2017年の結成から早5年が経ったアンダーウェアブランド「one nova(ワンノバ)」。環境になるべく負荷をかけないものづくりを前提に、生産過程・コストの透明性を重視したブランドとしてスタートし、商品が持ち得る極上の機能性や穿き心地の良さと可能性を追求しながら進化を遂げてきた。2022年8月には、下着を身につけている際のストレス軽減に努めて「気持ちよさ」をブランドの中心に掲げ、商品を選ぶ人の「性別」の幅を広げるべく新商品をリリースする。
彼らはどのようにして現在のブランドのあり方に辿り着き、この先はどこへ向かっていくのか。2018年のインタビュー時から現在に至るまでの変化を辿りながら、ブランドの目指す方向について、株式会社ONE NOVAの代表取締役兼ブランドディレクターを担当する金丸百合花(かねまる りりあん)に話を聞いた。
がむしゃらに透明性を追求するなかで見えてきた課題
金丸とCEOを務める高山泰歌(たかやま たいが)によるone novaは、クラウドファンディングでの認知拡大・資金調達やECサイトでの販売を行い、インターン先のアパレルブランド「ALL YOURS(オールユアーズ)」のメンバーにメンターとして助言をもらうなど、周囲のサポートを受けながら勢いよく創業期を駆け抜けた。
当初は製造に関わる過程やコストを公開することをブランドの基軸にし、サステナブルで穿き心地のいい「透明なパンツ」であることをコンセプトに掲げた男性向けのボクサーブリーフを販売していた。
だが突き進めるところまで走ったのち、ブランドのコンセプトや目的を再考するためブランドを一時休止することを決意する。立ち上げ後は同世代の仲間がメンバーに加わり事業を成長させていたが、そのタイミングで創業者2人のみの体制に戻した。日本でも開花したサステナブルなアンダーウェアの黎明期を自らのアイデアをもとに駆け抜けた彼らだったが、その先で突き当たった課題はどんなものだったのか。
「とりあえずサステナブルっぽいのがオーガニックコットンだよねっていうのでその素材を採用してしまっていたんですけど、勉強を重ねていろいろ作っていくうちに、一番適しているのはこの素材じゃないのかもって思うようになって。オーガニックコットンが100パーセントいいのではないし、じゃあなんでそれを使うんだっけって疑問が出てきて」
なぜオーガニックコットンを使うのか、「透明性」をブランドの中心に据える理由は。自らのブランドを問い直すための課題が見えてきた。オーガニックコットンは日本の消費者に好まれているものの、どんな素材にもメリットとデメリットがある。外国から商品を取り寄せ、比較してみているとブナの木の繊維を紡いだモダールや羊の毛を使ったウールなどが使用されている商品も多く、それらがアウトドアの活動に適している抗菌や防臭などの効果が高いことから、one novaの商品の購入者に多いアウトドア志向の人たちに向くような商品作りをしていくことになる。2人がオーガニックコットンに代わって採用した素材のメリノウール*1とモダールを組み合わせるブランドは珍しく、汗を吸収し臭いを防止するだけでなく、部屋干しをしても臭いにくいなど、キャンプや災害時など洗濯機を使った洗濯ができない場面でも役立つ。
商品自体だけでなく、見直しは同時にブランドのコンセプトに対しても行われた。これまでは「透明」という言葉の印象が強く、商品の中身に目を向けてもらえないことがあったと金丸は振り返る。また、商品が選ばれる理由は一つではないと気づいたという。
「『透明なパンツ』っていうキャッチコピーでいろんな方に知っていただけたのはあったのですが、透明って言えば買ってもらえるわけではなくて、ただ穿き心地がいいから買ってくれているんだなとか、多様な理由でお客さんが買ってくれているんだというのが分かって」
(*1)ウールのなかでもメリノ種の羊の毛を使ったもので、ウールのなかでも最高の品質を誇る
なぜアンダーウェアを扱うのか?ブランドの持てる最大限の持ち味の再検討
人はなぜアンダーウェアを身につけるのか。高山が休止期間の間にパンツを穿かずに一週間を過ごす実験をしながらその理由を掘り下げるなかで結論づけたアンダーウェアの役割は、体から出る水分を吸収して蒸れや臭いを消し、衣類との間に身につけることで肌が感じる不快感を減らすことだった。原価の公開を最優先にするのではなく、下着としての機能の充実を図ることが、ブランドが果たせる役割であり目的だと2人は考えるようになる。
