「これからの結婚・家族は『プロジェクト化』していく」。スマイルズ遠山正道と考える“新しい結婚式のカタチ”

Text: 佐々木ののか

Photography: Kotetsu Nakazato unless otherwise stated.

2019.7.3

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日本では年間60万組が入籍する中、半数以上が結婚式を挙げていないそうだ。それには経済的な面や、形式ばったセレモニー的な行為を好まない若者の価値観の変容に理由があるのかもしれない。

そんな中、2019年4月、スマイルズ、キギ、TO NINE、ディアマンの4社が共同で“形式にとらわれない結婚式”を提案するブランド「iwaigami」の立ち上げを発表した。

今回、食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」や、持ち主の思い出に焦点を当てた“NEW RECYCLE”をコンセプトとするセレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」などで知られ、常に社会に新しい提案を投げかけ続けてきたスマイルズの遠山正道(とおやま まさみち)に、結婚観や家族と性愛にまつわるエッセイをメインに取材してきた筆者、佐々木ののかが話を伺った。

今の時代に人々が求める「結婚式」とはどんなものなのだろうか。今回リリースされたiwaigamiにはどのような社会的メッセージが込められているのか。話はプロダクトそのものではなく、時間軸もメタとミクロをも行き来する、結婚全体を包括する話に発展していった。

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左から佐々木ののか、遠山正道

結婚の在り方そのものを問い直す作業になったiwaigami

佐々木ののか(以下、ののか):まず、iwaigamiが生まれることになった経緯について聞かせていただけますか?

遠山正道(以下、遠山):最初は私の友人で、元々由緒正しい結婚指輪メーカーで働いていた方が、廉価な結婚指輪を販売することに挑戦していると聞いたことが始まりでした。その話を聞いたとき、確かにラグジュアリーでグラマラスな指輪以外にももっとデザインの選択肢があってもいいと思ったんですね。

それで、いざ調べ始めたら、「これは単なるデザインの話じゃないな」というのがわかってきた。

ののか:どういうことでしょう?

遠山:今は年間60万人の人が法律婚しているんだけれども、半分以上の人が結婚式を挙げないんですね。もっと具体的に言うと、同棲をし始めて、結婚するかしないか話し合って、法律婚をすることになっても披露宴はしない。指輪は買うことはあるかもしれないけど、同棲生活から結婚生活へはシームレスに移行していく。そんな風に挙式をしない人が6割くらいなんです。

ののか:私が以前結婚したときもそんな感覚で挙式しませんでした。でも、婚姻届の提出もすごく事務的だし、確かに結婚した実感は生まれなかったですね。

遠山:そうでしょう。経済的な理由やその他様々な背景を考えると、挙式しないのもなるほどねと納得したんです。一方で、結婚って一生に何度も何度もやるものではないし、契りを交わす選択肢が挙式以外にもあってもいいのかなと考え始めた。つまり、指輪だけでなく結婚の在り方そのものを問い直す作業になっていったんですね。結婚式の歴史まで調べ始めて。

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ののか:結婚式の起源っていつなんですか? 平安時代くらい?

遠山:実はね、神道の結婚式の歴史は意外と浅くて、明治維新以降なんですって。(※諸説あり)明治維新でキリスト教が日本に入ってきて、キリスト教で式を挙げる状況にある種対抗するようなかたちで始まったのが神道の結婚式のはじまりだと言われているようです。それまでは一般の方は神の前で誓うなんてことはなかったんですね。

ののか:ここ100年くらいの話なんですね。 明治維新以前はどんな儀式をしていたんでしょう?

遠山:どちらか一方の実家に両家の親戚一同を集めて、鯛や昆布を置いてお酒を交わして、というシンプルなものだったそうですよ。そんなにシンプルな契りの交わし方でもいいなら、僕たちにもつくれるなと思った。(笑)

それで、できたのがiwaigamiなわけです。こんな風に冊子が入っていて、2人で文章を読み上げられるようになっています。読み終わったら、ここにサインして、指輪の交換をします。とってもシンプルでしょ? お金も時間もない人でも、最低2人いればできる”体験”を提案したんですね。よかったら、ちょっと読み上げてみませんか?

