「急成長するサウジアラビアのユースカルチャーに貢献したい」。サウジとトーキョーで育った3人が“東京産のブランド”を始めた理由

Text: Shiori Kirigaya

Photography: Cho Ongo unless otherwise stated.

2019.8.21

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原宿や渋谷のストリートカルチャーに影響を受けたサウジアラビア出身の若者、ゆせふ、ばする、ヤズによる、アパレルを中心としたブランド「UNAS TOKYO(ウナス トウキョー 以下、 UNAS)」。拠点は東京だが、2019年8月にファーストコレクションをリリースし、彼らの出身地サウジアラビアの首都リヤドでも展示会を行う。

同国では、ここ数年で社会が大きく変化し、人口の6割以上を占める34歳以下が担うユースカルチャーが盛んになってきているのだという。東京でのアートやファッションに関する多くの経験から、ブランドを通してそんな自国のユースカルチャーに貢献したいという情熱を持つ彼らに、今回NEUTはインタビューを行った。場所は、彼らが頻繁に訪れるという原宿キャットストリートにあるカフェで。

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左からゆせふ、ばする、ヤズ

サウジアラビアと日本の両方で育った感覚

UNASを立ち上げたのは大学生でファッションモデルのゆせふとヤズ、大学院生のばする。それぞれの得意分野を生かし、ゆせふがデザインを、ばするがビジネスを、そしてヤズがブランドの総合的なビジュアルを担当。共通したビジョンを掲げるこのメンバーが集まることで、よりクリエイティブ性を発揮していけると考えたのだ。

そんな3人は、それぞれ高校卒業後18歳で来日。ばするは、留学を考えた際にサウジアラビア人の多くが選ぶアメリカやイギリス、オーストラリア以外の国に挑戦したかったためで、ゆせふはアメリカでの留学の準備期間の間に日本へ来て日本語を勉強してみようと思い立ったためだった。ヤズの場合は、兄のばするに東京の評判を聞いて来日した。三人とももともと日本文化に対する強い関心があったわけではないが、東京での生活が気に入り、その後も住み続けている。

ゆせふ:日本にきて、東京のことを好きになって、もしかしたらここでやりたいことがあるかなと思って、それで残ったんです。

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ゆせふとばするは約7年、ヤズは約5年間東京で暮らしてきているが、10代で来日したこともあり、「サウジアラビアだけでなく東京でも育ってきた感覚」があると、彼らは話す。

ゆせふ:両方の文化が自分のなかで混ざっている気がしていて、来日以前と比べるとサウジアラビアの人と話すときも日本の人と話すときも、自分の相手とのコミュニケーションの仕方が変化したと思っていて、相手が自分をどう扱うかも変わったと思う。

ヤズ:サウジで育ったけど、そのあと過去5年くらいは東京で育ったし、それは自分のパーソナリティにとって重要な期間だったと思っている。サウジアラビアのカルチャーにも日本のカルチャーにもそれぞれに意識はあるね。

また、特にばするの場合は日本語を話すとき、シャイになったり謙遜した態度をとったりするなど、日本的な文化を自分のものとしているように感じる瞬間が、いい意味でも悪い意味でもあるというのだ。

ばする:自分が結構日本のカルチャーや日本語を好きになっていて、特に日本語を話すときはちょっと性格が変わってしまうと感じてますね。「日本語うまいですね」って言われたとき、前は「まあね」と返してたんですけど、今では「いや、まだまだ勉強中ですよ」って答えるようになって(笑)。

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日本で経験したアートやファッションの世界

彼らがブランドを立ち上げるにあたった背景には、東京でのアートやファッションの経験が大きく関係している。東京は、世界各地から最先端のものが集まりやすいという意味で「グローバル都市」といわれることが少なくないが、彼らもその恩恵を受けてきた。

たとえば世界をまたにかけるアーティストが展示をする際には、アーティスト自身が来日し、レセプションパーティーやトークショーを開くことがある。なかには招待性のものもあるが、どんな人でも作家と話すチャンスがあるイベントだって少なくない。

ゆせふ:東京に来るアーティストたちの展示があれば、そこに行って直接話すことができる。それでインスパイアを受けたり、自分たちのビジョンを話して、知識とか経験談を教えてもらったりとか。

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また、撮影やファッションショーの現場ではプロフェッショナルの仕事を間近でみることで制作の過程を学べると話す。撮影でならカメラのアングルや、ポーズのとりかた。ファッションショーでなら舞台裏で人がどのように動いているのか、モデルに歩き方をどう教えるのか、どうスタイリングするのかなど。

6年ほど日本でモデルとして活動しているゆせふは3人のなかでも多方面に知り合いがいるようだ。ラッパーの友人のレコーディングや撮影を見に行き、制作の過程を知る機会もあった。

ゆせふ:東京で得た経験から全部学んだと思ってる。特に東京で知り合った自分で何かをやっている人たちってみんな本当にそれが上手いから、自分をそうなれるように努力しようって思わされた。そんな東京の側面が特に好き。

ヤズ:ここでカルチャーがミックスした小さなクリエイティブが生まれていることと、クリエイティブな人たちが出会って何かを作り上げる様が好き。それを見てきたことが、僕たちのスキルを上げることにつながったと思ってる。

