「クラブを日常の延長線上へ」。豊かなクラブカルチャーを育てるため家族連れや高校生も参加できるフェス形式のクラブパーティーを作った男

Text: YUUKI HONDA

Photography: Shunsuke Imai

2018.11.6

Share
Tweet

「クラブを日常の延長線上へ」。

この言葉を胸に、大規模なものとしては日本で初めての日中開催のクラブパーティーを仕掛け続ける男がいる。

width=“100%"

業界歴20年以上。セクシュアリティ、年齢、職業の境なく人々を受け入れる懐の広いクラブカルチャーにどっぷりと浸かり、いつもは夜ふけまでにぎやかな空間を手がける彼が、今、なぜクラブカルチャーを日常に届けようとしているのか。

ここでは、90年代に登場するや、当時はまだ広く知られていないリミックスという手法で、マイケル・ジャクソンやマドンナとも楽曲を手掛け、世界中にその音源を届けてきた業界の大御所「MASTERS AT WORK」(マスターズ・アット・ワーク)に三年連続の来日を決意させたキーマンが語る、これからのクラブカルチャーについてのリリックを回す。


クラブカルチャーの豊かな受容性

件の男、株式会社プリミティヴ代表の大山陽一(おおやま よういち)さんは言う。「なかなか理想の人生を生きるのは難しい。計画通りにはいかないですね」。

width=“100%"

一度はアパレル業界を志し、専門の学校まで卒業するも、就職先の空気が肌に合わず3ヶ月で退職。学生時代から音楽に傾倒していたのもあって、業界への転職を決意。「レコードショップで働きたい」と履歴書を方々へ送った。

しかし。

当時は所謂DJブーム、人気のアナログ盤の発売日には宇田川町に行列ができる時代です。音楽業界の全盛期だし、経験もない人間には返事すら来ませんでした。


それでも、とにかく音楽業界で働くことを目指していた大山さんは、友人らとパーティーを主催していた経験が買われたのか、渋谷のクラブスタッフとして第一歩を踏みだす。当時若干20歳。「これやったらモテるんじゃね?」との思惑からDJ機材を買って、夜な夜ないじくりまわした青春時代の夢は、フロアの真ん中ではなかったものの、異なる形で実現した。

呂律の回らないようなお客を相手にカクテルを作り、入場者をチェックするチェッカーに励み、ときにはエレベーターボーイもやった下積み時代。ある先輩に気に入られて、さまざまな現場にアシスタントとして付いてまわった。そのクラブで運営の“いろは”を一から学んだ。そこでは、先日休刊した『warp MAGAZINE JAPAN』と組んだヒップホップのパーティー、かたやドラァグクイーンを呼んでのリアルなゲイパーティーも開催されていたという。

クラブではジェンダーも肩書きもなにも関係なくフラット。クラブカルチャーの懐の広さをがっつり見せてもらいました。

制作・運営の表と裏を歩かせてもらった当時の出来事すべてが大山さんの基礎となり、その後、当時の東京のクラブカルチャーを牽引していたプロダクションで7年間のキャリアを積み、独立後に20代で立ち上げた株式会社プリミティヴは2018年で12年目。「いろんな方に助けられてやってきました」というこれまでの活動の集大成のひとつが、今月18日に行われる「MASTERS AT WORK in JAPAN」だ。

width=“100%"

世代の壁を取り除く、新しいクラブカルチャーのあり方

今年で三年連続の開催となる「MASTERS AT WORK in JAPAN(以下、MAW in JAPAN)」。ダンスミュージックシーンでの圧倒的な評価のみならず、マイケル・ジャクソン、マドンナ、ジャミロクワイらのリミックスを通して、世界中にその音源を届けてきた彼ら、グラミー賞も受賞しているLouie Vega(ルイ・ベガ)&Kenny Dope(ケニー・ドープ)のコンビ「MASTERS AT WORK(以下、MAW)」の活躍はつとに有名だ。

width="100%"
左からルイ・ベガ、ケニー・ドープ

大山さんいわく「わがままなんですよねえ彼ら。あんまりいいことは言えないなあ(笑)」というふたりだが、その腕は超一流。長年ダンスフロアを湧かせてきた実力は伊達ではないとのこと。コンビで活動するDJは普通は交互に1曲づつプレイするが、MAWのふたりは同時に、しかも絶妙な加減でお互いの音を生かしながら場を盛り上げていく。

もう阿吽の呼吸。あれはすごい。普通に考えれば不可能で、人間業ではないんです。彼らにしかできないことでしょうね。こんなコンビは今後も出てこないんじゃないかなあ。

そんなふたりを招いて行われる「MAW in JAPAN」だが、日中の「ageHa(STUDIO COAST)」*1という特別な環境下で、屋内と屋外、複数のエリアでダンサーやDJが20人以上参加するフェスティバルともいえる。

「90年代にMAWから衝撃を受けた世代が家族で来られるように」とVIPルームからキッズエリアまでを併設。キッズエリアはDJセットの体験ブースがあるほか、親子でもの作りなどのワークショップを楽しむことができるなど充実。さらに高校生以下は入場無料(小学生以下の児童及び乳幼児は保護者同伴に限り入場無料)。時代を超えて愛されるMAWを軸に置いてこそ実現できた、老若男女が楽しめる日中開催のフェス形式だ。