「最初は全てを公開することが正義だと思っていたんですけど、原価を見せる意味はそもそもなんだろうって思うようにもなって、スタッフの労働に対するものなど表示しきれない値段もあると感じていました。一番大事にすべきなのはそこではないんじゃないかって思うようにもなって。ものとしての良さを追求するほうが私たちもヘルシーだと思ったというのもあります。製品をどこにもない気持ちよさにしたいって、それを追求しようと考えました」
1年間の休止期間を経て、2020年に世界的なクラウドファンディングのプラットホームKickstarterに資金調達プロジェクトを掲載し、国内外から約2,300万円の支援を受けブランドの再スタートを切ったone nova。中心メンバーは創業者2人のまま、同業界での豊富な経験を持つアンダーウェアデザイナーとバイヤーをチームに迎えた。商品は通気性や吸湿性が高く抗菌・防臭効果の高い素材の特徴を活かし、「3日穿いても臭わない、蒸れない」をアピールポイントとした。このように機能性が重視されるアウトドアの活動にも適したブランドとしてコンセプトを新たにし、アドベンチャー好きな顧客をさらに増やしていくこととなる。その後は生産を依頼している工場からの素材の提案と、身近な消費者の悩みであった月経・尿漏れに対応したサブブランド「sponse(スポンジ)」を株式会社ONE NOVAでリリース。
そしてこの夏よりさらに推敲を重ね、ブランドの持てる目的を最大化しようと再考した先で目指すのは、その“存在感”としてのストレスやノイズを最小限に減らすこと、そして商品を選べる人の幅を可能な限り広げるということだ。
「one novaをどれを買っても気持ちがいいんだって思ってもらえるブランドにしていこうって思っていて、その『気持ちよさ』は、その人がその人らしく伸びやかで健やかにあること、その人が自分の最大限のパフォーマンスをできるようにノイズの全くない状態に戻していくことです。商品としての主張を中心に据えるのではなく、その人としての気持ちよさを後押しするっていうブランドのあり方をとっていきたいです」
身体的な違いで選択できない人をできるだけ減らすブランドへ
これまで男性向けのボクサーブリーフのみを販売してきたone novaだが、体の違いを超えて穿きやすいような商品を出してほしいという声を聞く機会が多かった。アイテムが男性器の特徴に合わせて作られているため、男性器を持たない人が穿くと、それに合わせて作られた立体的なポケット部分が余分に感じてしまうことがあるからだ。「穿きたいって思ってくれているなら、作るほかないんじゃない?」そのような思いから、男性器のない体でも穿きやすくすることを前提にしながらジェンダーを問わず選びやすくなるように、既存のアイテムのデザインをベースに商品の展開の幅を広げることを決めた。
では、そもそも女性用や男性用などと区別されている場合に、アイテムを身につける人のジェンダーを誰が決めているのか。「ジェンダーレス」という言葉を用いて新たな商品を企画するにあたって思考を重ねた金丸は、商品を売り出すブランド側ではないかと指摘する。 世の中に存在する「女性向け」や「男性向け」などとラベルがつけられた商品のなかで、身体的な性別の特徴に合わせたもの以外の性別の区別は、「女性に合うのはこのようなデザインだ」というようにブランドが抱く社会的な性別(ジェンダー)に対するイメージに基づいて行われているということだ。アンダーウェアというアイテムの特性もあり、身体的特徴に基づけば男性器を持つ人には既存の商品のほうがより形が適しているが、着る人のジェンダーを設定していない新商品のボクサーブリーフを中心としたアイテムは身体的な違いを超えて着用できるようにデザインされている。また新たな商品の穿き心地の良さはこれまでの商品と変わらず、それに加えて着用時のずれや食い込みを手で戻すという動作をなるべくなくせるように設計されている。
