皆さんが想像する「コミュニティ」とはなんだろう。
同じ地域の出身者たちも一つ、同じ神を信じる者たちも一つ、同じセクシュアルアイデンティティを持つ者たちも一つである。コミュニティとは規模や数は問わずとも、何かの共通点を軸に集まった人々のことだろうか。
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今回のGOOD ART GALLERYで紹介するのは、“地球上で最も大きいコミュニティ”を表現する映像作品を作った3人のうちの一人、イギリス・ロンドン在住のアートディレクター&スタイリストのKate Kidney Bishop(ケイト・キドニー・ビショップ)だ。この映像作品は彼女と、Millie King(ミリー・キング)、そしてJasmine Federer(ジャズミン・フェデラー)によって制作されたものである。今回は来日していたKateに話を聞いた。
10歳の頃にオーストラリアの都市シドニーからイギリスに家族と引っ越してきた彼女は、ロンドンで人生の半分以上を過ごしているが、いまだにどこかのコミュニティに属しているような感覚がないという。そんな彼女が新たな視点でコミュニティを見つめたいと考え、制作したのが上記に記載されている映像「The Fountain of Youth」だ。彼女たちが見つけた、“地球上で最も大きいコミュニティ”の軸とはー。
ーなぜ「The Fountain of Youth」を作ることになったの?
イギリス・ロンドンの大学に在学しているときに、ファッションフィルムを制作するという課題があって、コミュニティについての作品を作ることにしたの。私自身がロンドン出身ではなくて、どんなコミュニティとも強い関わりをもっていなかったからこそ、しっかり考えてみることはとても大切だと思った。一緒に制作した2人はロンドン出身だけど、同じようにどこかのコミュニティに属している感じがしなかったと言っていて。だからコミュニティとは一体なんなのかを追求したいと思った。
ーこのプロジェクトを通して見つけ出した「新しい視点のコミュニティ」とは?
まず私たちチーム3人に共通することを考えたら「若い女性であること」だった。それからいろいろな垣根を超えて人類に共通しているものは「水」だという話になった。「水」を軸に考えると、道を歩いている知らない人も同じマンションに住んでいるご近所さんもみんなコミュニティの輪の中に存在している。これは新たな視点だと思うの。最初に浮かんだ「若さ」や「女性であること」も水が象徴していると思った。全てが「水」に繋がった感じがした。
ー過去について「どこのコミュニティにも属している感じがしなかった」と言っていたけどそれはどういうこと?
今は両親も姉妹もロンドンにいるから、あえていうなら私のコミュニティはロンドンだと思う。でも出身地をコミュニティとして分類するのは少し違うんじゃないかなっていうのが正直なところ。家族や友達もコミュニティに含まれるのかもしれないけど、みんな住んでいる場所がバラバラだからコミュニティって感じでもないし。私自身がどこかのコミュニティの一部だなって強く感じることはあまりないかもしれない。ロンドンに住んでいるからと言って、ロンドンにいる人みんなと強い関わりをもっているというわけでもないし。
ー今KATEがいるファッション業界はコネクションが大事でコミュニティが強いイメージがあるけど、ロンドンのファッション業界のコミュニティについてはどう?
私がフリーランスだからっていうのはあるかもしれないけど、この業界は大きすぎるから会う人はみんな”ただ一緒に働く人”って感じかな。一人一人とそこまで強い関わりはないかもしれない。それぞれがひたすらに自分の道を突き進んでいる。
ファッション業界においてはブランドと仕事をするうえで、そのコミュニティの特徴を強調したりすることはもちろん大事。だけど今回の作品ではいつもとは違う視点でコミュニティを見つめてみたかった。
ー作品にはなぜ「The Fountain of Youth(若さの噴水)」というタイトルをつけたの?
繰り返しになるけど「若さ」は話し合いの最初の方から出てきたキーワードだった。私たちチームの共通点を考えていたときに、「若さ」と「女性」がキーワードとして出てきた。そして「水」は若さも象徴していると思ったからそこも繋がってそう名付けた。若いエナジーが噴水のように吹き上がってるってなんかかっこいいでしょ。
ー同じ映像が繰り返されるのはなぜ?
同じ映像が繰り返されて何?ってなる人もいるよね(笑)動画を繰り返すことによってライフサイクルを表現している。毎日起きて、シャワーを浴びて、水を飲んで。私たちの生活はこの繰り返しでしょ。ライフサイクルはみんなが常に経験していることのはずなのに、普段の会話にはなかなか出てこない言葉だよね。
課題の条件としては3分という時間設定があったけれど、私たちは情景を考えたり、ナレーションをいれたり、ツイストをいれたりせずに抽象的な作品を作りたかったの。
ー映像にはすごくノスタルジックな雰囲気があるね。
見た人それぞれの解釈が変わるような抽象的な作品にしたかったの。人それぞれ違うリアクションがほしかった。とても抽象的な作品になったから、やっぱり雰囲気が大事で。見る人全員が自身を反映できるようにあえて顔などは映さないようにしたの。
ー作品を見る人にどう楽しんでほしい?
最終的にこの作品は、私たちが制作のために話し合ったアイデアをそのまま映像化して完成した。つまり作品全体がメッセージを伝えるためのプロセスという感じ。人の顔や、出てくる人が誰なのかを特定できるようなものが一切映っていないから、見る人が映像に感情移入できるようになっていると思う。それぞれが新たな解釈を生み出してほしい。