大人が若者の話を「聞く」ことの大切さ。ベイン理紗が畑を始めるにあたって手を差し伸べてくれたFARMERS AGENCYの元社長・西川幸希との対談|FEEL FARM FIELD #003

Text & Artworks : Lisa Bayne

2022.5.17

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こんにちは、ベイン理紗です。
この連載「FEEL FARM FIELD」では東京で活動をしている私が山梨に畑をもつ中で出会う人についてや発見を綴っていきます。
「FEEL(五感を)FARM(農から) FIELD(広げていく)」という意味を込めて、3つのキーワードをもとに、知らなかったこと・知りたいこと・分からないことに愚直に向き合うことの楽しさ、面白さをお届けします。
この記事を読みながら、頭と身体で五感や繋がりを感じること、日々転がり落ちている興味を拾い上げてみることを一緒にできたら嬉しいです。
それぞれの頭も身体も心も、それぞれのものでしかないのだから。

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GWが終わりはや1週間、日本はそろそろ梅雨に突入する頃ですがみなさんいかがお過ごしですか?私は畑を持って1年が経ちました。ヒャッホー!とは言っても、まだまだ自分が食べているものがどのように私たちの元に栄養として取り入れてるかについては未知だらけ。今後連載で紹介するある養鶏場にある畑で先日播種をしてきました。

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今年の畑作業は大まかに分けると2種類の栽培方法で野菜を比べてみようかなと計画中です。無事収穫できたらみんなに配り歩きたいな〜と思って。去年の教訓を生かして、育ってくれることを期待!(去年の収穫がうまくいかなかったことについての記事はこちら

連載#003では、五感の「聞く」をテーマに私が食に興味を持ち畑を持つまでの流れで出会った場所の紹介や、私が畑を始めるあたって助言をたくさんくれた「株式会社FARMERS AGENCY」の元社長である西川幸希(にしかわ こうき)さんへのインタビュー、そして、私が食を知ろうと畑に興味を持つ中で教えてもらったこと、畑を持って1年経った今考えていることについて綴っていきます。学んでいくなかでたくさんの先輩から話を「聞く」ことをしてきました。この記事では少しでもそれをみなさんと共有できればと思います。

ところで…世田谷の松陰神社近くにある「イエローページセタガヤ」というスペース、知っていますか?
なんとここ、お昼は八百屋で夜は居酒屋という場所なんです。

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credit: 表 萌々花(左上)、イエローページセタガヤFacebookより(右下)

お店に行った人はすぐにわかると思うのですが、実はここ、色とりどりの野菜を詰め放題できるという楽しいショッピングプランがあるんです。野菜たちは産地直送で、私が実際に足を運んだことのある農園さんもあれば、都内で有数のビストロで使用されている農園の野菜も置いていたりと、食通の中でもよく知られている野菜たちばかり。実は皆さんも口にしたことがあるかも…?

そんな背景を考えながら、どんな栽培方法でどこからやってきたかよくわかる立派な野菜を自分で選んで自分で詰められるってなんだかワクワクするので、私の大好きなお店の1つです。そんななかでも特に好きな理由は、都心なのに実家にでも帰ってきたかのような優しいアットホームな出迎えをお店がしてくれるところ。無駄な包装もなく、値段ごとに用意された袋に自分が食べる分だけ、自分の欲しいサイズだけを選んで袋に詰められるところも好ポイント。なかには詰め放題の袋を再利用してくれるお客さんもいるんだって。

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credit: 表 萌々花(イエローページセタガヤ提供)

なぜこの場所の話をしているかというと、0siteのファウンダーで友人の憲正に畑を始めたいと言って、連れてきてもらった最初の場所がイエローページセタガヤだったから。その時から、お店に入る瞬間の優しいアットホーム感はまったく変わらず、私のスタート地点と言っていい場所でもある。
そうして初めてこのお店に行って話したのが、西川幸希さんだ。憲正が食について学ばせてくれる場所に導いてくれた人だとすれば、幸希さんはいわば門を開けてくれた人かもしれない。イエローページセタガヤで「食について知るために畑をやりたい」と話を始めたらすぐ「その理由と経緯を順序よく説明してくれるかな」と聞いてきてくれた。メモとペンを用意して真っ直ぐと私の話を聞く準備をしてくれた幸希さんを見てドキッとしたと同時に、しっかりと自分の言葉で向き合おうと口を開く事ができた瞬間だったことをよく覚えてる。そうしてその時話した結果、今の私があるのだ。

