日本では毎年1500人前後の新たなHIV感染者が出ている。その感染者数の2/3は東京都で確認されているという。これは驚くべき数ではないだろうか。HIV/エイズ*1が世界的に問題となってから30年経った現在でも、恥ずべきことに人々の間に十分な知識があるとはいえず、HIV感染者は偏見の目で見られることも少なくない。
そこで毎年約2500人が新たにHIVに感染しているというカナダでは、「HIVに感染した(HIV陽性の)シェフの作った料理を出されたら食べますか?」というインターネット調査が行われた。実施したカナダのHIV・エイズ患者のケアセンター「Casey House」(ケイシーハウス)によると、「食べる」と回答したのは1633人のうち、わずか半数。
そんな危機感な現状に対して何かできないかと考えたケイシーハウスは、とあるレストランの計画にたどり着く。
(*1)HIVは「ヒト免疫不全ウイルス」と呼ばれる。また、エイズはHIVによって引き起こされる病気の総称。
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「HIVは食事で感染しない、ということを伝えなきゃいけないと思った」と、ケイシーハウス代表のジョアンナ・サイモンは言う。「素晴らしい食べ物を作りだす情熱」に加えて、さらに“もうひとつの共通点”を持った14名がカナダ・トロントに集結した。
レストランの名前は「June’s HIV+ Eatery」(ジューンのHIV陽性レストラン)。シェフを務めた人たちは全員HIV陽性で、同レストランは2日間限定のポップアップとしてオープンしたのだ。
@juneseatery #smashstigma amazing success. We are sold out all nights but you can donate @ https://t.co/XNrL5iJvBp #contractkindness #compassion pic.twitter.com/LnMvmyUfRX
— Martha Turner (@marthaturner1) 2017年11月7日
#smashstigmaは素晴らしい成功だった。チケットは完売したけどまだケイシーハウスに寄付はできるよ
Great evening to #smashstigma @caseyhouse pic.twitter.com/e5tfb0OlV8
— Susan mullin (@susanfmullin) 2017年11月9日
#smashstigma(汚名を返上する)にはうってつけの素晴らしい夜だ
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料理は前菜、サラダ、メイン、デザートという4品のコース。地元のPR会社とチームを組み、銀行がスポンサーとしてバックアップしてくれた。そのおかげもあって、あっという間に200席は完売し、レストランは大成功を収めた。
HIV感染者の彼らがもっとも傷つくのは「事実ではないことで着せられる汚名」と、ジョアンナ。誤った情報を信じ込んでいる人は、罪の意識も少なく、その素直でストレートな誤解が患者たちの心を深く傷つけている。このレストランでは、正しい認識を広めるとともに、HIV感染者たちの「#smashstigma」(汚名を返上する)ことを目的としていたのだ。
14名のシェフたちが身につけたエプロンには、彼らがこれまで受けたであろう不名誉を想像されるフレーズの数々が綴られていた。
「パスタを食べてエイズになった。そんな人いないよ」
「わたしはHIV感染者の料理人ではない。わたしは料理人なのだ」
「HIVは俺の病気だけど、お前のは“無知”っていう病気?」
「料理でエイズがうつるって?ふざけんなよ」
「さぁパンをちぎって。不名誉なことはぶっ潰すよ」
エイズはすでに死を待つ病気ではない。この30年間で医学は進歩し、早期発見や十分なケアを受けることによって、エイズを患っていても日常生活に差し障りがないことも珍しくないのだ。
しかし、“死なない病気”になったとはいえ、感染者数の増加は別問題。正しい情報の欠如が新たなHIV感染者やエイズ患者を出すだけでなく、偏見が広まって差別につながるという負のループが続く。これを断ち切るのは、新しい薬でも、最新の治療施設でもなく、正しい情報拡散による教育しかない。
(参照元:AVERT)
来たる12月1日は世界エイズデー。正しい知識を身につけて、HIVに感染しないよう予防を心がけること。この目に見えない「理解」こそが誰かを助け、社会に愛と優しさが増えていくのだろう。
Casey House
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。