「諦める・割り切る・逃げる・戦わない」でいい。りゅうちぇるがいつも“ハッピーな自分”でいられる理由|2020年に考えたいセルフラブ #IAMWHOLE Vol.3

Text: Shiori Kirigaya

Photography: Kotetsu Nakazato unless otherwise stated.

2020.11.6

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2020年、NEUT Magazineがイギリス発のメンタルヘルスのスティグマをなくすためのキャンペーン#IAMWHOLEに参画!

イギリスの南海岸に位置する海沿いの街ブライトンを拠点とするラッパーJordan Stephens(ジョーダン・スティーブンス)がNHS(イギリスの国民保健サービス)とYMCA(青少年の成長を願って1844年にロンドンで誕生した世界最大規模の非営利団体)と共に2016年に立ち上げた「#IAMWHOLE」(アイアムホール)キャンペーン。同キャンペーンは、メンタルヘルスへのスティグマ(差別や偏見の対象、ネガティブなイメージ)をなくし、誰もが自身のメンタルヘルスについてオープンに話せるような社会作りを目的としている。キャンペーンのインスピレーションとなった、2016年にスティーブンスがリリースしたMV「Whole」は60万人以上の人が視聴した。これまで毎日自分のメンタルヘルスのために1時間費やすべきだと「WHOLE Hour」を呼びかけ、エド・シーランをはじめとする人気アーティストを迎えMusic 4 Mental Healthというチャリティーコンサートも実現。同年、アーティストやクリエイターを呼んでメンタルヘルスについて話すスティーブンスのポッドキャスト「WHOLE Truth Podcast」も進行中。

そして2020年、新型コロナのための自粛生活のなかで孤独を味わい、メンタルヘルスの問題に直面した人は少なくないなか、これまでもセックスについてヘルシーにオープンに話す特集などをはじめ、世の中でタブー視されてきたことをオープンに話すきっかけづくりを発信してきたNEUT Magazineは#IAMWHOLEに賛同し、メンタルヘルスについて考え、「セルフラブ」を発信するプロジェクトを始動。

Vol.1「脆い自分を受け入れることが勇敢さだ」英ラッパーがメンタルヘルスへの偏見をなくすキャンペーンを始めた理由
Vol.2「メンタルヘルスが優れないときどうしてる?」誰にだってある心が不調なときの自分との付き合い方

Vol.3では、自らの経験をもとに「セルフラブ」の大切さを広める活動を行うタレントりゅうちぇるにインタビュー!

Vol.3では、日本でセルフラブ(自分を愛すこと)の概念を広める第一人者と言っても過言ではないタレントのりゅうちぇるにインタビューを行った。10代の頃から独自の80’sファッションで注目を集めたりゅうちぇるは、その後多数のバラエティ番組に出演し、近年では現在の彼を支える人生観や「ハッピーな自分」になるまでの過程を積極的に発信している。現在は自己肯定感の低い人や前進するためのきっかけがほしいと悩む人の指針となる存在として、イベントでの登壇をはじめマルチに活躍する。

今回はセルフラブをキーワードに、うまくいくコツは「諦める・割り切る・逃げる・戦わない」だと話すりゅうちぇるに、自分を大切にするとはどういうことなのか、そのためには何をしたらいいのかを聞いた。

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りゅうちぇる

会いたかった人に会えたときのために、自分自身をしっかり愛す

そもそも「セルフラブ」とは何か。りゅうちぇるによると、それは自分の心に「愛を貯める」こと。謙虚さが重んじられる日本社会では、直訳で「自分を愛すこと」を意味するセルフラブを「自分自身との健全な関係」とみなしたり、その大切さを教えたりする機会が豊富にないのが現状だ。そう考えると、いきなり自分を愛せと言われて混乱する人がいても無理はない。だが学校や大人に代わってりゅうちぇるは、その大切さを声高に言ってくれる。彼によると、自分を守って愛することで自身を支える軸が作れ、他人との対等な関係を築きやすくなるだけではなく将来の可能性を広げることにも繋がるという。

自分自身をしっかり愛せていないと、すごく会いたかった人に会えたときとか、すごく夢だったお仕事が決まったというときに、自分がブレてしまっていい仕事ができないし、実績も残せない。あとせっかく運命の人に出会えても、自分が埋めてもらうことに必死になってうまくいかなかったらもったいない。でも自分のなかが愛で満たされていたら、その愛を他人に注げる人間になれるんですよね。

