昨年のフジロックフェスティバルでも来日を果たした、韓国の4ピースバンド・Silica Gelのメンバーとしても活動するKim Chunchuのソロプロジェクト・Noridogamと、2025年に単独アメリカツアーを決行するなど、日本国外でも独自の表現を続けるシンガーソングライターのmei eharaによるコラボレーション・シングル「Hazard Course」がリリースされた。
互いの音楽に静かな共鳴を感じていた二人が、国境と言語を越えて出会い、ひとつの楽曲を完成させた。穏やかで包み込むようなサウンドとは対照的に、「選択」や「迷い」といった内省的なテーマを内包した本作。過去を振り返りながら、後悔と納得のあいだを行き来する感情や、答えの出ないジレンマを、英語詞ならではの余白と響きで描き出している。
本対談では、二人が出会ったきっかけから、コラボレーションに至るまでの経緯、制作時に感じた感覚の違い、そして国やシーンを越えて音楽を作ることへの率直な思いまでを語ってもらった。「Hazard Course」が生まれた背景と、その先に広がる二人の視野を、言葉からひも解いていく。

「同じような温度感」を持つアーティスト同士だからこそ生まれた一曲
NEUT:お互いに以前から親交があると伺っていますが、最初はどこで出会われたのでしょうか?
Kim Chunchu(以下、Chunchu):初めて会ったのは、昨年韓国で開催された「ASIAN POP FESTIVAL」というフェスでした。そこにmeiさんが出演していたんです。ただ、それ以前からmeiさんの音楽は知っていました。
mei ehara(以下、mei):私は先に、Chunchuがやっているバンド・Silica Gelのことを知っていました。共通の友人がNoridogamの映像を作っていたり、私のバンドでキーボードを弾いてくれている沼澤くんのバンドのミックスをChunchuが担当していたりして。Silica Gelも含めて、存在自体は以前から知っていたんです。
NEUT:では、ASIAN POP FESTIVALが初対面だったんですね。
mei:そうですね。ただ、その時点では、まさか一緒に曲を作ることになるとは思っていませんでした。Noridogam自体は聴いたことがあったんですが、Chunchuが私のことを知ってくれているとは知らなくて。ASIAN POP FESTIVALの時に、「Silica Gelの人が挨拶したいって言ってるよ」と聞いて、そこで初めて会いました。私の音楽が好きだと言ってくれて、驚きましたね。
NEUT:お互いの音楽を初めて聴いた時は、どのような印象を持ちましたか?
Chunchu:自分とどこか似ているというか、いわば「同じような温度感」を持っているアーティストだなと思いました。僕自身、感情表現が強く前面に出るタイプのスタイルではないので、そういう部分でも音楽的な親近感を感じました。
mei:Silica Gelとはスタイルが全然違うので、新鮮な驚きがありました。でも、Chunchuが言ってくれているように、何か共通点がある感じもあって。世代も近いですし、単純に「自分の好きな音楽だな」と思いました。
NEUT:共通点というと、どんなところだと思いますか?
Chunchu:頻繁に会っていたわけでもないし、たくさん話してきたわけでもないんですが、やっぱり音楽への考え方の部分ですかね。全く同じではないけど、どこか似ている人なのかなと思っていて。実は今日のインタビュー前に、meiさんが以前受けていたインタビューを見返していたんです。曲を書く時に考えていることだったり、「あ、なんか似てるかも」と感じるポイントが結構あって、少し驚きました(笑)。だからこそ嬉しいというか、親近感があります。
mei:世代が近いこともあって、好きなゲームが一緒だったりするんです。たぶん、お互い静かなタイプっていうのも……(笑)。
Chunchu:優しいタイプ(笑)。

答えを提示しないことで表現する余白
NEUT:今回のmeiさんとのコラボレーションはどういうきっかけだったんでしょうか?
Chunchu:特別なきっかけがあったわけではないんです。自分と似た感覚を持つアーティストを考えている中で、自然とmeiさんが思い浮かびました。歌声も含めて、自分の音楽に合うと思っていて。去年のフェスでmeiさんのステージを観て、その感覚が確信に変わりました。具体的な要望を出さなくても、きっと想像以上の形にして返してくれるだろうなと思ったんです。
NEUT:meiさんはオファーが来た時はどう思いました?
mei:最初に会った時から私の音楽を好きだと言ってくれていましたし、私自身もChunchuの音楽が好きだったので、素直に嬉しかったです。アメリカツアー前で忙しい時期ではありましたが、しっかり向き合う必要があるな、という緊張感はありましたね。

