そういえば“テロ”って何?今さら聞けない“テロ”の定義

Text: Shiori Kirigaya

Cover photography: SEMO TIMES

2017.6.12

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先月22日、英・マンチェスターで行われた歌手アリアナ・グランデのコンサート後に爆発物を使用した“テロ”が起き、22人の犠牲者が出た。一時はコンサートツアーを中断していたが、事件の追悼として、今月4日にアリアナ・グランデがジャスティン・ビーバーやケイティー・ペリーらの有名歌手を引き連れ、5万人を動員する慈善講演を同地で行なった。

そこで歌手らが「テロに屈しない」というメッセージを観客に訴えていたのを聞いただろうか。その“テロ”とほかの暴力事件はどう異なるのか、あなたは答えられるだろうか?

人々が合意できない、“テロリズム”の定義

「テロリズム」をオックスフォード辞典で調べてみると、「政治的な目的で非合法な暴力や脅迫を、主に市民に向かって行なうこと」だと書かれている。(引用元:Oxford Dictionaries)またケンブリッジ辞典では、「政治的な目的を持つ暴力的な行為(の脅威)」だとされている。(引用元:Cambridge English Dictionary)つまり、一般的には政治的目的のために暴力や脅迫を用いた行為が“テロリズム”と呼ばれているのだ。

Photo by Technofreak

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“テロ”の語源となった「terror(テロル、テロ)」という「極度の恐怖」を意味する言葉から「国家による恐怖の利用」の意味の“テロリズム”という言葉が18世紀のフランスで生まれた。

この言葉が政府組織に留まらない無差別の標的を狙ったものへと大きく変化したのは、2001年9月11日に旅客機がハイジャックされニューヨークの世界貿易センタービルのツインタワーとアメリカ国防総省本庁舎へ追突したあの事件のあとのことだ。(参照元:Eastern Kentucky University, テロリズムの定義ー国際犯罪化への試み

この“テロリズム”に当てはまるものは、実に多岐に渡り「政治的な目的を持って行われる」暴力や脅迫であるということでは意見の一致があるが、世界共通で使われている“テロリズム”の明確な定義はない。イギリスの有力紙ガーディアンは、人々はテロリズムの存在を認めても、その定義になかなか同意できないと述べている。(参照元:ABC News, The Guardian, The Department of Emergency and Military Affairs

人々はテロリズムの存在には同意するものの、それが何なのか同意できる人は少ない。(引用元:The Guardian

たとえば国連は、テロリズムを「一般市民、何らかの集団、特定の個人らを恐怖に陥れようと意図されたり計画されたりした、政治的な目的を持ち、どんな政治的、理性的、思想的、イデオロギー的、人種的、民族的、宗教的な状況を理由として用いても正当化できない犯罪行為」(引用元:The Department of Emergency and Military Affairs)と定義しているが、加盟国の合意は得られていないのだ。

“テロ”だと報道された事件

現在までに“テロ”として報道された事件といえば、何が思い浮かぶだろうか。9.11(日本では「アメリカ同時多発テロ事件」とも呼ばれる)はもちろん、最近のマンチェスター・アリーナ(イギリス)での爆発、ロンドン橋付近での襲撃、カブール(アフガニスタン)での爆発も“テロ”だと報道されている。

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Photo by Ted Eytan

日本と関係している“テロ”には、1970年に起きた共産主義者同盟赤軍派が起こしたよど号ハイジャック事件、北朝鮮による日本人拉致事件などがあり、日本政府からみた「左翼」や国家に敵対する存在として、実行犯らを“テロリスト”と呼んでいるようだ。だが、これらの事件を報道する際に“テロ”だと報道されることは少ない。「よど号ハイジャック事件」などと事件名で呼ばれるのが一般的である。(参照元:警視庁, iRONNA

「イスラム=テロリスト」の構図

明確な共通の定義を持たない、“テロリズム”という言葉はなぜ使われ続けているのだろう。9.11のあと、本土を攻撃されたことのなかったアメリカが“イスラム過激派のテロリスト”によって攻撃されたと盛んに報道され、イスラム教徒に対するアメリカ国内でのヘイトクライムが驚くべきことに9.11以前と比べて16倍も増加した。

多くのイスラム教徒は、“テロ”とは全く持って関係がないものの、9.11以降はイスラム教徒が“テロリズム”と結び付けられて偏見にさらされてしまっているのが現実だ。(参照元:The Huffington Post, Asscociated Press

2017年にはアメリカがイスラム教国の数カ国からの入国禁止令を出すなど、“テロ”と関係のない人々までも“テロリストの仲間”というレッテルを貼り、彼らの憎悪を煽る行動に出ている。

この流れを受けて“テロリスト”らは欧米に対する敵対心を増し、ヘイトクライムの被害にあった者がアメリカを狙う“テロリスト”化するというケースもある。政府やメディアは“テロ”という言葉を使い、アメリカ市民を団結させ“悪”であるテロリストと敵対させる構図を作り上げたいのだろうか。(参照元:Newsweek

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英・マンチェスターでの爆発事件記事はこちら
Photo by pdjohnson

共謀罪(テロ等準備罪)と“テロリズム”

先月23日、日本では「共謀罪(テロ等準備罪)」が衆議院で強制可決された。この法案は、「特定の主義主張にもとづき、国家に受け入れを強要し、社会に恐怖を与える目的で行われる人の殺傷行為」に対する合意やその実行行為が行われた場合に処罰の対象にするというもの。政府はここでいう「特定の主義主張」を「テロリズムにかかる集団が行う殺傷行為のよりどころとなる主義主張」だと説明している。

だが、具体的に何を“テロリズム”と定義するかというと、“テロリズム”は「あくまで例示で、定義を明確にする必要はない」と述べている。したがって、政府は定義を定めずに法案の制定を目指そうとしていたことがわかる。さらに、定義が定まっていなかっただけではなく、 実際のところ「共謀罪(テロ等準備罪)」が“テロリズム”の防止を目的にしていないと法務大臣が認めていることから、“テロ対策”は法制定の口実であったと言っても過言ではない。(参照元:東京新聞, 質問第七二号, shioristaff

日本政府がこのような法案を国会で成立させようとしているのは、国民の監視のためだろうか。「共謀罪」を制定したら一般市民ではなく「違法行為を行なっている集団」の共謀を処罰の対象とするというが、違法行為を行なう組織を見つけるために一般市民を含めた人々まで監視してもおかしくないと考えられる。(参照元:The Hffington Post, shioristaff

ニュースで頻繁に耳にする“テロリズム”、“テロ”、“テロリスト”のような言葉。“テロ”事件で犠牲になった一般市民には非がないとしても、アメリカが9.11後に行なったアフガニスタン攻撃での報復や、ISの拠点に攻撃して民間人を犠牲にしたこと、西洋諸国での偏見やヘイトクライムなどが人々の過激な行動につながっている事実がある。

最近もマンチェスター・アリーナで起きた爆発など各地でISと関連した人物による事件が起きているが、彼らの起こした行為を“テロ”と呼び、彼らを“テロリスト”と呼ぶことで、対立する彼らを“悪”、自国を完全なる“正義”だとみなすことは敵対関係を悪化させ、問題の解決への道を閉ざしてしまっていないだろうか。また、“テロ”という行為にそれと何ら関係のないイスラム教徒を結びつけてしまう傾向は偏見でしかない。“テロ”という言葉を安易に使う前に、その定義を問い直す必要があるのでなないか。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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