ジェンダーの観点から映画について議論するイベント「Purple Screen」の主催者に聞いた、全ての人が「わたしらしく」いるためのヒント

Text: Noemi Minami

Images provided by Edo & Jeremy Benkemoun

2020.6.12

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私たちが紡ぐすべての関係性は美しい

以前NEUT Magazineで取材した、世の中の「見えない常識」から個人の解放を目指すクリエイティブスタジオ「REING (リング)」が、映画を「ジェンダー」の観点から議論するイベント「Purple Screen(パープル・スクリーン)」を毎週日曜日に開催しているという。

そこでNEUT MagazineはPurple ScreenのオーガナイザーEdo(エド)とJeremy Benkemoun(ジェレミー・ベンケムン)へのビデオ電話取材を行った。Purple Screenとはどんなイベントなのか、どうして始めたのか、そしてジェンダーについて議論することの大切さや全ての人が「わたしらしく」いるためのヒントを聞いた。

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Edo

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Jeremy

答えがないからみんなの考えが聞きたい

REINGでクリエイティブディレクションやSNSディレクションを担当するEdoと、そのEdoの学生時代からの友人で写真家のJeremyが主催するイベントPurple Screenは、毎週日曜日の19時半から21時に、その週に決められた2本の映画について「ジェンダー*1」の観点から話し合う場。選ばれる映画は基本的にNetflixやAmazonプライムなどのストリーミングサービスを利用して見られるが、日本では公開されたことのない映画を特別に配信したり、スペシャル回では選ばれた作品の監督や俳優を呼んで議論を行ったりすることもある。現在は、WEB会議ツールZOOMを利用してイベントをオンラインで開催している。

イベントで議論されるのは、EdoとJeremyが2人で相談をして決めた映画と、コミュニティが提案した映画の2本。毎週テーマが決められ、2人がモデレーターとなって進められる。これまで取り上げたテーマは「女性の体 ~私たちは自分の体に責任があるのか?」「トランスジェンダーの可視化:私たちは平和を知ることができるのでしょうか?」「個人 対 家族」などさまざま。

「答えがないからみんなの考えが聞きたいから」ジェンダーに関する議論の場を作った理由についてJeremyはそう話す。

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vol.4では、フランス映画『恐怖に咲く姉妹』のプライベートビューイングを開催。さらには、映画の監督、女優、プロデューサーを招き、質疑応答とディスカッションを実施した。

2人が学生時代に勉強していたというのもあるが、ジェンダーを語るうえでどうして「映画」を選んだかというと、それは映画が誰でも楽しめるフォーマットだから。

Jeremy:アートや本は、全ての人が見ているわけではないけど、映画はみんな見ているでしょ。みんなが参加できるものにしたかったから映画を選んだ。

Purple Screenでは、発言するのが得意でない人は会話を聞くだけだったり、話す代わりにZOOM上のチャットで自分の意見を送ったりするだけでもよく、誰もが心地よく参加できるようになっている。

参加者には高校生もいて、その高校生が自身のイベントを開催するなど、議論の場はPurple Screenをきっかけに広がっている。

(*1)ジェンダー(gender)とは、生物学的な性別(sex)に対して、社会的・文化的につくられる性別のことを指す

一人っきりだと思ってる人がいるから

現代の日本社会では、性別学的な「男と女」の二極化が“普通”とされていて、それに属さない人、違和感を感じる人の声が十分にメディアで取り上げられていないのが現状だといえる。2人がこのイベントを始めた理由にそれが少なからず関係している。

Jeremy: 日本でLGBTQ+は透明人間みたい。メディアで取り上げられることがまだまだ足りない。

Edo:それに取り上げられたとしても外からの視点で“特集”されることが多いのは問題。作り手に当事者が増えることが大切。メディアに本人たちの声が必要。

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イベントを立ち上げた当初Jeremyは人が集まるか心配していたが、実際には多くの人が集まり、その反響をみて「やっぱりこういう場が必要なんだ」と強く感じたという。

それにEdoは「一人っきりだと思っている人がいるから」と、つけ加える。

二極化された性別に属する人以外の声がメディアで取り上げられることが少なく、世間の理解が低いことが原因で、そういったことについて話す場が少ない現状のなか「一人っきりだと思っている人」が、同じような考えの人に出会える場を作ることが2人にとって大切だった。

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EdoとJeremyがジェンダーに興味を持ったのも、自身の経験として2人のジェンダーやセクシュアリティに対する理解が学校や家庭で少ないときがあったからこそといえるかもしれない。

