「1回も失敗したことがない人の下で働くのって怖いじゃないですか」13歳から企業を渡り歩いてきたCEO山内奏人(18)が、人生には“失敗”が必要だと考える理由|草野絵美とスーパーティーンの「わかってくれない親の口説き方講座」#005

Text: YUUKI HONDA

Photography: Kotetsu Nakazato unless otherwise stated.

2019.9.26

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現在6歳の息子の子育てをしているアーティスト草野絵美(くさの えみ)が、多方面で頭角を現した2000年代生まれのティーンエイジャーに、「自分の好きなことをどう見つけて、それをどのようにして突き詰めたのか」のストーリーを聞いていく連載 草野絵美とスーパーティーンの「わかってくれない親の口説き方講座」

第五回目の今回は、2001年生まれの山内奏人(やまうち そうと)と対談した。

山内奏人は、2016年にはウォルト株式会社(現ワンファイナンシャル株式会社)を創業した起業家。2001年に東京で生まれ、6歳のときに父親からもらったパソコンをを使い10歳から独学でプログラミングを始める。2012年には「中高生国際Rubyプログラミングコンテスト」の15歳以下の部で最優秀賞を受賞。2018年にリリースしたレシート買取アプリ「ONE」が大きな話題を呼び注目を集める。

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左から草野絵美、山内奏人

草野絵美は90年生まれ、80年代育ちで歌謡エレクトロユニット「Satelite Young(サテライトヤング)」主宰・ボーカルで、現在2012年生まれの息子を子育て中。自身が10代の頃は、国内外で多様なカルチャーに触れ、ファッションフォトグラファーとして活動していた。

▶️彼女の10代の頃についてはこちら

誕生日プレゼント代を前借りして機材を買ってもらった

草野絵美(以下、絵美):この連載では以前エンジニア・アーティストの会田寅次郎くんとご両親も取材しているんですが、奏人くんの小さい頃のことをお母さんの岡田裕子さんに聞いてるんです。寅次郎くんと仲が良かったんですよね。

山内奏人(以下、奏人):あ〜懐かしい! あとはトラックメイカーのSASUKEくんも出てますよね? 彼とも仲良くて。

絵美:なんだか嬉しいです。私自身は小学1年生の息子を育てている真っ最中なんですが、この連載で皆さんのような方がどうやって育ってきたのかを聞いて、子育てのヒントを得ると同時に、自分でも多くのことを学んでいます。10代の子や子育て世代の方になにかヒントが届いていればいいな。ではよろしくお願いします。

奏人:はい、よろしくお願いします。

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絵美:まずは小さい頃のことを聞きたくて。ご両親にはどんなふうに育てられてきたんでしょうか。

奏人:二人が僕の意思決定を尊重してくれるから、親との立場は対等なのかなと思ってきました。上から怒られたり褒められたりということはなかったかなあ。

絵美:プログラミングやストップモーションアニメを作るために必要な機材を買ってもらったり、その使い方を学ぶときは何かサポートしてもらったりしましたか?

奏人:機材に関しては誕生日プレゼント代を2回分前借りして買ってもらいました(笑)。使い方については図書館に毎日いたので、いろんな本を読んで自分なりに試行錯誤して学びました。

絵美:誕生日プレゼント代の前借りって面白いですね(笑)。何歳のときですか?

奏人:小学2、3年生ですね。

絵美:発想がすごいなあ。使っていたパソコンはご両親が使っていたものをもらったんですよね?

奏人:そうです。家にあったものをお下がりという形でもらいました。というか使わせてもらった。

絵美:そのパソコンがネットにつながっていなかったというのが肝ですよね。

奏人:はい。起動してもインターネットが使えないから、ワープロやエクセルで遊んでたりしてて、プログラミングもその頃に自然とやるようになってました。そのうちストップモーションアニメを作るようになったんです。あ、お父さんの誕生日を祝うためにストップモーションアニメを作ったんですけど、それを喜んでもらったのはよく覚えてますね。

絵美:これはアドラー心理学*1に関する本で読んで知ったんですけど、褒めるって行為はどうしても上から目線になるらしいんですね。だから子どもの行いを「よくやったね」と上からの目線で褒めるんじゃなくて、「ありがとう、とても助かるよ」と横からの目線で感謝する子育てがいいとその本には書いてあって。もしかすると、それをご両親が実践してたのかなと思います。

(*1)心理学者のアルフレッド・アドラーが築き上げ、のちに後継者たちが発展させた心理学の一体系を指す

失敗は人生を豊かにしてくれる

絵美:記憶にある最初の成功体験ってなんですか?

