「エキストラでいいんか?人生のエキストラで」『エッシャー通りの赤いポスト』出演の小西貴大 & モーガン茉愛羅に聞いた“人生の主役”の掴み方

Text: Natsu Shirotori

Photography: Takanobu Watanabe unless otherwise stated.

2022.1.18

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「エキストラでいいんか?人生のエキストラで」

 2021年12月より公開された映画『エッシャー通りの赤いポスト』のセリフの一つだ。インターネットやSNSの発展により、誰もが“何者か”になれるようになった現代。同年代のインフルエンサーを傍目に「自分は何者だろうか」なんて考えたことのある人もいるのではないだろうか。そんな人の目を覚ますように本作は冒頭のセリフを繰り返し突きつけてくる。

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 本作は、映画監督・園子温(その しおん)が2019年に開催した3日間のワークショップをもとに制作された作品だ。2019年2月、心筋梗塞により倒れた園監督には、予定されていたハリウッドデビュー作品の撮影延期によって急遽空き時間が生まれた。そんな状況のなか、若手の俳優が参加費を支払うワークショップに懐疑的であった園監督が、俳優たちにとっても実績となる映画を作ることを条件として、初めてワークショップを引き受けたのである。病を経験し、自主映画を撮っていた頃を振り返った監督が、原点回帰して作った情熱的な作品だ。
 作中では、映画『仮面』への出演をかけて、さまざまな境遇の役者志望者たちがオーディションに参加するが、映画自体も同じようなシチュエーションで制作が進められた。異例となる697人ものワークショップ応募者のなかから園監督によって選ばれた51人が、挙手制で自身のやりたい役を演じ、競い、勝ち取っていく。その濃密なワークショップと撮影から2年を経て、劇場公開に至った。
 それぞれの俳優の情熱的でパワフルな演技に惹きつけられる本作だが、今回は、主要キャストを務めた小西貴大(こにし たかひろ)とモーガン茉愛羅(もーがん まあら)に話を伺った。

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小西貴大、モーガン茉愛羅

ーお二人が、今回のワークショップに参加しようと思った理由を教えてください。

モーガン茉愛羅(以下、モーガン):私はもともと、今回のワークショップの主催であるアクターズ・ヴィジョンの開くワークショップによく通っていました。ずっと映画に出たい、お芝居をしていきたいという思いでワークショップを受けていたのですが、今回の作品はそのなかでも一番実践的で映画出演に繋がるものでした。だから、これはチャンスだ、絶対に自分のモノにしたいと思いましたね。園さんが監督だと知って作品を観てみると、さらに映画に出たくなったし、何かしらの役は取りたいという気持ちになりました。初めての映画なので思い出深いです。

小西貴大(以下、小西):僕、「認められたい」という願望があるんです。それも、第一線でやっている人、園子温というもしかしたら日本で一番知られているかもしれない監督のような人に認められたい気持ちがずっとありました。
今、渋谷のTSUTAYAなんかでも今回の作品のタイアップコーナーがあるんですけど、俳優をするために上京してきて10年、渋谷のTSUTAYAでたくさん苦しい思いをした気がするんですよね。こんなにもたくさんの新作が出ているのに、自分はどの作品にも出ていないって。でも、そんな僕でも、園子温監督の映画は逆転ホームランが打てる場所かもしれない。そこに立ってみたい、園さんに出会ってみたいと思って応募しました。

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ーまさに今回の映画のなかのようなストーリーですね。実際にワークショップに参加してみて、期待通りの内容でしたか。

モーガン:予想ができなかったよね。毎日試行錯誤して、目の前にあることに立ち向かっていく感じでした。

小西:その日に結果を残した人が、次の日にパートが増えていたり、台本の内容がどんどんと変わっていったりしました。大枠はありつつも、みんなで交代で演じて、いい演技に合わせて物語が作られていく。毎日勝負しろと言われているような感じでした。

