初めに教えられたのは「油や食べ残し」を流さないこと。下北沢で48年続く、時代に媚びないレストランバーMother|Fork and Pen #004

Text: yae

Cover: Shiori Kirigaya

Photography & Illustration: yae unless otherwise stated.

2020.12.22

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こんにちは、yaeです。

この連載「Fork and Pen」では、食や環境に対する疑問のヒントをくれそうなレストランや友人を訪ねて、身近にある“食の選択肢”について学んでいきます。今回は私が普段働いているレストランバーの取り組みや、そこで無意識のうちに教えられた、環境に対する考え方について綴ります。

▶︎この連載を始めたきっかけについてはこちら

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yae
Photography: Shiori Kirigaya

無意識のうちに教わっていたこと

約4年間の留学を終え、生まれ育った東京を以前よりも客観的な視点で見ると、日々捨てられるものが多い街だと気が付いた。便利で捨てやすいことを謳い文句に大量に消費される「使い捨て」の商品や、ビニール袋やプラカップ、野菜の包装など、普通に過ごしているだけで、異常なほどゴミが出るのだ。そのことに対しての違和感と、何もできない無力さを感じていたのは、この連載を始める前のこと。「環境問題」や「自然破壊」、「エコ」や「サステイナブル」という言葉を知っていても、本質的な意味を自分なりに理解するには、少し時間がかかった。言葉の響きだけでは問題の規模が大きすぎて実感が湧かず、何をどうすればいいのかもわからず、意気消沈していたのだ。

連載を始めるきっかけのひとつになったのは、個人としては初めて、フードトラックで食を提供する側になった去年の出来事。なるべく捨てるものをゼロに近づけるのが、そのときの目標であり、イベント後の反省でもあった。そんな考えに自然と導いてくれていたのは、2年前に出会った「Mother(マザー)」というお店で、知らず知らずのうちに教わっていた沢山のことだった。

長く続いているお店ならではの習慣

Motherは下北沢で1972年に創業したレストランバー。オリジナルレシピの多国籍料理の豊富なメニューが楽しめる。おおよそ20年前までは「Rock Mother(ロック マザー)」という店名で、レコードでロックミュージックを流すバーだった。オーナーの千鶴子さん(以下、ちーさん)が20代でお店をオープンし、その後娘の春奈(はるな)さんが店長としてお店に立ち、48年続いている。

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店長の春奈さんとオーナーのちーさん

わたしが春奈さんとの出会ったのは、以前下北沢のカフェでアルバイトをしていたときだった。Motherには外国人のお客さんが多く、英語を少し話すことができたわたしは声をかけられ、「働くのどう?」と言われた次の日から、Motherで働くことになった。中学生の頃から遊びに来ている街で、わたしが生きているよりもずっと長くあるお店で働くことは、光栄である気持ちと同時に、少し変な感じだった。

初出勤の日に教えられたことは、「油や食べ残しを下水に流さない」ことで、その日に任された主な仕事は、「裏紙を使いやすい大きさに切る」ことだった。舞台芸術の文化が行き交う下北沢では、演劇のチラシ、ライブのフライヤーやポスターが常にお店に置かれている。それらの日付が過ぎたものを、そのまま処分してしまうのではなく、Motherで使う「用紙」として再利用するのだ。売り上げ金などを入れる封筒、お会計の際に金額を書くもの、メモ帳、油や食べ残しをゴミ箱に入れるときに使うものなど、それぞれのサイズに切れば、メモ帳や封筒やキッチンペーパーを購入する必要もない。日付が過ぎたとはいえ、頂いたフライヤーをそのままゴミ箱に捨てるよりも、ずっと気分がいい。

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裏紙でつくった封筒やメモ帳

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お皿に残った油などを裏紙でゴミ箱に落としている様子
Photography: Shiori Kirigaya

工夫して再利用をすることは、オーナーのちーさんにとっては特別なことではなかった。使い捨てが最良な選択だとは考えないご家庭で育ったからこそ、お家のなかでの習慣がそのまま、お店としてのルールとなった。そして、世代を越えてわたしたちスタッフにも身に付いている。

