DYGL × 映像作家 takachrome。互いの感覚を尊重し合うことから生まれる、残り続けるもの

Photography: takachrome unless otherwise stated.

Text: Kaede Wakabayashi
Edit: Jun Hirayama

2025.9.30

Share
Tweet

DYGLが8月13日、3年ぶり5枚目となるアルバム『Who’s in the House?』をリリースした。これを記念し、9月から10月にかけて全国ツアーの開催も決定。9月15日の金沢AZ公演を皮切りに、10月26日のF.A.D YOKOHAMA公演まで、全国10都市を回る。
収録曲「Just Another Day」のMVは、映像作家・takachromeと本格的にタッグを組んで制作された。「見たことのないもの」をキーワードに、挑戦的なアイデアを詰め込んだ意欲作だ。今回NEUTでは、DYGLとtakachromeによる対談インタビューを実施。
ロンドンでの偶然の出会いから日本での再会、そしてインドでの撮影をきっかけに始まった両者のコラボレーションは、ライブ映像やMV制作へと広がり、最新作『Who’s in the House?』にも色濃く反映されている。

バンドと映像作家。異なるフィールドにいながら、互いの感覚を尊重し合うことで生まれた「Just Another Day」のMV。そこには、偶然と必然が交錯するクリエイティブの現場で、何度でも観たくなる瞬間を積み重ねていく両者の姿があった。

width="100%"
左から嘉本 康平(ギター)、鈴木 健人(ドラム)、加地 洋太朗(ベース)、秋山 信樹(ボーカル、ギター)、下中 洋介(ギター)。

全曲メトロノームなし、一発録り。『Who’s in the House?』が目指した音楽の身体性

NEUT:ニューアルバム『Who’s in the House?』は全曲メトロノームなし、全楽器同時に一発録りをしたそうですが、これは初めての試みですか?

下中 洋介(以下、下中):一発録りは何度かあるんですけど、メトロノームなしというのは多分、初めてです。

秋山 信樹(以下、秋山):バンドがセッションで上手く曲を作れるようになってきたんです。だから今までみたいに丁寧にレイヤーを分けて録ってしまったら、せっかくの特別な雰囲気、勢いが潰れてしまう気がしたんですよね。今回こそは今まで録音に込められなかった新しい何か、というよりある意味では素の自分達を込めたい気持ちが強かったです。

NEUT:話を伺っているとDYGLのバンドとしての円熟さを感じるんですが、一発録りも緊張感が溢れるというより、リラックスして臨んだ感じでしょうか?

秋山:個人的には思ってたより緊張感はなかったですね。いざ始まる時は「やるぞ」って感じだったけど。

下中:絶対ミスっちゃいけないっていう雰囲気もなかったんで、割とのびのびと出来た気はします。

width=“100%"

NEUT:新譜は「身体的な出会い、体験としての音楽に再びフォーカスが当てられている」という話を耳にしたのですが、具体的にどのようなことだったのでしょうか?

秋山:コロナ禍で一回リセットされたというか、良くも悪くも感覚がフラットになったんです。ゆっくり耳で聴くというよりも、体で感じる音のほうがテンション上がると改めて気づきました。今までもそのことは理解していたはずだけど、よく考えたら特にコロナ禍で作った作品は、どちらかというと耳で聴く音楽という感じで、ボディに来る感じの録音やライブを、あまり意識して出来てなかった。だから今回はその身体性をメインのテーマにしてみたいなと思いました。

The Gardenというアメリカのバンドがいるんですけど、久しぶりにロンドンに行った時に、丁度彼らが来英していて。現地のお客さんのライブへのレスポンスも含めてかもしれませんが、あの時ロンドンで観たThe Gardenの公演からは物凄い身体性を感じましたね。ここでいう身体性は、お客さんをリズムで巻き込んでいる感じ。僕らにはこれが足りてなかったかもなって。

NEUT:タイトルである『Who’s in the House?』はどういう意味が込められてるんですか?

秋山:タイトルは曲から取ってます。既に作品の中にある言葉から示唆的な意味を見つけて来れたら、回り回って全体を繋げてくれるだろうなと。いざ『Who’s in the House?』ってタイトルを見てみると、ふと立ち止まって「どういう意味なんだろう」って思わせられるし、曲名とタイトルで「my」から「the」と少し変えてみたのもちょっとした遊び心です。

NEUT:前作からの3年の間に、リスナーが持つイメージや鳴らしたい音楽について考え方に変化はありましたか?

