長谷部渋谷区長を招いて意見交換。公共性、変化、社会の意味とは?緑道でお茶を囲み、これからの緑道の再整備のあり方について考える|TPT × NEUT Magazine Vol.2

Text: Moe Nishiyama

Photography: Takanobu Watanabe unless otherwise stated.

2021.5.25

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“ササハタハツ”の呼称で親しまれる笹塚・幡ヶ谷・初台の緑道が202X年、再開発される。渋谷区の推進する緑道の再整備計画「388FARM(ササハタハツファーム)」が進行するなか、一つのプロジェクトが立ち上げられた。その名も「TPT(ティーパーティ)」。運営メンバーはササハタハツに拠点を置く小田雄太氏(COMPOUND / まちづクリエイティブ)、財津宜史氏(笹塚ボウル)、松島大介氏(PADDLERS COFFEE)、足利敏浩氏(BLUE LUG)の4人。古き良き渋谷区は遊び場であり広場、生活する場所として親しまれてきた街であり、渋谷や新宿や下北沢、代々木上原に囲まれ、異なる背景を持った人たちが混ざり合う。絶妙なバランスで成立してきた固有名詞を持たない街のカルチャーを残していくためには、どのような開発が必要なのか。本連載ではササハタハツの再開発プロジェクトTPTの活動報告とともに、ササハタハツに関わるさまざまな人にフォーカス。良い「再開発」の姿とは? NEUT Magazineと一緒に考えていく。

ササハタハツ再整備プロジェクトTPT × 長谷部渋谷区長

 Vol.2では、新メンバーも加わったTPTとともに長谷部渋谷区長を招いてお茶を囲み、これからの緑道の再整備のあり方について思うこと、考えることを意見交換。朝から緑道沿いに集合し、参加者全員、マイボトル持参で開催したお茶会では、通りがかりの人が飛び入り参加する一場面も。散歩道、通学路、遊び場、ランニングコース、憩いの場であり、暮らす人、働く人、訪れる人、さまざまな人にとって“公共の場”である緑道。その多様性を残していくためにTPTでできることは?「できるだけ多くの意見がほしい。行政はハードを整備するけど、そこから先にどういうコミュニティが作られていくのかはTPTのような場にかかっていると思います」と話す長谷部区長の言葉からTPTメンバー、参加者一人一人の声まで、3時間にわたり行われた意見交換会の様子をレポートする。

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左から小田雄太、長谷部渋谷区長、松島大介、財津宜史、足利 敏浩

ひらかれた繋ぎ場をつくるところから

 内や外の境界を溶かしながら人や空間を緩やかに繋ぎ、思い思いの時間が流れている。風通しのよい街にはそんな「道」があるのではないだろうか。そして成り立ちの経緯や背景は異なれど、「道」を作るのは日々そこで生活し通りゆく一人一人の“人”なのかもしれない。
 渋谷区の笹塚、幡ヶ谷、初台を繋ぐ2.6kmの緑道の再整備計画「388FARM(ササハタハツファーム)」。2017年から開催されているまちづくりワークショップに始まり、昨年京王電鉄、一般財団法人渋谷未来デザインと「ササハタハツまちラボ」を設立、建築家・田根剛さんを迎え、区民共創プロジェクトとして、渋谷区としても力を入れてきたプロジェクトだ。渋谷区に生まれ育ち、ササハタハツの緑道が学生時代から馴染みのある通り道だったという長谷部区長が、自身にとっても思い入れのあるその緑道の再整備にこだわるのには理由がある。

長谷部区長:街全体で都市開発が進むなかで、駅中心の開発と大きく異なるのは、緑道の周りには住んでいる人たちがいるというところ。町会や商店会は高齢化も進んでいて次の世代がいないという話も聞くなか、ここから新たな担い手が出てくるかもしれない。行政にできることって限界があるので、そこでどうみんなが反応してくれるかってことにはこれから注目したいですね。388FARMが行政発信ではなく、TPTのような場から自然発生的な活動が生まれる場になれば嬉しい。

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当日はマイボトル持参でお茶を飲みながら意見交換。南山園さんからお茶を協賛していただきました。

 町会や商店会、ササハタハツ会議、まちラボ、ササハピなど話し合われるべき目的や特定のコミュニティの属性に応じて、渋谷区には意見交換の場がさまざま設けられている。そういった場で、議論の内容をその場で“絵”に描き起こすライブドローイングを用いてイメージを視覚化し、街のコミュニティと区長や行政とを繋ぐ活動をしているのが、渋谷区公園等整備アドバイザーという肩書きをもつ林匡宏さんだ。数多くの意見交換の場に参加した経験から、緑道にはTPTのようにひらかれた「場」が大切になるのではと話す。

