VICE MEDIAのアジア太平洋クリエイティブ責任者に聞く、「職場の多様性」を認めることで持てるチカラ

Text: Shiori Kirigaya

Photography: Shiori Kirigaya unless otherwise stated.

2019.12.11

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「ダイバーシティ(多様性)」がホットワードになって久しい。東京五輪が2020年に迫っているからか、ここ数年は企業がグローバル化に向けた取り組みを活発化させ、多様性に対する議論が目立つようになった。そんななか2019年11月7日(木)・8日(金)の2日間、「知らないを知って、視点を変える」をテーマに開催されたビジネスカンファレンスMASHING UP(マッシングアップ)。3度目となる今回の開催の目的は、ダイバーシティ推進のために、多様な個人がお互いの背景や視点を理解し合いながらコミュニケーションを図ることの必要性を伝えることだった。

人々は盛んに「ダイバーシティを」と言うけれど、なぜダイバーシティを認めることが大切なのか。それに対する確かな答えを持ちあわせている人は、あまり多くないかもしれない。だからダイバーシティを本当の意味で推進するには、「ダイバーシティってなんで必要なの?」という質問に対し、明確に答えてくれる人が不可欠だとNEUT Magazineは考えた。

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Genie Gurnani(ジーニー・グルナニ)

MASHING UPで開催されたトークセッションの1つ「朱に交わるな、カラフルであれ。組織がクリエイティブであるには」では、オンラインメディアVICE MEDIAのアジア太平洋地域のクリエイティブ責任者Genie Gurnani(ジーニー・グルナニ)が登壇。職場における多様性の尊重がどれほど大切かについて、明快に話していたのが印象的だった。本人は米・カリフォルニア州にある保守的な町で育ち、「異質」の存在として生きた苦悩を経験した過去を持つという。大学生時よりドラァグカルチャーに目覚め、現在でも夜や週末にはドラァグクイーンとして活躍するなど自己に対して忠実に生きている。今回はそんなジーニーに、ダイバーシティについて聞くインタビューを敢行した。

ー職場における多様性にはどんなポジティブな側面があると思いますか?

いろいろな意見や視点があると、そのなかで生まれたアイデアはより多くの人に届くものになる。普遍的なものってパワフルでしょ。私にとってはコミュニケーションや物語を生み出すこと、世界を広げることがすごく大切なことなの。人間の真髄ってそこにある気がしない?人と人が繋がること。多様な立場の人が協力してより多くの人に届くものを作ろうとするとき、より多くの人と繋がることができる。そうすると、より多くの人の存在に光を当てられる。それってすごくやりがいがあると思う。

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ー自分とは違う人、例えばその人が苦手なタイプの人でも同じ職場で働くことにメリットはあると思いますか?

そうだと思うよ。でも自分とは違う人(違う視点や意見を持ってる人)と、よろしくない言動をする人には差があるけどね。なぜあなたがその人を苦手だと思うのか、その理由が重要になってくる。自分と違うから苦手なら、それはチャンスだと思う。そういう人たちがあなたに新しい視点やアイデアをくれるから。そういう人にリスペクトや愛を持って、一緒に働けるようになったらそれは立派なことだと思う。

でもあなたが誰かを苦手な理由が、その人が差別的だからってなると話は違うよね?もしその人があなたが人と違うからー例えば私みたいにLGBTQコミュニティの人だからって人間としての尊厳を認めなかったら、それは違う問題。だから結局、どうしてその人が苦手なのかが大事なポイントだね。

そして多様な人たちで構成されるグループには、共通した価値観を持たせることが大切なの。どこ出身なのか、どんな環境で育ったのか、お金持ちか貧乏か、どんな人間なのかは関係ない。同じ価値観を共有して、世界を少しでもよくしようと考えているならそれが唯一の大切な「カルチャー」だと思う。最初は嫌いでも同じ価値観を共有できれば好きになってるなんてこともあるよ。

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Photography: MASHING UP運営事務局

ージーニーさんは、自分が人と違うと強く感じることはありますか?

うん。これまでの全ての職場や、それ以外のあらゆる場面で感じてきたことだよ。カリフォルニアの小さな町で生まれ育ったんだけど、保守的で白人が多く、キリスト教の価値観が強い場所だった。ゲイでインド人の子どもだった私はみんなと全く違っていた。大学でも違った。私が人と違う理由はいくらでもあった。ゲイコミュニティでは私はドラァグクイーンだし、インド人のコミュニティではゲイだから。だからどこにいても人から変な目で見られることはあった。受け入れるしかなかったよ。関係なく自分らしく最高の時間を過ごすことにした。もし自分が入れない世界があったら入ろうとする努力はやめたの。世界が私に合うように変えるだけ。

私の経験はそんな感じ。私は常に人と違った。でもそれが今の私を作ってくれた。

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Photography: MASHING UP運営事務局

ーどうして一部の人は、「自分とは違う人」を拒絶してしまうのでしょうか?