ではそもそも、幸希さんは野菜を通してどんなことをしている人物なのか?イエローページセタガヤに店番として立っているのを見たことがないし、山梨に行けばいるにいちゃん、というイメージ。そして、私が知っているのは、彼が私のような東京で過ごしながら食に興味を持つ若者たちに場所を作ってくれる人である。幸希さんは何をしていて、何考えてるのかよくよく聞いてみると、10年前の彼は東京にいたらしい。

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初めてイエローページセタガヤに伺った2021年4月

そんな幸希さんは、かつて社長を努めていた株式会社FARMERS AGENCYを経て、現在は山梨の農家と共に一般社団法人の設立に向けて準備中。株式会社FARMERS AGENCYを立ち上げてから今日に至るまでのことについて、イエローページセタガヤでインタビューした。

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FARMERS AGANCY 元代表取締役の西川幸希さん

ーFARMERS AGENCYは具体的に何をしてる会社なんですか?

もともと10年前に三鷹でサラリーマンをしてたんだけど、営業力に手応えを感じて次の転職を考えていた時に野菜で何かできないかなと思ったのが最初。もともとは野菜とか全然興味なかったんだけど。それで2年くらい地産地消という形で自分で営業とか売買をし始めたのがきっかけかな。そこから地域おこし協力隊制度で山梨に行って、本格的に農業に携わろうって。

ーなんで三鷹で野菜に目をつけたんですか?

三鷹に結構農家さんが多かったんだけど、その中でもキャベツ農家さんのキャベツがめちゃめちゃ美味かったってだけなんだけど。ウォーターサーバーの営業で成績1位取って支店長にもなったけど、そんないい仕事じゃないなって当時思ってて。1位を取っても支店長という地位をゲットしても、それが本質的に人を喜ばせることができてるかって言ったらできてなくて、満足してなかったんだよね。そう思ってる時にコインロッカーで売ってたキャベツを買って食べたらそれがめちゃめちゃ美味かった。キャベツって売りつけても誰も損はしないし、これだ!ってなった。それがきっかけかな。

ー草刈りの手伝いなどもしているそうだけど、 FARMERS AGENCYの業務として成立し始めたのはいつ頃から?

山梨に行って、周りに声をかけ始めてからすぐだったかな。最初は1,2件だったのがいつの間にか10件になってて。販売自体はそれぞれの地域で方法変えながらしてたけど、イエローページセタガヤと一緒に販売していこうと形になったのはここ最近の話(イエローページセタガヤは2020年に始まった)草刈りの手伝いとかの仕事に関しては、農家さんが農業っていう仕事をもっとやりやすくするために自分たちに何ができるかをテーマにして考えていったらそうなった。農家さんって1日にやらなきゃいけないことが五万とあって、社員がいない一人社長みたいなもの。営業もやらなきゃいけないし、梱包や配送もしながら畑も見なくちゃいけない。それなら単純作業って外注できるよね、って。そうすれば農家さんに時間ができる、それで時間ができると畑で育つ野菜に集中して気を使うことができる、そうすれば収穫が増えて売り上げが上がる。販売に関していうと、袋詰め作業っていうのがなくなるぶん、いい値で買い取れて、販売先の野菜の単価も良くなる。だから販売を第一優先にこちらも考えられる。生産補助、物流代行、販売代行、その三本柱かな。

ー農業ではなく、補助や代行へ移ったのはなぜ?

2年研修・2年就農を通して、自分は農家じゃなくて農業ビジネスをやりたいなと思って。実体験で農業をやってたから言えることだけど、「農家さんすげえな」「これやれてる人たちすげえな」って(笑)。

ーいや、そう思いました。さやえんどう収穫を手伝いに行った時、農家さん夫婦二人で車ガンガン移動しながら動きまくっててすごいなと思って。大量のさやえんどう畑、私は1列を収穫するのに1時間半くらいかかったのに、30分くらいで終わらせてるんですよ。

そうなんだよね。動かないとどうにもならないからね。農業に関しては絶対ショートカットできないから。それを思い知ったからこそ、農家さんがどれだけスムーズに動けるかっていう方に目が行った。

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伊藤農園さんの収穫と集荷を手伝わせていただいた日。2021年の5月ごろ。

ーFARMERS AGENCYに関わってる人はどれくらいいたんですか?