モーガン:映画に初めて出る人にとっても、映画の現場を今までに経験したことがある人にとっても、そして園さんにとっても初めての何もお手本のない状態からスタートでした。誰かが気を緩めたら、自分が失敗したら映画が失敗するような雰囲気があったと思います。

小西:そうだね。あとは、映画の内容にリンクするように出演者のキャリアもさまざまでした。料理屋でバイトしている子が受かっていたり、メイキングの編集をしている人が受かったり。オーディションには演技が上手い人はいっぱいいたけれど、残った人は面白い人たちだと思いました。だからこそ、いつ配役をひっくり返されるか分からないと、常にヒヤヒヤしていました。

モーガン:役が決まったからって全然安心できないし、いつその役を変更されてもおかしくない、主役を乗っ取られてもおかしくない雰囲気はありましたね。

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ーワークショップや映画撮影の最中で特に印象的だったことはありますか。

小西:ラストシーンの愛知県・豊橋の撮影で、出演者50人以上が集まったのはよく覚えています。

モーガン:気温も37度くらいあって、灼熱だったね。

小西:あのシーンが最後の撮影だったのですが、園さんが1番走っていたのが印象的で。映画の現場ではスタッフさんは僕ら俳優よりも寝ていないことが多いんですけど、当時、57、8歳の園さんが毎日走り回っているのを見て頑張らなきゃなと思いました。

モーガン:園さんが1番エネルギッシュに動いて先陣を切ってくださっていたよね。あとは、私が演じていた山場のシーンを、深夜2時くらいだったのに、なかなか納得いかなくて頼み込んで、もう一度演じるチャンスを与えてもらったのも印象的でした。成長の場をいただいたと思います。

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ーモーガンさんは初の映画出演、小西さんにとってもめずしい撮影現場となったかと思いますが、他の作品作りとはどのような差がありましたか。

小西:まず、リハーサルがないんですよね。他の現場であれば、テスト・リハ・本番と3回ほど重ねます。でも、この作品では「この辺で走ってきて、この辺でセリフね。よーい、スタート!」と言われるので、毎回すごい緊張感がありました。例えば、茉愛羅のペンキをかけ合うシーンも、衣装の替えがないからやり直しが効かないうえにセリフも長い。ずっとジェットコースターに乗っているような感覚で、スリリングで面白かったです。12日間くらいの撮影だったのですが、普通の現場では1日に台本10〜15ページくらいのところを、今回の現場では倍くらいのスピードで進んでいました。それから、失敗したら次の日に自分のシーンが消えるし、よかったら増える。実際に減ったり増えている人もいたんですけど、そんな現場は他にはないと思います。

モーガン:あと、他の現場ではあまり言われない、良い・悪いを露骨に表現される場でもありました。

小西:今の映画界では言いづらいこともあるかもしれませんが、いいものを褒めてもらえる・悪いものはダメだとはっきり言ってもらえるのは僕にとってはすごく気持ちよかったです。

ー今回のワークショップや映画撮影を通してお二人が個人的に学んだことがあれば教えてください。

小西:いろんな人が参加していて、全員、才能あるんだなって思いました。今回の映画には勝ち組の人はいないと思うんですよ、全員売れていないから。でもそのなかにも、園さんは絶対にいいものがあると言ってくれて、僕もそう感じた。役の大小があったとしても、自分を信じるしかなくて、そこがスタートであり、ずっと突き詰めていかないといけないことなんだろうなと感じました。

モーガン:私は、シンプルですが演技は楽しいなと改めて思いました。初めての映画の現場で、園さんに暖かい愛のある提案をたくさんいただいて、自分の可能性を感じることができました。そのぶん、難しさもあったし、成長もあった12日間だったと思います。やり切ったときにお芝居って楽しい、表現することって素晴らしいと感じさせてくれた現場が初めての映画なのは、ありがたいですね。

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ー「エキストラでいいんか?人生のエキストラで」というセリフが印象的でしたが、お二人にとって人生の主人公になるとはどういうことでしょうか。

