「“好きの追求”でお金や地位、名誉のみをよしとするフレームを壊したい」。気鋭の20代が集まる神楽坂のクリエイター基地

Text: SHIORI KIRIGAYA

Photography: SAYURI MUROOKA

2018.11.19

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高級料亭が立ち並ぶエリアとして知られる、東京の街「神楽坂」。その大通りを少し入ったところに、創造拠点「F/Actory(ファクトリー)」はある。それは、あらゆる分野の「好き」を追求する20代のクリエイターたちが集まる、生活・創作・交流の三つの機能を持ったコミュニティハウスだ。今回NEUTは、彼らが定期的に開催しているイベントのひとつ、あえてルールを課して新たな表現を探ったり、日常で“やれなかったこと”を“やれた”に変える二泊三日の「クリエイティブブートキャンプ」が行われている同地を訪ねた。同キャンプでは、これまでに映像作家が彫刻に挑戦したり、そのほかのメンバーがペアを組んで作品作りを行ったりする機会がデザインされてきている。

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2018年4月の立ち上げ以来、100人以上の若者が出入りする「F/Actory」(以下、ファクトリー)。現在はそのうち画家、フォトグラファー、トラックメイカー、ドキュメンタリー映像作家、映像ディレクター、スタイリスト、ファッションディレクター、抜染家、DIYアドバイザー、アートディレクター、プランナー、キュレーターなど14名がプロジェクトメンバーとなり、建物に併設された制作スペースであるガレージを含む全棟のDIY改修工事を目的としたクラウドファンディングを行っている。彼らはみな、友人の紹介などを通して何気なく出会い、同地へやってきた。今回は、そんなファクトリーの運営を行うメンバー今野誠二郎(こんの せいじろう)さん、杉山玄造(すぎやま げんぞう)さん、飯田啓人(いいだ けいと)さん(ともに21歳)にインタビューを行った。

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左から杉山玄造さん、今野誠二郎さん、飯田啓人さん

「安定を求めること」以外の価値も認めたい

まずは、運営メンバーの三人について少し紹介したい。ファクトリーを始めるすべてのきっかけとなったのは、小さい頃から日本舞踊を習っており大学入学と同時に俳優業を始めた今野さん(ファクトリー創設者・代表)だ。演技を追求しながらも、何かに没頭できない自分自身にコンプレックスを感じていた彼だったが、起業家、アーティスト、政治家志望の若者など各々の「好き」を追求する人たちの暮らすシェアハウスに入ってから、自分自身を客観視してどう成長させるかを模索し始めるようになる。すると、その作業こそが自分の好きなことだと気づき始め、そこから発展し、人が成長するのに最適な「環境作り」に強い関心を抱くようになった。

そのように、置かれた環境によっていつの間にか自分が本当に突き詰めたい「好き」を見つけ、追求するようになるという体験をした彼は、同シェアハウスを出たあと「次は自分が、同じような『好き』を追求する人を増やす番だ」と考え、空き家であった現在のファクトリーの建物を借りることになる。初めは役者兼劇作家の友人と住みながら稽古や発表の場として使用する計画でいたものの、その友人が同宅を出ることになり、その後偶然同地を訪れたクリエイターの友人に「この場所はアトリエとして最高だ」と言われたことから、クリエイター色の強いコミュニティハウスとして運営をスタートさせた。

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このように「好き」の追求に重きを置いていた彼だが、大学の友人の多くは好きなことよりも「安定した生活」に価値を置く傾向が強いことに気づき、価値観はそれだけではないと発信する必要性を感じた。ファクトリーでは主にクリエイターのため環境作りに取り組んでおり、彼にとってファクトリーに関わる人たち(=あらゆる価値観の存在をよしとし、それぞれの「好き」を追求しようとする人たち)が新たな興味を見つけたり、一緒に創作する仲間を見つけたりする瞬間が心の支えとなっているという。ファクトリーの交流スペースの壁に貼られた、同地を訪れた人たちの写真を見ながら、今野さんはこう話していた。

今野:僕、この写真を貼る瞬間がめっちゃ好きで、撮ったらすぐにプリントアウトします。本当に、これ(人々のつながり)こそがこの場所の価値だなと思っていますね。

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次に紹介するのが、動画メディアのクリエイティブディレクターを務めている杉山さん(ファクトリー共同代表)。今野さんに「シェアハウスを始めるから、よかったら遊びに来てよ」と言われファクトリーのパーティーに参加したことがきっかけで通い詰めるようになり、現在では運営に携わるまでになった。ファクトリーの魅力は、多様なジャンルのクリエイターが集まっていて自分の「好き」に向かって気軽に挑戦しているだけでなく、「誰の夢に対しても否定することのない環境が醸成されていること」だと話す。

そして飯田さん(ファクトリー総合プロデューサー)は、幼なじみに誘われてファクトリーを訪れ、現在はファクトリーの事業化を行っているメンバーだ。ロンドン芸大のファインアート学科に所属していた彼はヨーゼフ・ボイス*1が行ったような「ソーシャル・エンゲージド・アート」を通した社会問題の解決の試みを思うように学べなかったため退学し、ヨーロッパで二ヶ月ホームレス生活を送った経験を持つ。今後はイギリスの大学で受けた、日本の芸術系大学にはないようなワークショップや合宿の教授法を生かし、クリエイティブブートキャンプなどファクトリーでの取り組みをデザインしていくという。