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自身の心に愛をたっぷりと貯めて土台を作ることができれば余裕が生まれ、仕事においてもプライベートでも、接する人に対して愛の溢れたコミュニケーションが取れるようになる。そのようにして、りゅうちぇるが「自分の幸せ」を追求する過程で自然と培った軸は、他人との関係で自分はどこを譲れないのか、そしてどこは自分を貫かず折れていいのかを決めるうえでの物差しとなった。

自分に芯がある人とか自分をちゃんと守ってあげられる人っていうのが、やっぱり他の方から見ても仕事したいなって思うだろうし、協調性を持ちながら間違っていると思うことは言うっていうバランスを保つためにやっぱり自分の芯ってとっても必要。

自分で心を開かないと本当の友だちはできない

このように語れるのも、自分を偽って生きる苦しみから逃れようともがき、考え抜いた時期があったからこそだと彼は話す。多様性が目に見える地域で生まれ育った彼も、中学時代には他人の目を気にして自分を出せなかったのだ。

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りゅうちぇるが生まれた沖縄県は、古くから交易のあった近隣のアジア地域や統治を受けたアメリカの文化と混ざり合った「チャンプルー(混ぜこぜ)文化」で知られる。さまざまな人種・セクシュアリティ・宗教など違いに対してオープンで、例えば幼い頃から教会通いのため日曜日は遊びに出てこない友人やレズビアンを公言している人が周りにいても珍しくないなど、他者と自分が同じでなくて当然だと思える環境だった。2018年には県の観光団体が全国で初めてLGBTQフレンドリーな観光を促進する「国際ゲイ・レズビアン旅行協会」に加盟したり、現在では都道府県として初となる「性の多様性宣言」や「ヘイトスピーチ規制条例」を出すことが審議されており、多様な人々の共生を地域行政として目指す動きが進む。

それでも中学校に入学してからの彼は上級生やクラスメイトの目を気にして「かわいいものが好き」という趣味を隠し、好きではない歌を覚えるなど自身を周囲に合わせていた。だが、これでは“自分の人生”が生きられないままになってしまうのではないかと直感的に悟る。

自分を偽っていたことによって、つるむ友達はできたけど本当の友達はできなかったんですよね。それって自分の心を誰にも開いていなかったからだと気づき始めました。ちょっとやばいかもしれないって思ってきて、逃げなきゃじゃないけど居場所を変えようというふうになってきて。

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それから地元の同級生が誰も行かない高校への進学を目標とするようになる。志望校選びのもう一つの決め手は、校則が自由なうえに制服がブレザーだったこと。県内では唯一のブレザーで、それなら着たいと思えたのだ。また高校生活では「自分の好きな自分」として生きられるようにと、少しずつ企てを始める。

具体的には、中学3年のときに個人のTwitterアカウントを開設し、派手なファッションやメイクに身を包んだ姿など「自分の好きな自分」を投稿し始めた。すると次第にフォロワーがつくようになる。そして「◯◯高校に行きます」とSNS上で書いていたことから、高校の入学式には彼のことを知らない人のほうが珍しいほど周知されており、他人と異なる派手な服装をしていても“バカにされる対象”ではなく「確立された存在」と見られるようになっていた。それでも初めは反応を探っていたりゅうちぇるだが、「ブレザーが制服の高校」が一つの要素になってファッションが好きな生徒が多く集まっていたからか、あまりからかわれることもなく、自分を開放できる環境を作っていけたのだ。

当時は家族にも「自分の好きな自分」を完全に見せていたわけではなかったため、親が出かけてからメイクをして登校し、放課後には校外の人に絡まれないようにと学校を出る前に少しメイクを落とすという日々だったが、高校は天国のように感じられたという。

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希望の高校に入れたことやSNSでフォロワーがついたことの背景には、本人にしかない能力やセンスがあったといえるかもしれない。しかしどんな人であっても、自分の外見を大幅に変えたり、他人の評価を恐れず自分を貫いたりしようとするときに多少なりとも勇気がいるだろう。「自分の好きな自分」をSNS上で出し始めたことについて、地元の同級生には「めちゃくちゃに陰口を言われた」というりゅうちぇるは、どのようにして気持ちを強く持てたのだろうか。その答えは意外にもシンプルで、合わない人との人間関係にはこだわらず、割り切るというものだった。

