インタビューでそんなことを話していたのは、現役美大生の、ちるちるちる(21歳)。彼女の通う武蔵野美術大学で12月6日より3日間にわたって開かれるゼミ展で、彼女は個人のアートプロジェクトとして進めてきた「わき毛プロジェクト」を発表する。ゼミ展のテーマは「Think value(思考価値)」だ。
「わき毛ってめっちゃいけてる」
東京を走る電車に乗っていると、必ず目に入ってくる「脱毛サロン」の広告。どの車両にも必ずひとつはあり、多いときにはすべてが脱毛関連のものであることも。そんな光景を異常だと感じながらも、また個人的に「わき毛ってめっちゃいけてる」と思いながらも、まわりの圧力を受けて主張できない時期が長かったと彼女は話す。
もちろん「毛は美しくない」という価値観があってもいいと思うのですが、「毛は美しい」という価値観も同時にあってほしいのに、そっちが全然見えない。
欧米のモデルなどがブランドのルックでわき毛を見せているのを目にする機会が増えてきた昨今でも、日本においては女性のわき毛が可視化される機会が少ないのが現状である。ちるちるちるが、それを大きな問題に思ったのは、本来生えてくるのが自然なはずの体毛を「価値のないもの」とする見方が日本社会で支配的で、存在しているに違いない、ほかの見方に覆いかぶさって見えない状態にしてしまっていることだった。
Photography: @sariokura
Model: @knjchr_
2017年12月にNEUT(当時のBe inspired!)は、わき毛を生やしている女性への撮影とインタビューを行ったオリジナル・フォトプロジェクト「私がわき毛を剃らない理由」を公開した。これに参加したフリーランスモデル美佳(みか)のインスタグラムの、同プロジェクトを紹介する投稿が、彼女の背中を押すことになる。
それを見た彼女は、「わき毛をかっこいいと思っていいんだ」と確信する。そして個人的に始めたのが「わき毛を生やしている女の子」の存在をまず知ってもらい、日本の美の概念への「静かな抵抗」として、毛に対するポジティブなイメージを作るための「わき毛プロジェクト」。写真やイラストだけでなく、今後は映像を使い発信していくという。視覚的な表現にしたのは、押しつけることなく「わき毛よくない?」という具合にメッセージを伝えられるから。SNSに載せて発信することも制作の大前提にあり、そうすることで顔見知り以外にも気軽に、わき毛を生やした女性のイメージをいくつか広められるのだ。
「知らない」がもたらすもの
間近に迫ったゼミ展に向けて現在制作中の、ちるちるちる。今回の展示では、わき毛を生やした女性を撮影した写真に加え、脱毛してしまった人もしくは袖のある服を着ていてもわき毛を見せたい人向けの「つけわき毛」という作品を発表するようだが、スーツ姿のビジネスマンが多く乗った電車の中での撮影を今後行いたいと話していた。
同プロジェクトを自身のインスタグラムで紹介するようになってから、「私も関わりたい」という連絡を受けることがある。実際に今まで被写体を務めた女性たちも、ちるちるちるがSNSを通じてモデルを募っていることを知り、参加したいと申し出たのだった。このプロジェクトは似たような価値観や問題意識を持つ人を集めることに加え、「脱毛しようと思っていたけど、別にしなくてもいいんだ」と思えるようになった女性など、作品を見る人や関わる人の意識を確かに変えている。
Photography: @sariokura
Models: @ellnml, @r_k_t_n_k, @knjchr_
彼女の作品を直接見るのは、彼女のまわりの美大生であることが多く、ちるちるちるに言わせると、彼らには比較的「新しい価値観」に寛容な傾向がみられるという。しかし男性から「女の人ってこんなにわき毛生えるんだっけ」と、どちらかといえば困惑したような反応もあった。筆者も、過去に男子校育ちの学生が「女性にすね毛が生えるなんて知らなかった」と話しているのを耳にしたことがある。知らないというだけで、物事に対する見方が異なるというのは、このことだ。それは女性のわき毛をはじめとする体毛が、社会的に“隠されてきた”からではないだろうか。
(男性だと、女性にわき毛が)そんなに生えてないってやっぱ思うんですね。見る機会がないからだと思うのですが、仕方ないっていうか。
美に対する“正解”がひとつだと思い込んでしまっている人たちへ
今でこそ、「わき毛の美しさ」を発信している彼女だが、高校生の頃には剃り残しがあったら「もう女じゃない」と思っていたくらいで、美大に入学したての頃には脱毛のカウンセリングへ足を運んだこともあった。
剃り残したって可愛いと思うんですよね。そんな必死に剃る必要はない。でもなんか、私も脱毛をしなきゃって過去にはすごく思ってて、全身脱毛のカウンセリングとか行ったり。あれって40万くらいするんですよね。高いな、でもお金貯めないとって思っていたんですよ。
何が身体的に美しいと思うのかと考えたとき、ひとつの“正解”といわれるものしか知らないでいると、それに少しでも自分が当てはまらない場合、自己を強く否定してしまうこともあるだろう。それは体毛に限った話ではない。たとえば、一重より二重のほうがいいとか、肌は色白のほうがいいとか、痩せてたほうがいいとか。
目が二重で色が白くって足が細いっていう人がもてはやされていて。まだ高校生とかだと、そうじゃなくてもいいんだって知る機会が少ないと思う。
彼女は美大に入って、人と違っても堂々としていたり、それぞれ多様な価値観を持っていたりする人たちと知り合えてから、考え方の幅を大きく広げられるようになったと話している。インタビューでも、「知る機会」は人を多かれ少なかれ凝り固まった考え方から解放するから大切だと、彼女は強調していた。多様な「美」に触れることのなかった人たちに、少しでもそんな機会を作れるように、ちるちるちるはこれからも「わき毛プロジェクト」を続けていく。作品をこの目で見たいという人は、ぜひ彼女のゼミ展へ。
武蔵野美術大学 津村ゼミナール展示
2018年12月6日(木)〜8日(土)
@鷹の台キャンパス9号館大展示室
「わき毛プロジェクト」を公開します!誰でも入場可能。