裸のセルフィーを撮ることで世界との繋がりをみつけるアーティストSharol Xiao

Text: Iori Inohara

Photography: ©Sharol Xiao unless otherwise stated.

2021.8.10

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 雑多に入り組む道と、路肩の屋台から立ちのぼる蒸気の香りが印象的な国、台湾。その地で一人カメラに向かい、自身の“最も自然な姿”にシャッターを切り続けているアーティストがいる。自らを「セルフィーアーティスト」と名乗る、Sharol Xiao(シャロル・シャオ)。2021年7月28日から8月21日(土)まで、六本木の「CLEAR GALLERY TOKYO」にてセルフポートレート展「Waves」を開催している。同個展で展示される彼女のセルフィーのほとんどは裸の写真だ。彼女は、自分のありのままの姿を撮ることで自分の内から溢れ出る感情と向き合い、それらを昇華させる。アートを通して自己解放をしているという彼女のスタイルは、いかにして生まれたのだろうか。今回NEUT Magazineは台湾にいる彼女へオンライン取材を行った。

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Sharol Xiao

ー「セルフィーアーティスト」として活動されていますが、今のようなセルフィーを撮り始める前から、アートに対しての興味はあったのでしょうか。

セルフィーを撮り始める前から趣味でアート作品を作っていましたが、(芸術の)専門学校に進むほど自分のアートに自信を持っていませんでした。ただ、芸術にとても興味を持っていたのは確かです。知り合いのアートグループに参加して、そのグループ内のモデルの人たちの写真を撮ったり、そこから作品を作ったりはしていました。でも当時、自分は「これがしたい」と思っていたわけではなく、ただ単純に作ることの楽しさというものを感じていました。

ーセルフィーを撮るようになったのは、何かきっかけがありましたか。

以前動物病院に勤務していたことがきっかけです。仕事では動物が目の前で死んでしまうことも、自分の制服が血だらけになることもあり、本当にいっぱいいっぱいでした。仕事から帰宅してすぐに「もう無理」と思いながら家の猫に動物病院からの菌がうつらないようにすぐに服を脱ぎ捨て、何も考えずにカメラを手に取り、写真を撮っていました。そうやってその日の自分の感情をカメラに収めることで、毎日を生きていました。

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ー台湾はまだまだ保守的な人がいると自身のドキュメンタリーで話していましたが、自分の裸の写真を撮るようになり、それらの作品を人に見せたりSNSで発信したりすることへの抵抗はなかったのでしょうか。

少し嫌だなと思う場面はありました。最初に自分の友達に作品を見せた際に、「面白い」「かっこいい」という反応をもらえたことは嬉しかったです。でも、公表するようになったときに他の人たちと自分の作品を比べるようになってしまったんです。なので最初は、自分の裸の写真をSNSに載せても、いいねやコメントなどをできないような設定にしていました。公表することで自分の作品に対してネガティブな感情を抱くことはありませんでしたが、他の人の作品と比べるようになったことが問題でしたね。

ー同じドキュメンタリーのなかで「ヌードが趣味なんですか」と聞かれた際、あえて「ヌードではなくて服を着ないことが好きです」と返していましたね。

私は裸が自分の本来の姿という感覚が強いので、服を着ないというのはとても自然なことなんです。裸でいることがわざわざ「ヌード」という単語で表されるように、一般的には服を着ないことが少し特別に捉えられているかもしれませんが、私にとっては特別なことじゃない。多くの人にとって服を着ることの方が自然だとするならば、私にとっては服を着ることが趣味と言えるくらいです。逆ですね(笑)。

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ー「セルフィーを撮ることが自分の解放に繋がる」とも話していましたが、それはどのような感覚なのでしょうか。

私が撮る写真の一枚一枚は、自分の生活や環境と関連しているものです。例えば「今日は仕事で疲れた」とか。その日の気持ちを全てカメラに投げ込んでいて、写真はその時その瞬間の自分の状態そのもの。撮影をしている間から、撮った写真を見返すときまで全て大切なプロセスです。そのプロセスを通して世界のなかで自分の居場所を探したり、世界との繋がりを探しているような感覚です。

ーまるで何かしらのセラピーのようですね。

そうですね。実は最初から自分のセルフィーを「アート」として考えていたわけではありません。撮った写真は、ただただ自分にとって大切なものでした。ですから当初は公表もしていません。でも自分の一部だから人とシェアしたくて、公表しはじめたら反応が良かったので素直に嬉しかったです。