自分が知っている世界だけで生きていくほうが楽だからだと思う。世の中はカオスだから、自分の身を置く環境くらい安心できるものにしたいって思うのが人間なのかも。でも人生はカオスでしょ。テクノロジーが発展した現代社会がどうのこうのって話じゃないよ。どの時代でも人生はカオスなもの。危険もあるし、社会はどんどん変化していくし。でもそんななかで自分をコントロールして、選択をしていかなきゃならない。だから自分が知っている“普通”に固執するのは、自分が理解できる範囲の世界を見て、安心したいからだと思う。それで自分とは違う、理解できない存在ー違う視点や違う信念を持って生きている人ーが現れると、自分の生き方に疑問を持ってしまうから嫌なんじゃないかな。混乱しちゃうからね。どんな人生であるべきなのか?もしみんなが同じゴールや夢を持って、同じ言語を話して、同じ選択をするような世界だったら楽だったと思うよ。衝突だって起きないだろうし。

でも現実はそんなんじゃないよね。Diversity is what’s real(多様性があるのが普通じゃない?)。75億人以上の人間がこの地球には暮らしていて、75億人の人間が全く異なる人生を生きている。違いが嫌なのは人間の自然な感覚だとしても、乗り越えて。75億人が全く別の人間だと認めるの。それに他人のことを勝手に決めつけないのもとっても大事。同じ町に住んでいて、同じマンションのフロアに住んでいる人だってあなたとは全く違う視点を持ってるんだから。

ー今ジーニーさんが働いている職場には多様性がありますか?

うん。私はアジア太平洋が担当で、いろいろな国の人と仕事しているから。インドネシア、インド、オーストラリア、日本、韓国、中国とか、本当に様々。もしかしたらオーストラリアはアメリカの文化に比較的近いかもしれないけど、それでもすごく違う。国だけじゃなくてそれぞれの国で働く人たちだって一人一人ユニーク。メイクやファッションが大好きな人がいれば、元レスラーの人も、コスプレが大好きな人もいる。毎日が楽しくて、今の仕事が大好き。だっていろんな人や価値観に出会えるから。

大切なことは、実現したいビジョンをはっきり持っていること。あなたが自分にとって意味のある、興味が持てることをしていること。VICEは多様性のある会社だと思うよ。特にアジア太平洋地域のチームは、私を雇っているって事実が証明かもしれない。クライアントに対してだって、私みたいな人間がいるのに彼らに正直じゃなかったら変な話でしょ。会社にとってはリスクかもしれない。でもクライアントにも常に正直でいるの。思ったことは話して、より良い解決法を導くのを手伝う。いろいろなブランドや企業とコラボレーションしてクールなものを作ってるけど、受け手は何を見たい?何を重要視してる?今何に関心がある?ーそれが一番大切なこと。ブランドや企業が何をしたいかではない。今生きているこの世界で何に光を当てるのか。多様性のあるチームだと、それぞれの正直な視点がその分多くなるんだよ。

ー仕事のときも、今日みたいにドレスアップしていますか?

仕事場ではしないよ。ものすごく時間がかかるからね。でも大切なミーティングのときはメイクアップする。それが会社のパーソナリティを見せることにもなるから。そのパーソナリティってなんでもいいんだよ。落ち着いているとか、クレイジーだとか、とってもプロフェッショナルだとか。なんでもいい。あなたがあなたらしくいられる限り、そしてそれをみんなが受け入れられる限り、それはいい職場だと思う。

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ーアジア太平洋のいろんな国と仕事していて大変なことはありますか?

いろいろな国と仕事していると、自分の立場みたいなものを見つけるのが難しいけど、現地のチームを信頼することが一番。例えば韓国に住んでいるクリエイティブチームに、韓国が求めているものを教えてもらう。どんな文化なのか、人はどんな人生を送っているのか。何が起こっているのか。それからインドネシアのチームだったら、また同じで彼らを信じるの。どんなコミュニケーション方法がベストなのか、どんな言葉遣いだと人の心に届くのか。私の仕事はみんなにとってのガイドラインとなることだけ。どんなに仕事でアジアを訪れても、物事を決めつけて見ないように常に自分がエイリアンみたいな視点を持つようにしているの。今日の中国についての知識があっても、明日は全く別のものになっているかもしれない。常に変化が起きている。だから私はいつも学んでる。その場に生きている人たちを信頼して、彼らの声を生かして、作られるべきものを作る。挑戦ではあるけれど、そうするのが唯一の方法だと思ってる。

ー最後に、ジーニーさんにとって「多様性」とはなんでしょうか?

私にとって多様性は、全ての人がそれぞれが唯一無二の存在であるということを認めること。私たちはそれぞれ意見を持っていて、経験をしてきて、今の私たちになった。でも人が全く違う意見を持っているってなかなか認められない人がたくさんいるのも事実。多様性って、みんなが自分の世界を持っていて、私たちが住む世界は、そのみんなの世界が合わさったものなんだって理解して認めることだと思う。

Genie Gurnani(ジーニー・グルナニ)

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Head of Creative for VICE/Virture
米国発のオンラインメディアVICE MEDIAのAPACにおけるクリエイティブ責任者に加え、VICE MEDIAが手掛けるクリエイティブエージェンシーVIRTUREのクリエイティブも兼任。夜や週末にはドラッグクイーンというエンターテイナーとして活躍しており、リアリティ番組「Drag Race Thailand」にも出演する。パフォーマーとしての活動は、クリエイターそしてエンターテイナーの両方に大きな影響を与えていると考えている。

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Photography: MASHING UP運営事務局

 

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