「子どもの視点から見た大人の世界」を描くポーランドの映画監督が新作『メモリーズ・オブ・サマー』に込めた、現代人へのメッセージ

Text: Noemi Minami

Photography: KOTETSU NAKAZATO unless otherwise stated.

2019.5.28

Share
Tweet

「今日の世界において人々は自分の欲求ばかりを強調して、他者に対する注意深さが段々と失われていると思います」。そう話すのは、6月1日から東京・YEBISU GARDEN CINEMAほか全国で順次公開を控えるポーランド映画『メモリーズ・オブ・サマー』の監督、アダム・グジンスキ氏。

width="100%"
アダム・グジンスキ氏

デビュー作『Jakub ヤクブ』(1998)がカンヌ国際映画祭で絶賛されて以来ポーランド映画界の新たな才能として注目されるアダム・グジンスキ監督の最新作『メモリーズ・オブ・サマー』は、ポーランドの第32回ワルシャワ映画祭のインターナショナル・コンペティション部門に公式出店され、同国のシネルジア映画祭では優秀な作品に与えられるクリスタルアップル賞を受賞している。

美しい自然に囲まれた70年代のポーランドの田舎町を舞台に、ある孤独な母と子がすれ違っていく様子を息子の視点を通して描く本作は、初めての恋や友情、性を取り巻く思春期ならではの気まずさや痛々しさを美しく映し出しながら、儚く脆い人間の関係性に焦点を当てた。

「全てを語らないことが私にとって非常に重要なのです」と強調する監督はこの作品から何を読み取るのか、何を感じるか、どんな答えを出すのか、それは観客一人ひとりに任せると言い切る。それゆえに本作を観る者はある親子の人生を「観察」しているような気持ちになるかもしれないが、この「観察」という行為を促すことこそが監督の狙いなのである。

width=“100%"

width=“100%"

子どもと大人の視点の違い

1950年代末に始まったフランスにおける前衛的な映画運動、ヌーヴェルヴァーグを代表する監督の一人、フランソワ・トリュフォー監督の『大人は判ってくれない』に感銘を受けたというグジンスキ監督は『大人は判ってくれない』と同様に「子ども」の視点を作品作りのなかで一貫して大切にしている。デビュー作『Jakub ヤクブ』では父親のいない少年を描き、初の長編映画となる『Chłopiec na galopującym koniu 駆歩(ギャロップ)する馬に乗った少年』では作家の男と妻、そしてその7歳の息子の静かなドラマをモノクロで描いた。今回長編二作目となる『メモリーズ・オブ・サマー』も例外なく、ある母子の関係を、冒頭でも述べた通り息子の視点を通して描いていた。

width=“100%"

そもそも子どもと大人の視点の違いとは何だろうか。これに関して監督は子どもの視点は非常に「感情的で直裁である」と説明する。見たものに対してそのまま反応する子どもに対して、「社会的なコンテクスト(文脈)の中で自分はどう振る舞うべきか考えるようになる」のが大人だという。つまり、子どもの視点にみられるのはありのままの感情だということだろう。

父親が外国へ出稼ぎに出ているため母親と二人暮らしをしている12歳のピョトレックは、夏休みを大好きな母と幸せに過ごしていた。だが、母は彼を家に残し毎晩出かけるようになる。

作中のピョトレックの母親に対する態度はまさに直裁と言えるだろう。「自分を置いていかないで欲しい」、彼の心境はそのまま行動に表れる。ピョトレック(子ども)の視点を通して、母親(大人)の世界を描いた本作。このような子どものありのままの視点から大人の世界を観た時に、大人は自分の世界を客観視できるのかもしれない。

他者に対する「注意深さ」が失われつつある現代社会への危機感

width=“100%"

width=“100%"

少年がいかにたくさんのものを見ているか、いかにたくさんのことを感じているかっていうこと、そういうことを注意深く見ること。つまり子どもをよく観察することの重要性、これがこの映画を通して言いたかったことかもしれません。

監督が子どもの視点を大切にしている根底には、情報過多の現代社会において人々が段々と他者に対する注意深さを失っていることへの危機感があった。「注意深さがないと、相手を傷つけてしまったり、人間関係を壊してしまったり。大切な人を失ってしまったり、そういうことが起こりかねないわけです。人生は非常に複雑です。特に今日の世界において人々は自分の欲求ばかりを強調して、他者に対する注意深さが段々と失われていると思います」という監督の言葉に、筆者は取材中ヒヤリとしたのを覚えている。

width=“100%"

『メモリーズ・オブ・サマー』は、母親がそれまでなんとも思っていなかった息子との間に実はものすごく大きな溝が出来上がっているということに気づくシーンで終わる。初めて息子を直視した母親はその後、どんな行動に出るのだろうか。それは各々に考えて欲しいそうだが、「果たしてその関係性を再建しようとするのか、そのために何かするのか、何をしないのか、これは分かりません。ただそれをどうするかによってピョトレックがどういう男の子になっていくのか決まるんだと思うんですね」と監督は話していた。

作中の母親にも言えるが、自分が辛い思いをしている時には他者への配慮を忘れがちなのは自然なことだろう。しかし、自分自身に没頭しすぎると、知らず知らずのうちに他者との関係性は壊れていき、大切なものを失ってしまうことになる。『メモリーズ・オブ・サマー』に込められた監督の思いに、そんなことを気付かされた。

『メモリーズ・オブ・サマー』

公式サイト

6月1日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMA/UPLINK吉祥寺ほか全国順次公開

© 2016 Opus Film, Telewizja Polska S.A., Instytucja Filmowa SILESIA FILM, EC1 Łódź -Miasto Kultury w Łodzi

監督・脚本:アダム・グジンスキ

撮影:アダム・シコラ 音楽:ミハウ・ヤツァシェク 録音:ミハウ・コステルキェビッチ

出演:マックス・ヤスチシェンプスキ、ウルシュラ・グラボフスカ、ロベルト・ヴィェンツキェヴィチ

原題:Wspomnienie lata /2016年/ポーランド/83分/カラー/DCP

配給:マグネタイズ 配給協力:コピアポア・フィルム

width=“100%"
Share
Tweet
★ここを分記する

series

Creative Village