに焦点を当てるのではなく、普遍的な人間の物語を描いているからこそ、立場も環境も違う世界中の人の心を掴んだのかもしれない。2020年1月17日(金)より公開される本作。日本の観客は何を感じるのだろう。

『コンプリシティ/優しい共犯』

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2020年1月17日 (金)より新宿武蔵野館にてロードショー

■スタッフ&キャスト
ルー・ユーライ 藤竜也
赤坂沙世 松本紀保 バオ・リンユ シェ・リ ヨン・ジョン 塚原大助 浜谷康幸 石田佳央 堺小春 / 占部房子
監督・脚本・編集:近浦啓
主題歌:テレサ・テン「我只在乎ニィ(時の流れに身をまかせ)」(ユニバーサル ミュージック/USMジャパン)
製作:クレイテプス Mystigri Pictures 制作プロダクション:クレイテプス 配給:クロックワークス 
2018/カラー/日本=中国/5.1ch/アメリカン・ビスタ/116分

©2018 CREATPS / Mystigri Pictures

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