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参加者各々の思い描く緑道の姿を意見交換しながら、林匡宏さんが“絵”に描き起こしていく

林匡宏:意見交換の集まりでよく起きがちなのが、実際にどんなことが話し合われているのか外から見えないということ。民間対行政という構図で、意図せずコミュニティごとに閉じられてしまっているということもよくあります。緑道の再整備開発は笹塚・幡ヶ谷・初台、ササハタハツ全体を盛り上げていきたいよねというところはTPTも区長も同じ。地元の町会の人たちや年配の方達も会議室ではなくて、ふらっと足を運んでもらえる環境、通りがかりの人も立ち寄れる場所があることが、とても重要になってくると思います。TPTのお茶会は周りが変わってもずっと継続していくものとして、緩やかに世代を超えた意見交換の場になることがこれからの緑道を考える第一歩に繋がると思います。

それぞれが思い描く“社会”の形

 2023年に控える着工に向けて、再整備することで具体的にどんなことが実現できると良いのだろうか。長谷部区長を筆頭に、参加者それぞれビジョンを出し合うとさまざまなアイデアが寄せられた。
 例えば高架跡地を再開発し、通称・空中庭園の名で知られる、ニューヨークのハイラインのように。テクノロジーの力を借りながら仮設ファームを作る。プランターにセンサーをつけて野菜を育てる。3軒隣の家はきゅうりが5本収穫できそうだから、トマトを2個を持っていくと交換してくれるなどのコミュニティのあり方も考えられるかもしれない。例えば道路上の余剰空間を公共空間に変えていくサンフランシスコのパークレットのように。アーティストの表現の場が生まれる。モジュールやコンテナハウス、トレーラーハウスを置いて、地域の人たちと一緒にビジネスアイデアを練ってアイデアをその場で実装していく…各々が思い描く社会の形を、林さんが一枚の紙の上で絵にしていくなかで現れたのは理想とする緑道の姿の多様性だ。

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小雨が降りはじめたが、通りがかりの方も加わり意見交換も白熱

 今回からTPTに加わった新メンバー、刺繍家であり、飲食店を営む小林モー子さんと学生の中嶋佑太さんは、今現在の緑道の魅力が再整備の軸を考えるヒントになってくるのではと考える。

モー子:散歩をしながら何かに出会えたり、どこかにも立ち寄れて歩いていたら良いことがあるような、そういう流れは常にあると良いですね。

中嶋:子どものいる親御さんの視点で考えると、緑道が今はいい意味で何もないからこそ、子どもだけでも通学路や遊び場として安全という捉え方、公園的な価値があるんじゃないかと思います。商業的な利用もできるように開発が進むと、大人向けになりすぎてしまわないか少し心配しているところはありますね。

 実際に街で働き、過ごしているからこそ見えてくることもある。渋谷区西原でコーヒー屋を開いて6年目。PADDLERS COFFEE代表の松島大介が心配するのは“変化”に対する感じ方の違いだ。

松島大介:変化に対応できない人たちもいっぱいいると思うんです。例えば僕が開いたPADDLERSってコーヒー屋が一つできたことで、よく思ってくれる人もいるし、6年間ずっとクレームを言う人もいる。物件が開けば良かれと思ってお店を開くけど、住んでいる人たちにとってはお店一つでさえも大きな問題になったりする。渋谷自体、世界でも知名度のある街。観光地化されてしまう可能性もあるなかで、どうしたら今の光景をそこまで変えずに、みんなにとってプラスの要素を入れていくことができるのかが課題だと思います。
 
 設備や外観、仕組みを整備しただけでは補えないこと。思い描く社会の形が個々人で異なるように、“変化”に対しての捉え方も立場や観点、所属するコミュニティによって人それぞれの考え方は異なる。話を進めながら見えてきたのは、緑道の持つ“公共性”とは何かという問いだった。

何ものでもない“無用性の価値”を残していくために

 “公共性”について考えるとき、避けて通れないトピックがある。「都市整備について考えるとぶつかる土地の有用性と無用性」を指摘するのは緑道沿いに住む縁で今回ゲスト参加した編集者の安東嵩史さんだ。資本と密接に結びついている都市空間では多くの場合、空間単位の値段効率性を問われ、ほぼ全ての土地が換金可能になっていく。しかし、“有用”とされた土地は誰にとっての有用なのか。一つの価値基準における有用性を追い求めた結果、ここに自分はいられないと思う人が生まれてしまっていないか。そもそも公共の場である緑道はどうあるべきなのだろう。そう話す安東さんは、公共の場を「何にでもなり得るけど、何ものでもない場所」と表現する。

