“服のブランドタグを外す”と見えてくる服の純粋な価値。彼女がアパレル業界を離れて気付いた「ファッションは誰のためにあるのか」|EVERY DENIM山脇の「心を満たす47都道府県の旅」 #009

Text: YOHEI YAMAWAKI

Photography: Ota Kyono

2018.12.28

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こんにちは!EVERY DENIMの山脇です。EVERY DENIMは僕と実の弟2人で立ち上げたデニムブランドで、2年半店舗を持たず全国各地でイベント販売を重ねてきました。 2018年4月からは同じく「NEUT」で連載を持つ赤澤えるさんとともに、毎月キャンピングカーで日本中を旅しながらデニムを届け、衣食住にまつわるたくさんの生産者さんに出会い、仕事や生き方に対する想いを聞いています。

本連載ではそんな旅の中で出会う「心を満たす生産や消費のあり方」を地域で実践している人々を紹介していきます。

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▶︎山脇耀平インタビュー記事はこちら

今回ご紹介したいのは、京都で古着とカクテルのお店、STAND 「C」(スタンド「シー」)」を営む高橋舞(たかはし まい)さん、西田峻也(にしだ しゅんや)さんのお2人。

大学時代を過ごした京都で、「若い人にも気軽に足を運んでもらえるバーを開きたい」という西田さんの強い想いと、洋服の販売に携わる中で、「人の魅力を自然と引き出す服の装い方を提案したい」という高橋さんの願いが合わさり、この秋オープンしたSTAND「C」。

東京から移住したカップルが作り出す、新しい空間の裏側に込められた思いを伺いました。

京都でカジュアルなバーを

2018年10月18日。京都府京都市、徒歩圏内に金閣寺や平野神社、立命館大学がある緑豊かな衣笠エリアに一軒のお店が誕生した。名前はSTAND「C」。

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店主・西田さんがつくるオリジナルのカクテルを中心としたドリンクが飲め、パートナーの高橋さんが手がける古着屋「SHEER(シア)」の服が試着購入できるユニークなお店だ。

広島出身の西田さんは立命館大学への進学を機に京都へやってきた。大学生として過ごしていた2010年当時、開催中のサッカー南アフリカワールドカップをたまたま近所のカフェで目にする。店内はパブリックビューイング状態で、溢れんばかりの若者が集まり熱狂騒ぎ。

西田さんも輪に加わり、スポーツ観戦を通して店で見知らぬ人同士が盛り上がることの楽しさを知る。そしていつか自分もこの大学の近くで、若い人が気軽に集まれる場所を作りたいと考えたのだった。

京都へ戻ってくることを決意し、パブ・ビアホールを運営する企業へ新卒入社。関東の店舗を中心に現場での経験を積み、池袋店では3年間店長を務める。そして今年2018年春に退職、本格的に京都でのお店づくりに取り掛かった。学生時代の純粋な思いは8年間ぶれることなく、ただまっすぐに夢を形にしたのだ。

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西田峻也さん

一方、2015年に西田さんと出会った高橋さんは、セレクトショップや古着など洋服の販売員としてキャリアを積んでいた。約5年の勤務の後、Webデザインを勉強するために学校へと通う。卒業後、新たな道を考えていた矢先に浮上したのが、西田さんの京都での開業計画だった。

交際当初から、西田さんの「京都でお店を持ちたい」という夢は聞いていたという高橋さん。その話が具体的になってきたタイミングで、自分もかねてから密かに抱いていた「古着屋をひらく」という夢を真剣に考え始める。

とりあえず、2人で京都に移り住むことは決定した。問題は、そこで自分も西田さんと同じように自分の店を始めるかどうか。悩んでいた。本当は結婚して出産して、子育てが一息ついたくらいの頃に決めようかなんて思っていた。

自分の感性と向き合った日々

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高橋舞さん

高橋さんは、洋服がずっと好きで販売の仕事に就いていた。セレクトショップ時代はブランド物を、古着屋時代はヴィンテージ物を扱うお店で一生懸命働いていた。当時は何より"着飾る"ことが大事だと思っていた。

