「もちろん、暴力や騒音や妨害はよくない。でもね、彼ら彼女らは『表現をしている』と思うのです」。賛否両論のハロウィーンから考える、自己表現について|かもめブックス柳下恭平の出張!ビブリオ人生相談 #001

Text: Kyohei Yanashita

Photography: YUUKI HONDA

2018.11.21

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(突然だけれど、僕はこれから自己紹介をするよ)

皆さんはじめまして!

東京・神楽坂で「かもめブックス」という、行くと本が読みたくなる新刊書店をやっている柳下恭平(やなした きょうへい)といいます!

突然だけど。

本っていいよね!
僕は本が大好きなんだ。

だから「読書普及」もしている。

例えば「ブックマン・ショー」。

これは、大阪・天満宮参道で「駒鳥文庫」という映画専門の古書店をしていて、今は瀬戸内海の離島で猫と暮らしている、駒ニイこと、「クックロビン村上」と、僕、「シーガル柳下」が作った、愉快でイケてる読書普及ユニット。

僕らは古本屋の軒先のワゴンで30円で売っていた、絶対に楽しいミステリーを掘り出してきて、山手線の電車内でスマートフォンを触っている人たちに「これ、本当におもしろいから、読んでみて!」って言って配ってみたり(山手線ミステリーツアー)、文庫本で紙相撲をしてみたり(文庫大相撲大阪場所)、いろいろな形で読書普及をしてきた。

そんないろいろの活動の中の、僕らキラーコンテンツが、この「ビブリオ人生相談」ってわけ。

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そう、本が!
本が、その悩みにこたえてくれるよ。本には大抵のことが書いてあるから。

イベントとして、リアルスペースで行うブックマン・ショーの「ビブリオ人生相談」は、いつもは本屋で行う。僕がその、本屋に挿してある本の中から、みんなの悩みを解決する本を見つけて、そして、目的のページの目的の場所に付箋を貼る。僕らがしたいのは読書普及だから、悩める君は、いきなりその付箋の箇所を読むのではなく、本のはじめから読んでいって、やがて、その付箋の箇所を読んだときに、君の悩みが解決されるというわけ。

信じられないでしょう?

企画倒れしそうなこの企画が、これまでに全部なんとかなったから不思議だ。

このイベントのハイライトは、僕が棚から本を探している間、5分くらいの時間を駒ニイがトークで繋いでくれるところ。信じてくれないかもしれないけれど、ビールが飲めないドイツ人がいるように、女嫌いなイタリア人がいるように、まったくしゃべれない大阪人もいるんだ。

駒ニイのガッタガタのトークでひやひやするのが、ビブリオ人生相談の最高の見せ場なんだ!

まあ、この連載には、相棒の駒ニイがいないので、僕だけでお答えしていくけどね。

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生きていれば、うれしいことはたくさんある。
でも、つらいこともあったりする。みんな、きっと悩みってあるでしょう?
安心してね、「ビブリオ人生相談」で、きっと、その悩みは解決されるよ。

(突然の自己紹介おわり)

今回のお悩み

はじめまして。Nといいます。
私は来年から公務員として働く予定です。
現在、自分の仕事とやりたいことの相違について悩んでおります。

柳下さんのお名前はかもめブックスの存在などで存じており、ずっと文章やセンスが素敵だなと思っておりました。前回の記事を拝見し、改めて素敵なマインドや感性が格好良いなと思い、ご相談させて頂きます。

私は元々、本や文章が好きで、何か発信する側になってみたいと思い、学生時代は学生団体でウェブマガジンの運営や、インターン生として、IT系企業の自社メディアの運営に携わっていました。

しかし、文才があるわけでもなく、職業として文章を書くなどおこがましいと思っていました。なので、就職活動において、出版、メディア、広告といった業界はまったくみていませんでした。

いざ就職活動が終わり、いろいろな出来事や人との関わりを通してみて、改めて言葉や文章を発信する、若しくは携わることが出来たらどれだけ楽しいだろうと考える機会が増えました。

ただ、悩みに悩んでやっと決めた就職先です。まして未だ始めてもない仕事なので、実際の相性もわかりません。就職すれば生活は安定するしと、現実的なことも考えてしまいます。
しかし若いのだから後悔しないように、多少のリスクを負ってでも挑戦すべきなのか。

このように、自分にとって何がベストなのか、わからなくなっている状態です。

もし柳下さんにご意見、アドバイスを頂くことが出来れば大変嬉しく思います。

Nさん、お手紙ありがとうございます。

しかも、僕のことをすでに知ってくれていたんですね。うれしいです。
僕は、書くほうのプロフェッショナルではないので、文章の露出が多いわけではないのに、それでも、読んでいてくれてありがとう。うれしい。>

そしてそして、僕のセンスまでほめてくれた!

