「障がいは個性」。発達障がいを抱える栗原類にきいた、日本社会が変えるべき“障がい者への誤った認識”

Text: Reina Tashiro

Photography: MISA KUSAKABE unless otherwise stated.

2017.9.7

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ニューヨークで1851年に創業し、165年以上の歴史をもつスキンケアブランド、キールズ。「利益を得るためだけではなく、住民や企業、そして地域社会をより良くするために貢献すること」を使命として掲げ、一世紀以上前から様々なチャリティー活動を行っている企業だ。

キールズは2017年度のグローバルチャリティー活動として、発達障がいの一種、ASD(自閉症スペクトラム)を支援すると発表した。日本でも、モデルで俳優の栗原類さんと協力して、みんなが輝ける社会を実現するため、ASDへの理解が進むよう取り組んでいる。

あまり聞き慣れないASD(自閉症スペクトラム)。アスペルガー症候群(ASDの中に含まれると言われる)と聞くと馴染みある人もいると思うが、ASDは発達障がいの分類の一種で、普通の人に比べ、対人コミュニケーションに困難さがあり、限定された行動、興味、反復行動がある障がいだ。

今回Be inspired!は、自ら発達障がい(ADD:注意欠陥障害)であることを公表している栗原さんに、キールズのチャリティー活動にかける想いや自身の経験を語ってもらった。

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発達障がいへの理解がアメリカより40年遅れている日本

生きづらさや苦しい時期を乗り越え、いま栗原さんは、同じ発達障がいを持つ人々を勇気付けるための活動に積極的に参加している。曇りのない眼差しでひとつひとつの言葉を噛み締め、今回の活動に協力する理由を語った。

今回キールズさんが日本でキャンペーンをやると聞いて、自分も力になりたいと思いました。日本だと、発達障がいにかぎらず障がいへの認知度があまり高くないので、こういう活動がもっと盛んになればいいと思っています。普通、人は目に見えやすいものを障がいだと考えます。でも、発達障がいの場合、手先が人に比べて不器用だったり、記憶することが苦手だったり、制限されている部分はいろいろなところにある。今回キールズさんのイベントで、少しでも多くの人に機能が制限されている人を知ってもらうきっかけになればいいと思います。

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今回キールズが支援する発達障がい、ASD(自閉症スペクトラム)は、世界人口の1%に影響を及ぼすグローバルな問題。特にアジアでの割合が多く、日本では55人に1人がASDと診断されるという。しかし、日本の発達障がいの認知度は、アメリカに比べて約40年遅れているのが現状だ。

6歳から11歳までアメリカで育ち、NYと日本を行き来していた栗原さん。日本とアメリカでの発達障がいの理解度の違いはどこから生まれるのだろうか。彼は、“教育”にあるという。

アメリカでは、教師と生徒の距離が近く、壁がありません。僕は英語が苦手だったので、みんなと別の教室で個別に授業を受けることもできましたし、手先が不器用で辞書や分厚い本をめくることができなかったので、電子辞書を使わせてもらうこともできました。アメリカの学校は全面的に僕の障害のことを理解してくれましたし、「みんな一緒」がなかったので、居心地がよかったです。

苦手なことをしっかりサポートする環境があったおかげで、勉強にも徐々に追いつけるようになった。しかし彼を一番悩ませたのは、「ひとの笑い声」だったという。「人の笑う声がすごい苦手で、誰かが笑うと自分が笑われていると勘違いして、衝動を抑えきれず相手を殴ってしまったり喧嘩してしまったり…」。

ある日担任が、僕の母親に発達障がいの検査を受けるよう伝えました。アメリカの学校では、生徒に発達障がいの疑いがある場合、親に言う義務があるんです。三者面談で、先生は母親に「家ではどんな番組を見せていますか?」と聞きました。僕は名作アニメを見ていたんですが、先生は「下品なお笑い番組を見てください。笑いをわからないのは損しているから」って言ったんです。それから僕はいろいろなコメディー番組やドラマをみるようになりました。サウスパークとか。今では、仕事でも、笑いに関する表現をしたいなと思っています。