10人くらいかな。最初は俺含めて3,4人だったけど少しずつ案件が増えたり横のつながりも増えたりして、人も増えていった。

ー手伝ってる農園さんはいくつくらいあるのか?

生産補助は伊藤農園さんっていう山梨県の農家さんだけで、物流代行で4,5件かな。

ーなんでこういう形の運営を選んだんですか?もっと大きくしてビジネスにして利益中心でもできるはず。幸希さんは過去に営業1位を取ってるなかで、世田谷区っていう場所でローカルを大切にしたり、挑戦する若者を巻き込んでくれたりして運営してる理由は?

FARMERS AGENCYは農家さんの農業っていう仕事を変えたいからやってる。そのためには、消費者を動かすっていうこともやらなきゃいけないと思ってて、それを企画段階のベランダファームで実践してみたりとかプラスヤオヤで野菜を売ってみたりとか、生産者と消費者の両者をつなぐ方法として間に入ってる。どんどん好きなことをやっていきたいし、価値あることをやっていきたい。だから結構長い時間が必要だと思ってて、それをしていくには若者の方がわかりやすいんだよね。話が通じる人が若くて活発な人が多く必要で、自己投資しながらやってくれるっていうことかも。

ーでは、0siteの憲正とはどうやって出会ったんですか?

確かイエローページセタガヤにたまたまふらっときた憲正ってやつがいて農場分野で今度やって行きたいっていうのを聞いたんだよね。今はどこかで就農してるとかなんとかって。で、会った時に山梨でやったらいいんじゃない?って言ったんだよね。1時間くらいしかその時は喋ってないんだけど、1週間しないうちに来て、そこから今もずっと交流がある感じかな。

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幸希さんと憲正

ー幸希さんは若者の挑戦や行動にすぐ反応して導いてくれる。なんでそんなにわたしたちに手を差し伸べてくれるの?

なんだろ、世の中が結構面白いからかな(笑)。面白いなって思う人といると、面白いと思うことが増えた。俺自身がこの歳で起業して色々できてるのも、その時いろんな大人に助けられたからだし、助けるのは当たり前だなって思う。ただ20代ってまだまだインプットアウトプットが多い世代だからもちろん最初はサポートするけど長い目で見ながら、そこから先は自分で挑戦してほしいと思ってる。すごい時間かかるし挫ける人もいるだろうけど、でも人生挑戦してる方が絶対いいと思うしそれができる人自体すごく少ない。そういう中で自分の考えと行動力に納得していければ、それが結果になって道筋ができてると思うんだよね。

ー私、幸希さんに出会うまでずっと「大人は怖い」と思っていて。いろいろな出会いや経験を通して自分の活動を通しても「手を差し伸べてくれる=利用される」って思考回路になってたんですよね。なめられたくないし見くびられたくなくて、厚い殻の中に身を潜めて動いてる感覚。でも幸希さんと出会ってちゃんと話を聞いてくれて、押田さんや綾乃さん(FARMERS AGENCYやイエローページの方々)と出会って、こういう人いるんだ、こういう大人の人っていたんだってなりました。ちゃんと接してちゃんとみてくれるんだ、って。それから少しずつ、成長できてるような気がしています。

俺らの時代って、世の中的にも社会資本的にも限界が見えてるのがバレバレなのに、必死に勉強でもなんでもちゃんとやれ、みたいな感じだった。もう無理なのに「頑張れ」って。上の世代がまだ酔ってるところを冷静にみて区切りをつけた年代でもある。そういう意味ではみんな同じ世代だな。俺らの防波堤みたいな部分に古い考え方だったりしきたりが上の世代から入ってきたけど、そもそも助け合うことが一番いいし意識的にも感覚的にも仲間と好きなことをやっていくっていう感じかな。

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試作プロジェクト「ベランダファーム」にて。左からのまゆこさん、ベイン、0siteの憲正、幸希さん

ー今後のビジョンとしてはどういうふうに考えてる?

