「イスラム教って怖いものだと思ってた」。何も知らなかった著者が“等身大のムスリム”の漫画を描く理由

Text: Noemi Minami

2017.10.12

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「テロ」、「男尊女卑」、「戦争」。イスラム教のイメージは?と聞けば、こんな答えが返ってきても不思議ではない。「過激派によるテロ…犠牲者は◯人…」。テレビのニュースで流れてくるのは、悲しいニュースばかり。それに加えて、アメリカの大統領がイスラム教徒が多い一部の国に入国禁止命令を出したり、ヨーロッパでは堂々と反イスラム教を掲げる政党が人気を持ち始めたりと、世界中でイスラムフォビア(イスラム嫌悪)に関するニュースも比例するように増えていく。

「イスラム教徒」と聞くとあなたはどんな人を思い浮かべるだろうか?どうしてあなたがそんなイメージを持っているのか、考えたことはあるだろうか?

日本人のサトコと、サウジアラビア人のナダ。二人の女の子のごく普通の友情。

マスメディアで流れてくるイスラム教徒に関するニュースはネガティブなものばかり。しかし、イスラム過激派やたとえば中東で起きた女性に対する暴力事件などがイスラム教徒を代表しているわけではないということを忘れてはいけない。一般のイスラム教徒について知ろうとする努力をしたことはあるだろうか。

日本人の女の子とサウジアラビア人でイスラム教徒の女の子の友情を描いた漫画『サトコとナダ』(『ツイ4』にて日刊連載中)。これを読めばイスラム教徒に対するあなたの印象は変わるかもしれない。

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はじめてのアメリカ留学でサトコの同居人となったのはサウジアラビア人のナダ。最初は少し戸惑うサトコだが、ナダとの交流を深めるうちに彼女がサトコとなんら変わらない一人の女の子であり、文化や宗教を超えて繋がりを感じていく。サトコはイスラム教について学びながら、かけがえのない友情をナダと築いていくのである。

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作者は、アメリカ在住経験のあるユペチカさん。『サトコとナダ』はあくまでもフィクションだが、アメリカで出会ったイスラム教徒の友人がユペチカさんの考えを変えたという。

日本にいるときに私自身がイスラム教って怖いものだと思っていたんです…。日本にいるとイスラム国についてばかり取り上げられるから、イスラム教自体が悪いものだという風に私も少なからず思っていたところがあって。それでアメリカで勉強させていただく機会があった際に自分の無知さを実感したというか。実際にイスラム教徒の方にお会いして、考えを改め、同じように誤解をしている日本人にも伝えなきゃなと思いました。そこで私は絵を描くのが趣味だったので漫画にすることにしました。

マスメディアの偏った報道によって形成されるイメージは、「ただの印象」の話には止まらない。イスラムフォビアが増えつづけ、イスラム教徒に対する犯罪が増えているこの世の中を見れば、現実的で深刻な問題だということがわかる。日本では欧米ほどではないものの、愛知県のモスク(イスラム礼拝所)に対して嫌がらせのメールや「殺す」などの脅迫があったことも過去に確認されている。(参照元:宗教法人名古屋イスラミックセンター

こういった悲惨な状態を少しずつ変える力をこの『サトコとナダ』という漫画は持っている。漫画の強みは「良くも悪くも誰でも読めること」とユペチカさんは言う。

(漫画は)簡単に翻訳されて、転載される。だから絵の中でも悪意がないことをアピールするよう心がけています。これは気をつけなければいけないことだと思っています。でも本だとちゃんと一文一文を読まないとわからないところが、漫画はパッとみて、世界観が伝えられる。それが漫画の強みだと思いますね。音楽や文より一番早くわかるんじゃないかな。

この漫画へのイスラム教徒の方々からの反応はここまで良好。ユペチカさんは日本のモスクでイスラム教徒のファンに出会ったり、実際にサウジアラビアに行ったときに、イスラム教徒の人々に『サトコとナダ』について説明すると喜ばれたりしたという。誰だって自分にまつわることで誤った情報なんて流してほしくない。『サトコとナダ』が等身大のイスラム教徒の姿を日本に発信することには世界的に見ても大切な意味を持つ。

