「自分の心や精神と身体が完全に分離されていることに気がついたのです」アーティストvōxが新曲で追求する“身体との関係”

Text: Noemi Minami

Photography: Michael Tyrone Delaney

Wardrobe design: Alabama Blonde

2020.11.12

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シンガー、ビジュアルアーティスト、パフォーマーとしてLAを拠点に活躍する実験的なアーティスト「vōx(ウォークス)」が、2020年9月17日に3作目となるEP「This Body」をリリースした。

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2016年にKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)のカバーソングで注目を集めて以降、宗教やメンタルヘルスなどとの自身の関係について、アートやSNSを通してありのままさらけ出してきたvōx。

「自分自身からまるで分離して漂っている感覚や、世界を掴みきれない感覚、自分がいる場所や自分自身から逃げたくなるような感覚ーこれって普遍的だと思うんです」
今回新作のEP「This Body」を通してvōxが向き合ったのは、「身体との関係」だった。過去の体験からセクシュアルトラウマを抱え、鬱や不安症などと付き合ってきた彼女にとってそれは不可欠だったと話す。

“脆い自分”を決して否定しないvōxの優しい眼差しに触れると、私たちの自分への眼差しも少し変わるかもしれない。

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ー表現活動はいつから始めたのですか?

15歳から曲を書いていました。コーヒーショップでパフォーマンスを始めたのもその頃からです。自分のキャリアとして表現活動に真剣に取り組むようになったのは、生まれ育ったミネソタからLAに引っ越してから。2013年の終わりの頃から「vōx」としての音楽やパフォーマンスの世界観が固まってきました。そこから実際に世に作品を出すまでに数年かかりました。2016年にアーティストでプロデューサーのDylan Brady(ディラン・ブラディ)と共にKendrick Lamarの「”I”」のカバーを出してから、自分が「vōx」で何を本当に表現したいのかを理解し始めた気がします。

ー今回リリースしたEP「This Body」では何を表現したかったのですか?

今回のEPでは自分の身体との関係、繋がりを追求することがとても重要でした。自分の心や精神と身体が完全に分離されていることに気がついたのです。私の場合、過去のセクシュアル・トラウマの対処法としてそうなったんだと思います。この問題を追求することは自分のためでもありますが、リスナーのためでもありました。私自身が私のリスナーですから。

自分自身からまるで分離して漂っている感覚や、世界を掴みきれない感覚、自分がいる場所や自分自身から逃げたくなるような感覚ーこれって普遍的だと思うんです。だからこのEPではエンパワメントの意味も込めて、それをいろんな角度から見つめ直しました。「Be Bigger」という曲は「Reconnecting(再び繋がること)」の美しさを表現した曲です。自分の身体を自分自身で埋め尽くすこと、それは誰もが経験するべきこと。

ーどうしてEPのタイトルを「This Body(この身体)」にしたのですか?どんな意味が込められているのでしょうか?

「This Body」はEPに収録されている曲のタイトルでもあって、その曲が今回のEPの全体的なテーマを体現しています。「”You were not here first. I was.” (最初にここにいたのはあなたではない、私)」というコーラスの歌詞に集約されていますが、私の身体は私の問題です。このEPでは私の身体の持ち主は私であるということ、境界線を持つこと、そしてセルフケアについてをテーマにしました。

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ーセルフイメージ(自分について抱いているイメージ)についてネガティブなこともオープンに発信されていますが、どうして多くの人が自分自信を受け入れることを難しいと感じてしまうのだと思いますか?vōxとしてアートを通じてどのようにこの問題に向き合っていますか?

社会、セックス、大企業…この問題にはいろいろな要素が絡み合っていますよね。力のある男性が女性を抑圧しようとするシステムがまかり通っている社会において、特に女性はこの問題を抱えやすいと思います。もし自分に満足できなかったら何かを買ったり消費することでそれを埋めようとする傾向も社会的にあると思っています。私は個人個人が自分の力を感じられるようなアートを生み出すことでこの問題に取り組むのが一番だと考えています。だからいつもアートを作るときはそれが誰かを癒し、誰かが前に進むきっかけになるようなものにしようと心がけています。

ー自身の不安症についてもとてもオープンに話していますよね。

まだ不安症に関しては旅路の途中です。メンタルヘルスのこととなると、それが旅路であるということに気がつくのが私にとって重要でした。終わりはなくて、急に問題がなくなっていつもハッピーでいられる状態になんてなれない。だから今ある小さな喜びを見つめることにしました。大きな変化よりも、できるだけ小さな一歩を踏み出し続けることが大切だと思います。

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ー新型コロナが広まってからは、これまで以上にメンタルヘルスの問題がオープンに話されるべきだと感じています。コロナ禍でメンタルヘルスとどのように向き合っていますか?今の状況でアート活動を続けることに関してどう考えていますか?

この春、自粛生活が始まって数ヶ月間はアート活動ができませんでした。アートを作ることは重要ですが、自分自身をケアしてあげることより大切ではありません。もし創作活動を通して今私たちが体験しているこの困難を吐き出し表現することができるならそれは美しことです。でも同時にハッスルカルチャー(常に最大限に働き続けることが美学とされる風潮の)は思いやりに欠けることがあります。時には昼寝も必要です。自分に優しく、忍耐強く付き合ってあげてください。あなたにふさわしい愛をあなた自身が注いであげてください。そうすればおのずと全てがよくなりますから。

ー私たちの自分自身への評価は、社会に大きく影響されていると思います。vōxとしてアート活動を通じてどんな世界を生み出したいですか?

私は愛に溢れた、誰もが受け入れられる世界を作りたいです。誰もがあるべき姿でいられる世界。愛したい人を愛せる世界。好きなように表現して、必要なだけ脆い自分でいられる世界。自然も人も大切にする世界。力を合わせれば、現在の世界をそうでなくさせる抑圧をうむシステムを壊すことができるはずです。

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ー最後に、ありのままの自分を受け入れることが難しいと感じている人にアドバイスはありますか?

辛抱強く自分と付き合ってあげてください。今あなたがどんな状態にいようと、あなたはそのままで完璧なんです。私にもとても辛い時期がありました。鬱や不安症、自己否定感に苦しんできました。でも覚えていてください、いつか物事はましになります。もし今日あなたがベッドから抜けられず何もできなかったとしてもいいんです。あなたは愛されています。あなたは必要とされています。

「This Body」 by vōx

Spotify

9月17日に販売されたEP 「This Body」でvōxは、「更生」に関して追求している。
作品には脆弱な歌詞が繊細に織り込まれ、なぜ彼女は“小さく保たれていたのか”を探る。
また、彼女の血統を理解する方法や彼女がふさわしいと知る、ふさわしい愛の方法をについて問いかけている。

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