「環境のためじゃなくて、お金がなかったから」。段ボールでゴミ問題をユーモアに変える、“好き”から始まったライフワーク

Text: YUUKI HONDA

Photography: YUUKI HONDA

2018.12.5

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毎朝通りすぎる街角の路上、オフィスの隅、品出しをしている深夜のコンビニなど、いたるところにあって、日々その姿を目にしているはずなのに、誰もがそこにあることを認識せずに素通りしているアレ。

そう、“段ボール”。

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四角で意外に丈夫な箱。

大多数にとってはそんな認識であろう段ボールにとらわれた男、島津冬樹(しまづ ふゆき)さんは、たぶん、世界で一番段ボールが好きな人間だ。

「好きな段ボールは?」と聞かれた途端、嬉々と語りだす彼の活動が、世界から注目を集め始めている。

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島津冬樹(しまづ ふゆき)さん

きっかけは「お金がなくて」。間に合わせで作った段ボールの財布が人生を変える

「不要なものから大切なものへ」をコンセプトに、ゴミと見なされていた段ボールを、財布、小銭入れ、名刺入れなどに生まれ変わらせてきた島津さん。彼は世界で唯一人の段ボールウォレットアーティストとして、国内外で活躍中だ。

多摩美術大学に通う学生時代からバックパックをかついで、のべ30カ国で段ボールを拾い集めては、作品を作り上げてきた。

そんな島津さんの9年に及ぶ活動は現在「Carton(カルトン)」と名付けられ、その動向を追ったドキュメンタリー映画『旅するダンボール』の公開が今週末(2018年12月7日)に控えている。

また、島津さんの活動は、急速な発展にともなうゴミ問題が深刻なインドや中国、加えて欧米各国で、アップサイクル*1の面で評価されており、各国でワークショップを行うなど、その活躍の幅は広がりを見せつつある。

(*1)使わなくなったものを、その形質は変えずに素材として使う。または、そのままの特徴を生かしてより良いものに作り変えることで、使わなくなったものに新しい価値を見出そうとする考え方、手法。

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(c) 2018 pictures dept. All Rights Reserved.

いまや世界を股にかける島津さんだが、現在の活動を始めたきっかけは、「お金がなかったから」。

学生の頃に使っていた財布がぼろぼろで、買い替えたかったんですが、お金がなかったんです。だから段ボールを使って間に合わせで作ったのが、最初の段ボール財布でした。それをのちに大学祭のフリーマーケットで売り始めて…ということをしているうちに、いまに至るって感じです。

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間に合わせで作った段ボールの財布。当初は友人に馬鹿にされつつも使っていたソレが、いまや東京の国立新美術館で販売されているのだから、人生はわからない。

“なんだかわからないゴミ”を拾ってきては怒られる毎日

彼の人生を変えた段ボールだが、気になるのが、「そもそもなぜ段ボールなのか?」。いまの視点からみれば、クリエイティブの金鉱を掘り当てた感のある段ボール×財布というアイデア。その原点は、純粋な好きという感情と、彼が育った環境にあった。

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物心がついたころから収集癖があったという島津さん。特にハマったのが、「同じ形をしているのにその個性がはっきり分かれるもの」を集めること。貝なら“イモガイ”、花なら“ユリ”と“蘭”、魚であれば“チョウチョウウオ”と、一つのカテゴリーにくくられていながら、その色や模様が千差万別というものものに心を奪われていたらしい。

その延長線上に、いまは段ボールがある。

中に荷物を入れる四角い形の箱、段ボール。それに施されるさまざまなデザインに、コレクション魂をそそられるのだそう。

「どうして同じ形なのにこんなに違うんだろう?」。幼少期の抑えきれない好奇心は、島津さんに収集癖という名の個性を与えた。

通学路にあったゴミ捨て場で、いつも何かを拾っては持ち帰るんですが、そのたびに母親に怒られていました。こういうの、ふつうはペットを拾ってきて怒られるパターンですよね。僕はそれがゴミでした(笑)

外に出かけては“なんだかよくわからないもの”を持ち帰ってくる息子をしかりながらも、「両親はもともとモノを大事にするタイプだった」という性格が幸いしたのか、島津さんの行動が制限されることはなかった。

むしろ、息子が持って帰ってきた“なんだかよくわからないもの”を普通に使っていたのだという。

しかも両親は僕が描いた絵をずっと保存しているんです。幼稚園の頃のものも。なんというか、島津家はモノを通して思い出を振り返るたちがあるみたいです。

島津さんは段ボールの他、ホテルの受付にもらったメモ紙、カップラーメンのふた、立入禁止の場所に引かれるビニールテープ、値段が書かれたシール…そうしたなんでもないものを持ち帰り、たまに眺めては、それらを拾ったときの思い出を振り返るのだとか。

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段ボールに刻まれた“しわ”、“すれ”、“へこみ”からこれまでの道のりに思いを馳せる。デジタル全盛期に逆行するその性格が、いま、新しい形のアップサイクルを生み出した、と話題になり始めている。

「結果的にアップサイクルにつながればいいですよね」

先に書いたとおり、島津さんの活動は、特に中国や欧米では“アップサイクル”の新しい形として取り上げられ、話題を読んでいる。しかし当の本人はそんな評価もどこ吹く風。「ああ、そんなのあるんだって、そんな感じでした」と話す。