奏人:積み木ですね。積み木ってプログラミングやプロダクト作りとかにも似ていると思っています。目標を自分のなかに描いて、それを少しずつ積み上げていく。それができたときに自分の想像図とどれだけ近いか。それがもし違っていても、自分にとっていいものであればそれはそれでいい。

絵美:積み木の延長線上にプログラミングがあると。そのプログラミングを好きで終わらせずに突き詰めようと思ったのはなぜでしょうか?

奏人:んー、突き詰めようと思ったことはなくて。プログラミングをしていたらいつの間にかお金をもらえるようになっていたというか、仕事になっていたというか。

絵美:ではプログラマー以外にも会社員、研究者、アーティストなど選択肢は他にもありますよね。たくさんの選択肢のなかから起業するという道に行き着いたのはなぜなんでしょう。

奏人:実はいろんな会社で働いてたんですけど、あまり合わないなと思って。

絵美:そうなんですね。何歳の頃から働いてたんですか?

奏人:13歳です。

絵美:13歳! すごいなあ(笑)。

奏人:ある会社のサービスの立ち上げをエンジニアとして手伝ったのが最初の仕事でした。

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絵美:13歳だとバイトの求人にも応募できない年齢だと思うんですが、どういった経緯で?

奏人:誘われて、受けるか受けないかでしたから、「じゃあやります」ということで。その後も別の2社で働きました。15歳ぐらいの頃ですね。でもやっぱりしっくりこなくて。だから働きながら自分でもいろいろやっていたんですが、そのひとつが評判になって、それを機にある会社と提携したんです。そのときに法人格が必要になったので起業しました。

絵美:3社で働いてみた結果、自分で事業を立ち上げた方が性に合っていると気づいたということですか?

奏人:そうです。ただ外的要因で起業したので、自分の強い意思はそこにはあまりなかったように思います。

絵美:そうだったんですね。今話にあった起業を含めて、これまでにいろいろと経験されてきて、失敗も数多くあったかと思います。基本的に大人もそうですが、10代も失敗を恐れがちだと思うんです。奏人くんは失敗に対してどういう考え方を持っていますか?

奏人:難しいですね…まあ一般的には失敗はしないほうがいいですよね。でも、僕は失敗はしたほうがいいと思います。後になれば笑い話になるような失敗をしたほうがいい。失敗って人生を豊かにしてくれるんです。

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絵美:というと、どういうことでしょうか?

奏人:失敗の経験ってレジリエンス*2を高めるものだと思います。どんなに失敗しても「巻き返せる!」と思えるやつが一番強い。失敗したことがない人よりも、一回失敗して戻ってこれる人のほうが強い。だから信頼できる。例えば1回も失敗したことがない人の下で働くのって怖いじゃないですか。

絵美:確かに。なんというか、無常の精神というか、変化しないものはないという達観を持っていますよね。

奏人:そういう感覚を常に持っていました。小学生になるタイミングって価値観がすごく変わるじゃないですか。それまでは遊ぶことが正義だったのに、急に箱に詰められて座らされて勉強しなきゃいけない…それが怖かったり。そういう経験を経てからは、変化に対して自分がどう適応できるかを考えるようになりましたね。

(*2)「回復力」「復元力」「弾力性」とも訳される。ストレスなど外的刺激に対する柔軟性を表す言葉

ディスニーランドのような非日常体験を社会に実装したい

絵美:小学校に入学することに違和感を持たない人が大半のなかで、そうした変化に敏感にいられる奏人くんはすごいなと思います。そういった他人とは違う自分の特性はなんだと思いますか?