廃材が再利用されている店内のインテリア

ゴミ箱に捨てられてしまうものだとしても、工夫をすれば長く大切に扱うものになる。廃材などを主にリユースしていて、Motherそのものをインテリアでも表現している。

おおよそ30年前にちーさんの友人のアーティスト、サンキストさんによって作られた現在のMotherは、身の回りにあるものを使用して外観と内装が作られているのだ。

もともと電柱だったものが内装のアクセントになっていたり、壺だったものが外壁のタイルとして使われていたり、壁には瓦を使っていたり、神社の梁(はり)*1に使われていた部分はカウンターの腰掛けになっている。それらの存在感に圧倒されるだけではなく、使われている材料にも驚かされる。アルミニウムや銅板、ガラスなどを溶かして型を作ったり、形を変えれば無限の可能性があることを教えてくれる。

(*1)構造物の重みを支えたり固定したりするための水平材

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フードロスを出さないようにするために

フードロスと聞くと、スーパーなどで大量に捨てられる惣菜や野菜が頭に浮かぶけれど、身近な飲食店でも日常茶飯事に沢山の食材が捨てられてしまうのが現実だ。沢山のオーダーが入るのは嬉しいことだけれど、お客さまに食べ残されてしまえば、結局は食材を捨てることになる。オーダーを受ける際には、量の多さなどを確認するようにして、食べきれる量を提供できるよう心がけている。

野菜はなるべく皮も茎もギリギリまで食べられるところを使うようにする。例えば、パクチーの葉の部分を料理の最後に飾り、茎の部分は細かく刻み、料理の隠し味として使うなど工夫をする。他のお店と比較すれば小さめな冷蔵庫だからこそ、仕入れも必要以上にはせず、仕込みを最小限にして調節することで、フードロスを出さない。

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沢山の注文が入るのは嬉しいけれど、食べ残されてしまうとき…

捨てるものをもっと減らしたい

使い捨てのプラスチックストローは機能としては使いやすく、黒のストローで見栄えが締まり、Motherでも欠かさず在庫を揃えていた。ドリンクレシピの多くのものに「ストローを付ける」とマニュアル化していたし、ソフトドリンクにも必ずストローを刺して提供していた。

「無くても飲めるものなのに、ストローは必要か?」という疑問と、そう思いながらもストローを刺し、使い終われば捨てることを繰り返すことへの罪悪感が苦痛だった。Motherのなかで、さらに使い捨てを無くしていきたいと、春奈さんに相談をすると、今日からでも変えられることしようと、すぐに考えてくれた。

飲むときにストローが必要な、ドリンクレシピを見直すところから始めた。お店にあったプラスチックストローの在庫を使い切り、その後様々なストローを試し、今はステンレスの繰り返し洗って使えるストローを使用している。

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ステンレスストロー

この連載「Fork and Pen」で最初に取材をさせていただいた、「Sustainable Kitchen ROSY(サステナブルキッチン ロージー 以下、ROSY)」で学んだことも参考にしながら、私生活から意識して、お店で必要なものを見直した。わたし自身、使い捨てのおしぼりが飲食店に置いてあっても、それを使わず手を洗いに行くことの方が多い。それまでMotherでも簡易的なビニール袋に梱包された紙おしぼりを当たり前のように出していたけれど、実際には必要ないのではないかと考え、それも出さないことになった。

使い捨てプラスチックの削減

捨てるものを減らすための見直しをするなかで、プラスチック素材のものを使うことを減らすことも、Motherでより一層意識するようになった。今までは、テイクアウト用にプラスチックの容器とビニール袋を使っていたけれど、バガスパルプ素材*2のものに変更し、必要な方には紙袋に入れてお渡しするようにしている。

(*2)燃料として使い切れず廃棄されてしまうことが多いさとうきびの搾りカス(バガス)を使った生分解性の素材。対応した環境であれば90日程度で分解され自然に還る。

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テイクアウト容器

仕込みの際のラップやジップロックを使う数を大幅に減らし、買い出しの際にビニール袋を貰わないことはもちろん、お店のなかでも、必要なとき以外はビニール袋を使わないように努めている。ペットボトルや牛乳パック、キャップやトレーなどは洗浄して乾かし、リサイクルボックスに必ず持っていくのがMotherでの習慣だ。

ひとつの街の、ひとつのお店だからこそできることをすることが、店から人へ、そして未来へと繋がるステップなのだ。オーナーのちーさんの人柄や、大切にしている部分が、こうしてお店のなかで繋がっている。

