あなたは、毎日スーパーマーケットに並ぶ、完璧で欠陥がなく色艶の良すぎる野菜に、違和感を持ったことはないだろうか。
インド出身でオーストラリア在住のアンキット・チョプラ氏は、いつもその違和感覚えていた。
インドでは、変な色の野菜や、いびつな形の野菜を育てていた。ここ、オーストラリアでは、野菜の姿が正反対だ。
アンキット氏は、オーストラリアのいびつな野菜を救うために、母国インドの知恵を絞って立ち上がった。
あなたは、買い物するときどんな基準で商品を選んでいるだろうか。もしあなたの気に入っている商品を販売する企業が、不正を働いたり環境に悪影響を及ぼす事業に資金提供したりしていたらどうするだろう。
企業や商品作りにおける考え方に賛同できない場合、その企業やブランドの商品を「ボイコット(不買運動)」するという方法がある。これは買い物が「投票」に例えられるように、消費者の力で信頼や賛同のできない企業の商品にお金を出すのをやめ(票を入れるのをやめ)、企業の経営を成り立たなくさせ社会をより良くする(より良い企業に投票する)というもの。
そこであなたがボイコットしたいとき、またはボイコットとは関係なく単純に人や環境に良い商品が欲しいときに、参考となる商品カタログをBe inspired!が作成することを決意。その名も「GOOD GOODS CATALOG(グッド グッズ カタログ)」。
チョプラ家のチャツネ
アンキット氏が、母国インドからオーストラリアに来て驚いたのは、スーパーマーケットに並ぶ野菜の姿だ。不自然なくらい光り輝く野菜が、売れ残ったり少しでも痛んでしまったら廃棄されていく姿を見て、違和感を覚えたという。
そんな状況を解消するヒントを、彼は母国のインドに見つけた。
「チャツネ」とは、インド料理で多用される野菜を煮込んだペーストのこと。「インドでは、形の悪い野菜は全てをごちゃ混ぜにして煮込むという習慣があり、不細工な野菜もよくマーケットで販売されていた」とアンキット氏は語る。
そこで、オーストラリアで廃棄されてしまうような野菜たちを“救済”するための手段として、チャツネを作ることにした。
インドのチャツネを、オーストラリアで売る難しさ
アンキット氏の母親Jaya(ジャヤ)は、家族代々伝わるレシピでTamarind chutney(タマリッドのチャツネ)を自宅でよく作っていた。彼は、そのチャツネが大好きだったので、この美味しいレシピを用いれば、多くの人を巻き込むことができると考え、“チャツネで廃棄野菜の救済”という構想を具体化していった。
どんな形の野菜でも、鍋に入れて煮込み、味付けをする。すると、野菜の味が引き出されて美味しいチャツネが生まれる。チャツネの材料は様々で、イチジクやりんごを使った甘いものから、トマトとライムの惣菜ものまである。このチャツネをサンドウィッチに塗ったり、サラダのドレッシング代わりにしたり、チーズにつけたりして、いびつな野菜の価値が再生産される。
その後、完成したチャツネ瓶を、シドニーのローカルなマーケットで販売し始めた。するとすぐに、そのマーケットから、「輸入原材料を使用しているので、販売しないで欲しい」と言われ、マーケットを追い出されてしまったのだ。マーケットは、「できるだけ家から近い原材料を使用したものを選びたい」と言った。
マーケットから指摘されてから、原材料の調達方法を様々探したが、どれも原産国がわからなかったり生産背景が全くわからないような品物ばかりだった。そのために、産地がわかるフェアトレード認証を取ったり、こだわりを持って作られたオーガニックな原料を使って、チャツネ作りに取り掛かることにした。
例えば、チャツネの原料となる砂糖はオーストラリアでは生産されていないため、代わりにパラグアイのフェアトレード認証の農家から仕入れている。また、チャツネに多用するスパイスは、アンキット氏の母親がインドで2年前訪れたフェアトレード農家から、そしてレーズンはトルコのオーガニック認証の農家から、こだわりと責任を持って仕入れている。
チョプラ家のチャツネがもたらした社会的なインパクト
Eat Me Chutneysを設立した2014年の1年間だけで、彼らは700kgもの有機野菜を廃棄から救った。
また、彼らは「途上国の農園での不当な貿易」に対して強い問題意識を持ち、恵まれない環境にいる女性を自らの事業に積極的に雇用したり、メンター制度を導入して、教育活動にも力を入れている。
これらの取り組みは、企業の社会的なインパクトと環境への負荷を図る団体“B corporation”からも高く評価されている。(参照元:B Corporation)
さらに、彼らのチャツネという食糧廃棄への解決アプローチを積極的に人に伝える活動を行っており、今まで約1500名に教えてきた。これに加えて、売上金の50%ほどを地元オーストラリアのNPOに寄付してビジネスを行っている。
チャツネの本当の目的
もっとも大切なことは、このチャツネを見た人々が「チャツネが何を救うんだ?!」と言って食料廃棄について会話を始めることだ。
彼らは、ただ、チャツネを販売して売り上げを得たいのではない。彼らは本当にシンプルに、地球と、そこに住む私たち人間と、私たちに残された資源のことを考えて行動しているのだ。
スーパーマーケットやコンビニで、工業的に均一化されて販売された食品に対して違和感を感じたことのあるあなた。その違和感を忘れずに、あなたが今日、小さいことでも何か行動に移すことができれば、それは大きな社会的インパクトへの第一歩になるかもしれない。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。