NEUT:今回のコラボレーション・シングルの「Hazard Course」のタイトルの意味は何ですか?
Chunchu:ゲーム『Half-Life』のチュートリアルステージ名から取りました。障害物を越えながら進んでいくイメージが、この曲の感覚と重なったんです。
NEUT:優しい曲調に対して、タイトルは少し険しい印象ですね。
Chunchu:単純に、そのギャップ自体が自分の好きなスタイルなんです。例えば90年代の韓国歌謡を聴いてみると、ノリのいいテクノトラックなのに、歌詞は憂鬱だったり、悲しい内容だったりする曲が少なくありません。そうした対比のある楽曲には昔から親しみがあり、今回の曲も、そうした文脈に近いものだと思っています。タイトルは少し重めですが、曲自体はとても穏やかで、そのささやかな対比の面白さを表現したかったんです。
NEUT:歌詞は過去を振り返るような印象もあります。
Chunchu:歌詞は「選択」についての話です。自分の確信が持てず、いろんな人にアドバイスを求めた結果、かえって選択が難しくなってしまうことってありますよね。助けになるはずの言葉が、いつの間にか自分の選択にとっての「障害物」になってしまう。そのジレンマを描きました。
NEUT:なるほど。作詞にはmeiさんも参加してますが、どのようなプロセスで歌詞を書きましたか?
mei:まずChunchuから文章をもらっていました。さっき話してくれたような説明に加えて、私の考えを曲に反映して、もっと立体的な曲にしたい、というお願いが書かれていて。それを読んで、すごく共感する部分が多かったんです。音楽制作のことでも、私生活のことでも、彼が話してくれたような状況ってたくさんあるので。だから、歌いたいことはわりと早い段階で決まりました。
NEUT:歌詞の最後が「Just like…」と言い切られてない点が印象的でした。
mei:英語は文脈をきちんと説明しないと伝わらない言語だと思っていて。だからChunchuが作った歌詞の一部を私のパートに引用したとしても、同じ言葉でも、私とChunchuそれぞれのパートで聞き手の意味の受け取り方が変わってくる。そういう遊びも面白いんじゃないかなと思って取り入れたりしました。
Chunchu:ジレンマって、簡単に解決できるものじゃないし、これからも繰り返されていくかもしれない。だからあえて結論を出さず、開いたまま終わらせる形がしっくりきました。

NEUT:英語で作詞することは、母国語で作詞する場合と比べて、感覚の違いはありましたか?
Chunchu:英語で歌詞を書くと、語順も違いますし、発音や単語が持つニュアンスもいろいろ違いますよね。だからこそ、英語で歌詞を作る時にしか出てこないメロディや、感情の流れがあるんじゃないかと思って、今回はそれにトライしました。
mei:やっぱり、日本語で歌っている時と英語で歌っている時では、表現の仕方がかなり変わってくるんですよね。日本語では「こういうニュアンスで伝えたい」と思っていた歌い方が、英語でも通用するのか分からなかったですし、英語が得意というわけでもないので、「Hazard Course」での言葉選びはとても慎重になりました。
NEUT:意図しない受け取られ方をしてしまう可能性もありますよね。
mei:「この曲はこういう曲です」と言い切らない人もいるじゃないですか。Chunchuが私に説明してくれたことも、どこまで公開されるのか分からなかったので、彼の意図を踏まえつつ、できるだけ意味を大きく捉えられるように作詞しました。「こう感じてください」と限定しないために。あとはリズム感を大切にしながら、単語を選んだり、さりげなく韻を踏んだりしつつ、少しずつ形にしていきました。
Chunchu:韓国語で書き続けてきたので、歌詞表現には慣れている部分もあるんですが、今回のアルバムは前作よりも、もう少し広がりのある作品にしたいと思っていました。Noridogamはずっと一人で続けてきたプロジェクトだったので、スケールを広げたいという考えが出発点にあったんです。それがmeiさんとのコラボレーションであり、いろんなプレーヤーと一緒に制作した理由でもあります。英語で歌詞を書くようになったのも、そうした拡張していきたいという方向性から来ている気がします。
NEUT:今回のコラボレーションを通して、「一人で作る音楽」と「誰かと作る音楽」には、どのような違いがあると感じましたか?
mei:これまでの経験を振り返ると、誰かが用意したものに対して、自分なりの力を加えて仕上げていく、という形がほとんどでした。自分にとっては、今までやったことのないジャンルや、その人の持ち味に向き合うことが多くて、経験値が大きく上がる感覚があります。今後の自分の作品にも活かせることが増える、ありがたい機会ですね。
Chunchu:一人で曲を作る時は、「こうなってほしい」というゴールに向かって進んでいくので、プロセスよりも最終的な仕上がりのイメージが強くなりがちです。でも、誰かに曲を渡して、その人を通して自分では直接コントロールできない要素が入ってくると、想像していなかった色や質感が加わっていく。今回は、良い意味で作品がより複雑になっていく感覚がありました。
mei:今回に関しては、英語での作詞に応えるという点も含めて、初めてのことが多くて。自分にとっては良い機会でしたし、楽しい作業でもありました。普段は選ばないことに挑戦する、という意味でも。