ずっとやり続けるだけだよね。ゴールとしては、地方でも普通に生活できるようになること。農業でもなんでも、カルチャーが地方にまで行き届いてたらいいな。田舎でも普通に楽しく生きれるよねって言いたい。上京ってさ、そもそも何かを持って行くというか、夢を叶えられるって感じがするじゃん。でもその夢自体が東京に本当にあるのかっていうと、そうでもない。そもそもじゃ何がしたいのか、っていう結構シンプルなとこが大切だと思うんだよね。自分の能力を使って、人に喜んでもらうとか、好きなことやってお金を稼げるとか、シンプルなところに落ち着く。そしたらそんな東京である必要なんてない。ほしいものはネットで買える。ていうことは本来やることがあるのに、東京は家賃も高ければ物価も高いし、ライバルがめちゃくちゃ多い。闘ってる場所って本当に東京じゃなきゃダメなの?っていう中で社会的にも資本的にも次のフィールドって地方なんじゃないかなと俺は思う。

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0siteにて。0siteファウンダーの憲正、幸希さん、榊風人くん

幸希さんは現在、山梨の農家さんと共に一般社団法人設立に向けて動いていて、同年代から若者層と共に地方と東京をつなぐビジネスをする場所作りを企画中。

畑を始めて早1年。いままで関わることのなかった人が今ではまわりにたくさんいる。言葉を聞いてくれる人、意見をすくい取ってくれる人、耳を傾けてくれる人、自分のために身体と時間を使ってくれる人、失敗や試行錯誤を見守ってくれる人。その中でも私にとって大きかったのが、耳を傾けてくれる人の存在だった。

幼少期から納得いかないことがあれば断固として受け付けず、特に算数や数学などでルールの決まっている方式で答えを出すという行為が私は心底苦手だった。
「なんでこの方式でなくてはならないのか?」という問いに対して「そういう形で決まっているから」という答えが嫌すぎて、オリジナルの順番を作ろうにも答えにならず、私の算数・数学の頭は小学校4年生で止まっている。

私の問いに対して学校の先生や家族から返ってきた答えがあまりにも印象強く人生のエピソードに刻まれ、いつしか、「大人なんて…」と思うようになっていたと思う。
そんな塵のようなエピソードと思考が丹念に積み重なったり、不条理な経験が幾度と増えていくうちに、誰かに助けを求める、疑問を投げかける行為をやめてしまっていた。誰も聞いてくれない、と決めつけていたし、事実そのような経験を身近なコミュニティの中でしてしまったからだ。

でも振り返って考えていくと、むしろ関わりを持たないようにしていた私自身がいたこと、私自身が聞くという姿勢をとっていなかったことに気付いていった。それに気づくきっかけが、畑を持って食について知りたいと、憲正に連れられて幸希さんに会いに行った時だった。
ノートとペンを持って真っ向で話を聞いてくれただけでなく、畑の現実と厳しさ、幸希さん自身のプロフィールを自ら話してくれたことが、救いになった。
その後、ベランダファームという試作プロジェクトを通して「(家)」を運営するまゆこさん、初めて山梨へ降り立った時にお世話になった「いとう農園」のご夫婦、のちの連載で登場する養鶏農家の「ROOSTER HEN HOUSE」や「鶏は泥から」など、憲正や幸希さんを通して出会う人と関わりを持つことを知っていった。そして「NEUT Magazine」のように、ニュートラルな立場から誰かの意見を尊重してくれる場所、声を出す場所を提供させてくれる人がいることを教えてもらった。

見てくれる人は絶対的にいる、聞いてくれる人も絶対的にいる。
それに気付くまで時間もかかるし、苦しいことだってあるかもしれないし、私のようにそれに気付かず殻に閉じこもって視野が見えなくなってしまうことだってあると思う。それでも疑問を持つことや悔しいと思いながら日々を過ごすことをやめてしまうほど、つまらないことはないと思う。

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credit: Futo Sakaki

誰かの意見を聞くこと、言葉を聞くことは自分が思っている以上に自分にも誰かにもパワーを与えているということ。その反対にパワーを消し去ってしまう力があることを改めて考えるきっかけになると思う。
この記事を読んで、幸希さんをはじめ0siteやイエローページセタガヤ、(家)を訪れてみたいと思った人は是非チェックしてみて欲しい。

今回は、連載の折り返し地点であり、畑を始めて1年ということで、改めて「聞く」ことを通して振り返ってみました。

そして次回は、実はもう1つ畑作業をさせてもらっている「ROOSTER HEN HOUSE」そして「鶏は泥から」についてと、収穫した野菜のプレゼントキャンペーンを企画中です。ここまで記事を読んでもらった方はご存知かもしれませんが、前回の夏の収穫失敗から学んでまた違う栽培方法をおこなった野菜を育て中です。収穫に成功したら、ぜひ誰かにプレゼントしたいなと考えています。しばしお待ちを!
梅雨が明けた頃、また更新します!

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