「もう一度、ちゃんと『おいしい』を取り戻したいですね」食という“最大のエンターテイメント”を仕事にしたフードディレクター土屋きみ|Fork and Pen #005

Text: yae

Photography: Takanobu Watanabe unless otherwise stated.

2021.1.12

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こんにちは!yaeです。明けましておめでとうございます!
この連載「Fork and Pen」では、食や環境に対する疑問のヒントをくれそうなレストランや友人を訪ねて、身近にある“食の選択肢”について学んでいきます。

▶︎この連載を始めたきっかけについてはこちら

自身のフードブランド「NEW YOLK(ニューヨーク)」の運営や、洋菓子店「Chez Mikki(シェミッキ)」の自宅で楽しめるお菓子作りキットの企画をはじめ、「おいしい」と「エンターテイメント」を切り口に、食に関するイベントやケータリング・店舗・商品のプロデュースを行うなど幅広く活動するフードディレクターの土屋きみさん。

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左から土屋きみさん、yae

彼女が2020年秋に行っていたのは、卵を産まなくなった養鶏場の鶏たちの命を“最後までおいしくいただく”ことを目標とする「鶏革命団」の活動の一貫で開発した商品「黄金の鶏ガラスープ」の安定した供給を目指すクラウドファンディング。そのページを読み進めた私は、小さな養鶏場が直面するショッキングな事実と、食の楽しさを伝えながらプロジェクトに人々を巻き込んでいくきみさんの姿を知りました。きみさんはどんな人で、どんなお仕事をしているのかをもっと知りたくて、連載でお話を伺うことになりました。

食の世界への入口

yae:数々の食に関する事業をされているフードディレクターのきみさんに至るまでの背景が気になります。どのように今のきみさんになる道が開いていったのですか?

きみ:漠然と「エンターテイナーになりたい」と思っていた私が、食の世界で生きて行きたいと思うようになったのは、大学在学中に、一年休学をしてニューヨークでインターンシップを経験したことが転機となりました。それまでもちろん「食べること」には人一倍興味ありましたが、仕事にしたいと思ったことはなくて。ニューヨークの街で音楽や、演劇、アートなどのエンターテイメントを浴びるように過ごしていた私に、インターン先の上司、私の一人目の師匠のカズコさん(長尾和子さん)が言ってくれたんです。「音楽やミュージカルばかりがエンターテイメントじゃないよ。季節も空間も、五感も全て使っておいしいを演出する食の世界もエンターテイメントの一つ。きみちゃんの食への探究心、普通じゃないよ!絶対に食の世界に向いていると思う!」と。そのときビビビッ!と来ました。改めて自分自身が持つ食への好奇心を確認することができたこと、そして食に関する職業といえば飲食店の料理人やウエイターなどしかピンとこなかった私が、カズコさんが営む、食専門のPR会社でインターンさせていただいたことで、食に関する仕事の幅広さを知り、どんどん食の面白さにハマっていきました。

日本に帰り、就職活動をすると同時に、表参道の246COMMON(現在のCOMMUNE)内のフライドポテトとジンジャーエールのお店「BROOKLYN RIBBON FRIES(ブルックリンリボンフライ)」でアルバイトをしていました。当時はスーツを着て面接を受けている自分と、私服でアルバイトととして働く自分を、完全に割り切っていたのですが、ふとお店で働く大人たちが、自分の未来に重なるような気がしたんです。そして、約5ヶ月が経った頃、当時代表だった、私にとって二人目の師匠となるイモっちゃん(井本喜久さん)に、本格的に会社を立ち上げるので一人目の社員として入社しないかと、オファーをいただきました。

yae:アルバイトとして働いていて、5ヶ月目にオファーされるのはすごいですね。

きみ:そのときは大手の企業に就職活動の真っ最中だったので、父に相談をすると「必要としてくれるひとがいるのが幸せなことだ」と言われ、当時大学4年生で入社を決めました。

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yae:ブルックリンリボンフライではどんなお仕事をしたのですか?

きみ:飲食店で働くことが自分のやりたいことではなかったんです。それをイモっちゃんに伝えると、自社で作っていたジンジャーシロップの営業とブランドのPRをする部署を作ってくれました。とはいえ、当時はPRも営業もなにをどうしたらいいかもわからなかったので、とにかくイモっちゃんに必死に付いて行って、見様見真似で仕事を覚えていきました。ジンジャーシロップを売れるようにならないと、お給料ももらえないと思い、今思えば笑ってしまうような営業もしていました。そんなこんなで約3年が経っていて、最後の半年間は、新宿のNEWoMan(ニュウマン)の屋上で開催されるThe CAMPus(ザ・キャンパス)というイベントのディレクションを任され、イベント運営についても学び、その後独立しました。

yae:独立することは前から考えていたのですか?