「お客さんがone novaを選びたいって思ったときに選べるものがあるっていうときは最低限だけどすごく重要なことだと思っていて、選べるものがあるということ自体がとても気持ちのいい買い物だと思うんです。100パーセントは無理かもしれないですけど、今はサイズ・性別で私たちが枠組みを決めてしまわないようなブランド展開にしていこうって考えています。でもまだ見えていない人がたくさんいるかもしれないので、少なくともより多くの人への選択肢を増やして届けられるようなブランドにしていきたいなって思います」
新商品のサイズについてはXSから3XLまで幅広く用意しており、これまでと同様で要望が増えればサイズを増やすという姿勢でいる。これは着られる人の性別の幅を広げる試みの際と同様で、彼らに購入者とのコミュニケーションのなかでブランドが成り立っていくという感覚があるからだ。
購入者との接点の多さがブランドの幅を広げ、進化に繋がる
one nova宛に送られてくる問い合わせのメールには金丸が自ら対応している。「お客様の声をできるだけ聞いていたい」と話す金丸だが、問い合わせへの丁寧な対応を心がけているため、それがきっかけで購入者がリピーターになることも少なくないという。これにはメールで寄せられた問い合わせから吸い上げられた課題がミーティングで話され、直接ブランドの改善につなげられるという利点もある。one novaでは商品到着後14日以内なら返品を受けつけているが、返品についても購入者との接点ができるタイミングだと捉えている。サイズに関しても、例えばSサイズが最も体にあっていてもMサイズの着用感が好みの人もいるように、人によって選びたいサイズの基準が異なるなど購入者の求めるものを知る機会になっているのだ。
ブランドのファンコミュニティ向けのオフ会を開いたり、購入者から直接フィードバックを聞く試みをしたりしたこともあったが、購入者それぞれの商品に対する思いだけでなく、ブランドに向けられた熱量の高さから喜びを感じる時間だったと話す。
「たくさん買ってくださっているお客様にお話をうかがったとき、フィードバックをくださっているというよりもお客様のアイテムとの付き合い方についてお話を聞かせていただいているというような側面があると感じたんです。最初から知ってくださっている方には今までの紆余曲折を含めて応援してくださっている方もいらっしゃったり、結婚式の引き出物に選んで人生の一部を共にしたから多分どう変わってもone novaを選ぶって言ってくださる方がいらっしゃったりして、one novaを好きでいてくださる理由って本当に多様だと感じます」
オンラインでの販売を主にしているが、店頭で手に取る機会を増やし、顧客の中心となっているアウトドア好きな層へ、さらにこれまで選べなかった人へのアクセスが可能となるように接点を増やすことをブランドを運営しながら続けていきたいという。神戸阪急や名古屋栄三越、阪急メンズ大阪、有楽町マルイでのポップアップに引き続き、2022年7月からはジェイアール名古屋髙島屋にアイテムが常設されている。
「お客様とのコミュニケーションのなかでブランドが成り立っていくという感覚があるので、そこを大事にしていければなと思っています。それによって私たちのプロダクトやブランドのあり方も絶えず変わっていくんだろうと思いますし、どのような眼差しを持ってを作っていくのかを考えるのも結構そこが重要になっている。今までと変わらず、そういうふうにしていきたいなと思います」
「透明性」に焦点を当てたアンダーウェアブランドに始まり、提供する商品の機能性や穿き心地の良さに価値を置くブランドとして進化してきたone nova。サイズや性別の幅を広げていくこともそうだが、立ち上げから変わらない購入者に対する真摯な姿勢で今後も絶えずコミュニケーションをとり続け、受け取った声を商品づくりに反映させながらブランドは変化し続けるのだろう。ブランドの変遷を見届けながら応援してきた購入者や、日々着用するだけでなく結婚式の引き出物に使うなど人生の一部を共にすることを選んだ購入者の存在がそれを物語っている。
one nova
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人生のどの瞬間も、一番近くから気持ちよく。「one nova」は、誰もが伸びやかな心地で居られることを目的に、ノイズレスな「気持ちよさ」を追求したプアンダーウェアを提案しています。