奏人:社内でも言われるんですが、僕は何かを完璧には作ることはできないんです。でも、10分の1ぐらいの完成度であれば僕より早くコードが書ける人はいないと言われますし、物事を考えるスパンは人より短いかもしれません。僕のメンタル面をサポートしてくれている人がいるんですが、その人いわく、僕ほど強いモチベーションで何か筋道を立てて物事を実現していく人はなかなかいないということです。

絵美:考えるスパンが短いのは起業家の資質だと思いますし、イメージを実現するための実行力もそうかと感じます。ご自身はパラレルアントレプレナー*3だと前におっしゃってたじゃないですか。

奏人:はいはい。

絵美:あれはすごく良い考え方だなと思っていて。起業家にはビジョンを持って邁進していくタイプと、次から次へと新しいことを始める人の2つにタイプが分かれる気がしているんですが、奏人くんはどちらも併せ持った新しいタイプだなと思います。

(*3)多分野の事業を連続・並行して立ち上げて進める起業家を指す

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奏人:新しいタイプなのかはわかりませんが、いろんな思考を柔軟に取り入れることは意識しています。いろんなことを同時並行した方が圧倒的に成果が上がるし、相乗効果でどちらのパフォーマンスも上がるという瞬間が時々あるんですよ。だからパラレルアントレプレナーって考え方は大事だなと。

絵美:分かります。わたしも音楽、アート、番組の司会やコラムも書いたりしてて、その全てが相乗効果を生むというか。あとはプログラミング言語を魔法の杖に例えたり、会社の名前が以前はウォルト株式会社だったり。そういうディズニーへのリスペクトやマジカルなものへの関心はどこから来てるんですか?

奏人:ディズニーランドが単純に好きなんです。あとは映画館も好き。僕は非日常体験をどうやって社会に実装していくかということをいつも考えています。

絵美:レシートの写真を撮影してお金に変えるという「ONE」の発想も、魔法やファンタジーの世界から着想を得てるんですか?

奏人:インスピレーションは受けています。ただ、発想の源になるのは世の中の歪です。それを見つけ出して、かつトレンドを把握して、世界の流れを組んだうえで体験に落とし込んでいるんです。

絵美:そのインスピレーションの受け止め方が違えば、アーティスト方面に行っていた可能性もありますか? そっちの才能があるかもしれないとは思わなかった?

奏人:うーん…僕の才能は目に見えないものなんです。例えば絵がめちゃくちゃ上手いとか、作曲がすごいとか、話術がすごいとか、そういう才能があれば別の職業に行っていたと思います。でもそうではないからこそ、僕にない才能を持つ人たちに仕事をお願いできる起業家になったんです。

「何かを失うこと」に対する恐怖心がない

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奏人:僕には非日常な体験を一人で届けられる才能はないけれど、だからこそそこに挑戦するのが面白いなと思ってるんです。非日常な体験を社会にどう実装するかと考えると、それこそ映画やアートという分野の方が向いていますよね。ファンタジーもフィクションも創造できる。でも、アプリやサービスを通して、そんな非日常な体験を実社会に実現できたらもっと面白いんじゃないかと。それを実現しながらビジネス上の数字もちゃんと伸ばす。それが僕の挑戦です。

絵美:素晴らしいと思います。そうやって好きなことを続けていくことに何か不安はありますか?

奏人:全然ないですね。失うものがないので。

絵美:そこが強いですよね。何かを失うことに対する恐怖心がないから。何かを失うかもと思って一歩を踏み出せない人も多い。

奏人:失敗したときに失うものってたかが知れてて、なんでそこまで恐れるんだろうって思います。極論ですが、行き詰まったら死んでしまうだけだと割り切って、そんなに深く考えない。

絵美:タフですよね。どう鍛えたんでしょう?

奏人:18歳にしてはかなり濃い経験をしてきているので。そういう意味だと同世代よりは苦労してると思います。例えば16歳のときに、やりたいことがあったから数千万の借金をしたとか。

絵美:事業への投資ですよね。しかし16歳で数千万…ご両親はそのときなんと?

