「ゴミを作っている感覚だった」。大量生産・大量消費の服作りに疑問を抱いた男が立ち上げたアパレルブランド

Text: YUUKI HONDA

Photography: Jun Hirayama unless otherwise stated.

2018.2.23

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トレンドがめまぐるしく回り続ける今、たとえば10年間、あなたの箪笥を支え続けている服はあるだろうか。いやそもそも、10年という月日を考えて作られる服がどれだけあるだろう。
 
もし10年間着たいと思える服があるとすれば、それはもう服というより、思い出の媒介、アルバムのような役割すら帯びているはずだ。
 
そんな人生に寄り添う服を作ろうというのが、“10 Years Clothing”と名付けられた、新進気鋭のブランド「10YC」。この今までにない挑戦の原動力は、意外なところにあった。
 
「これって自分たちが作りたいものを作ってるだけなんですよ」。
 
いったいどういうことだろう。

Photo by 撮影者

「作りたいから作る」。自分に素直な起業家の肖像

今回話を聞いたのは、10YCの代表下田 将太(しもだ しょうた)さん。もともと大手アパレル会社の生産管理に携わり、新卒5年目でやめて起業した彼は、あることをきっかけに業界への違和感を感じ始めたという。

Photo by 撮影者
10YCのスウェットを着て颯爽と現れた、10YC代表の下田さん

10YCの仲間と一緒に住んでたことがあるんですけど、彼がある日、1万円近い値段出して買ったというTシャツを手にして、「これ一回洗っただけでヨレちゃったんだけど、お前の業界どういう仕事してんの?」って言ってきたんです。

その日を境に、自分が苦労して納品した服が、翌週にはセール品としてたたき売られている状況。それでも売れずに処分されていく大量の在庫。しかし次々と新しい服を納品しなければならない日常。セール時の値引を見込んで計算されている定価。それらのすべてに違和感を感じ始めた。

だから仲間と「自分たちの作りたい服を作ってみよう!」となったんです。しかもクオリティが高くて、丈夫で、着心地も良いやつを。そこでそんな服を作るにはどうしたらいいのかってことで、“旅行も兼ねて”全国の紡績、編み、織り、裁断、縫製、染色の現場を訪ね歩きました。そこで出会ったモノ作りに熱い思いを持っている人たち。その姿勢から、大量生産・大量消費ではないモノ作りの豊かさを学んだんです。そしてこれは絶対に広めなくちゃいけないものだと思いました。

「自分たちの作りたいモノ」を作るという真剣な遊びを続けて約1年。クラウドファンディングでプロジェクトを公開するやその反応は上々。目標金額を大きく上回る支援の輪が広がった。

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10YCの創業メンバー。左から下田さん、根津さん、後さん

だから結果的にブランドを立ち上げたんです。最初は起業しようなんて全く考えてなかったんですよ。始まりは仲間内のノリです。「なんか面白いことしようぜ」っていう。

「自分たちの作りたいモノ」が「みんなに求められるモノ」と重なったとき、下田さんたちはブランドの立ち上げを決めた。何かを作るなら良質で、できるだけ長く着てもらいたいという意味が込められたブランドは、今年から本格的に始動している。

着る人にも豊かなモノ作りの世界を知ってほしい。職人の思いを纏う服

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そうして「着る人も作る人も豊かに」をコンセプトに立ち上げられた10YC。その製品は上質な生地を使い、下田さんたちが直接会って契約した、高い技術を持つ全国の工場で生産される。それらの工場とは直接やり取りをしているため、仲介にかかる費用を削減でき、その分の浮いた資金が品質向上のために使われている。
 
大胆にも製造原価率の内訳をホームページ上で公開。同時に契約している生産現場を取材し記事にして発信している。消費者は製品の生産過程や、そこに込められている思いを考慮して購入を検討することができる。

原価をオープンにしているのは、50%とか80%オフになっている服が本当はいくらなのかがお客さんにはわからないからです。業界外の人は服ができるまでにどんな工程があって、どれぐらいのお金が何に使われているのかを知れないじゃないですか。そこを知ってほしかったのと、あとは現場の人の熱い思いを伝えたかった。大量生産・大量消費じゃないモノ作りがちゃんとあるんだってことを知ってほしい。そういう豊かなモノ作りがあると知ったうえで着てもらいたいというのが、10YCの思いです。

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Photo via 10YC website

ある工場長の「モノ作りは効率じゃなくて想いだよ」という言葉に感化され、私たちに知られざる世界を伝えることにした10YC。業界の常識に当てはまらない、モノ作りの背景を感じることのできる服が、こうして生まれた。

「自分たちの着たいものだから自信を持って届けられる」

アパレルってトレンドや季節に合わせて短期で商品を回していくので、実は10年着られたら困るんですよね。でもうちは「10年着られる」と胸を張って言う。これは耐久性の話ではなく、10年という長期間でも着続けてもらえるというということなんです。

10年という経過に耐えうる品質があっても、そこに愛着が無い限り、その服を着続けることは確かにないだろう。今日も何気なく着てしまっている服。それが10YCの目指すところだ。

長く着たいという愛着を持ってもらうために、いろんなことを考えています。たとえば3月からスタートする予定の「リペア」や「染め直し」のサービスがそれです。服のメンテナンスですね。「汚れたり破れたから捨てる」という前に、僕たちに預けてください、より良いものにしてお返ししますという感じです。

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業界の常識と真逆の方向性を志す10YCの姿勢。その根源にあるのは、これまでのやり方をなぞるだけではダメだという意識の表れにあった。

トレンドを追いかけて速く商品を回していくというのが、これまでの業界の常識でした。速さが命だったんです。でもここ最近はそれじゃ上手くいかなくなってきた。だからいろんなブランドが丁寧なモノ作りをしようとしているんですけど、トレンドを追い続けることに特化していた組織体制を変えるのはそう簡単じゃありません。

大量生産・大量消費の時代が過渡期を迎え、時代の転換点にある今、喫緊の課題は新しいモノ作りの指標を確立すること。トレンドに代わる「何か」。10YCにとってのそれはなんなのだろう。

まあ僕ら作りたいものがいっぱいあるんですよ。これからどんどんシャツもパンツも作りたい。自分たちの作りたいモノを作っていくだけというか。だって、お客さんに自分たちが着たくないものは売れないでしょう?ただそれだけですね。

「自分たちの作りたいモノ」を作る。その姿勢をぶれずに持ち続けることで、10YCはどのような価値を創造していくのだろう。どのブランドも変化を迫られる厳しい時代のなかで、彼らの歩みはポジティブな空気であふれている。

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最初は内輪だけの面白いことから始めたら良いと思うんです。それに共感が集まれば、お金はクラウドファンディングでまかなえますし、それで起業して、結果的に失敗したって死ぬわけじゃないですから。まあ初めての起業だったので、びびってたところもありますよ。でも一人じゃ辛いことも、仲間がいれば支え合えます。みんなもう少し起業についてライトに考えても良いと思うんですよね。

「失敗しても死ぬわけじゃない」。そんな楽観が、これからの時代を作っていくのかもしれない。

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10YC

WebsiteInstagram

「着る人も作る人も豊かにする、未来のためのものづくり」の実現を目指し、2017年11月にローンチしたウェアブランド。製造委託先の工場と直接取引し、中間マージンを除くことで品質が良く長く着続けられる製品を提供しつつ、工場に適正な工賃を支払い、モノ作りの現場に利益を還元。「着る人も作る人も豊かに」する、持続可能なモノ作りのサイクルを構築している。

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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