現実の職場で起こったセクハラ問題を題材に制作された映画『ある職場』が3月5日に公開された。一流ホテルチェーンで女性職員が男性職員にセクシュアル・ハラスメントを受けたことから始まる本作では“セクハラ”という曖昧な言葉によってこの問題が放置されていることを私たちに訴えかける。
実際に日本ではセクシュアル・ハラスメントがどれくらい起こり、どのような対策が行われているのだろうか。
まず、人事院によるとセクハラは以下のように定義されている。
セクシュアル・ハラスメントとは
① 他の者を不快にさせる職場における性的な言動
・ 職員が他の職員を不快にさせること
・ 職員がその職務に従事する際に接する職員以外の者を不快にさせること
・ 職員以外の者が職員を不快にさせること
② 職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動
セクハラは男性が女性に対して行う行為を指すのではなく、あらゆる性別の人に対して行われる行為である。また、セクハラの種類としては「男のくせに根性がない」、「女には仕事を任せられない」といった性別を理由とした差別や妊娠・出産・育児休業に対するハラスメント、就職活動中に受けるハラスメントなども含まれている。あらゆる性別の人に対して行われる行為とはいえ、女性労働者が被害を受ける件数が最も多く、平成26年度の職場におけるセクシュアル・ハラスメントの相談件数の割合は女性労働者が約6割を占めた。(参照:男女共同参画局)
『ある職場』のエンドロールで流れる厚生労働省の統計によると、日本におけるハラスメントは年間82,797件起こっており、そのうちの約半数の被害者は被害後も何もせずやり過ごしたそうだ。
日本にはセクハラを防止する法律や政策は存在するが、セクハラを禁止する法律や告発した被害者を保護する法律がないことが問題だ。このことが被害を受けたあともほとんどの人が何も行動しない事態に繋がっている。また、社会的に加害を受けた側を責めたり、声を上げること自体を否定的にみたりする風潮があることも否定できない。
対してヨーロッパにはセクハラに対する処罰が明確に決められている国もある。イスタンブール条約の第40条*1ではセクシュアル・ハラスメントに対して刑事上又はその他の法的制裁の対象とすると明記されており、実際にフランスではセクハラは2年以下の懲役と3万ユーロの罰金に処されることが定められているのだ。他にもイタリアやデンマークなど30ヵ国以上がこの条約に批准しており、国民もセクハラを容認しない風潮にあるようだ。また、男女平等の意識が高いと言われている北欧の国の方が東ヨーロッパの国よりも、セクハラを受けたことがあると答えた女性が多かったというリサーチ結果がある。一見意外に見えるが、これが表しているのは、問題の認知が広がっているか、そして声が上げやすい環境にあるかということではないだろうか。とはいえ、全てのヨーロッパの国が条約に沿ってアクションをおこせているわけではないし、推進している国でも根本的にセクハラの問題が解決しているわけではない。(参照元:DW)
セクハラを少しでも減らすためにはシステマティックな変革と問題の社会的認知の両方を向上させなければならない。そして問題の認知には前提として男女平等や人権への理解が必須といえる。「男は〇〇」、「女は〇〇」といったジェンダーに押し付けられた経験は誰しもあるだろう。反対に相手に勝手なジェンダーを押し付けてしまった自覚がある人もいるかもしれない。私たちの根底に潜む「差別」に気付き、それについて考えることから解決の糸口を探すことが重要だ。
あらゆる根深い社会の問題が絡んだセクハラを解決する一つの正解はないが、この記事を読んだあなたが今すぐできることもある。セクハラを受けた同僚がいたとしたら、その人をサポートすることだ。その人はセクハラを受けただけでなく、その後も周りの理解のなさに苦しんでいるかもしれない。風潮は、一人の言動が変わっていくきっかけになる可能性もあるはずだ。もちろんそれだけでは足りないが、まずは自分が今すぐできることをやってみるしかない。
(*1)女性に対する暴力と家庭内暴力の防止と撲滅に関する欧州評議会条約の通称。暴力の防止、被害者の保護、加害者の免責の撤廃を目的とする。2011年5月11日にトルコのイスタンブールで署名された女性に対する暴力と家庭内暴力に反対するための欧州評議会の国際人権条約。