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ーアートとして見るか、ポルノとして見るかという話も出ましたが、基本的にシャロルさんは「アートとポルノには違いがない」と考えているんですよね。これに関してもう少し詳しく聞きたいです。

芸術のなかにも性的欲求は内包されていると思っています。ちょうど、丸と丸が重なり合う部分があるような感じです。二つには共有する部分があって、全く違う別々のものではないと考えています。

ー全くの別物でもなければ、全てのポルノがアートと言えるわけでもない、ということですね。

そうですね。アートのなかにもポルノは存在して、ポルノのなかにもアートが存在しています。だから、全てのポルノがアートと言えるわけではありません。私が生まれ育った家庭は、ポルノやアートへの認識がとくだん前進的なわけではありませんでした。ですから幼い頃は性欲やポルノというものに対して抵抗感がありました。でも私は今、自分の体をさまざまな形で写真に収め、作品を作り上げています。それは、自分が大人になる過程でいろんな人とセックスしたり、接していくうちに、性欲を汚いものだとはとらえなくなったからです。性欲というのは自分自身との繋がりを感じるものの一つであり、自分の体の一部であるという感覚になりました。性についての感覚はとても大切です。今でもときどき抵抗感を感じることはありますが、それを解決していかないとうまく自分と付き合っていくことは難しいと思っています。

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ーでは、性欲に対して嫌悪感やネガティブな感情を抱く人や、シャロルさんの作品を単純にポルノとして捉える人には、自分の作品をどう説明したいですか。

私は、そこはあまり気にしません。他の人が自分の作品をポルノと捉えたとしても、それは見る人の自由ですから。私の作品を好きな人もいれば嫌いな人もいると思いますが、それも当然だと思います。でも作者の私は、私が撮っているものが“エロい”写真ではなくて、芸術だと思っています。

ー自分の作品に対する好き嫌いの裏に、「女性が裸を見せるなんて恥ずかしい」といった女性蔑視の考えや保守的な価値観があるとしたら、その人にはなんと伝えますか。

それに対しては、「女性だからといって、なぜ裸の写真を撮ったらいけないの?」とこちらが逆に聞きたいですね。それくらい、私にとって自分の体を撮ることは当たり前の行為です。展示会の際に来場者から「裸の写真を撮ることで自分を他人の性欲の対象、つまり“商品化”したのでは?」と聞かれたことがあります。だとしたら、お花の写真を撮ったらお花を“商品化”し、机の写真を取れば机を“商品化”しているということになるのでしょうか。女性が自分の裸の写真を撮ったからといって、体を商品化したと言うことはできません。それは受け取る側の問題だと思います。

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ー動物病院で長時間働いていたセルフィーを取り始めた頃とアーティストとして名を広めた現在では仕事や環境も変わって、メンタル的な変化もあったと思います。昔と比べて、今のセルフィーがシャロルさんにとってどんな存在かを聞かせてください。

昔、動物病院に勤務していたときは、苦しい、さびしい、虚しい、悲しいといったような溢れ出る感情をとにかくカメラに投げ込んでいました。でも今は動物病院の勤務も辞めて、仕事に縛られることはありません。この自由な時間がとても大切だと感じています。日々生きていることを実感しながら、多様な作品を作り、いろんなことを知り、世界を広げたいと思っています。

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Sharol Xiaoセルフポートレート展「Waves」

同展では、台湾の広大な自然を背景に撮影をしたセルフィー「PURITY」シリーズ と、彼女が監督として制作した映像作品「Waves」と「The Rocky Shore」を公開。
他者の目を気にせずシャッターが落ちるその一瞬だけに集中し、その時の感情を発散させる彼女のストレートセルフィーは、「これが私だ」 とい言い切る表現者としての強さと、煌めく彼女の存在を、強く焼きつけている。

場所:
CLEAR GALLERY TOKYO
〒106-0032 東京都港区六本木7丁目18−8 岸田ビル 2F

会期:
7月28日(水)~8月21日(土) ※夏季休廊 8月8日(日)~8月16日(月)
火曜日~土曜日 12 – 6 pm
日 / 月 / 祝日定休
Website / Twitter / Instagram

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Sharol Xiao(シャロル・シャオ)

1994年台湾台中市生まれ。自身を表現し発見・探求をするため、自らのからだをメディアと捉え、コンパクトカメラを使用したセルフポートレートの作品を制作。2017年に自身の限界を探求する一連のセルフィー「I AM SHAROL」として自分自身を記録することを初めてから、台湾・日本・米国で展示会を開催してきた。
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