きみ:退社することが決まってから「会社を離れたらどうするの?」とイモっちゃんに聞かれたときには、まだ何も決めていませんでした。もう一度就職活動をしようかとも考えていたら、イモっちゃんが「就職はしないで、独立してみろ!きみちゃんは絶対大丈夫だから!」と言ってくださり、背中を押されるように独立しました。お世話になっていた、周りの優しい大人たちが色々な仕事を振ってくださり、やったことないことばかりでしたが、初めてのことをするのは、イモっちゃんに付いていたときに鍛えられていたので、自分を信じてやっていきました。

楽しさを最優先にすること

yae:現在はフードディレクターとしてどんなお仕事をしているんですか?

きみ:主に食に関するお店・イベント・商品・ケータリングなどのプロデュースをしています。大きく分けると、一つが目玉焼き料理専門ケータリングチームのNEW YOLKや、鶏革命団のような自主事業です。もう一つは、外部から受けるクライアントワークで、コロナ前はイベントやケータリングの依頼が多かったのですが、働き方が変わり現在はコロナ禍で困っているお店や食関連の事業者のサポートの仕事が増えています。

yae:NEW YOLKではどんな活動をしているのですか?

きみ:主には、目玉焼きを乗せた料理専門でイベント出店をしています。NEW YOLKでの活動は、パートナーの鳥居大樹くんとやっています。私がやっているプロジェクトの中で一番「エンターテイメント」の部分を大事していて、好奇心があふれるものを自由に表現する場所として半ば趣味のようなものでもあります。なので、売上重視ではなく、楽しさを優先していますね。

yae:面白いですね!楽しさを優先するというと、出店でたとえばどんなことをしているのですか?

きみ:NEW YOLKの代表作は「世界一食べづらいホットドッグ」という目玉焼きの乗ったホットドッグなのですが、味はもちろん、ネーミングからビジュアルなどもこだわって「おいしいって楽しい」というメッセージをたくさん詰め込んでブランディングしました。普通、食べづらかったら改良すると思うんですよ(笑)。でもそれも一つのエンターテイメントかなと思って、あえて食べづらいまま提供しています。山を登った後の景色が格別なのと一緒で、大変な想いをして食べるホットドッグはより一層おいしいんです(笑)。

yae:やっぱり、エンターテイナーですね!お仕事をするときに意識していることがあれば教えてください。

きみ:常に自分が良い気でいることを心がけています。そうすると同じように、良い気を持った人たちが集まってくるので。あとNEW YOLKでの活動が自分の表現の場になっているのも良いのかもしれません。好きなことをまっすぐやれる場所があるので、楽しくて良い気が保つことができて、他の仕事とのバランスを取れていますね。

yae:そうなんですね。お仕事で人とコミュニケーションをとる際に大切にしていることはありますか?

きみ:依頼をされてプロデュースをするときに大切にしていることは、良い空気感で打ち合わせができて、ぶつかることがあっても、話し合って良いものを作ることができる関係になれそうかということと、依頼主である主人公の、やりたいことに対しての想いを掴むことを大切にしています。私の熱量が主人公を上回ってしまうと、うまくいかなかったり、むずかしいことが出てきたりするんです。あとは、最終的に「きみちゃんとやれて良かった」と、喜んでもらえる結果が出せると嬉しいですね。

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ぶくぶく農園と鶏革命団

埼玉県小川町にある、無農薬で農産物を生産している「ぶくぶく農園」の一部門として、きみさんの友人の桑原花さん(くわばら はな 以下、ハナさん)という方が小規模の養鶏場を営んでいます。ハナさんが理想とする、鶏がゆっくりと成長しながら、のびのび運動し健康な卵を産むことができる養鶏場を作るべく、大切に鶏を育てているのです。

