フィルターなしの世界で。常に等身大のxiangyuがジャンルを超えて挑戦し続ける理由

Text: Fumika Ogura

Photography: Kaname Sato unless otherwise stated.

2022.12.13

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 神奈川の横浜で育ち、2018年9月よりアーティスト活動をスタートさせた、xiangyu(シャンユー)。一風変わった名前は、自身の本名である「あゆみ」に由来し名付けられた。南アフリカのダンスミュージックである Gqom(ゴム)をベースにした彼女の楽曲は、独特のリズム感と、自身で書いたユニークな歌詞が組み合わさり、一度聞いたら耳から離れない音を生み出している。
 今回、BE AT TOKYOが開催した「SELF LOVE FES」に出演直後の彼女のもとを訪れ、話を伺った。

「SELF LOVE FES」とは?
2022年11月25日〜27日に渋谷区立宮下公園で開催されたフェスティバル。「SELF LOVE FES」は、“ありのままの自分”と向き合い、認め、愛していくという“セルフラブ”をテーマにしたイベント。xiangyuをはじめ、メッセージに共感するアーティストの音楽ライブからYOGAなどのワークショップ、物販ブースまで、自分と向き合うさまざまなヒントが散りばめられていた。▷Website / Instagram

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xiangyu

自分の目で確かめることで分かる、フィルターなしの世界

「幼少期は、好奇心旺盛な子でした。自分の目や耳できちんと確かめたものでないと、信用できないタイプで、周りの意見には左右されないほうでしたね。中学から高校時代はグループに属せなくて、クラスメイトとは仲良くなりたいけど、常に一匹狼状態だったんです」

 小学校から高校までの期間は、学校で過ごす時間が多いからなのか、どうしても社会がそこだけにしか存在しないように思えてしまう。その場から一歩出たら世界は広いのに、当時はなかなか気付かず、悩んだ時間を過ごした人も多いのではないだろうか。

「学校では、『このグループに入ってみたいかも!』と、思いながらも、一歩を踏み出せませんでした。今思うとすごくダサいんですけど(笑)。いじめを受けたこともあったから、自身のことを大事にできなくて、人前に立つなんてもっての外でした。ただ、興味のあることに対しては前のめりになるタイプだったので、学校以外の場所では自らの力で活発に動いていたかもしれないですね」

 高校の頃には、毎年学校の文化祭で展示形式での研究発表があり、テーマだった死刑制度や環境問題などについて専門家に話を聞いたりするなど、社会が抱えている問題に自然と触れる機会があった。そして東日本大震災のときには一人でボランティアに出向いた。

「ここでの経験が、社会問題に対して目を向けるきっかけだったと思います。専門家と話して感じる熱量や、その場所に出向くことで知る現状など、学校外でのフィジカルな経験が自分の基盤となるものを作ってくれた気がします。震災のボランティアのときも、自分より年上の人が多くて、クラスメイトだと上手く話すことができなかったのに、そこではコミュニケーションが上手く取れて。学校という大きな檻から踏み出すと、違う世界が広がっていることにも改めて気付きました」

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 高校を卒業後は文化服装学院へ進学し、ファッションの道へ一歩踏み出した。

「両親が物作りが好きで、家にはそれぞれが作ったものがそこら中に転がっていました。その影響からなのか、子どもの頃から落ちていたゴミや廃材を使って、手を動かして何かを作ることが好きだったんです。けど、美術の時間で洋服作りをしたとき、説明書を見ながら作業をしても思った以上に上手くできなくて、洋服作りって奥深いのかもしれないと感じました。すでにできることよりも、やってみたいことや知りたいと思ったことに目を向けていきたくて、文化服装学院を選んだんです」

 服作りのノウハウを習得した彼女だが、後にマネージャーとの出会いのきっかけになる、一風変わったアイテムを使用してファッションを表現することを始めたのもこの頃だ。

「パターンを引いて、生地屋で布を選び、それを縫っていくという服作りも楽しかったですが、そのフォーマットのなかで制作しないと、授業のなかでは服として成立しないこともあり、自分にとってそれが本当にやりたいことなのか疑問を持ち続けていました。そんななか、小さい頃からよく足を運んでいたホームセンターで、ビニールシートを見て、これで洋服を作ったら面白いかも!と、授業以外の時間で、それを素材とした服作りをはじめたんです」

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 使用する素材は、ビニールシートのほかに、軍手やカラーコーン、工事現場のロープ。何着も作りためて、東京のビッグサイトにて開催するデザインフェスタに出展した。

「アイテムの現物や写真、映像を展示していました。そしたら、現マネージャーが声をかけてきたんです。『一緒に音楽やらない?』って(笑)」。

 展示内容とは全く関係のないお誘いに、最初は疑問でいっぱいだった。そして歌を歌うことに対してもコンプレックスを持ち続けてきた彼女は、音楽を自身の仕事にするなど、選択肢になく、6年間返事を保留にしていた。

「学校を卒業をした後は、アウトドアのアパレル企業に勤めたり、コスチュームデザイナーのもとでアシスタントをしたり。それぞれの場所で学びはありましたが、集団で動いていく環境と、自分の気持ちがフィットしなくなったんだと思うんです。今後は自身でなにかを表現していきたいと思ったときに、ラジオからふと流れてきたのが、『他の人も自分自身も気付いていない自分の才能って、まだどこかに眠ってるんじゃないか』という阿川佐和子さんの言葉。これを聞いて、私も服ではない道があるかもと思って、ふと思い浮かんだのが『一緒に音楽をやろう!』と、声をかけ続けてくれていた現マネージャー。そのときにようやくお返事をしました。