そのときからいらない人は捨てるっていうのを覚えました。大人になってからは人をどんどん選んでいかないと、気も吸われるし食われちゃうということを何気なく勉強できたんですね。だから高校からは自分のことを分かってくれる友だちしか作らないようにしようって強く思ったんです。自分を出せない相手に固執することに意味はない。

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在学中に県外のファンもできたりゅうちぇるは、初めて自分のことを好きだと感じられたという。そして原宿の古着屋からスカウトを受け高校卒業後には上京し、「自分の好きな自分」を守れたからこそパートナーやその後の仕事にも巡り会え、人生が広がった。身につけた“人を選ぶ”という考え方は、人間関係を狭めたというよりも、むしろ広げたといっていいだろう。彼の姿に表れた前向きさや溢れる人間味に共感し、フォロワーになった人も少なくない。

その後テレビに出演するようになるが、そこで「自分の好きな自分」でいられるようになるまでの過程を話し、視聴者から「自分を隠すことをやめて、居場所を見つけることができた」「みんなに本当の自分を出す必要なんてないけど、この人だけには言ってみようと思えた」などという声が聞けて、表に出る仕事をしてよかったと思えたという。

相手に考えを強要されるのが苦手な彼は、フォロワーに対しても決して何かを強要しないように、「こうするべき」ではなく必ず「僕はこう思う」という言い方で慎重に発信しているが、自然と考え方を参考にするファンが確実に増えている。

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「諦める・割り切る・逃げる・戦わない」でうまくいく

りゅうちぇるは誰にでも合わない人がいて当然で、それは人間味がある側面だとTwitterに投稿した映像で語っていた。彼はSNSを通した発信をしているが、知名度の高さゆえに否定的なコメントを書き込む人もいる。だが直接会って話したこともなく、本人について実際のところ何も知らない人に悪く言われても、真に受けて気にすることはしない。それは、自分と同じ方向を向いていない人からの心ない言葉についても同様だ。

自分とは全く違う環境で育ってきて、違う世界で生きている人ってやっぱりいるじゃないですか。それこそ目指している場所も何もかも違うのに、そういう人にいろいろ言われたところで、気にしているほうが非現実的というか。その非現実的なことで悩んでいることに気づくことが大切だと思います。

例えばりゅうちぇるなら身内の人・友だち・事務所の仲間など近しい人の言葉に限っては気にするなど、余計な悩みを抱えなくていいように線を引いている。“非現実的なこと”が何であるかを見極め、余計な悩みや心配を避けることは、自分を守るための重要なポイントかもしれない。

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最近では新型コロナウイルスの感染拡大が原因で、慣れない環境に入る新入生や新入社員が今までと異なる状況への適応を迫られたり、ビジネスがうまくいかなくなった企業が増えたりするなど個人の生活にさまざまな問題が浮上しているだろう。そこで例えば入学式が中止され、友だちがうまく作れない自分を責めてしまうという学生の悩みにアドバイスはないか聞いてみた。

それって1ミリも自分のせいじゃないし正直に言ってコロナのせいだから、悩まなくていいと思うのですよね。だから諦める・割り切るで対面で会えるときのためにいいように考えてみて。

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オンラインの繋がりだけで本当の友だちを作るのは難しい。それなら、どうにかして人と接点を持とうとする発想から離れ、自由時間が持てるのならば新しいことに挑戦したり、映画を観たり音楽を聴いたり勉強したり、趣味を磨いたりする時間にあてるのはどうか。また自分が満足できそうならヘアメイクを練習したり整形したりするにもいい機会だというのが、りゅうちぇるの考えだ。自分の努力で変えられることとそうではないことを見分ける力も、自分を楽にする。

「諦める・割り切る・逃げる・戦わない」ってうまくいくコツなので、何もかも相手にする必要ってないと思います。

全ての人に「自分の好きな自分」を理解してもらうことは現実的でないと、努力して自分の居場所を見つけるなかで気づいたりゅうちぇる。状況をよく観察し、自分の努力で変えられることには果敢に挑戦し、そうでないものは自分のせいではないと割り切って“逃げる”彼の姿勢は、決して投げやりなわけではなく、自分にとってポジティブなことにエネルギーを向けるための賢い生き方ではないだろうか。

