アンチファストファッション。「泥」を尊敬し、「土」に還る服を作る男

Text: Noemi Minami

Photography: Ko Tsuchiya unless otherwise stated.

Artwork: Kazunori Hamana

2017.4.21

Share
Tweet

環境に良いものって結局自分の体にも気持ちいい。そのことをもっと若い人が気付けば自然とサステイナブルファッションをみんな望むと思うんだ。

そう語るのは、2017-18年秋冬コレクションでデビューしたファッションブランド「Beaugan(ボーガン)」のデザイナー、クリストファー・ハンシー氏。

width=“100%"

「Beaugan(ボーガン)」とは、学力が低い人、素行の悪い人を差別的に指すオーストラリアのスラング「Bogan(ボーガン)」と「Beautiful(美しさ)」を掛け合わせた造語である。

「オーストラリア人の性でブランドの名前には冗談を取り入れたかったんだ(笑)」という彼だが、Beauganの服は日本の伝統的な「泥染め」の手法を起用し、胴着の素材を用いている。スラングを取り入れるユーモアを感じつつ、ある意味、「泥染め」や「胴着」という点では文字通り「荒さ、泥臭さ」に見出す「美しさ」を具現化する納得の名前かもしれない。

width="100%"

オーストラリアで生まれ育ったハンシー氏はヨーロッパのアントワープ王立アカデミーに在学中、一流のデザイナーの元でデザインを学ぶ。その後、日本では一流ブランドの元で経験を積み、現在自身のブランドの立ち上げに至る。

結果的なサステイナブル

自分の好きなものを追求したら結果的にサステイナブルな服ができていた。

環境に良い服を作りたかったわけではなく、自分が着ていて気持ちいいもの、好きなものを追求したら、結果的にコットン100%、着色は泥なので土に還ることのできる服が出来上がった。

width="100%"

結果的に環境に良い服ができたと言っても、ハンシー氏はファストファッションには心底うんざりしていると言う。

僕は化学的な生地が大嫌いなんだ。作る工程で無駄になる部分が多すぎるし、プラスチックな上に、化学物質を使う。ファストファッションって癌みたいだよ。すべてを壊していく。本当にクソみたいファストファッションにはいやいやしてるんだ。

width="100%"

ファストファッションを批判する彼の思想から「自然」や「生」を尊敬していることがひしひしと伝わってくる。

人間の体を考えてみれば、生まれ持ったクーリングシステム(体温調整する力)があることがわかる。化学的なバリア(化学的な服)を着ると、それが邪魔される。体の調子が悪くなる。ナチュラルな素材は髪みたいなもの。例えばウールは羊の毛だからもともとクーリングシステムがある。それは自然が作った、そのために作られたものだから健康にいいんだ。

今まで正直そういった観点で服を選んでいなかった筆者には新しい事実だった。服のデザインや着心地は気にしても、自分の皮膚の呼吸や健康とファッションを繋げて考えてはいなかった。

環境に良いものって結局自分の体にも気持ちいい。そのことをもっと若い人が気付けば自然とサステイナブルファッションをみんな望むと思うんだ。

width="100%"

また、人々がファストファッションに疑問を持たないのは不思議だと彼は指摘する。

「1000円のジーンズを買おう」って普通に思うのかもしれないけど、もし作ろうとしたらとても大変。自分が作る側になったとして、その労力を考えてみれば1000円だったら誰かが苦しんでるってわかる。

“新しくて先祖伝来”のもの

アンチファストファッション、環境に優しい同ブランドだが、Beauganの魅力はそれだけではない。デザインにも並ならぬこだわりを持っている。

Beauganはデザインのコンセプトの一貫として「New Heritage(新しくて先祖伝来のもの)」を掲げている。「Heritage(ヘリテージ)」とは「先祖伝来のもの」。彼はいつになっても愛されるような、機能的で普遍的なデザインのプロダクトをBeauganで生み出すのが目標だと言う。

width="100%"

また、自身のルーツもこのブランドのコンセプトに強く影響しているそうだ。オーストラリア人だがヨーロッパの国、スリランカ、日本など祖先に様々な文化が交じり合っている彼にとって単一の「Heritage」はない。そもそもこの概念は少し人種差別的だとこぼす彼は皮肉的なユーモアを込めて「New Heritage(新しくて先祖伝来のもの)」を生み出そうと思ったそうだ。

地の底を表現する

デザインは舞踏からもインスピレーションを受けたというから興味深い。

日本発祥のダンスである舞踏とは、西洋の「天」を目指すバレーとは対極的で「地の底、人間の本性」を目指す。

width="100%"
Dairakudakan Temptenshiki “Paradise” 2016
Photo by Hiroyuki Kawashima

ハンシー氏は舞踏家、俳優である麿赤兒(まろ あかじ)と出会い、人間の「本能」をエキセントリックに表現する舞踏に衝撃を受け、その世界にのめり込んでいった。そして舞踏について学んでいるうちに、アントワープ王位アカデミーで学んだことと共通点があることに気づく。

土方巽(舞踏の創始者)と麿赤兒がダンスを通して考えているクリエイティブなアイデアは僕が大学で学んだことと一緒だった。極端に違うものをかきあわせたときに何か面白いものが生まれるって考えがね。

ハッピー、悲しい、怒りをそれぞれ単一的に表現するのは簡単。でも「すごく怒ってるけど、雪が降ってて君はガクガク震えてる。雪と怒りをどうやって表現する?」って言われたらどうだろう。「超ハッピーなのにめちゃめちゃ暑くて、水を飲みたくてしょうがない」それを表現してって言われたらどうする?そんな両極端なものをかけあわせたときに面白いものが生まれる。

ピカソの絵だけどボブマーリーの音楽を流してるみたいなトリッピーな感じ。

彼はデザインでもそんなトリッピーさを追求している。見たことあるようで、見たことがないようなデザイン。事実、Beauganのデニムジャケットを例にとってみると、一見普通のデニムジャケットに見えるかもしれない。しかし、ディティールに注目すると、スーツ、労働着、ミリタリージャケットと様々なものから影響を受けているのだ。

width="100%"

width="100%"

多くの人は「服」をビジュアルや着心地でしか選んでいないかもしれない。しかしBeauganの世界観に触れ、「服」にこんなにも多くの意味が込められているのかと思うと見方が変わってくる。「自然への尊敬」や、「極端なものを掛け合わせると面白いものが生まれる事実」など、単なる衣服を超えて、Beauganのコンセプトから私たちが学べるものは多いのではないだろうか。

※動画が見られない方はこちら

Beaugan

WebsiteFacebookInstagram

width="100%"
Artwork by William Robinson
今回、Beauganデザイナーのハンシー氏は、デザインのインスピレーションを受けた麿赤兒率いる大駱駝艦の5/27~6/4に行われる齋門由奈「宮崎奴」公演の衣装を担当。公演スケジュールは以下。

大駱駝艦の今後の予定 http://www.dairakudakan.com
2017 年 5 月 27 日(土)~6 月 4 日(日)
齋門由奈「宮崎奴 みやざきやっこ」@大駱駝艦スタジオ壺中天
2017 年 6 月 30 日(金)~7 月 2 日(日)
我妻恵美子「Dancing PLANETS」@大駱駝艦スタジオ壺中天
2017 年 9 月 28 日(木)~10 月 8 日(日)
大駱駝艦・天賦典式 創立 45 周年公演「超人」「擬人」@世田谷パブリックシアター

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

Share
Tweet
★ここを分記する

series

Creative Village