勤める店に対しても、仕事仲間に対しても、オシャレだと思われる自分でいないと。そうでなきゃ、お客さんに対して自信持って洋服を勧められないから、そう考えていたそうだ。

自分をよりファッショナブルに、オシャレに見せてくれる洋服。誰もが知っているブランドタグや、「○○年代」と語れる背景。いつしか、そんな風に誰にとってもわかりやすい価値がある服ばかりを選ぶようになっていた。

アパレル業界で働くうちに、当たり前のように、少しだけ、目線が内向きになっていたという。

ある日、店の同僚たちとのいつもの会話で出た「取り扱っているあの服は正直ダサい」という話。それは、自分がずっと良いなと思っていた服だった。

仲間内でファッションの感覚を確認し合う場。「私は良いと思う」と言えなかった。自信がなくて、ただ黙るしかできなかった。自分の感性が置いてきぼりにされた気分だった。

その日から「ファッションは誰のためにあるのか」を考え続け、自分は洋服の何を良いと思い、何を大切に考えているのか、改めて考え直したいと思い始めたそうだ。

まずは服の現場から一度離れてみることを決意。ちょうどその頃Webデザインに興味があって、いつか役に立つかも知れないし、きちんと学んでみたいと思っていた。そこで仕事をお休みして専門の学校に通う。

学校にはいろんな人が居て、みな自分で何かモノをつくったりクリエイティブなことをしたり事業を興したいと考えていたりして、とても刺激的。何よりそこで「アパレルの人」として見られたことが新鮮だったと彼女は思い返す。

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今まではアパレル業界の中にいて、当たり前だと思っていたり、人との比べ合いで自信を失っていたことなどを、学校のみんなは新鮮に思ってくれた。そこではファッションのことについて頼りにされている自分がいたそうだ。

ファッションにそこまで関心がなく、必要としてくれる人たちに対して、服の選び方やコーディネートの方法など、自分の経験をシェアする。確かに喜んでもらえているその実感はとても心地良くて、かけがえのないものとなった。

この人たちのために自分は服が好きで居続けたい、と純粋に思える瞬間だった。逆にみんなからはみんなの好きなことや得意なことをたくさん教えてもらった。

もう一つ、やってみたことは「手持ちの服のタグを外してみること」。なんとなく好きで買ったけれど、あまり着てない服。そんな服を眺めているときに思いついたことだった。

その服はブランド物でもヴィンテージ古着でもない「語ることが難しい服」だった。もしかしたらそのことが心のつっかえになっているのかもしれないと、思い切ってタグを外して、そこに可愛いリボンをつけてみるとそうしたら不思議なことに、自然と愛着が湧いて、すごくお気に入りの洋服になったのだ。これまでは、服の見た目や素材、いわば"服そのもの"を超えて、背景などの文脈を重視しすぎていたのかもしれないと気付いたのはその時だったという。

それはそれで素敵なファッションの楽しみ方だけれど、その観点からだと見落としてしまう洋服たちがたくさんあるはず、まさにリボンをつけて救い出したこの服のように。そんなことを考えたそうだ。

そして、決してわかりやすく語ることのできない、「着飾る」ことには向いていないけれど、人の生活の中で「装い」として馴染むような、シンプルな古着を取り扱うお店が意外とないことにも気づいた。

そんなお店ができたら、これまで価値が低いと見落とされてしまっていた、たくさんの魅力的な服を紹介することができるかもしれない。きっと喜んでもらえるはず、少なくとも自分は必要としていると感じたそう。

自分の感性が置いてきぼりになってないかと不安になったあのときから「ファッションは誰のためにあるのか」を考えて行動してきた日々。出した答えは「着る人が自分の感性を大事にできる、装いに馴染む古着を届けること」だった。

京都のお店準備と並行して「らしさの透ける、日常の古着。」をコンセプトとした、オンライン中心の古着屋「SHEER(シア)」を立ち上げた。

そして、「STAND『C』」オープン

新しいお店のことは、周囲のいろんな人に相談したが答えはさまざまで、否定的な意見もあったそうだ。「店を持つなんて、リスクもハードルも高いことだよ、もっとよく考えたほうがいい」と止められたりもした。