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iwaigamiのBOOKLET

ののか:正直、読み上げてみるまでは訝しいような気持ちだったのですが、いざ読み上げてみると言葉が身体に染み込んでくるような心地がしますね。何だか、すごく気持ちが新たになった気がします。結婚するわけでもないのに(笑)。

遠山:でしょ? 2人で声を合わせて発言すること自体がコミットメントだから、背筋が伸びる感じがするよね。逆に言えば、一般的な結婚式では牧師さんの前で「誓います」って一言言うだけだから、自分たちのことなのに実感が持ちにくい側面もある。

それから、挙式よりもミニマルだから初婚じゃなくても使えるよね。結婚ってどうしても惰性になってしまうし、改まると恥ずかしいみたいなことってあると思うんだけど、こういうのをきっかけにしてもう1回向き合ってみるのも良いと思う。

私もローンチパーティーのときにカミさんと一緒に読み上げてみたんだけど、すごくよかったんだよね。個々に独立心が強くて、いわゆる「夫婦」って感じじゃなかったんだけど、iwaigamiの儀式をした後は温泉旅行に行ったり、仕事の後に一緒にご飯に行こうと誘い合ったり。これ、作り話みたいだけど本当にね。(笑)やってみてよかったと思った。

「結婚しても2人の人生は1つにならない」

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ののか:奥様のお話が出ましたが、遠山さんは挙式をされたんですか?

遠山:私の話になると、ホテルオークラで立派な結婚式を挙げましたね。私の父が小さい頃に亡くなってしまったというのもあって、式の最後に新郎父が挨拶するところを私自身がしたんですけど、当時にしてはそれがかなり新鮮だねって言われるくらい。たった30年前だけど、仲人がいるのも当たり前だったし、私の姉も見合い結婚だったし、今とは全然様式が違ったよね。

ののか:30年でここまで変わるんですね。…ちょっと立ち入った話になってしまうかもしれませんが、遠山さんと奥様の関係性はどのようなものだったのか伺ってみてもいいですか?

遠山:いわゆる夫婦らしくはなかったかもね。私も結婚した当初は商社マンで、「会社のために24時間働けるかどうか」が価値とされているバブルの時代だったから、あんまり結婚生活に向き合うって感じじゃなかったかな。今はイクメンという言葉もあっていかに家事や育児に携わるかが大切にされているけど、当時は「男は遊んで働いて」というのが美徳とされる時代だったから、私もよく「昭和っぽい」と言われるね。

ののか:そんな風には見えませんけどね。でも、そんな環境でも、奥様は不満を持たずに家庭を支えられていたんですね。

遠山:いや、やっぱりね、どうやら不満はあったみたい。(笑)今振り返ってみたら、一般的に見てもひどい旦那という側面はあったなと自分でもわかるんだけど、当時は日本の家庭ってみんなそうだと思ってたのね。

でもね、子どもが生まれたあたりから、奥さんが自身のアーティスト活動を始めてイキイキし出したとき、これはこれで暮らしやすいなと思ったの。たとえば、私が急遽家に戻ることがあっても、彼女は自分のアトリエスペースで黙々と絵を描いていて、それぞれの世界で楽しく生きられるのはありがたいことだと思った。

ののか:私もそうでしたが、結婚したら2人の人生が1つになると考えている人は多そうです。

遠山:私も最初はそう思っていました。でも、当然それぞれの人生があるんだよね。逆にあまりもたれかかってしまうと、「こんなはずじゃなかった」って相手を責めたりね。せっかく結婚したのに、それは悲しいでしょうと。

それで、そうやって独立自尊的にそれぞれの世界を生きてきたんだけど、さっきも言ったようについ最近、いわゆる夫婦らしく向き合うようにもなった。これはこれで新鮮で、楽しいよね。

これからの結婚・家族は「プロジェクト化」していく

ののか:何だか夫婦の歴史を感じるいいお話でした…。でも、30年ほどで社会的にも、遠山さんご夫妻の間でも、ここまで結婚や夫婦のかたちが変わるなら、今後も著しく変化する可能性がありますよね。

大風呂敷な質問にはなってしまいますが、これからの結婚や家族のかたちはどのようになっていくとお考えですか?