ある日、きみさんは「地元の需要に応えるために今後養鶏場の規模を大きくしたいけれど、卵を産まなくなった鶏たちの行き先が無くて困っている」とハナさんから相談を受けました。鶏は生後1年半で徐々に卵を産まなくなり、卵の質も落ちていきます。大規模な養鶏場では、専門の回収業者に支払いをし、加工品にされたり、使いきれない部分は廃棄物として扱われたりします。しかし、ハナさんが営んでいるような小規模の養鶏場には、そもそも回収業者が対応していない場合が多く、引退後の行き先がなくて困っていたのです。きみさんは感銘を受けたという、ハナさんの養鶏に対する想いを知りながら、大切に育てた命が、廃棄物として捨てられてしまい、理想のあり方で養鶏場を維持できなくなることは、見過ごすことのできない問題だと強く感じたそうです。

そして、引退後の鶏たちの命を“最後までおいしくいただく”ことをテーマに、きみさん率いる鶏革命団が結成されました。2020年の9月には、引退後の鶏のおいしさを最大限に引き出した「黄金の鶏ガラスープ」を商品化するにあたり、クラウドファンディングで資金を募るとともに、きみさんが商品を発売するまでの大事に準備を進めてきた4年間の話を公開しました。

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yae:どうやってハナさんと出会ったのですか?

きみ:NEW YOLKのイベント出店で卵を使うことが多くなったので、知り合いが養鶏場を営むハナちゃんを紹介してくださり会いに行きました。そこで真摯に養鶏場を営むハナちゃんから影響を受け、話しているうちに意気投合して仲良くなり、半年に一度の鶏の引退時期には必ず会いに行っていました。

yae:ハナさんはどのように鶏を飼っているのですか?

きみ:多くの養鶏場の鶏は、世話する手間や餌の費用を抑えることを考えて、卵を産めるようになってから迎え入れるのですが、はなちゃんは生後3日で迎え入れます。生後3日のひよこは体が弱いため、馴染むまでの数週間は常に気を配り、体調を見守ります。毎日早起きして朝日とともに餌をやり、オスがいなくても毎日卵を産むことはできるけれど、オスがいる方がメスも安定するのでオスの鶏を群れの中に入れて、なるべく鶏が無理のない環境でいられるよう、試行錯誤しながら大切に育てています。

yae:大切に育てているのが伝わってきます。そんな鶏の引退後の行き先が決まらない場合は廃棄されてしまうという話を、きみさんが初めて聞いたときはどんな気持ちでしたか?

きみ:聞いたときは驚きました。ハナちゃんの養鶏場はまだ小規模だったので、業者に渡して廃棄にされるようなことは逃れられましたが、この先だんだんと養鶏場の規模を大きくするためには、引退後の鶏の行き先を見つけなければなりませんでした。そこで、ハナちゃんの活動を応援するために、新たな循環を作りたいと強く思いました。

yae:養鶏場の引退後の鶏のことを考えたことがなかったので、ショッキングでしたが、それをこのクラウドファンディングで知ることができて良かったです。

きみ:このクラウドファンディングのページはかなり想いを込めて作りました。読んで驚いたという反応がたくさんありましたね。卵は食べるけど、お肉は食べないという人(ラクトオボベジタリアン)と話しているときに、「その食べている卵を産めなくなった鶏が、そのまま処分されるくらいなら、その鶏も食べた方が良くない?」と言ったとき、「本当にそうだ」と驚いていました。少し見る視点を変えれば、自分に合った食との向き合い方も見つかると思います。こんな風に、色々な人の考えを変えるきっかけにもなっているのではないかと思います。

yae:今回のクラウドファンディングでは何羽くらいの引退後の鶏を使用したのですか?

きみ:引退する1年分の、200羽くらいです。鶏ガラだけでなく鶏肉を使った新しい商品の開発も今進めています。楽しみにしていてください!

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「おいしいから食べる」

yae:鶏革命団が活動を通して伝えたいことはなんですか?

きみ:大切に作られたものを、大切にいただくということは大前提。でも鶏革命団は、「もったいないから食べましょう」とか「命を大切に食べましょう」など、地球や世の中に良いことをしてますよという思想を超えて、「おいしいから食べる」という、私自身が食の仕事をするうえで大切にしたい軸に忠実でありたいと思っています。食用として出回っている若鶏と比べて、ハナちゃんの採卵用の鶏はよく動いているので筋肉質で、少し硬いですが、旨味が強く、コクがあっておいしいんです。

yae:鶏への負担を減らし、しかもそれがおいしさに繋がっているんですね。日頃食べているものが、どうやって食卓まで運ばれているのかを考えるきっかけになりますよね。鶏革命団が活動をする理由についても教えてください。

きみ:大切に養鶏をやっているハナちゃんを継続可能にサポートできる形を探すことから全ては始まっています。卵を産まなくなった鶏を廃棄するのではなく、新しい価値を私たちが見つけて、新しい「おいしい」を生み、伝えることができる。そんなポジティブな循環を作っていけたらいいなと思います。もちろん視点を変えれば矛盾や難しさをはらんではいるけれど、循環を作ってハナちゃんが継続していけるようにするのが、私たちの使命です。

この先の未来のこと

yae:きみさんは、好きなことや特技を最大に活かして働いていますよね。この先の食の世界で変わっていくと良いと思うことはありますか?