安東嵩史:緑道でしばしば顔を見るホームレスの人がいます。桜の季節になると、そこに近隣の人たちがお弁当や飲み物を持ってやってくる。一方で、その人は「この場所にいづらい」と感じるのか、お昼時になるとどこかに行くんですよ。桜を楽しみに来る方には彼を排除しようという気まではないでしょうが、そこは誰も気づかないうちに「所定の条件を満たさない人のいられない場所」になってしまっている。大多数は楽しんでいるかもしれないけど、そこにいられない人がいるという状態は公共空間としてどうなのかと思う。私企業のプロジェクトならいざ知らず、まちの住人たちの手で緑道という公共性を帯びた場所を再定義するのであれば、思想や制度設計も含めて、全員が全員、100%は無理だとしても“Not for me”の人が一人でも少なくなるように、どこまで“公共性”という概念について考えることができるが課題になると思います。

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雨が本降りになり、参加していた小林モー子さんのお店「KON」へ移動し意見交換会を続行

変化し続ける多様性を見守る庭師のように

 何をつくるのか。そして何を残していけるのか。そのためにTPTでできることはなんなのか。再整備の具体的内容を左右する決定権があるわけではないからこそオフィシャルな不確定要素であり続けたいと話すTPTの運営メンバーの小田さんと足利さん。彼らがが考えるTPTの役割とは、世代を超えて誰もが平等に尺度を持てるルールをつくること、そして緑道の“見守り役”だ。 
 お茶会には立ち寄るだけでもいいし、話し込んでもいい。TPTが無目的であることを許容してくれる場であり、それを許容してくれる緑道を守っていきたいと考えたとき、“見守り役”という言葉が浮かんだのは緑道沿いに立つ禁止看板を目にしたことがきっかけだったという。行政に住民からの苦情やクレームが入ると立てられる仕組みだが、舗装されている初台、幡ヶ谷を通り、笹塚に近づくに連れ、「〇〇禁止」の立て看板が増えていく。

小田雄太:禁止事項って、住んでいる人にとって見えていないこと対する不安や心配ごとが一つの原因で生まれていると思うんです。でも、そこに立てられた「〇〇禁止」の立て看板によって、緑道にいられなくなってしまう人もいる。公共の場所である緑道で、特定の誰かが排除されてしまうことは、本来誰も望んでいないんなじゃないかなと。もちろん、「〇〇してOK」という看板は立てられないですが、あそこの場所はきっと誰かが見守ってくれているはずだから、多少そういう人たちがいたとしても、気にしないぜっていう雰囲気がうまく作れたらいいなと思いますね。

足利敏浩:公園に行くと、“自転車禁止”の張り紙や三角マークの看板なんかを目にすることがある。でもゼロか百かのような禁止事項を増やしていくよりも、例えば押し歩きはOKにしよう、とソフトな部分からマナーを考えていけた方がいいんじゃないかなと思います。自分もぼんやり穏やかに見守っていきたいし、それがお茶会っぽくていいなと。

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 3時間ほどに及ぶセッション。実際の緑道整備が開始されるのはもう少し先の話になるが、「だからこそTPTのような場でまずは目の前のことから、できることはどんどんやっていったほうがいいし、もっといろんな意見がほしい」と話してくれてた長谷部区長。意見交換の場で、TPTの次なる課題も見えてきた。見守り役として、2.6kmの緑道をどのように移動し、どのように“動いて”いくのか。そして緑道の多様性を残すために何ができるのか。
 意見交換会の終盤、編集者の安東さんが紹介してくれたフランスの造園家ジル・クレマンの著書
『動いている庭』(山内朋樹訳、みすず書房 2015年)から、印象に残った箇所を引用したい。

「完成するやいなや、人間が築き上げたものは後戻りできない変質のプロセスに入っていく。それは進化に適していないので、遅かれ早かれ崩れていかざるをえない。(中略)反対に、自然は決して完成しない。自然は暴風雨に晒され、火がもたらす灰を解釈し、そのつど新しい、激変する基盤の上で生のプロセスを創出する」(ジル・クレマン著『動いている庭』より)

 さまざまな庭の成り立ちを研究観察し、記録を残した造園家にしてその知見を社会へと広げる視座を持つ思想家でもあるクレマンは、“動いている庭”を人が見守り、観察することでの変化に寄り添う姿勢の重要性を説く。整備されて、終わりではない。その先の10年、20年先に繋がる緑道を見据えながら、多様性を見守る庭師のように。積極的に変化に向き合うTPTの活動は今後も続いていく。

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TPT

TPT(ティーパーティ)は、ササハタハツ(笹塚・幡ヶ谷・初台)に拠点を置く運営メンバーはササハタハツに拠点を置く小田雄太氏(COMPOUND / まちづクリエイティブ)、財津宜史氏(笹塚ボウル)、松島大介氏(PADDLERS COFFEE)、足利敏浩氏(BLUE LUG)によるササハタハツの再開発プロジェクト。渋谷区が推進している笹塚・幡ヶ谷・初台の緑道の再整備計画「388FARM(ササハタハツファーム)」に、地域住民としてコミットするために2021年に立ち上げられた。▷Website