奏人:相当悩んでいたと思います。母には最後まで反対されましたし。でも、最後にはやらせてくれました。

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絵美:やりたいことがあったときに親を説得するのって、子どもにとっての課題なのかもしれませんね。そんな子どもの頃に接する大人って、普通は先生か親だと思うんです。だから学校や家が世界の中心ですよね。奏人くんはその外に自分の場所を作ろうとされたりはしましたか?

奏人:楽しそうな場にはすべて顔を出してましたね。スタートアップの勉強会でもなんでも、誘われたらとりあえず行ってました。まあ暇じゃないですか、学生時代って。学校も外も、どちらも楽しかったです。

絵美:その学校生活について聞きたいんですが、周囲から浮いていると感じたことはありましたか?

奏人:全くなかったですね。プログラミングを学んでいた友人はいなかったんですけど、同じ人間じゃないですか。同世代だし、興味のあることも変わらないから。

絵美:へえー。今までインタビューしてきた人はいい意味でもクラスメイトと違うと感じていたと言っていて、その違いが自身のアイデンティティになっている人もいました。そういうことは奏人くんの場合はないんですね。

奏人:そういうのがなかったのでアーティストとかは目指さなかったのかなと思います。

絵美:でも会社員も目指してない。一歩進んでますよね、何事も経験しておこうというか。では最後に同世代の若者に何か影響を与えたいと思ったりしますか?

奏人:一緒に戦っていこうよってムーブメントは作っていきたいですね。今までは上の世代が戦ってきて、僕らはそれを見てきたんですけど、「これからはそうじゃないよ」「僕らが戦いにいくタイミングだよね」ってことをメッセージとして発していきたいなと。

絵美:例えば解決したい課題があるとか?

奏人:めちゃくちゃ課題はありますよね。僕が特に解決したい課題があるというわけではないんですが、いろんな事業を通して感じたことが、今はエンターテイメントが圧倒的に枯渇している時代だなということなんです。ストリーミングサービスとかいろんな選択肢は出てきているけれど、思わず笑っちゃうような非日常の体験がエンターテイメントとして楽しめる機会はまだまだ少ない。なのに寿命が伸びているから、次第に暇すぎるから死ぬという人が増えるんじゃないかな。そう思ってます。

絵美:暇で死ぬ…興味深い考察です。

奏人:だからこそコンテンツの価値は上がっているし、NetflixやAmazonがあれだけお金をかけて映画やドラマを作っている理由がそこにはあるんじゃないかと思います。

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絵美:うーん、面白いなあ…どうですか、うちの子を一日ベビーシッターするならどうやって遊んでくれますか(笑)。

奏人:なんだろう(笑)。…あ、経営のゲームとかいいかもしれない。経営って1人じゃできないんですよ。世の中の流れを把握しながら自分が打つべき手を考えるので。子どもだけで20人ぐらいのグループを作って…。

絵美:子どもだけで小さな株式会社を作る!

奏人:そんな感じですね。

絵美:それ絶対楽しいと思うなあ。

次なる非日常へ

去年の6月、初めてレシート買取アプリ「ONE」の存在を知り、レシートがお金になると聞いたときには何も想像がつかなくて、すぐにアプリをダウンロードした。実際にレシートがお金に変わったときは不思議な気分になったし、あれははまさに日常から非日常へのトリップだった。

何がなんだか分からなくて呆気にとられてしまい、「今、なんかすごい体験をしたんじゃないか?」と少し笑ってしまったことをよく覚えている。

次の非日常はどんなものになるんだろう。今から楽しみでならない。

それでは、次回の連載もお楽しみに!

山内奏人(やまうち そうと)

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2001年に東京で生まれる。6歳のときに父親からパソコンをもらい、10歳から独学でプログラミングを始める。2012年には「中高生国際Rubyプログラミングコンテスト」の15歳以下の部で最優秀賞を受賞。2016年にはウォルト株式会社(現ワンファイナンシャル株式会社)を創業。

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草野絵美(くさの えみ)

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90年生まれ、80年代育ち。アーティストで、歌謡エレクトロユニット「Satellite Young(サテライトヤング)」主宰・ボーカル。2012年生まれの息子の子育てをしながら、イベント登壇やCM出演など、多方面で活躍中。

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