サウジアラビアでのカルチャーショック

サウジアラビアのクリエイティブシーンはどうか。ヤズによると、スケーター、シンガー、フォトグラファー、モデル、アーティストらの活動が活発化しており、スケボーの大会やアートの展示、映画の新しいムーブメントも生まれつつある。冒頭で言及したように、ユースカルチャーの発展が著しい同国の変化は彼らをも驚かせている。法律が変わって女性が自動車を運転することが認められたり、反対する動きがあったもののTyga(タイガ)や50 Cent(フィフティ セント)らのアーティストが現地の音楽イベントに参加するなど、欧米のヒップホップカルチャーにも寛容になったりしてきた。

ゆせふ:7年前に僕たちはサウジアラビアから日本にきたけど、肌で感じることができるくらい急速に変化している。インスタを見ていてアーティストたちのスキルがあがっているのも目に見えるし。帰ったときにはカルチャーショックを受けるよね。

ヤズ:さまざまなカルチャーコミュニティがあることに気づいたよ。それは新しいわけじゃないかもしれないんだけど、大きいコミュニティができていることを知った。それが多分2年前とは違うことかな。

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2018年1月のUNASのブランドローンチは、ヤズがサウジアラビアで撮影した写真の展示と合わせた形態で行われた。写真に収めたのは、宗教的な人、車を運転している人、スケートボードに乗っている少年、花を持った少年など、サウジアラビアで暮らすさまざまな人々。同ローンチはブランドのキックオフを伝えるとともに、ユースカルチャーに関わる人を含む多様なカルチャーとコミュニティが存在することを示す機会となった。

ばする:「サウジアラビアだったら石油だろ」とかって言われるけど、それはちょっとひどいなって思って。「暑いところですよね」とも言われるけど、夏でも涼しいところもあるし、場所によって違う。だからヤズは、写真でサウジアラビアの広さを伝えようとした。

ヤズ:サウジアラビアのどこから来ているかでアラビア語のアクセントが大きく異なるし、違う文化を持っているんだ。

活発化するサウジアラビアのユースカルチャーの一部に

UNASは古典アラビア語で、人やコミュニティを意味する。3人がストリートで着たいと思うデザインの服を作るだけでなく、サウジアラビアで活発化してきているユースカルチャーの一端を担うコミュニティとしてクリエイティブシーンを活性化しようとする姿勢がここにも表れている。

彼らによると、サウジアラビアにストリートウェアがみられるようになったのはここ数年のこと。多くの人が自動車で移動するため、ストリートでカルチャーが生まれにくいことが背景にあった。東京とはストリートカルチャーの発展の仕方が異なるであろう同地にも響くようなより大きなビジョンを掲げるためにも、彼らは勉強をし続けていると言う。

ヤズ:サウジでストリートウェアとかそのカルチャーが大きくなってきているから、その一部になることがメインのゴール。そこに僕たちがファッション業界に何か新しい提案ができるようにしたいんだ。

ゆせふ:サウジアラビアで今起きているムーブメントが好き。それの一部になれることはとても楽しみ。

リリースしたばかりで、取材時にも彼らがアイテムを身にまとってきてくれたファーストコレクションは、「Sun’s Sons」と名づけられている。太陽の息子たちと訳せるそれに散りばめられているのは、彼らが好きな太陽のモチーフと、イエロー、グリーン、ブルー、ピンクといった鮮やかな色。

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UNASでは、今までにTシャツやオーバーオール、ジャンプスーツ、靴下などを制作した。だが彼らのUNASとしての表現はファッションアイテムにとどまらず、その範囲は写真やショートフィルム、音楽にまで及ぶ。どこの国においてもユースカルチャーやストリートカルチャー、音楽ならヒップホップなどを嫌う層はいる。自らカルチャーを盛り上げ受け入れられるために、音楽でもヒップホップを選び、そんな人々の見方を変える工夫を施すことも視野に入れているののだ。

ヤズ:たとえば多くのラッパーがするようなドラッグとかについて歌いたくはない。音楽に対する観念を変えたいから、自分たちのスタイルの音楽を作りたいし、ビデオとか、あとはショートフィルムも作りたい。

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僕たちはお金持ちのキッズではない

UNASの商品は、すべてメイド・イン・ジャパンにこだわっている。それは高品質のものを作ることで、長く着てもらいたいという思いがあるから。ファッションモデルの仕事で数多くの服を身にまとう機会のある彼らだからこそ、その「いい素材か」は着たときによくわかるのだという。

パターンを勉強したり、自分たちの納得がいくまで服の試作品を作ったりしていると、どうしてもコストがかさむ。それでも3人は共通して「信念があるから、そうしている」のだと語る。

ゆせふ:多分ステレオタイプ的に、お金持ちのサウジアラビアのキッズがブランドを始めたと思われるかもしれないけど、僕たちはミドルクラスからきていて、そんなにお金があるわけじゃない。ポケットマネーから始めていて、僕だって実際には結構大変(笑)。

そうゆせふが話すと、ばするとヤズも続いて「僕もだよ(笑)」と口に出した一幕が印象的だった。時間やお金、労力を惜しんでも目指したいゴールへ向かって信念を貫く彼らは、多くのクリエイターを巻き込みサウジアラビアのユースカルチャーだけでなく、日本のユースカルチャーをも活性化していくだろう。

UNAS TOKYO

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UNAS TOKYO とは、東京を拠点に置く3人のサウジアラビア人達の手により生み出されたアパレルブランドです。東京ならではのアートやファッションにインスパイアされた3人が2018年4月にクリエイティブかつ新しい刺激を発信する場として始まりました。

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Locaction provided by Deus Ex Machina Harajuku(記事内写真の2枚目と7枚目)
SHOP:11:30am-8pm
CAFE :9am-8pm
DJ BAR :Thu & Fri 7pm-11pm
Deus Ex Machina Japan
Deus Records

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