(*1)通常夜間は「ageHa」、昼間は「STUDIO COAST」として営業しているが、「MASTERS AT WORK in JAPAN」においては昼間にもかかわらず、あえて「ageHa」として営業する

width="100%"
昨年のキッズエリア、DJセット体験ブースの様子

世代の壁を取り除く、新しいクラブカルチャーのあり方を提示するこの試み。これは大山さんが考える、理想のクラブカルチャーのひとつでもあるという。冒頭の言葉、「クラブを日常の延長線上へ」の真意は、業界を取り巻く諸問題の解決策を探し求めた末に出たひとつの答えだった。

「風営法」と若者のクラブ体験機会の喪失

width=“100%"

風営法に関していえば、状況は非常に複雑です。ただ幾つかの条件付きとはいえ、朝まで営業ができるようになったのは大きいですね。

2016年の「風営法」の改正により、クラブ経営の側面でいうと少しずつポジティブなものに状況が変わってきている今、大山さんが懸念するのが若者のクラブ体験機会の喪失だ。

基本的に20歳未満の子たちがクラブに入れないという現状があって、多感な時期に豊かな音楽体験ができなくなってきています。これはすごく残念ですね。

だからこその日中開催であり、キッズスペースの配置であり、高校生以下入場無料というわけだ。実際のところ、高校生以下無料という措置は、利益の面で考えると負担にしかならないだろう。

しかし彼が考える理想のクラブカルチャーのあり方は、「クラブが年齢や職業にかかわらず、すべての方が来られる場所であること」。今の損を被っても、未来にひとりでも多くの同志を生み出したい。なにより豊かなクラブカルチャーに足を踏み入れるきっかけにしてほしい。そんな思いが垣間見える。

width=“100%"

夜毎、音楽と戯れていた青年は今、確かな意思を持って、未来を見据えている。

求められるクラブの新しい役割

今ではさまざまな人々が集まるフェス形式のパーティーとして開催されている「MAW in JAPAN」だが、普段は主に夜のクラブパーティーを制作している大山さん。『MAW in JAPAN』の初回を開いた三年前は、日中開催を踏み切るかかなり迷ったそう。最も不安だったのが、夜のクラブによく来てくれていた人たちが離れていかないかというものだった。

しかし肌で感じていた「クラブカルチャーの変わり目」を前に決断。こうして世代を問わないピースフルなクラブパーティーが誕生したのだった。

一応言っておきますが、おれたちが夜を捨てたなんてことはありません(笑)。基本は夜にあるので、今後もずっと続けていきますよ。

width=“100%"

「クラブは日常から非日常へのトリップ」という時代から、「クラブは日常の延長線上へ」という時代へ。当事者のライフステージの変化に合わせて、取り組むべき課題が移り変わるのは必然だ。

先に家族で参加できるフェス形式のクラブパーティーという切り口で「MAW in JAPAN」をとらえたが、中等教育機関において、ダンスが必修化された影響もあってか、最近は小学生以下であっても身体表現に親しむ子どもが多い。そのため、表現の場としてのクラブやフェスの需要も必要だと大山さんは言う。

ダンスに取り組んでいる子たちは増えましたが、その表現の場が半年に一回の発表会だけだったりするんです。それは大人もそうですね。もっと表現の場はあっていいと思うし、だからこそ今回のイベントを開いたという面もあります。

前回の「MAW in JAPAN」は大山さん自身の小学生のお子さんが、日頃習っているダンスを音楽に合わせて自由に表現していたという。大人は大人で、普段はダンサーとして活躍している層から「昼だと行きやすいし気軽に踊れるから嬉しい」と好評だったそうだ。夜のクラブで出演すれば朝帰りがザラというダンサーにとっても、日中の開催はありがたいものらしい。

width=“100%"
屋内のISLANDエリア

width=“100%"
屋外のWATERエリア

馴染みのない人には縁遠いクラブカルチャーをどのように届けるか。これまで多くの人々が頭を悩ませてきたこの問題だが、「MAW in JAPAN」はひとつの答えになりえる。

分け隔てない感覚でクラブカルチャーの裾野を広げようとする大山さんがそこにいて、MAWのタイムレスな音楽がそこにある。この日の「ageHa」は、日常のその先に、誰のためでもなく、みんなのために開かれている。

MASTERS AT WORK in JAPAN

Website

日程:2018年11月18日(日)

時間:14:00〜22:00

会場: ageHa @STUDIO COAST
チケット:
<前売券>
一般前売 : ¥5,500
U-23チケット : ¥3,500
グループチケット (5名):¥24,000
VIP パス付きチケット :¥7,500
VIP Pass & Table (2 seat) + Bottle Champagne: ¥30,000
VIP Pass & Table (4 seat) + Bottle Champagne:¥60,000
VIP Pass & Table (8 seat) + Bottle Champagne:¥100,000

<当日券>
一般 ¥6,500/U-23 ¥4,000

※高校生以下は入場無料、また小学生以下の児童及び乳幼児は保護者同伴に限り入場無料となります。
※テーブル席のご予約はお電話もしくはメールにて承ります。
(TEL : 03-5534-2525/MAIL : reserve@ageha.com)

width=“100%"

Yoichi Oyama(大山陽一)

TwitterInstagram

width=“100%"

株式会社プリミティヴ/PRIMITIVE INC.

WebsiteFacebookTwitterInstagram

width=“100%"

 

Share
Tweet
★ここを分記する

series

Creative Village