秋山:ちょっとずつ期待を裏切り続けるバンドをやっていたと思います。でも何を期待されているのか、以前はそんなに分かっていないこともあったし、そこまで気にしてなかったかもしれません。ただDYGLとして、ロックバンドとして一番パワフルな形を追求したいと思えたのは、今回のアルバムが一番かもしれません。今作に向けていざ作品を作りたいってなる直前ぐらいに、セッションで曲がどんどん出来るようになったタイミングがあったのですが、その時も泉が急に湧いてくる感覚だったし、3年の間はあったけど、感覚としてはテンポよくここまで来れた気がしています。満を時してというより、気張らず、カジュアルに作り上げることが出来た感覚ですね。

NEUT:新譜には一発撮りの初期衝動感もありますよね。

秋山:確かに今までで一番初期衝動が出てると思います。

下中:ファーストより出てる(笑)。

加地 洋太朗(以下、加地):DYGLの曲って元々セッションで作ったよね。最初期の曲って。

下中:まだDYGLが3人だった時ね。

秋山:その最初期ってのも、意外と長くて。結成してからファーストを出すまでに5年かかっているんです。今回の3年とかよりも長い時間で、ライブしかしてなかった時期があって。その時はスタジオに入って、曲ができたらライブでプレイするみたいな感じでした。意外とそこのノリに近い場所に立ち返れたのかも。

width=“100%"

MTV時代の質感とアイデアを現代へ。MV「Just Another Day」の舞台裏

width=“100%"

NEUT:MV「Just Another Day」、なんだか昔のMTVを見ているようでした。

秋山:めっちゃ言われた!他の人にも(笑)。

NEUT:あのMVはそういうテーマがあったんですか?

takachrome(以下、taka):話をもらった時から、MTVとかあの時代のビデオを見たりはしてました。

秋山:あの比率で映像を作ったことも、フジロックの時に誰かに言われたな。「MTVでしょ!比率で思った!」って。

taka:僕らも見た目の部分と中身の部分で、あの時代に影響を受けてる新しいものを作りたいって話はしてたんです。先に見た目の部分の話でいくと、比率のことよりも、あの時代の精神性にどうやったら辿り着けるかみたいな感じでした。

下中:じゃあMTVっぽいって感想は狙った通り?

taka:そうだね。でもMTVっぽいっていうのだけを目指したわけではなかったから。

秋山:あまりキーワードにMTVって出してなかったよね。でもあの時代のアイデアというか、今の「ちょっと予算がないけど頑張って作ってる」か「潤沢な予算があるけどポップすぎる」の、もう少し間の映像を作りたいって話してた気がする。それが結果的にMTVの時代に繋がったのかな。

NEUT:あの時代のアイデアの面白さには「突拍子の無さ」があると思ってます。いろいろなアイデアを一気に詰め込んだというか。

秋山:まだ映像でやってみたらどうなるか分からないことを試してる感じがしますよね。今はもう正攻法があるから「こうやったらこうなるよね」みたいなルールがあって、それを飛び出している作品ってあまりないかなって。「どう飛び出すか」は結構話し合いましたね。

width=“100%"

ジップライン定休日に黄色いスイカ、制作中の忘れられない思い出

NEUT:撮影中に印象的だったことはありますか?

下中:撮影の終盤、みんな疲れているのに、takaくんだけは最後まですごく楽しそうなのが嬉しくもあり、逆に狂気を感じるくらい印象的でした(笑)。でも本当にいい作家なんだなって思いました。数字とか結果を求めてやるというより、過程をちゃんと楽しんでやってくれる人って貴重だなと思うので。

NEUT:ぜひ皆さんのお話もお聞きしたいです。

鈴木 健人(以下、鈴木):撮影を2日に分けてて、初日は浜辺のシーンを撮って、そのあとジップラインで撮るって計画だったけど、いざジップラインに行こうとおもったら、まさかの定休日で閉まってたんです(笑)。

一同:(笑)。

鈴木:どうするってなったときに、takaくんが「何とかするから任せて!」って言ってくれたのがかっこよくて。撮ろうとしてた画が撮れなかったのに、最終的にちゃんと良い映像を撮るということに感動しました。

taka:1日目が不完全燃焼だったからこそ、2日目でガッと撮影に臨めたのかもしれない。

鈴木:なんならジップラインの画が撮れなかったことで、もっといろいろ詰め込めた感じもあるから、偶然も含めて全ていい方向で進んだなって思う。

秋山:実際あのプロジェクターを使った、飛んでいる画の方が良かったよね(笑)。

NEUT:あのシーンは本当に勢いがありますよね。

width=“100%"

嘉本 康平(以下、嘉本):思ったよりハマったよね。

NEUT:嘉本さんの印象に残ったことは何ですか?

嘉本:下中のバッティングかな。加地くん、スズケン、俺がずっと下中コーチに野球の指導を受けてて(笑)。

一同:(笑)。

NEUT:下中さんは野球経験が元々あったんですか?