小西:自分の本当の声を出せることじゃないでしょうか。世の中にはいろんな決まりがあるけれど、誰が決めたのだろうかと疑ってみる。きっと今、自分の本当の声を出せなくなっている人たちが多くて、それは国や世の中の問題でもある。でも、自分の人生だし、自分が本当に思っていることを言う、やりたいことをやる、本当に一緒にいたい人といる、人生のなかでそういうことをしていくのが自分にとって人生の主役になるってことかなと思います。

モーガン:任せっきりにしないこと。自分の感情ややりたいことを誰かに任せっきりにしないで、自分の道を自分の足でちゃんと歩くことだと思います。登場人物が自分で動き出したからこそ、この映画も最後のシーンで動き出していったと思うんですよね。なくなったけれど本当はあったはずのセリフで、「舗装道路を歩くな、獣道をいけ」というセリフがありました。その言葉と同じかなって。舗装されていたら安全だしゴールも分かるけど、それってつまんないですよね。

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ー最後に、お二人と同じようにクリエイティブなことが好きだったり、クリエイティブなフィールドで夢を追いかけているNEUT読者の方々へ向けてメッセージをお願いします。

小西:今回の映画にも、NEUTの読者さんにもいろんなパーソナリティの人がいると思いますが、その人たちそれぞれの表現が素晴らしいと思います。そこに優劣はなくて、もっともっといろんなパーソナリティを持った人たちの作品が世の中に出てきてほしいと思いました。僕自身も、決して勝ち組ではなくて、どちらかといえば少数の、芸術をやっている人間です。その少数の人たちの作品に救われる人もきっといっぱいいると思うので、これからも一緒に頑張りましょう。

モーガン:映画に出演した51人も、その他の応募者も少なからず自分の意思でこの作品に携わろうとした人だと思います。どんな表現をしていたとしても、動き出さなきゃその表現は届かないんです。だから、立ち向かえ。とりあえず作ってみる、自分の体一つで何を表現できるのか考えてみる。そうやって一緒に動いていけたら、面白いものが日本からどんどんと発信されていくんじゃないかなと思います。

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小西貴大

1993年生まれ、愛知県出身。俳優として、映画・ドラマ・舞台などに出演。2018年には、主演を務めた『日本製造/メイド・イン・ジャパン』で、MOOSIC LAB2018 短編部門にて最優秀男優賞を受賞。園子温監督のハリウッドデビュー作『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』にも出演。2022年の公開待機作品は7本以上。▷TwitterInstagram

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モーガン茉愛羅

1997年生まれ、東京都出身。16歳のときにモデルデビューしたのち、2015年より俳優としても活動を始める。『エッシャー通りの赤いポスト』が映画初出演作品となった。また、フォトグラファーとしても活動しており、2018年には個展「Roots ⇄ Routes」を開催している。▷TwitterInstagram

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『エッシャー通りの赤いポスト』

渋谷・ユーロスペースで好評上映中!

Website

園監督が、脚本・編集・音楽を担当し、藤丸千、黒河内りく、モーガン茉愛羅、山岡竜弘、小西貴大、上地由真、縄田カノン、鈴木ふみ奈ら役者の卵たちのほかに一般応募から参加し、ワークショップの役者選抜51人に選ばれた藤田朋子、田口主将や、園組常連としてキャスティングされた吹越満、渡辺哲、諏訪太朗が参加。すでに、世界12の国際映画祭で上映され、昨年10月に開催された第49回モントリオール・シネヌーヴォー映画祭では《観客賞》を受賞!

<あらすじ>
鬼才カリスマ映画監督・小林正の新作オーディションに出演を狙う者たちが押し寄せた。興味本位で応募してきた者、夫の意思を継ぎ女優を目指す若き未亡人、「小林監督心中クラブ」のメンバー、浴衣姿の劇団員、やらせの有名女優、殺気立った訳ありの女…etc!? 一方、小林監督はエグゼクティブプロデューサーの無理な要望に苦悩し、シナリオ執筆もうまく進まない。そんなとき、昔の彼女が監督の目の前に現れるが…。

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