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大切なのは、苦手なことを周りの人にいうこと

帰国後、日本の学校になかなか馴染めなかった。発達障がいの子にとって、「前ならえ」を強いられる日本の学校の「集団行動」は鬼門だ。

最初は日本の学校が苦手でした。特に集団行動が嫌で、大人になった今でも極力したくない。日本の小中学校時代では仲良い友達が3人くらいで、周りから見ると惨めな感じでした。それ以外は先生含めてみんな「敵」という感じ。でも、無理に仲良くなる必要ない。特別仲良くない人と無理に一緒にいる必要ないし、自分のペースで生きればいいなと思います。僕はネガティブだって言われるんですけど、いやなことを言われたりしても、あまり引きずらなかった。 自分は、よいことも悪いこともなんでもすぐ忘れちゃうから。

道が覚えられない、機械が苦手、暗記ができない。発達障がいには不得意なことがたくさんある。栗原さんは長年、苦手なことを周囲に伝える努力、そして自分で工夫する努力をしてきたという。周りの人に知ってもらうためには、まずは自分の苦手なことをちゃんと相手に伝える勇気が大切だ。

僕は昔から、SNSなどに自分がどういう人間か書いていましたし、仕事でも、具体的にどうしてほしいか伝えて、理解してもらうようにしていました。母親や主治医、周りの人に相談して、試しにやってみて、無理そうだったら工夫してみて、の繰り返し。わからないことがあったらどういう風に解決すればいいのか考えて自分で工夫もしましたね。例えば役者を始めたばかりのとき、台本がなかなか覚えられなかったんですが、周囲の役者さんに聞き試行錯誤しながら、なんとか覚えらえるようになりました。成長した実感はあるけど、甘えないことが大事。毎回毎回必死こいてやります。

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大切なのは、「知ること」。“社会問題”に対して深刻すぎないようにしてほしい

発達障がいの問題に対して、深刻すぎず、過剰すぎないように考えてほしい。日本のシステムをすぐに覆すのは難しいし、アメリカに追いつくのはだいぶ先。でもいずれ変わるんじゃないかな。そのためにも、まず障がいの特徴を知ってもらうことが必要だし、周りも偏見をもたないようにしてほしい。国としても障がいの問題にもっと取り組んでくれたらと思います。長い目で見て、ゆっくり認知度を上げ、いつかみんなが生きやすい社会が実現したらいいな。

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キールズは、ASDだけでなく、認知度が低い1990年代からHIV・エイズやLGBTの問題にいち早く取り組み、認知を広げる活動をしてきた企業。日本でも2011年以降、東日本大震災の支援を続けている。しかしいまだ日本では「社会問題に取り組んでいる」「チャリティー活動に参加している」と言うと、深刻そうに受け取られるのが現状だ。日本は、まだ海外に比べて発達障がいへの認知度が低いだけでなく、依然としてチャリティー活動への敷居が高いのかもしれない。

今回キールズはこのチャリティー活動を通じてASDをもつ子供たちとその家族の支援を目指している。キャンペーンを仕切る事業部長、天谷美乃里さんは、キールズのスタンスを「チャリティーに対して固く考えるのではなく、認知度を高め、お友達として理解しようという意識です」と話す。「2011年の震災以降、とくに若い世代の慈善活動への意識が高まってきていると思います」と希望も見せた。

無知ゆえに、障がいに誰も気がつかないまま「あの子は変な子」「問題ある子」だと片付けてしまうことはよくあること。自分が小中学生だった頃を振り返ると、思い当たる人もいるかもしれない。大切な最初の一歩は、“知ること”。そして、障がいについて理解を深め「隣にいる子ももしかしてそうかもしれない」という“想像力”をもつこと。認知度が高まることで、社会全体が優しくなれるのだ。

見方を変えれば、発達“障がい”といえど、“個性”という捉え方もできる。それもそのはず、健常者と呼ばれる人でもみんな得手不得手がある。異なる個性をもつ様々な人間に対し世間は「普通」を求めがちだが、わたしたちも「普通サイド」に立ったふりをしながら安全地帯から傍観するのではなく、社会の一員として多様な他者と共存しうる道を共に探すことがなによりも大事なのではないだろうか。今回栗原さんの話を聞き、Be insipired!編集部はそう強く思った。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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