自分を認めていくことが、セルフラブに繋がっていく

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 これまではパタンナーやアシスタントとして、服を影で支える役割をしていた彼女。自身が前に出て表現をするミュージシャンとして活動をスタートするにあたり、最初に必要とされたのは、自分を認めていく作業だった。

「自身で表現をしていきたいと思っていたのに、作品にスポットが当たるのと自分の存在に当たるのとでは全然違いました。幼少期の経験からも、コミュニケーションを取るのは苦手だし、自己嫌悪の連続でした」

 最初の1年は、「音楽の道じゃなかったかも」と思うほど悩んでいた。ただステージに立つごとに、自身が抱いていたコンプレックスの壁が破られていくのを感じたという。

「最初、音楽を人前で歌うのは、作った音楽を間違わずに歌うことや、上手く歌うことでしかないと思っていました。でも、いざ人前でパフォーマンスをするとなったときに、ライブはお客さんとのコミュニケーションだということに気付いたんです。毎回ライブの会場も違うし、来てくれるお客さんも違う。そのときどきで自分のテンションやお客さんの気分を感じながら、曲を歌ってMCをする。今まで自分が苦手としていたことが一番必要なことになっていて、ここで成長しなくてはならないなと思ったし、音楽をはじめたおかげで、自分のマイナスだった部分を少しずつ克服できてきたような気がしています」

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 2019年には、初のEP『はじめての○○図鑑』をリリース。赤裸々で誰もが共感できるユニークな歌詞や、南アフリカのダンスミュージックである Gqom(ゴム)をベースにしたリズミカルな音が話題を呼ぶ。コアな音楽ファンを中心にじわじわと人気を集め、ライブやフェスなどへの出演や、さまざまなミュージシャンともコラボレーションし楽曲を制作するなど、精力的に活動している。

「アーティスト活動をしていると、よく自分のなかで起こるのが、他の人と比べてしまうこと。私なんてまだまだだなって思うことなんてたくさんあるけど、そう思っているとお客さんや周りの人にも伝わってしまうと思うんです。なので、できれば自分のやっていることには自信を持っていたいなと思います。最近はよく『セルフラブ』って言葉を聞くけど、それは必ずしも自分のことが大好きでいるべきっていうことではなくて、自分のことを好きでいられないとしても、そんな自分をまずは受け入れていくことが大切なのかなと思っています。どんな自分も認めていくことが、『セルフラブ』に繋がることだと思うんです」

自分のやりたいことに正直でいることで、見えてきたもの

 最近ではファッションや音楽の他にも、彼女の活動が執筆にまで広がっている。神奈川は横浜市にあるドヤ街・寿町の出来事を軸に、自身のこれまでを振り返ったエッセイ「ときどき寿」を今年の11月に出版。執筆を初めて経験をした。

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「ドヤ街の炊き出しに誘われたことをきっかけに、寿町にはよく足を運ぶようになりました。行くたびにいろんなことが起こるので、そこでの出来事を忘れないように、日記のような感覚でメモをしていたんです。それを知り合いの編集の方に話していたら、「Maybe!」で連載をすることになったのが始まり。本を出すことが決まってからは、幼少期からの自身の経験も加えて執筆をしたので、それは大変な作業でした。私は言葉を音に乗せて表現をしているけど、文章として言葉を書くと、句読点の位置が違うだけでも伝わり方が変わってくるので、どうしたら自分が思っていることを、自分が思うままに表現できるのかが難しかったですね」

 音楽やアートにファッション、執筆の他にも、さらにラジオのパーソナリティや俳優活動まで。まるで自分に枠などが存在しないかのように、幅広いジャンルで活動をする彼女。

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「周りにはたくさん尊敬しているアーティストの方がたくさんいて、そういう方々って、自分のやっていることに自信があるし、自分で歩んできた道に責任を持っているなと感じていて。だから私も自分のことは自分できちんと責任を持っていたい。そうなるためには、毎年なりたい自分へアップデートしていかなくてはならないと思っています。さまざまな活動を通して、自分の好きなものや、やりたい音楽の輪郭などがようやく見えてきました。今後、自分がどんなものを生み出していくのかが本当に楽しみなんです。今新たに楽曲も制作中なので、ファンのみなさんはもちろんのこと、これから私を知る人まで、どんなxiangyuを見せていけるのか、期待していてほしいです」

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xiangyu(シャンユー)

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2018年9月からライブ活動開始。 日本の女性ソロアーティスト。読み方はシャンユー。名前は本名が由来となっている。 Gqom(ゴム)をベースにした楽曲でミステリアスなミュージックビデオも公開中。2019年、5月22日に初のEP『はじめての○○図鑑』をリリース。また、xiangyuとファッションブランドPERMINUTEのデザイナー半澤慶樹で主宰する川のごみから衣装を創作するプロジェクト“RIVERSIDE STORY”では、渋谷川編と題し2022年9月に初の個展を恵比寿KATAにて開催するなど、音楽以外でも元々活動しているアートやファッション、映画への出演など、垣根を超えた活動を行っている。今年2022年の7月16日からはxiangyu自身が主演・主題歌を担当した、映画『ほとぼりメルトサウンズ』が新宿のK’s cinemaより順次、全国公開。また、11月25日には初の書籍「ときどき寿」を小学館から発売している。

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