下中:小学3年生から中学3年生まで結構頑張ってやってたんです。ちょうど秋山が、おにぎりからピックが出てくるシーンを撮ってたんですけど、それなりに時間がかかってて。空き時間もあったし、みんなにバッティングフォームを指導してたんですよ。「これで俺、打てなかったらヤバいな」って、内心思いながら教えてました(笑)。

嘉本:でもちゃんと一発で決めた。

width=“100%"

下中:takaくんがスイカを一個しか用意してなかったんですよ。打った瞬間、赤い身が飛び散るかと思ったら、黄色い身が飛び出して(笑)。

加地:「一発OKを出さなきゃ」って、全員が緊張感を持ってる中でいざ臨んだら、スイカ割りというより破裂するみたいな割れ方したんです。色も黄色いし、バッティングも上手すぎるので、みんなが一瞬沈黙するっていう(笑)。

嘉本:個人的にtakaくんがプロだなって思ったところが、躊躇いなく投げてたところ。カウントダウンして投げるのかなって思ってたら「はいじゃあ撮りまーす」って投げてて(笑)。

NEUT:加地さんはどうですか?

加地:takaくんが「時間は結構あるから、アイデア出し合おうよ」って言ってくれたことですね。準備段階から、僕らが言うことを、全部フラットに受け止めて、ちゃんと言葉のすり合わせもしたうえで、映像を作ってくれたのが本当にありがたかったです。

width=“100%"

コミュニケーションから生まれる“見たことのない”映像

NEUT:秋山さんはどうですか。先ほどおにぎりからピック出すシーンが、意外と大変だったって話も出ましたが…。

秋山:大変でしたね…。おにぎりを綺麗な形で食べるのと、食べた時に綺麗にピックが出るサイズを残すことが意外と難しくて。ピックが綺麗に出てきた時の感動は凄かったです(笑)。でも面白さが詰まっているシーンなので、大事なシーンだと思ってます。自分がやった身としてはおにぎりシーンの感慨もあるけど、スズケンと加地君のきのこにミルクをかけてるシーンとか印象深いです。映像を見てから好きになりました。

width=“100%"

width=“100%"

鈴木:やりながら「これどういう画になるんだろう…」って思ってました。何もわからないままやって「はい、OKです」って終わって(笑)。

秋山:浜辺から、かもちゃんが見てる写真に繋がるシーンも良いですよね。一人一人のシーンをtakaくんが考えてくれて。

width=“100%"

下中:takaくんの印象的だったことは?

taka:みんなが最初の段階で、DYGLの歴史から自分が知らなかった音楽の話まで、いろいろ教えてくれたのが印象的だったかな。「過去の時代ではこういうことを思っていて、今はこういうことをやりたい」とかも教えてくれた。例えば下中くんが言ってた「親にはあまり見せられないような悪さ」とかね。

下中:ちょっとモラルから外れるけど、外れすぎると痛い感じになっちゃうっていう、そのギリギリを表現するときに、「自分はティーンエイジャーとして楽しんでいるけど、親には見せたくない」くらいのアウトローさね。

taka:最初に「エモくしたくない」って聞いた時は、正直、難しいなと思った。雰囲気を作ろうとすると、自分はそういう手法を選ぶことが多かったってのもあるけど。でも飛び出るような勢いと面白さ、ちょっとぶっ飛んだアイデアを「見たことないもの」として出したいって話をずっとしてました。自分たちでは全く思いつかないような組み合わせの中に、どうDYGLらしさを含めたらかっこよくなるかをちゃんと話し続けた。みんなと時間をたくさん過ごせたからこそ、完成まで行けたなって思います。

width=“100%"

秋山:お互いのコミュニケーションに、多くの時間を費やせたのは大きいね。事前にここまで動いてくれる人は中々いないと思う。takaくんも面白がって、時間を作ってくれていたけど、本当に感謝しています。それがあったから、やっぱり辿り着けた。

NEUT:それこそtakaさんがDYGLを撮影するからこそ意識していることはありますか?

taka:メンバー全員の見せ場というか、一人一人が輝く場所があるので、そこは必ず抑えたいなとは思ってました。バンドとしてもそうなんですけど、どの曲にも、それぞれの楽器が飛び抜けて良い瞬間があるので。

NEUT:普段はフィルムで美しい作品が多いtakaさんですが、今回のMVは大胆な発想のシーンが多く、コミカルで勢いのある仕上がりになっていると感じました。

下中:最初、takaくんの作品はSNSベースでしか見られなくて、「綺麗でエモい画が多いのかな」という印象だったんです。でも、インドのドキュメンタリーを撮ってもらった時に、音と映像がどう映っているのか、その絶妙なニュアンスを掴むのがとても上手な人だなと思って。意外性はあるかもしれないけど「今回のMVもいける」という個人的な確信がありました。

taka:自分のイメージが固められた仕事じゃなくて、今回はやりたかったこともたくさんやらせてもらえたし、チャレンジにもなったから本当に楽しかったです。

NEUT:今回のMVを見て同じような作品をまた作ってほしいと言われても、再現するのは難しそうですね(笑)。

秋山:まずどこから始めたらいいのか(笑)。でもやっぱり映像があると、曲のイメージが広がったり、それを受け止めてくれる人が増えたりすることがあるなって、改めてMVの持つ強さとか面白さを感じたし、もっと作っていきたいなって今回で思いました。

width=“100%"