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長谷部健(はせべ けん)

昭和47年(1972年)3⽉渋谷区神宮前生まれ
神宮前小学校・原宿中学校卒業
佼成学園高等学校卒業
専修大学商学部卒業
(株)博報堂退職後、NPO法人green birdを設立し、まちをきれいにする活動を展開
原宿・表参道から始まり全国60ヵ所以上でゴミのポイ捨てに関するプロモーション活動を実施
2003年から渋谷区議会議員(3期12年)
2015年4月から渋谷区長(現在2期目)
Website / 区長の部屋

TPT運営メンバー

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左から財津宜史、小田雄太、松島大介、足利 敏浩

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小田雄太(おだ ゆうた)

デザイナー/クリエイティブディレクター
COMPOUND inc.代表/まちづクリエイティブ取締役/多摩美術大学非常勤講師。
平面領域のデザインを軸足にしながら、メディアやファッション、VR、エリア開発、まちづくりまでのリードデザインを手掛ける。最近の主な仕事に100BANCH(インキュベーション)、BONUSTRACK(エリア開発)、Newspicks(メディア開発)、STARTBAHN CERT(ブロックチェーン)、STYLY(VR)、noir kei ninomiya(服)、MADcity(まちづくり)など。

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財津宜史(ざいつ よしひと) 

笹塚ボウルディレクター
笹塚、幡ヶ谷、初台を中心に、ボウリング場、不動産、飲食店、スポーツジム、音楽教室を経営。「エンタメ × コミュニケーション × 健康」がテーマ!

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松島大介(まつしま だいすけ)

PADDLERS COFFEE代表
東京都中野区生まれ。2013年、米ポートランドを代表するコーヒーロースター「STUMPTOWN COFFEE ROASTERS」の日本唯一の正規取扱店として「PADDLERS COFFEE(パドラーズコーヒー)」を共同代表の加藤健宏と共に設立。2015年4月から現在の渋谷区西原に旗艦店を構えたのち、2018年4月には同じ西原に家具と雑貨のお店「BULLPEN(ブルペン)」のオープンにも携わる。

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足利敏浩(あしかが としひろ)

自転車店BLUE LUG(ブルーラグ)代表
渋谷区幡ヶ谷、代々木公園、世田谷区上馬に店舗を構え、自転車の修理や販売はもとより、パーツ、アパレル、バッグ、雑貨なども幅広く展開。BLUE LUG 幡ヶ谷店そばには飲食店「LUG HATAGAYA」、床屋「HUB」の運営も。

林匡宏(はやし まさひろ)

Commons fun 代表/絵師/博士(デザイン学)/議論内容をその場でイラスト化する「ライブドローイング」という手法を用いて、全国各地の都市や地域のビジョンを描き、計画・実践する。商店街の空き店舗で北海道江別市初のゲストハウスやシェアハウスを経営する傍ら、渋谷区公園等整備アドバイザー兼エリアマネジメントコーディネーターを務める/ミズベリング江別代表/2020年にウィズコロナ時代の新たな街中エンターテイメント集団「あしたのしあたあ」を設立/同年、札幌の高校生と大人が地域で協働する「まなびまくり社」を設立。

新メンバー

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今回からTPTに加わった新メンバー。左から小林モー子、田中義久、中嶋佑太

小林モー子(こばやし もーこ)

(株)maison des perles (メゾン デ ペルル) 代表/刺繍家
2004年渡仏、パリ「Ecole Lesage broderie d’art」にてオートクチュール刺繡の技法を学び、ディプロマを取得後2010年帰国
ヴィンテージビーズを刺繍したアクセサリーブランドMôko kobayashi
をはじめオートクチュール刺繍教室、広告デザイン等を行う
パリノートルダム大聖堂前にアトリエと宿泊施設を兼ねたLife Style Galleryの運営や
2020年渋谷区西原に古民家を改装した飲食店『こんにゃく寿司とかき氷』KONをオープン

田中義久(たなか よしひさ)

静岡県生まれ。近年の仕事に東京都写真美術館をはじめとした文化施設のVI計画、ブックショップ「POST」、出版社「CASE」の共同経営、「The Tokyo Art Book Fair」、「アニッシュ・カプーア IN 別府」、「Takeo Paper Show」などのアートディレクションがある。また、飯田竜太(彫刻家)とのアーティストデュオ「Nerhol」としても活動中。

中嶋佑太(なかじまゆうた)

渋谷区生まれ
東京大学経済学部経営学科3年

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