ROSYでの取り組みの話や、おしぼりのことを春奈さんに話し、理解をしてくれたのは、彼女自身がイギリスで6年、8ヶ月をスペインで過ごして幅広い価値観に触れた後、グランドハイアットでもバーテンダーなどとしての現場での経験を持っていたことがとても大きいのだと思う。

春奈さん自身も、自宅でコンポストをしてみたり、歯磨き粉や食器用洗剤を作ったり、私生活のなかでできることから実践して、お店でもできるようなことがあれば考えている。下北沢の街でのポイ捨てが気になり、一緒に下北沢のクリーンアップを行ったこともあった。彼女はMotherの店長という立場を超えて、お店のことだけではなくこの街のことを考える一人としての意識を持たせてくれる。

ビーガンメニューの展開

「お肉を食べないことがもっとフラットなことになってほしい」と話すちーさんは、旦那さんが牛肉や豚肉など赤身のお肉を食べないこともあり、当初から提供する料理のお肉抜きなどの変更は対応していたという。世界各国を飛び回り、様々な食文化に触れる春奈さんの妹の暁奈(あきな)さんから、せっかくならもっとわかりやすく「ビーガン」とメニューに表記したほうがいいと助言を受け、約7年前から動物由来の食材を使わないビーガンのオプションを増やしたメニューに変更した。

子育てをしているときに、市場に出回る添加物が気になり、なるべく自然なものを食べられるようにと意識するようになったちーさん。精進料理や東南アジア料理など、なにかジャンルを決めて料理を楽しむことが、もともと好きだったという。そんな風に料理をする時間は、無心に考えることができたりアイデアが出てきたりする、彼女にとってとても大切な時間なのだ。

メインディッシュで肉料理を出しているわけでもないMotherが、わざわざ肉を使わなくてもいいのではないかと考えるちーさん。ビーガンだとメニューの選択肢が減ってしまうのではなく、お肉を食べる人、食べない人など関係なく、美味しく食べられるビーガンの料理であればいいだけだ。もしかすると、今後のMotherはお肉を出さないお店になっているかもしれないほど、変化の可能性は無限に広がる。

「今日のまかないはビーガンの料理を作ってみたよ」など、普段からビーガンの話をするスタッフがいる飲み屋は珍しいだろう。時代とともに向き合う様々な葛藤を、楽しさとして捉えるちーさんに周りの人は影響され、気がつけば協力し合う。

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根菜をお肉に見立てたビーガンボロネーゼ

「地球に住む自分たちのため」に繋げていくこと

街もお店も人も、時代とともに変化がある。わたしが働き始めてからも、Motherは使い捨てのストローの使用やおしぼりの提供をやめたりビーガン料理をさらにメニューに加えたりなどしてきたけれど、けっしてトレンドや流行に左右されているわけではなく、古く新しく、感覚的に必要だと思うことを実践し続けている。こうして、ここに訪れるお客さまとスタッフみんなでお店を繋いでいる。

なんでもない日でも、ここに来れば安心する。Motherに絶えずたくさんの人たちが訪れるのは、いつの時代でも、世代が違えど、この街が好きだからこそ、街として、店として、人として、そしてこの先の未来を、良くしたいという想いがあるからなのだと思う。何か悩んだときには、一緒に考えて行動に移してくれるオーナー、店長、スタッフのいるMotherは、わたしにとって第二の家族のような存在である。

安心できるような場所であったり、楽しい体験ができる場所がある。ここに来る全ての人、それぞれのキャラクターやエネルギーが交わってできているのがMotherなのだ。

「地球のため」というよりは、「地球に住む自分たちのため」に、今日やこれからの選択肢を考える。手間がかかることも習慣となれば、同じように未来でも、今と同じ楽しさや喜びを共有できるのではないか。好きなものを選ぶことができる大前提に、地球があるということ忘れてはいけない。

Mother

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住所:東京都世田谷区代沢5-36-14
電話番号:03-3421-9519
営業時間:平日16:00〜0:00
土日祝14:00〜0:00
現在は営業短縮要請のため22:00閉店

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yae

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1997年東京生まれ。ニューヨークの高校に留学していた15歳〜19歳の間、人との出会いを大切にしながら、さまざまな文化や価値観に触れる。今は、現代の「もの」のあり方を改めて考えるきっかけを作れるよう、自身の表現方法を探索中。シンガーとして都内を中心としたミュージックイベントに出演したり、アートワークの展示をしたりしている。

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Photography: Shiori Kirigaya

 

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