安易な「慈善」や「寄付」が肥大させるカンボジアの黒いビジネス

Text: Seina Ikawa

2017.1.17

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近頃、発展途上国の孤児院訪問をツアーパッケージに含めた「ボランティアツアー」や「スタディツアー」が、日本やオーストラリア、アメリカを中心とした欧米地域の旅行会社などによって展開されている。善意で参加する人がほとんどだろう。それだからこそ、知っておかなくてはならない「孤児院の裏側」が存在する。

子どもの人権が無視される「孤児院」?

カンボジアを中心に、子どもの権利教育を行うNPO法人シーライツの報告によれば、孤児院ビジネスとは、「本来孤児ではない子どもたちを孤児院に集め、子どもとの交流を目的としたボランティアツアーの参加者から寄付金を回収する観光ビジネス」のこと。(参照元:C-Rights)カンボジアやネパールなどの発展途上国では、以前から問題視されており、英語圏のメディアなどでは、「orphanage business(孤児院ビジネス)」「orphanage tourism(孤児院ツーリズム)」として取り上げられることも多い。しかし、日本における「孤児院ビジネス」の知名度まだ低い。

「孤児院ビジネス」では、身寄りがなかったり、貧困家庭にいたりする、本来孤児ではない子どもたちが「孤児」として「孤児院」に集められ、孤児院の運営者から、観光客の前で笑顔を強要されたり、暴力を受けたりすることがある。多くの場合、観光客によるお金は、子どもたちには届かない。子どもの人権は、「孤児院ビジネス」においては、無視されているのだ。

あなたの慈善が子どもにとって「痛み」に変わるとき

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Photo by Y.S

「孤児院ビジネス」では、子どもの発達上に関わる問題なども潜む。第一に、孤児院内での「短期間」ボランティアとの交流は、子どもに喪失感を与えるとも言われている。(参照元:C-Rights)すでに心に傷を負った子どもたちにとって、入れ代わり立ち替わりボランティアたちが孤児院に来ることは、「愛着と離別」を繰り返すことになる危険があるのだ。第二に、そもそも、身元審査を受けないボランティアたちが子どもたちと交流すること自体がリスクとなりうる。それでは、発展途上国の孤児院を短期訪問する際に、個人レベルでは、どのような対策が取れるのか。NPO法人シーライツの報告を踏まえると、以下の2点が考えられる。(参照元:C-Rights

①孤児院訪問ではなく、「子どもを夜には家に帰すような地域ベースの団体」への援助
②孤児院ビジネスを見分けるひとつの指標(チャイルド・プロテクション・ポリシーの表明の有無)の確認

子どもを本当に支援するために、私たちは慎重にならなくてはならないだろう。

寄付が孤児を生み出す?

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Photo by Y.S

ユニセフの報告によれば、カンボジアでは、「孤児」数は減少傾向にあるが、「孤児院」数は増加している。これは、孤児数の増加ではなく、孤児院ツアー客の増加が、孤児院数を増やし、孤児院ビジネスを助長している可能性があるということを示している。(参照元:unicef) 実際、カンボジアの孤児院で暮らす子どものうち、両親が共にいない孤児(ダブル・オーファン)は、28%にとどまる。(引用元:DW)孤児院への寄付が、本来、孤児ではない貧しい子どもたちを家族から引き離し、子どもたちを「孤児院ビジネス」という危険にさらしてしまう可能性があるのだ。(参照元:thinkchildsafe.org

孤児数は減少しているのだから、保護者から子どもが引き離される孤児院の養育モデルから、家庭内で長期的な子育てを行うモデルへと、シフトチェンジするときが来ているという指摘もある。(引用元:C-Rrights)また、家族を基盤としたプログラムへのサポートを訴える声もある。(参照元:Frends-International)子どもたちが「孤児院ビジネス」などによって搾取されたり、危険な目に合わないようにしたりするためにも、私たちは安易な慈善を控え、子どもにとっての最善の利益を考えていかなければならないだろう。

※注意:カンボジアなどの発展途上国で「孤児院ビジネス」が疑われる孤児院を発見した場合は、個人で対応するのではなく、孤児院の名前及び旅行代理店の名前を、フレンズ・インターナショナル(英語のみ)、またはNPO法人シーライツへお知らせください。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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