「優先席=気まずいゾーン」。約60%の現代人が「電車で席を譲らない」と答えた理由

2016.12.6

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想像して欲しい。電車で席を見つけて座っていると、次の駅でお年寄りが乗ってきた。年齢は60歳前後だ。
みるからに元気そうだが、髪の毛は白髪交じりである。さて、あなたは「席」を譲るべきか。それとも…。

車内を驚かせた「おじいさんの行動」

ブラジル、リオの電車内で人々を騒然とさせた、とある出来事が話題となっている。それは、たまたまその電車に乗り合わせた一人の男性のツイートが発端だ。

ある日、この男性は、いつものように電車に乗っていた。すると、とある駅で60歳前後のおじいさんが電車に乗り込み、自分の目の前に立ったという。この状況、どうみても席を譲るべきである。そう考えた彼は、そのおじいさんに「どうぞ」と声を掛けて席を立った。

するとどうだろう?おじいさんは、空いた席に座ると見せかけ…座席の手すり棒を使って床と平行になるよう自分の体を持ちあげたのだ。まるでオリンピック選手かのような滑らかな動き。

これには席を譲った彼だけではなく車内にいる全員が大盛り上がりであった。彼はこの出来事をいち早くツイート。そしてそのツイートにはたくさんの称賛や「面白い!」と言ったコメントが届いた。

これがきっかけで各種メディアでもこの出来事が報道され、おじいさんは一躍時の人となったのだ。


60パーセントの人が感じた「嫌な思い」

先ほどのおじいさんの話題はなんとも微笑ましい話題であるが、この出来事が「笑い話」となるのは海外ならではかもしれない。

たとえばこれが日本であったらどうだろう。日本の場合、席を譲ったおじいさんにこんな動きをされたら「失礼なことをしてしまったかも…」と悩んでしまう人もいるかもしれない。(参照元:マイナビ

実際、リサーチサイト「TEPORE」が約38,000人に行ったアンケートでも、「電車で席を譲らない」と約60パーセントが答え、その理由を、見た目だけでは席を譲るべきか判断しにくく、過去に席を譲って嫌な思いをしたことがあったからであると答えている。

それもそのはず、日本では「席を譲る」という行為が単純に「親切心」だけでは成り立つことができない。

明らかに「ご老人だな」と思う人には席を譲ることができるかもしれないが、60歳前後という「微妙な年齢」だと、席を譲ったことで相手を「老人」だとみなしてしまうのではないかと気を遣う。それによって相手を傷つけ、嫌な空気をつくり出してしまうのではないかと懸念するからだ。

お年寄りのための「優先席」がない海外

では他国ではどうなのか。実は日本のように優先席が存在する国はまれで、ほとんどの先進国で優先席を採用していない。(参照元:Bluebook

カナダやフランスでは優先席が最近見受けられるそうだが、あったとしても障害者や妊婦が優先で、そのなかに「お年寄り」は含まれていないという。

このように他国でお年寄りのための「優先席」が存在しないのは、わざわざ優先席を指定しなくても、多くの国々では「お年寄りに席を譲るのは当たり前の行為」という認識が広まっているためである。

そして、それに対してのお年寄りの受け入れ態勢も整っていて、当然のように席に座るような風潮があるのだ。(参照元:MADAME RIRI

ちなみに日本でも、阪神電鉄が「全席優先席」として、1999年から8年ほどあえて優先席を設けない時期があった。

しかしお年寄りから「席を譲ってもらえない」と抗議がありやむなく廃止。その後、横浜市営地下鉄でも同じ取り組みを開始したが、かえって席を譲りにくくなるという人が増え、こちらも廃止された。

どうやら各個人に席を「優先させる」意思を任せる行為は、日本では機能しないようだ。

「優先席」のない「優しい」社会を

実はこの日本人の「席を譲らない」とう行為は、外国人から見ると大変困惑するそうだ。どこに行っても親切だと思われている日本人が、お年寄りには冷たく「思いやりがない」という悪い印象を持つ人も多いという。(参照元:MADAME RIRI

しかし、日本人が席を譲らないのは私たちのコミュニケーションの取り方にあるのかもしれない。

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日本では昔、村単位の狭いコミュニティが確立されており、そのなかで対立してしまうと、家族が村八分にされてしまうこともありえない話ではなかった。そのため、本音とは違ったことでも賛成するなど、「建前」を大切にした振る舞いをしていて、それが今でも残っているのだ。

しかしそれに比べ、アメリカやヨーロッパ諸国をはじめとする国々では、はっきりと本音を言わないことは「何を考えているかわからない」とされ、逆に距離を置かれてしまうという。(参照元:COURRiER

何事もストレートに伝える海外のコミュニケーションの仕方に対し、日本人は「本音」と「建前」で相手と向き合う。相手のことを考え、気持ちを汲みながら相手との距離を測るのだ。日本人が席を譲らない理由は相手の体力を気遣う以上に、相手のプライドや社会的地位を傷つけないようにと考えているからかもしれない。それは相手を想う「優しさ」でもあるだろう。

しかし、親切なことをするのにも「建て前」について配慮しなければならないとは、少し窮屈ではないだろうか。親切を受ける側も、する側も、一度「思いやり」と「尊敬」を別々にして考え、親切心をそのままストレートに受け取ることができたら、きっと日本からも「いい意味で」優先席がなくなるはずだ。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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