いっぱい悩んだけれど、勇気を持ってやることにした。理由は「背中を押してくれた人がいた」こと。特に、実際に事業を経験している人はもれなく応援してくれた。事の酸いも甘いも経験した上で応援してくれているのだから、自分がやりたいのならやってしまおうと最後は決断できた。

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10月18日。古着とカクテルが一体となったお店「STAND『C』」がオープンした。「STAND」は、気軽に寄って欲しいということ。「C」は「Cocktail(カクテル)」と「Clothing(衣類)」の意味が込められてる。

お店にはいつも2人で立つ。「note」での発信を積極的に行い、気さくに話しながらドリンクをつくってくれる西田さん。店の中から笑顔で迎えてくれ、生活に馴染むシンプルな古着を優しく提案してくれる高橋さん。

立ち寄る人々が気軽にお酒と古着の心地よさを感じられるよう、夢を叶えた2人の新しい挑戦はまだ始まったばかりだ。

大学時代の原体験から、人々がカジュアルに集まれるバーをつくりたいと修行してきた西田さん。明るい人柄と優しい雰囲気で、STAND「C」を良い意味で触れやすい存在にしています。

洋服に対する自分の感性に向き合い続けた高橋さん。言葉を本当に大切にされているからこそ、取材中、一言一言丁寧に言葉を探し、静かに力強く話してくださったのが印象的でした。

プロとして業界に存在するということは、言うまでもなく、高度な知識と経験を要求されます。当然同業からの評価も求められるでしょう。業界歴が長くなるうちに、意識が内側に向いてしまうのもある種自然なことなのかもしれません。

だからこそ、プロとしての自覚を保ちつつ、意識を外側に(2人の言葉を借りれば"カジュアル"に)向けて居るというのは、実はとても難しい態度だと僕は思います。

そこには、属する業界(文化)への愛がなければなりません。バーを、古着を、本当に大切に思う2人だからこそ、裾野が広がることを願って、自ら入り口の役を担っているのです。

「好きなことを仕事にすると辛いよ、趣味の方がいい」

ビジネスという観点では数字という結果がすべてなゆえ、かつてはこんな言葉もよく聞きました。好きで始めた仕事だったけど、中に入ると色々見えて嫌になった。というのもよく聞く話です。

しかし2人を見ていると、こんな言葉が恥ずかしいと思えてきます。きちんと物事に向き合いながらも、お店を持つ提供者として、まず自分たちが楽しく心地よく仕事をしようとしている。

届け手のエゴに甘んじず、何よりも自分たちが「受け手として純粋に楽しめる」感覚を忘れていないからこそ、彼らの作る空間は僕の心を打つのでしょう。

STAND「C」

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2018年10月にオープンした古着とカクテルのお店。東京でパブ・ビアホールの店長を務めていた西田さんと、洋服の販売に携わっていた高橋さんカップルが運営。店内では西田さんがつくるオリジナルのカクテルを中心としたドリンクと、高橋さんが手がける古着屋「SHEER」の服の試着購入が楽しめる。

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SHEER

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「らしさの透ける、日常の古着。」がコンセプトの古着屋。オンラインを中心に日々の装いに自然と馴染むシンプルな古着を販売している。(オンラインではレディースのみ、STAND「C」内ではメンズも取り扱い有)

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山脇 耀平 / Yohei Yamawaki

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1992年生まれ。大学在学中の2014年、実の弟とともに「EVERY DENIM」を立ち上げ。
オリジナルデニムの販売やスタディツアーを中心に、
生産者と消費者がともに幸せになる持続可能なものづくりの在り方を模索している。
繊維産地の課題解決に特化した人材育成学校「産地の学校」運営。
2018年4月より「Be inspired!」で連載開始。
クラウドファンディングで購入したキャンピングカー「えぶり号」に乗り
全国47都道府県を巡る旅を実践中。

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