Jeremy:フランスの田舎町に住んでいた高校生のとき、イジメとは言わないけど、周りに理解されなかった。自分はみんなのことが理解できるのに、どうしてみんなは自分のことを理解できないのかが分からなかった。

Edo:私は子どもの頃からワンピースが着たくて、でもそれをお母さんによく止められた。そんなとき「なんで?お母さんはズボンを履いているじゃん」ってよく言ってた。

そういったモヤモヤが、2人が大学でジェンダーについて学ぶきっかけになったという。「知識は武器になる」 知識をつけると理解が少ない人へ説明ができるようになることが大きな利点だとEdoは話す。

一人きりでもいいと覚悟をしたら、出会えた人たちがいる

REINGのテーマでもある「わたしらしさ」。
必ずしもみんなが「わたしらしさ」を見つけられているとは限らないだろう。そういった人にアドバイスはあるかと聞くと、Jeremyは「社会がおかしいといっていても、自分でやってみないと分からない」と、とにかく行動に移してみることの大切さを話していた。

そしてこれまでの人生でいろんなことを体験してきたというJeremyは、自分らしくいるからこそ得られた幸せがあると確信を持つ。

Jeremy:苦しくても、悔しくても、本当の自分でいられると、自分だけの幸福が感じられるときがある。その一瞬を、普通だけど平凡な一生より選び続けたい。

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一方Edoは、自分らしくいたからこそ出会えた人たちについて話してくれた。実は、REINGの代表で以前NEUT Magazineの取材を受けてくれた大谷明日香(おおたに あすか)もその1人だったという。

Edoが社会人になりたての頃、ネイルをしたままミーティングに出ることになったときがあった。スーツ姿にネイル。そのときは自分がどう見られるか心配だったが、そのまま出ることにした。そしてそのミーティングで出会ったのが大谷だったという。大谷は、Edoのネイルを見て声をかけた。

Edo:REINGのコミュニティ活動とは矛盾しているように聞こえるかもしれないけど、一人っきりでいることに慣れなきゃ。自分らしくいることで人が離れていくことはある。だから一人きりでいても大丈夫って思えることが必要。でも実際は、そうやって自分らしくいると出会える人たちがいる。

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ジェンダーは世界のあり方に関係している

Jeremyが大学でジェンダーについて学んだときにそれが「世界のあり方に関係していることに気がついた」と話していたのだが、確かにジェンダーのように社会的に構築されたものについて考えることは、あらゆる「当たり前」に疑問を持つきっかけになる。そして「当たり前」にとらわれなければ必然的に「選択肢」が生まれてくる。

ジェンダーについて考えるのは、自身を「マジョリティの人間だ」と思ってる人には関係のないことのように感じるかもしれない。それでも「マイノリティが自由になれる世界は、マジョリティの選択肢も増えるということ」なのだとEdoが話していた。

6月7日のイベントでは、米国のミネアポリスで起きた警察官によるアフリカ系米国人の暴行死事件を発端に世界中に広がる「Black Lives Matterムーブメント」を急遽テーマにし、収益は人種や貧困を理由に不平等な保釈制度に苦しむ人を支援する非営利団体「The Bail Project」に全額寄付された。

その回でもEdoが「(社会的に抑圧されている)一つのグループの問題が解決の方向に進めば、それ以外のグループの問題への解決にも繋がる。It multiplies(それは広がっていく)」と話していたのが印象的だった。

この記事を読んでコミュニティに参加したい人は、REINGのPeatixでイベントを確認することができる。「直接SNSでメッセージをくれたらお返事します」とも2人は言っていた。

ジェンダーや人種など社会に存在する不平等を前にして、途方もない気持ちになることもあるだろう。でもそんなとき「答えがないからみんなの考えが聞きたい」とまず周りに自分の意見をシェアしてみるだけでも、見えてくるものがあるかもしれない。

Jeremy Benkemoun

WebsiteInstagram

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Purple Screen

ジェンダームービークラブ

Purple Screenは、毎週日曜日19:30-21:00に集まり映画やテレビ番組を「ジェンダー」の観点から議論することで、表現のあり方について、共に学び、考えたい人々のコミュニティ。
自分の意見を述べたり、他の人の意見に耳を傾けたり。 「ジェンダーの問題に、メディアはどのように光を当てることができるのか?」「表現が、人々のジェンダーや人のあり方に及ぼす影響とは?」等、自分なりの視点を持てるように、メンバー間での意見交換の場を作ることを目的にしています。

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