きみ:食の世界への入口が少ないと感じます。飲食店で働いていても、最終地点が店長だったり、お店を持つことだったり、選択肢が少ない感覚です。私は、周りの大人にいただいた言葉で、進路が開いていって、今の自分がいるので。この先もっともっと、それぞれの人が自分の得意分野を活かした仕事ができるような未来になると良いと思います。

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yae:少なからず、今日でわたしも影響されたうちの一人です。この先の食のカルチャーは、どのように変わっていってほしいと思いますか?

きみ:もう一度、ちゃんと「おいしい」を取り戻したいですね。最近、「社会的に良いことをしている」というブランディングの主張や、「見た目が可愛い」などの観点が先行してしまって「おいしい」が置き去りにされてしまっている商品を見かけることが多くなってきました。何をおいしいと感じるかは個人差もあるから一概には言えないけど…食べものであるからには、思想があるから良い商品なわけではなくて、そんな思想があるなかで、ちゃんと「おいしい」が先にくるともっとみんなが幸せになれますよね。私自身もやっていることがブレていないか、プロデュースなどをする時に一番意識をして気をつけているポイントです。おいしい、は正義なので。

黄金の鶏ガラスープ

クラウドファンディングのページを読み進めるにつれて、ハナさんが鶏を育てる姿や、きみさんがお仕事をする姿、自由に歩き回る鶏の姿が目に浮かびました。大切に育てた鶏なのに、引退後に加工品にまわせなければ廃棄されるというのは、初めて知るショッキングな内容だったけれど、それを知るだけで終わるのではなく、鶏革命団のプロデュースする「黄金の鶏ガラスープ」を、おいしそうだから食べてみたい!という気持ちが活動の支援になるのは、一石二鳥のような感覚でした。

そしてリターンとして届いた鶏ガラスープを、鍋にしていただいたとき、口の中にふわっと広がる優しい甘み、野菜に絡まるスープの旨味がなんとも絶妙で、色々な使い方をするのが楽しみになるような、まさに万能調味料でした。飾っておきたい可愛らしいパッケージのこの「黄金の鶏ガラスープ」ができるまでの背景には、たくさんの想いが詰まっているということを知るだけで、この商品に出会えて良かったと思えました。

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Photography: yae

お会いしてみたかったきみさんは、会った瞬間から空気に花が咲くように明るい方で、正直で、心が優しい方だというのが、お話ししていて伝わってきました。きみさんは今まで培ってきた経験や人柄を活かし、彼女にしかできない動き方をして、食という最大のエンターテイメントを通して、周りの人々を魅了しています。鶏革命団のクラウドファンディングでは、ハナさんに代わって「伝えるひと」として主役になって発信していたことは、まさにきみさんにしかできない仕事でした。

黄金の鶏ガラスープ

2021年1月12日(火)よりECサイトでの販売を開始します!購入はこちら

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土屋きみ

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freelance food director / NEW YOLK / 鶏革命団
「食とその周りに集まる人」を繋いで行くことを一生の仕事にしたいという志のもと、フリーランスのフードディレクターとして活動中。飲食プロダクトの開発、飲食店舗のブランディングプロデュース、食に関わるイベントオーガナイズ等を主に行う。

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鶏革命団

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我々はすべてのものに「イタダキマス」を生み出す為、鶏革命団の名の下に集結した。
世の中の常識を覆し、新たな美味しいを創造する。それが我々、鶏革命団の使命なのだ。

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yae

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1997年東京生まれ。ニューヨークの高校に留学していた15歳〜19歳の間、人との出会いを大切にしながら、さまざまな文化や価値観に触れる。今は、現代の「もの」のあり方を改めて考えるきっかけを作れるよう、自身の表現方法を探索中。シンガーとして都内を中心としたミュージックイベントに出演したり、アートワークの展示をしたりしている。

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