“悩む必要のない悩み”や他人の言うことに惑わされず、まず自分を守る

りゅうちぇるが“悩む必要のないこと”で悩まない背景には、発信者としてメディアの裏側や世間の反応の移り変わりを10代から肌で感じてきたことがあるだろう。

SNSで他者と自分を比べてうらやましくなることがないかと聞くと、SNSに投稿された“完璧な写真”をアップロードするまでの工程の想像がつくから出来上がったイメージを真に受けてはいないと話していた。また、これまで批判されても好きなことを継続することで支持されるようになったり、それで人から掌を返したような反応をされたりすることが現実にあったと彼は話す。実際に、80’sのフィットネスファッションを彷彿とさせるヘアバンドやカラータイツを身につけメイクはチークをポイントとしたスタイルについて「何あの人?すごい格好」と言っていたのに、その外見でテレビに出続けたことで「りゅうちぇるしか似合わない!よく思いついたね」と言うようになるのが、りゅうちぇるに言わせれば世の中なのだ。そんなことを知れば、悩みは“実体のないもの”にみえてくる場合もあるかもしれない。

りゅうちぇるによると何を「幸せ」とするかも、人によって異なる。それに気づけば相手の価値観に惑わされない自分の「幸せ」を探しつつ、自分自身とのセルフラブの関係を目指せ、いつしか心に余裕が生まれてくるだろう。

たとえば雨が降ったときに「うわー雨じゃん」って思う人と「あ、やった!傘持ってきてラッキー」と思う人がいると思うんですよね。幸せに気づける人のほうが絶対幸せだし、幸せって絶対自分にしか決められないなって思ったときから、思考を変えたりとか目の前で起きたことを見るときの角度を変えたりしようというふうに意識し始めましたね。

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自分を大切にするために思考の転換をしたいという人にとって、たとえ一つとして同じ経験をしていなくとも彼の話はきっと参考になったのではないだろうか。りゅうちぇるがインタビューで語ってくれた自分を大切にするためのヒントについて、ここでまとめたい。

りゅうちぇるに学ぶ、自分を守るためのTIPS

・価値観が人それぞれ異なることを認識し、他人に惑わされない
・意識的に物事の良い面を見る
・自分でコントロールできることとできないことを見極め、割り切る
・嫌だと思う場所からは積極的に“逃げて”、居場所を探す努力をする

彼は中学時代から現在に至るまでの経験のなかで、初めは探りながらも自分を守り「ハッピーな自分」でいるための基盤となる人生観を培ってきた。価値観の異なる相手に惑わされることなく、意識的に物事の見方を変える。そして、自分の力で変えられることとそうでないことを見極め、今いる場所に耐えられないというなら積極的に“逃げる”ことを選択し、自分にあった居場所を探す努力をしてみる。そうやって取捨選択することを恐れない、りゅうちぇるのような思考を身につけることができれば、セルフラブを重んじた「自分自身との健全な関係」を築けるだろう。

自分を大切にすることなしに、他人に優しくすることを重ねると辛いこともある。だが自分を大切にして心に「愛を貯める」ことができれば、それが他人を優しくすることに繋がって自分にも返ってくるかもしれない。自分が世界の人口に埋もれた小さな存在に見えてしまったとしても、いつでも自分の人生の基軸は他人ではなく自分であるということを忘れないでほしい。

りゅうちぇる

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#IAMWHOLE

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#IAMWHOLEとは、2016年の世界メンタルヘルスデーにイギリスの歌手・俳優のJordan Stephens(ジョーダン・ステファンズ)が設立した、若者を中心にメンタルヘルスに関する啓蒙を行う団体。「I am whole.」は、 「ありのままの自分で十分素晴らしい」という意味を持つ。自分自身を受け入れることの大切さを理解するのと同時に、自分が周囲の人も受け入れると言う考え方に対する賛同の証として、手の平に丸を描きSNSに投稿するキャンペーンを開始するやいなやバイラルし、エド・シーランやリアム・ギャラガー、ジェイムス・コーデンなどの著名人も参加し、1.2億人以上の人にリーチした。その後、毎年このキャンペーンは実施され、英国議会でも取り上げられるなど、イギリスをはじめとする各国で注目されている。

ナチュラルコスメブランドラッシュが本キャンペーン限定のチャリティ商品としてバスボム「リアルライフ」を発売。売りあげの全額(消費税を除く)を世界中のメンタルヘルスケアに関わる草の根団体に寄付する。なお、チャリティ商品「リアルライフ」は、日本やイギリスなど計19カ国で発売されます。

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