韓国と日本、ひとりのミュージシャンとして
NEUT:このインタビューで最後の質問になるんですが、お互いに聞いてみたかったことってありますか?
mei:Chunchuは韓国でSilica Gelをはじめ、すごく人気があると思うんですけど、今回のコラボレーションに対する韓国での反響が気になっていて。私は韓国語で検索ができないので……(笑)。
Chunchu:(笑)。Silica GelからNoridogamに関心を持ってくれているファンもたくさんいます。ただ、自分の中ではまったく同じ延長線上のものではなくて。ファンのみんながそのままNoridogamを「わーっ」と聴く、という感じでもないんですよね。でも実際には、Silica Gelのファンでありながら、別軸でNoridogamを聴いてくれている人たちもちゃんといると感じています。
mei:うん。
Chunchu:少し静かで繊細な音楽が好きな人たちが、Noridogamに確実に関心を持ってくれている。爆発的ではないけれど、着実で継続的なファンがいるんだな、と改めて感じています。それに「Hazard Course」についても、SNSやいろんな場所で「すごく良い」という反応をもらえていて、少し誇らしい気持ちですね。
mei:今回、英語で作詞をすることで音楽性や世界観を広げたいって話していたと思うんだけど、その先で、Chunchu自身はどんな未来を描いているのかなって気になって。Silica Gelはすでに成功しているバンドだと思うけど、Kim Chunchuとしては、どんなふうになっていきたい?
Chunchu:Noridogamを始めたきっかけは、Silica Gelのメンバーとしての自分と、Kim Chunchuという一人の音楽家としての自分を、はっきり分けて考えたかったからなんです。Silica Gelという看板ではなく、自分自身の音楽としても自立したい、という思いがありました。
ただ、Noridogamを韓国の中だけで展開することは、どこか意図的に視野を狭めているようにも感じていて。だから「韓国のアーティスト」という肩書きよりも前に、音楽をやっている一人のミュージシャンとして見られたい。自分の活動に限界を設けたくない、という気持ちが強いですね。
ペースはゆっくりかもしれないけど、いろいろ試してみたいし、韓国の市場だけでなく、さまざまな国の人たちと積極的にコラボレーションしていきたい。その最初の一歩をmeiさんと一緒に踏み出せたことは、本当に嬉しかったです。良い作品ができたし、自分の方向性に対する確信も少し持てるようになりました。心から感謝しています。
mei:(嬉しそうな顔)

Noridogam(Kim Chunchu)
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遊び図鑑ことノリドガムはバンド「Silica Gel(シリカゲル)」のギタリストでありプロデューサー、キム・チュンチュのソロ・プロジェクト。シリカゲルの軍入隊前最後のライブ後、ソロアルバムの制作に集中してきた彼は、作詞、作曲から演奏、録音、ミキシング、ほとんどの工程を自ら手掛け、2019年1月にデビュー・シングル「Choonghunboo(忠勲府)」を発表した。「Asian Pop Festival 2024」「2025 DMZ Peace Train Music Festival」等に出演するなど、ライブ活動と音源制作を並行しつつ、自分だけの音楽世界を着実に拡張してきた。2025年12月にソウル・東京・大阪を廻る「Truthbuster the Tour!」を開催。2026年3月には6年ぶりとなる2ndアルバム『TRUTHBUSTER』をリリースし、4月からソウル・東京・香港・台北の4ヶ所を廻るアジアツアーが開催される。
mei ehara
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1991年愛知県出身のシンガーソングライター。学生時代に宅録を開始する。2017年にキセルの辻村豪文プロデュースによる1stアルバム「Sway」を発表しカクバリズムからデビュー。翌2018年に「FUJI ROCK FESTIVAL」に出演を果たした。2020年5月にセルフプロデュースした2ndアルバム「Ampersands」を発表。2021年にアメリカのシンガーソングライター、フェイ・ウェブスターのアルバム「I Know I’m Funny Haha」に参加し、2024年と2025年にはフェイのアメリカツアーのサポートアクトを務めた。2025年9月に約5年ぶりのフルアルバム「All About McGuffin」をリリース。9月末からはアメリカ4都市を巡るツアーを行い、帰国後の10月19日には東京・WWW Xでワンマンライブを開催する。
Noridogam Live at 能楽堂
チケット
出演:Noridogam / Special Guest:mei ehara
日時:2026年5月9日(土)Open 16:30 / Start 17:00
会場 : 銕仙会能楽研修所2F能楽堂本舞台
住所 : 東京都港区南青山4-21-29
料金:adv.¥6,000 / door. ¥6,500
主催:CUEW
NEW Digital Album『TRUTHBUSTER』
配信リンク一覧
アーティスト:Noridogam
発売日:2026年3月18日
リリース形態:ダウンロード & ストリーミング
レーベル:ormdstudio / Amuse (Less+)