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「可哀想」にも立場によっていろいろある

イスラムフォビアを正当化するのに、とにかくよく使われるのが「イスラム教は男尊女卑的で悪いもの」という意見。イスラム教の聖典コーランをもとに一夫多妻制を認めている国があることや、宗教的な理由で強制されることも多い女性の被り物が理由だろう。その善悪を問うことを『サトコとナダ』はしていない。ある意味、多宗教な日本人の観点というべきか、「理解をしよう」という態度で、批判的でないサトコの視点を通すとナダの一人の人間としての考えに触れることができる。

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この漫画を書かせていただいている手前、何が良くて何が悪いかは私には判断できないのですけれども、イスラム教が生まれた時代はイスラム教が一番女性を守っていたと思いますね。

例えば、コーランには娘を育てると幸せになるだとか。諸説ありますが、イスラム教が生まれる前は、娘が生まれても埋めるとか酷い扱いをしていたところに娘を大切に育てると天国へ行けるとか。全く女性に権利がなかったのを、離婚したとき何割もらえると決めたりも。今では五分五分が普通かもしれないけれど、女性には全くなんの権利ももらえなかった時代に、何割かもらえるって決めたのはイスラム教だそうです。女性がひとりで生きられない時代に、男性がたくさん戦争で亡くなられてしまったと、そこで女性が生きていけるように一夫多妻制が生まれたと言われています。その時代で止まってるので今はダメだよと言われますが、当時は進んでいました。これはあくまでも個人の知識です。

「イスラム教が男尊女卑的だ」というヘイトの正当化によく使われるこの意見についてどう思うかとユペチカさんに尋ねると、彼女はこんな興味深い話をしてくれた。一貫して、知ろうとすれば、物事には色々な側面があるのだということを教えてくれる。

『サトコとナダ』のなかでも文化間の露出への意識の違いを描いた印象的なエピソードがある。ユペチカさんがこのエピソードに込めた思いを教えてくれた。

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このエピソードで言いたかったのは、「イスラム教は可哀想じゃないんだよ」「私たちだって可哀想なんだよ」ってことではなくて、「可哀想」にも立場によっていろいろあるんだよってことですね。

知る努力をせずにテレビから流れてくる偏った情報をもとに何かを一方的に批判するのは不公平だ。自分に理解できないからといって遮断して嫌うのではなく、立場によって意見も思いも様々だということを認識し、相手について知ろうとする姿勢がとても大事。

ユペチカさんのゴールは実は、『サトコとナダ』が“特別”ではなくなる日がくることらしい。

この漫画を「イスラム教徒」と「日本人」っていうていで書いていますが、一番は「サトコ」と「ナダ」のストーリーだと思っています。イスラム教徒だからキャッチーかもしれないけど、最終的には「普通にイスラム教徒のキャラクターがいるんだよ」って、「そのほか大勢のなかにイスラム教徒がいるんだよ」って…日本のなかにも普通に出てこられるような…多様性ですね、最終的には。普通にあるものとして捉えられるようになっていけたらなって思いますね。

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現在、調査によって結果に差はあるものの日本には10〜20万人近くのイスラム教徒がいると言われている。(参照元:一般社団法人ハラル・ジャパン協会)今後その人口は増えて行くという予想もあるし、2020年の東京オリンピックではイスラム教徒の旅行者だって多いだろう。そのときに、知ろうとする姿勢、受け入れるという姿勢を見せることが大事になってくるとユペチカさんは話す。

「全部受け入れて!」というわけではなくて、知るところから始めてほしいと思います。もうすぐ東京オリンピック。そのときに例えばトイレの横にお祈りする部屋の用意があったり、食事の材料表示を頑張ると、イスラム教徒の方に喜んで貰えると思います。完全にハラール(イスラム法上で食べることが許されている食材や料理)のご飯を作りなさい!と言うのではなくて。それだけでたくさんの方が安心して日本に来て、楽しんで帰っていただくことができると思います。イスラム教についてはよく知らない方が多いと思うので、まずは知ってほしいな。男の人が握手等でも女の人に気軽に触れない方がいいんだよ(特に中東出身者の方相手では)っていうマナーとか。友達のことを知りたいという気持ちで。お互いをよく知り合うということが大切だと私は思います。

知らない文化について、間違えるのは人間だからしょうがない。でもニュースで流れてくる情報だけを理由に勝手なイメージを作り上げたりせず、理解する姿勢を見せ、「知る」ことから私たちは始められる。

『サトコとナダ』

作者:ユペチカ
監修:西森マリー
星海社

ツイ4(@twi_yon)にて日刊連載中

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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