ただ段ボールが好きなだけなんですけどね。個人的にはアップサイクルを全面に出すとその言葉が壁になって、段ボールに触れる機会が減るのではないかと思っているので、結果的にアップサイクルにつながればいいですよね。

高度成長期に産業活動の活発化で、ゴミ問題と公害問題が社会課題になった日本と同じく、インドや中国などはいま、成長の真っ只中にあるがゆえの悩みに直面している。

これを、“結果的”に変えていく。彼の自然体な姿勢からは、ワークショップのために海を超えて招待される者としての気負いは感じられない。島津さんが生み出したのは、新しいアップサイクルの形ではなく、無理のない、誰もが気軽にできる社会活動の形ではないだろうか。

事実、日本全国で定期的に開かれているワークショップで、着実に人々の段ボールに対する見方を変えている。会場では、いらなかった段ボールが生まれ変わったことに対する感嘆の声があちこちから聞こえてくるそうだ。

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目指すは段ボールミュージアムの創設

最近では、デザインという視点から段ボールを見るだけでなく、段ボールというフィルターを通して、それぞれの国の状況、経済の縮図、流通網が見えてきたと嬉しそうに語る島津さん。段ボールから世界が見えてくるとは、一体どういうことなのだろうか。

例えばヘブライ語が印字された段ボールはめったにありません。これはヘブライ語を使うイスラエルが隣国との国交をもっていないのが理由です。そんなことに気づいてから、段ボールを通して世界を見るということができるようになってきました。

島津さんいわく、日本の段ボールは丁寧に作られていて版ずれが少なく、キャラクターがデザインされることが多いものの、色使いはおとなしい。ラテン語圏のスペインやイタリアは多少作りが雑でも問題にせず、キャラクターは出てこない代わりに派手な色を使いながら、しかしその配色がうまい。

こういったところに国民性が表れていて、見ていて飽きないのだという。

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新しい段ボールに出会ったときの感覚は、新しい生物や大陸を発見したときの感覚に近いんです。いつか世界中の段ボールを一同に会す段ボールミュージアムを作りたいですね。

「好きが高じて〇〇しちゃいました」、なんてレベルを遥かに超越してしまった島津さんの生き方に、周囲の人間が感化され始め、いままでゴミとしか目に写っていなかった段ボールに生き生きとした表情を与えつつある。

段ボールが好きで、その魅力をみんなにも知ってほしいというシェアの精神から始まった行動が、社会問題を解決するひとつの方法になるのだから、やっぱり人生はわからない。

島津冬樹(しまづ ふゆき)

Website

1987年、神奈川県生まれ。2012年多摩美術大学情報デザイン学科卒業。2015年、広告代理店を経てアーティストへ。 2009年より路上や店先で放置されている段ボールから、財布を作る「Carton」をスタート。現在では国内外での展示やワークショップを開催している。また日本のみならず、30カ国をまわり段ボールを集め、コレクションしている。

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『旅するダンボール(From All Corners)』

Website

2018年12月7日(金)YEBISU GARDEN CINEMA、新宿ピカデリーほか全国順次公開
監督・撮影・編集:岡島龍介
プロデューサー:汐巻裕子
ロサンセルズユニット撮影:サム・K・矢野
出演:島津冬樹
音楽:吉田大致
VFX:松元遼
ナレーション:マイケル・ キダ
日本語字幕:Mika Totechinsky
©2018 pictures dept. All Rights Reserved
2018年/日本/日本語・英語/日本語字幕/91分/カラー/ステレオ/DCP
制作/配給:ピクチャーズデプト

段ボールアーティスト島津冬樹がある日、鹿児島県徳之島産のジャガイモの段ボールを見つけ、その源流を辿って行く旅の途中で出会う、この段ボールと深く、浅く、近く、遠く、関わった人たちとの温かい交わりを3年間にわたり追ったドキュメンタリー映画。東京で偶然に見つけたかわいらしいポテトのキャラクターの段ボールがきっかけで、島津と段ボールのつながりは、日本を飛び出し、世界へと広がっていきます。

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初の段ボールエッセイの発売も決定。『段ボールはたからもの 偶然のアップサイクル

著者 : 島津冬樹(文と絵)
発行 : 柏書房
出版年月日 : 2018/12/7
ISBN : 9784760150731
判型・ページ数 : 4-6・208ページ
定価 :本体1,400円+税

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国立新美術館ミュージアムショップ「スーベニアフロムトーキョー」にて映画公開記念フェア&ワークショップ開催

映画公開記念フェア開催日時 : 2018/12/5(水)~2019/1/31(木)
※12/25(火)~1/8(火)年末休館10:00~18:00
(金曜日、土曜日のみ~20:00)
定休日:毎週火曜日
(祝日又は休日に当たる場合は営業し、翌日休み)
場所 :スーベニアフロムトーキョー
(東京都港区六本木7-22-2 国立新美術館1F, B1)
ワークショップ開催概要 : 2018/12/20(木) 第一部 13時/第二部 15時
2019/1/26(土) 第一部 13時/第二部 15時
(約1時間、各回4名定員、先着順)
応募方法 : info@carton-f.com までメールでご応募下さい。予約受付締切は各回前日の18:00
※段ボールはご用意いたしますが、お気に入りをご持参いただく事も可能です。

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