ゴミを素材に、カバンやポーチ、フロアマットなどを製作する韓国の小さなデザイン会社「JUST PROJECT」。事業内容の通りゴミが「魅力的な素材」になりえるという事実をビジネスを通して伝えているのが特徴だ。
最近では製品を作って消費者に売るだけでなく企業やそれ以外の組織に向けたの事業「PROJECT02」を開始し、より広範囲に影響力を広げている同社。今回は、原宿で開催されたサーキュラーエコノミー(=循環型経済)を新しいビジネススタンダードとして考えるイベント「530conference 2019」に参加するために来日していた同社のデザイナーのYi Young Yeon (イ・ヨンヨン)に、プロジェクトを始めた経緯から、なぜそのような事業に着手するようになったのかまでを聞いた。
ゴミはインスピレーション源
「ゴミ集積場はインスピレーション源」「これはゴミだけど、私にとっては宝物」といったJUST PROJECTの掲げるステートメントのようなユニークな考えを幼い頃より持ち続けるデザイナーのヨンヨン。彼女は10年ほど別の企業でプロダクトデザイナーとして働いていたが、振り返ってみると、それはある意味で「ゴミを生み出すような仕事」だったと話す。
幼い日には捨てられた箱や包み紙などをゴミ捨て場から持ち帰ってしまう少女だった彼女がそこで思いついたのが、そのようなゴミを材料に何かを生み出すこと。そうして、ヨンヨンがフィリピンに滞在していたときに、ゴミを日用品として再利用している人たちと出会ったことが、直接のきっかけとなり始動したのがJUST PROJECTだ。
ゴミに対する見方はその頃から変わっていない。それを「これはゴミだけど、私にとっては宝物」というような短い言葉で説明できるようになるまでには、ブランドを始めてから2年くらいかかってしまったけどね。
同事業ではストローや食品のパッケージなどの、使われてすぐ捨てられるため継続的に集めやすいという意味で「サステナブル」な素材が電気を使用せずに加工され、新たな製品に生まれ変わってきた。現在メンバーは韓国に3人、フィリピンに14人おり、両拠点でプロダクトの生産を行っている。そのほかには「Trash」(トラッシュ)と名付けたマガジンの制作をしてゴミをめぐるカルチャーを発信したり、自社の研究所でゴミとなったものの生産背景やそれがゴミになるまでの過程を学ぶことを通して「ゴミはありふれた魅力的な素材」だという自社の理念を深く理解したりすることも仕事の一環だ。
表面的にはただプロダクトデザインをする会社に見えるかもしれないけれど、ゴミを素材として使うブランドとして、素材となるゴミについて学んで理解することは欠かすことのできない業務なんです。
韓国のゴミ事情とJUST PROJECT
ヨンヨンがJUST PROJECTで活動の拠点としている韓国では、彼女によると使い切りタイプの製品が溢れていることが原因の一つに数えられるゴミ問題が深刻だという。実際に不法投棄されたゴミの山が自然発火し、消してもまた火があがってしまうという事件があり、不法投棄されたゴミは120万トンに及ぶという報道もされている。(参照元:CNN.jp)
しかしながら、それにより危機感を覚えた市民による世論が形成されてきており、政府や企業による動きがみられるようになったとも彼女は指摘する。
昨年国家規模の“ゴミの危機”が起きてから、使い切り製品の使用を制限する政策が出されたり、企業が環境に優しい素材を開発したりする動きがみられるようになった。
企業や団体と組むことで生まれるインパクト
JUST PROJECTがアパレルや化粧品、食品やホテル事業を行う企業や団体にアップサイクルの技術を教えたりコンサルティングを行ったりする「PROJECT02」は、先ほど話したようなゴミ問題を解決しようとする社会の潮流の前線を行くものであると言っても過言ではないだろう。自ら働きかけなくても、企業や団体からコラボレーションの提案を受け、最近ではキャンペーンを一緒に作ったり、それぞれの企業にとって効果的な循環を生むためのコンサルティングを行ったりしている。
ヨンヨンは、企業や団体と組むことにどのような利点があると感じているのだろうか。そんな質問をすると、「まずどこかとコラボレーションできていること自体、自分たちの行っている事業内容の必要性を実感させられる」と彼女は口にした。さらにJUST PROJECTのような小さなデザイン会社よりも規模の大きな企業は比較的影響力を持っているため、より多くの人にコンテンツを届けやすく、共感もしてもらいやすいという。
より多くの企業がゴミを素材だと考えるようになれば、政府機関もそれを支援するような政策を掲げるようになって、私たちの発しているメッセージを自然と受け取ってくれる市民が増えるのではないかと思っている。
では同事業を始めてからどれくらいのインパクトが実際に生まれているのか。それ聞いてみると、彼女からこんな答えが返ってきた。
私たちの仕事がどんなインパクトを生んでいるかについては、あまり興味がないのだけど、企業や組織と組んだケースが生み出した結果を目にした人たちと「ゴミはありふれた魅力的な素材」という考えを共有できるようになったら嬉しい。
ヨンヨンは活動に対する成果を測る数字よりも、どれだけの人に考えが伝わったのかを重視する姿勢でいるようだった。人々がゴミという「価値のない」と思われているものに対する見方を変えるだけで、社会の循環に変化をもたらせる可能性は大きく広がるのではないか。