互いへのリスペクトが生む、同じ目線での創作

NEUT:お互いの尊敬してるところは何ですか?

taka:DYGLのメンバーと一緒にいると、人間としての感覚を取り戻せるなって思います。ニュートラルなコミュニケーションが取れる仲間って本当にありがたいし、DYGLの周りは人間関係が良いんですよね。

秋山:takaくんは、もっとビジネス寄りの仕事をできるモードも持ってるのに、いざ俺たちと仕事すると、こっち側のマインドで同じ目線で楽しめる。「DYGLがこう言ってるからこうしよう」っていう以上に「自分はこうしたいから」という主体性で、こっちを引っ張ってくれる感覚があります。そういうピュアな物作りへの愛があって、しかもDYGLを愛してくれる人と仕事ができた。もっと広い意味で言えば、バンドとして、そういう人と出会えるって本当に大きいことだと感じます。そんなに長い期間じゃなかったけど、お互いに時間を作って、ちゃんとした人間関係を築いて、同じ作品を作れたことを心から嬉しく思ってます。

taka:俺、明日死ぬのかな(笑)。

秋山:長生きしてください。たくさん一緒に作品を作らなきゃいけないからね(笑)。

鈴木:自分の中の決まったルーティンのような作業にならずに、全員の意見を汲み取ってくれるところです。こんな人はなかなかいないよね。

下中:尊敬してる点は高校まで野球を続けていたこと。

一同:(笑)。

width=“100%"

NEUT:最後にDYGLとtakachrome、ミュージシャンと映像作家と、お互い違うフィールドだとは思うのですが、今後どのような作品を作っていきたいですか?

秋山:DYGLとしては今回、初心に返って実際にスタジオで心ゆくまで音を出して、自分たちから自然に出てきたものを大切にするのが良かったんだと気づいたんです。だから、あまり「こういうものを作るぞ」と考え過ぎないようにしたいなと。ただ、その中でもいいバランスを見つけられたらとは思います。今の身体的でナマモノな勢いの良さと、リスナーとしての好き嫌いの感覚、この2つのバランスが取れたら、もっと面白いことが出来るはず。とりあえずは何かを事前に決め切らない勇気を持っていたいですね。

taka:動画があふれるいまの時代では、映像はすぐに消費されて、埋もれてしまいます。だからこそ、これからずっと残るものを作りたいです。50年後、100年後になっても、自分の作品が擦られたら嬉しいですし。それぐらい今の時代に生まれたことを意味するものを作れたらと思います。

width=“100%"

width=“100%"

DYGL

Website / Bandcamp / Youtube / X / Instagram

2012年に大学のサークルで結成。アメリカやイギリスでの長期滞在を通じて多くの音楽ファンを魅了している全編英詩のギターロックバンド。
洗練されたサウンドと鮮烈なパフォーマンスは、国内外を問わず高い評価を受けている。1stアルバムはAlbert Hammond Jr. (The Strokes)がプロデュースし、期待のインディロックバンドとして多くのメディアの注目を集めた。2ndアルバムは2019年にリリースされ、約6ヶ月に及ぶ53都市のアルバムツアーを遂行し、日本のみならず北京、上海、ニューヨークでチケット完売となる快挙を達成。
そして、3rd アルバム『A DAZE IN A HAZE』は「Sink」や「Half of Me」といった話題楽曲が収録された万人に愛される作品となった。
昨年2022年には、自ら手がけた完全セルフプロデュースアルバム『Thirst』が世界中で大きな反響を呼び、タイ·Mahorasop Festivalに出演そしてUSツアーを行った。
2025年夏にFUJI ROCK FES, RISING SUN ROCK FES、ONE PARK FES、りんご音楽祭の出演も決まっている。そして8月には5thアルバム『Who’s in the House?』をリリースした。

width=“100%"

takachrome

Website / Instagram

takachromeは東京を拠点にする映像監督。近年はコペンハーゲン、パリなどを行き来しながら主にファッションブランドの映像を手掛けている。ジャーナリズム・ドキュメンタリーの手法をベースとしており、対象物を観察し、美しさや儚さを丁寧に描くことを得意としている。長編映画の制作を目標に現在準備中。

Share
Tweet
★ここを分記する

series

Creative Village