(*1)人間は自らの創造性で社会の幸福に寄与しなければならないという「社会彫刻」の概念を提唱したドイツの現代美術家

多様な価値観を提示する媒介としての創造拠点

ファクトリーは、メンバー同士が互いに切磋琢磨しながら制作に打ち込めるだけでなく、多面的な視点からの批評が受けられ、そこで制作を行うだけでプロデュースまでされるというクリエイターにとって最適な環境だ。しかし彼らの視野は、その次元にとどまってはいない。好きなことを追求するうえで、それが収入につながらなければ評価されない傾向が日本社会にあるなか「お金や地位以外の多様な価値観」を提示していく場所として、社会的な価値があるとメンバーらは考えている。特にお金については、常に「お金を集めるなら、それを使って何を得たいのか」「それはお金を介さずに手に入れることはできないか」と、自らを問うようにしているのだ。

今野:さまざまある“価値”のなかでも「好きなことの追求」は資本主義に抑圧されてきたと思っているから、それを追求する姿をあえて応援することで、お金や地位や名誉だけをよしとするようなフレームを壊すことができるんじゃないかと考えていますね。

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三人はファクトリーの運営方針を決める際に意見が食い違うことも多々あると笑っていたが、互いの考えを理解し合い、納得がいくまで何度となく話し合う。「好き」を突き詰められる環境の大前提には、必ずしもお金につながらない「好き」であっても追求していいんだと思えるような、「多種多様な価値観を認め合う文化」があり、好きなことを追求できる社会は、そのうえに成り立つ。これが、彼らのファクトリーを運営するおおもとの考え。多様な価値観に触れられる場所を整えることで、世の中に可視化された価値観を増やしていけるのだろう。

飯田:すごく当たり前のことを言いますけど、試さないとわからないし。どっちか迷っているときに、背中を押してくれる存在っていうのはすごく大事だなと思う。そういう空気が、この場所から広がっていったらいいなと思いますね。

さて、ここで強調しておく必要があるのはファクトリーが自分の「好き」を追求できない環境にいた人たちの「逃げ場」となることがあっても、決して「たまり場」ではないということ。常に前を向いて、今まで挑戦したくてもできなかったことに取り組み、本当にやりたいことを突き詰めようとする若者たちが集まっている。杉山さんは、以前から関心のあったXR事業*2を、大学を休学して片手間でなく学ぶことを決意した。

杉山:このコミュニティを作るうえですごく思うのが、ひとりでもふたりでも、あんまり考えないで「いいじゃん、やっちゃおうよ」ぐらいの人が集まっていると、人間って勇気のある一歩を踏み出せるんだなって気がついて。

(*2)ITテクノロジー「AR」(拡張現実)、「VR」(仮想現実)、「MR」(複合現実)の総称

価値観を発信することで、早く実現させたい未来像

話を聞いていて気になったのは、ファクトリーをメンバー限りの閉鎖的な場所とすることだって可能であるのに、彼らはなぜ自らのライフスタイルをあえて社会に「発信」するのか、ということ。改修したガレージでは、作品作りや世の中に向けた発表の場とする以外に「今の社会ではまだ価値とされていないものの魅力」を発信するような動画コンテンツを制作する計画でいる。たとえば、栄養面や持続性の面で世界的な注目を浴びているものの、育ってきた文化の影響で気の進まない人も多い“昆虫食について”など。

近い将来には、都内でも問題となっている「空き家」をファクトリーのような何かを突き詰める場所にリメイクすること、飲食店密集率が日本一である神楽坂で廃棄食料をもらうことによって、食費を稼ぐ時間を制作に充てられるだけでなく、地域の「食」の循環をよくすることなどを視野に入れている。これらは自分たちの生活の向上にとどまらず、実現させたい未来に少しでも早く近づくためなのだという。物理的に環境を変化させ、現実的に社会全体を変えていこうと考えているのだ。

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飯田:すでに技術を持った人のみが集まる場所だととらえられがちだと思うのですが、それだけではなくて、これからどうしようかなとか、好きなことが見つかっていないと思う人たちがここに来たとしてもメリットがあると思っています。

クラウドファンディングでは、開始から二週間経たずして早くも86%を超える支援が集まり、現在も増え続けている。これだけ人の共感を得ているのは、社会の現状をただ嘆いたり、メンバーだけで満足したりするのではなくソーシャルメディアやクラウドファンディングなど道具を使いながら、社会をよりよい場所にするために人を巻き込んでいこうとする姿勢が彼らにあるからではないだろうか。ファクトリーは、まだ始動したばかり。クリエイターの「好き」を追求できるこの場所は、誰もが見つけた「好き」を探求できる場所として今後広まっていく。

F/Actory

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「DIY工事ワークショップ参加券」から、F/Actoryのクリエイターの制作するオリジナルの肖像画、企業向けプロモーション動画、メンバーとのサシ飲みまでリターンが多数揃う、クラウドファンディングプロジェクトについてはこちら。支援をした方は、もれなく支援者限定のF/Actoryオンラインコミュニティに参加できる。

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