2023年1月、Instagramに投稿された写真が話題を呼び、注目を浴びたのが「UENO GYARU」だ。5月26日から5月28日までの3日間、上野アメヤ横丁内のアメ横センタービル2階展示スペースにて個展「UENO GYARU」の開催も決定している。これは、フォトグラファーKanameが上野で生まれ育った日々を見つめ直し、自分らしさを取り戻し、表象し直した挑戦的な作品だ。前編では作品に至るまでのそんな彼女の人生を振り返った。
後編では、単なる「2023年のギャル像」にとどまらない、「UENO GYARU」に込めた思いを伺った。
ギャルカルチャーとブラックカルチャーの交差性
今回、Kanameにとって初の個展のテーマとロケーションになるのが、「ギャルと上野」だ。最近では、Y2Kの盛り上がりとともにギャルカルチャーも再熱し、広告などで目にする機会が増えたが、彼女にとってそういった表象は、「私が当時見ていたリアルなギャルとは違う、今ナイズドされたギャル」だと話す。一方、自身が見てきたギャルのルーツをたどりながら、見た人にいい意味で違和感を与える作品をKanameは作りたかったという。
今回モデル、クリエイティブディレクションを務めたのは、PUMP management所属のLEIYAだ。当初、二人で作品撮りをしようと話しているなかで、ガングロギャルはアフリカ系アメリカ人への憧れから生まれた文化であることに着目し、ギャルカルチャーとブラックカルチャーの交差性を見せていく挑戦的な作品となった。ガングロギャルについて語るうえで、文化の盗用であると指摘されることがあるが、LEIYAは今回の作品撮りを通して、アフリカと日本のルーツを持つ自身が参加することで、ポジティブな表象に繋がるのではないかと考えたそうだ。
「私はブラックだし、日本人。だからどちらの文化やコミュニティも消費することなく、いい感じに纏うことができるんじゃないかって思ったんです。作品を見た人に、ギャルカルチャーとブラックカルチャーの繋がりを少しでも感じ取ってもらえたら嬉しいです」とLEIYAは話す。
そしてロケーションとなった上野はKanameの地元でもある。ギャルといえば渋谷といったイメージがあるが、上野にもギャルがいることを伝えることで、彼女が当時そこにいたことを想起させる。また、上野には外国籍の人々や、LGBTQ+も独自にコミュニティと文化を形成しているという。Kanameいわく、上野という街は、日本社会でマイノリティ側に立たされることの多い人々が、自分たちの暮らしやアイデンティティを守るために、自らの手によって発展してきた街という側面を持っている。そう考えると、ギャルやアフリカ系アメリカ人のカルチャーをテーマにするうえで、相性の良い街なのかもしれない。
「渋谷とかで知り合った人たちは、自分の考えに似ている人が多いので、みんな私みたいに考えてるんじゃないかって思ってしまうのですが、こっちに戻ってくると、やっぱりそうじゃなくて、いろんな人がいるんだなって思えるんです。下町も新しい商業施設も、日本人も外国人も、風俗店も美術館も入り混じっている。そんな街だから生まれる新たな文化やコミュニティがあるんじゃないかな」
規範に捉われない、リスペクトある表象・現場を目指して
10代の頃、ある種“虚勢”としてギャルをしていたこともあるKanameは、あらゆる圧力や規範に揉まれながら生きてきたが、オーストラリアという土地や、たくさんの人とのコミュニケーションを通して、自分が本当に好きだったものを、ありのままの自分でいられる場所で取り戻していった。本展示にはそんな彼女の歴史も込められている。
また、「UENO GYARU」では制作に関わっている7名全員が女性というのにも注目したい。男性優位社会のなかで消費される対象として見られることの多い女性が、自らの手によって女性であることの喜びをテーマに発信する際に、女性自身が先頭となり制作することで、「これだけ最高なものが作れるんだ」ということをKanameは証明したいと話す。
「最近よく一緒にお仕事をするグラビアモデルの人から聞いた話なんですけど、グラビアの世界だと、女性が身体を使って表現しているのにも関わらず、お金が全然もらえない現状があるそうです。それって、男性が中心となって作っているから、常に女性が男性から消費される存在になっているからだと思っていて。グラビアやエロが悪いわけではなく、女性に対してもっとリスペクトがあるべき。そういったことを、グラビアの世界だけでなく、それぞれの仕事現場で感じている女性が集まって制作することで、リスペクトのある現場を作っていけるんじゃないかなと思っています」
あらゆるスキルやバックグラウンド、アイデンティティを持つ女性たちが連帯し、女性の表象を制作することで、その作品を見た人たち、製作者側と、全方位を蔑ろにしないものが生まれる。こうした表象を作り続けることで、偏った「女性」や「ギャル」のイメージを分解していけるのではないだろうか。最後にKanameは、今回の作品を見た人たちに「あなたも自由でいい」と伝えたいと語ってくれた。
「容姿のコンプレックスって誰しも、多かれ少なかれ一生抱えていくものだと思うんです。みんな悩んでいることだからこそ他人をとやかく言えるものではありません。人と比べるものでもなく、後や先にどう変わろうとどんな自分でも自分自身がそのとき満足できているかが大事だなって思います。周りの目を気にするあまりコンプレックスで自分をがんじがらめにしないでください。そこは自分にも他人にも甘くなっていい部分だと思います。着たいと思った服を着たいときに着る。したいメイクをする。する必要のない無理な努力はしない。無理に着飾る必要もない。昨日と見た目がガラッと変わったって構わない。高校デビューとか大学デビューとかくだらない言葉に惑わさせれなくていいです。一度きりの人生なので、その時その時を楽しく過ごせるように、自分を好きになれるような行動をしてほしいなって思います」
UENO GYARU展
日程 : 日時 : 5月26日 11:30-20:00
5月27日 10:30-20:00
5月28日 10:30-19:00/p>
場所 : アメ横センタービル2F
〒110-0005 東京都台東区上野4丁目7−8
今回の展示の写真をまとめたzineを販売予定です。
Kaname Sato
1995年東京都台東区生まれ。フォトグラファーとしてファッションブランド「BLINK」や「SEASON」などのブランドイメージ撮影から、パーティースナップまで幅広く活躍している。