まいったな。

僕の限定的で指向性の高いセンスをほめてくれたのは、これまでは、僕の最初の恋人だけだったのに。

まあ、最初の恋人というのは、ようするに僕の母親のことなんだけれども。

さて、「ビブリオ人生相談」にようこそ。

無数のアクション×有志のアクション「Tokyo Halloween」

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僕は悩めるNさんに、「Tokyo Halloween」という本を渡そうと思います。

この本は2015年10月31日、つまりハロウィンの渋谷で仮装する人々を、5人のフォトグラファーが撮った写真集。この本の中に「公募せずとも蛆のように湧いてくる『クリエイティブ』」という言葉があるけれど、僕はNさんに、その部分に出会ってほしいのです。

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お悩み解決のヒントが書いてあるページにこんな感じで付箋をつけるよ

知っていると思うけれど、渋谷では近年、神無月の末日に、神さまがいないかわりに、魑魅魍魎の百鬼夜行が始まる。それには賛否両論あるだろうし、もちろん、暴力や騒音や妨害はよくない。

集まる人たちも、ハイセンスなものから、ワンアイデアを押し切った雑なものまで、たくさんいる。玉石混淆で、しかも、ほとんどが石かもしれない。(それは、言い過ぎだ)

でもね、見かたによっては、彼ら彼女らは「表現をしている」と思うのです。

それは、集団の力を借りているかもしれない。
それは、アマチュアのクォリティかもしれない。
それは、たんなる思い付きかもしれない。

でも、彼らや彼女らは、少なくともアクションを起こしています。
それ自体はとてもすごいことだと思う。

生活の中で、移動と乗り換えのための動線を塞がれて迷惑しながらも、僕の友人たちが口をそろえて言うのは、「仮装をしている人たちはとても楽しそうで、いつもの服装をしている自分の方に違和感を感じた」っていう言葉だった。

なるほど。それは、おもしろそうだ。

アクションを起こすこと、それは、とても尊いことです。

もう一つ、この本を薦めた理由は、この本を作った綾女欣伸(あやめ よしのぶ)という編集者に理由があるのです。

彼は世界に奇妙な心の閉じ方をして、友人に奇矯な心の開き方をするカルチャーの怪物で、僕が尊敬するヒットメーカーでもある。詩、写真、文芸、評論、音楽など、彼のアンテナは広くて高い。

彼はこの本を作るときに、仲間たちと「自主制作」をしたそうです。

「編集会議で自分の企画が通らないなんてことがあっても、自分で作ってしまえばいいと思った」。

なんて、清々しいことを言っていました。
(もちろん、この本が彼の属する版元の編集会議を通らなかったという意味ではないです。彼は誰も批判していません。為念)

本の小口と呼ばれる部分に紫の彩色がされているけれど、これは、印刷や製本のプロにお願いするとコストが上がってしまうので、綾女さんが自分で紫色のペンを使って塗ったそうです。一冊一冊、全部、手で塗ったらしい。インディーズ万歳!

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Nさんは、手紙の中で「文才があるわけでもなく」と書いていました。

文才!

その言葉は僕に「ウサギとカメ」の寓話を連想させます。

足の速いウサギは、カメと競争をしますが、その俊足の作るあまりの余裕に彼は、勝負の途中で寝てしまい、そして、カメが先にゴールをするという、あの物語です。

まず、「寝ないウサギ」こそ最強である、という身もふたもない教訓こそあれ、しかし、この本質は「寝ない」ということでしょう。

もちろん、言葉通り「寝ない」のが重要じゃないですよ!寝ましょう。健康のために。

この場合の「寝ない」とは、最後まで続けるという意味で、僕は使っています。

才能の質や量はあまり関係がない。最後まであきらめずに続けることが重要です。

Nさん、今、あなたは、自分のやりたいこと(「言葉や文章を発信する、若しくは携わる」)と、やろうとしている仕事(「将来について考え、たくさん時間をかけて行動し悩み、やっと決めた就職先」)が違うのではないかと不安になっていますね。

でも、大丈夫ですよ。

僕も含めて、大抵の人は自分のやりたいことなんて、若い頃は分かっていません。
仕事というものは、続けるなかでやれることが増えてきて、やりたいことが定まってくるものです。今は、あまり考えなくていいと思う。

だから、大丈夫です。

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やりたいことは分からなくても、好きなことは分かるはず。むしろ、そちらを大切にしましょう。

Nさんの好きなものはなんですか?

それを本にしてみましょう。8ページでも、16ページでも、いいんです。写真集でも散文でも、自分の書いたものでも誰かが書いたものでも、いいんです。

自分の好きなものを本にしてみましょう。

この「Tokyo Halloween」のように。

Nさんは「若いのだから後悔しないように、多少のリスクを負ってでも挑戦すべきなのか」とも書いていました。

最初から仕事にしなくてもいいかもしれませんよ?

休日にコツコツと、自分の好きな本を作るのも素敵なことだと思います。そして、自分が作った本を、きっと誰かが好きになってくれるはずです。しかも、その人の人生を変える力がその本にはあるかもしれない。

そのように、インディーズでもいいから本を作っているうちに、仕事の方があなたの方に近づいてきてくれますよ。

柳下恭平(やなした きょうへい)

鴎来堂かもめブックス

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