遠山:仕事も生き方も家庭も、いろいろなことがプロジェクト化していくと思っているんですね。昭和は日本においては経済が主役で、その経済の大きな動きの中に企業も家庭もすべてがあった。だから「一生懸命に勉強して、いい大学に行って、いい会社に行って」という価値観もあったし、旦那さんが単身赴任になっても、あまり家に帰らなくても「お父さん頑張ってきて」と家族も嫌な顔せずに送り出すのが当たり前だったわけです。

でも、経済が主役でなくなった今、国や会社は助けてくれない。だから、自分でやっていかなきゃいけない時代になっているんですよね。でも、個人の立ち位置がある分、私は楽しい時代に突入したって思っています。だって、大きな経済の中では「君は何がしたいの?」なんて聞いてもくれないわけだから。

ののか:そう思うと、ちょっと楽しい気分になってきますね。私は物心ついたときにはバブルが崩壊していて、景気の良い時代を味わってこなかったことを悲観的に捉えていました。

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遠山:ううん、楽しいと思うよ。個人で生きていく時代になったら、プロジェクトの期間も規模も単位が小さくなっていって、その都度自分に合うものを仕掛けたり、参画したり、解散したりしながら生きていくことになると思う。

そういう意味で仕事はもちろん、結婚や出産もある種のプロジェクトのような感覚でいいと思っています。法律婚というのも1つの考え方だし、形式ばらずとも自分たちの考え方や行動に紐づいてプロジェクトを回して行けばいいと思います。そのためには、家族であっても、一人一人が独立してお互いに価値を生み出していく必要があるよね。

ののか:少し違う話ですが、知人が行政書士さんの協力を得て書面上で契約を交わす、1年更新制の「契約結婚」というかたちを取っていました。それもある種プロジェクト的ですよね。

遠山:おもしろいね! あと結婚から派生して子どもを含めた家族というプロジェクトについてだけど、私が最近考えている新しい取り組みとして「半寮制」っていうのがあってね。全寮制ではなく、子どもに1年の半分くらいを寮で過ごしてもらって、親子の間にもフラットな関係を築けるようにする。

親が無理に送り込むと「捨てられた」と感じかねないから、シニアを同居させたり、別の学校の友達との交流の場をつくったりして、子どもが自発的に入りたくなるような工夫をする。寮も東京の色々なところにあって好きなところを行き来できるし、回数券を使って親もたまに一緒に泊まれるようにしてもおもしろいね。

ののか:楽しそう!

遠山:こうすることで、子育て真っ盛りの期間に両親も子どもから少し手を離して自分の人生を生きつつも、しっかりと結びついている関係をつくれる。そしたら、プロジェクトの解散、つまり離婚が必要になったときにも「1回辞めてみようか」と建設的な解散ができるようになるよね。まぁ、フラットな関係が築ける家族は、結婚というプロジェクトも上手くやっていけると思うけどね。

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結婚とは、変わりゆくもの

結婚のありかたそのものを問い直す結婚指輪プロジェクト「iwaigami」のお話、遠山さんご自身の結婚と夫婦生活のお話、”プロジェクト化”していくであろうこれからの結婚のお話。どれもおもしろく拝聴したけれど、すべてが結婚にまつわる話なのに社会全体の話かあるいは個人の話かによって、あるいは時代を遡ることによって、全く違う話に聞こえることに驚いた。

だからこそ、このすべてを貫く言葉があるとしたら何だろうと思い、「紋切り型の質問にはなりますが」と前置きをして「遠山さんにとっての結婚とはなんですか」と聞いてみる。すると、遠山さんは少し考えて「変わりゆくもの」と答えてくれた。

個人的なことで言えば、変化は怖いことだと思っていた。でも、個として独立し、変わる前提に立っていれば、変化への恐怖が和らぐ。周囲が変わろうが変わらないが、自分の最適を更新し続ければいいだけと考えると、何だかとても自由な気分だ。

そして、発起人である遠山さんがそうした自由な発想の持ち主であるように、iwaigamiもまた型にハマらないオルタナティブな選択肢を差し出してくれているのだ。
今この瞬間にも私たちを取り巻く環境は変化している。その変化を見逃さないよう、私はこれからも結婚や家族について探求を続ける。

遠山正道

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佐々木ののか

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文筆家。1990年北海道生まれ。「家族と性愛」をメインテーマに、インタビューやエッセイの執筆を行う。最近は動画制作や映画・演劇のアフタートーク登壇、アパレルの制作など、ジャンルを越境して活動中。

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