現役弁護士に聞いた、若者が“駆け込み寺”として法律事務所に気軽に相談したほうがいい理由|橋本 紅子の「常識」と「パンク」の狭間で、自由を生み出すヒント。 #004

2017.9.14

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みなさま、こんにちは。紅子です。気が付いたら夏もあっさり終わり、秋を告げるコンビニに並ぶさつまいもとかカボチャ味のお菓子にワクワクしてます。

さて今回の連載では、日常生活でトラブルに遭った時の自分の守り方について書きます。具体的にいうと、ストーカーや痴漢に遭った時、家庭内・恋人間でのDV、職場でのセクハラ、パワハラ、長時間労働なんかについて。

正直私にとってそういう「法絡みの問題」は、テレビやニュース、人づてに聞くことはよくあるけれど、幸運なのか自分が鈍いだけなのか、あんまり当事者として悩んだりしたことはなかったんです。数ヶ月前までは。

盗撮されているのに気付いたら、あなたならどうする?

今年の5月の終わり、大好きな米テキサス州出身のアカペラ五人組のPENTATONIX(ペンタトニックス)のライブの帰りに、近くの家電量販店で盗撮の被害に遭った。たまたま一緒にいた彼が盗撮犯に気付き、現行犯逮捕に至ったけれど、「法絡みの問題」の当事者になったことのない私は、その後の警察や弁護士とのやりとりにずいぶん戸惑った。

被害者側である私たちも状況説明や手続きのために警察署まで連れて行かれると、保険証のコピーを取られたり、全身の寸法をメジャーで測られたり、写真を撮られたり…。必要な手続きとはいえ、まるでこっちが犯罪者みたいな気分になった。最悪なのはそれを含めてあれこれ確認を取るため夜中の3時まで警察署に拘束されなければならなかったこと。まったくPENTATONIXの余韻は想定外の出来事に塗り替えられてしまった。

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数日後、犯人側の弁護士から電話がかかってきて、示談交渉のため会うことになった。示談なんてドラマではよく聞くけど、実際には何をするのか全く分からない。たぶんお金を払うことで解決させる、みたいなことなんだろうけど、その金額の相場とか、いくらなら妥当で、弁護士と話すときに言うべきこと、気をつけること、何にも分からない。そもそも犯人を弁護する側だけが専門知識を持っていて、一方的にお金の交渉なんて言われても納得がいかなかった。

幸い私には弁護士をしている知り合いが何人かいたため、事の経緯を一から説明し、通常の示談のパターンや、交渉のしかた、示談金の設定のし方など、一通りアドバイスをもらうことができた。おかげでざっくりとこういうケースにおける示談交渉のしかたを踏まえた上で話し合うことができたので、よく分からないまま示談書にサインをせずに済み、納得のいかない部分はしっかりと変更してもらえるよう要求し、この件はわだかまりを残さず解決することができた。

法絡みの問題を弁護士に聞いてみた。専門的なアドバイスが欲しいとき、わたしたちはどうすればいい?

この一件を通して、たまたま私には知り合いに弁護士がいたから助けを借りることができたけれど、もしそうではなかった場合どうしたらいいのだろうか、とふと考えるようになった。テレビで目にする弁護士のイメージは、何か重大犯罪ばかりを扱っている印象が強いけれど、小さなことでも法的な相談が必要になる事は私に起きたように、いつでも誰にでも起こり得る。

専門知識のある人がいればすぐに解決できることも、動き方が分からず泣き寝入りしてしまう人は少なくないのではないだろうか。そう思うとなんだか居た堪れない気持ちになったので、あのとき相談に乗ってくれた太田弁護士に色々と質問してみた内容をみなさんと共有したい。Be inspired!の読者のみなさまが、何か「法絡みな問題」の当時者になった時のためになると嬉しい。

太田伊早子(神奈川県弁護士会所属)

2008年 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業
2009年 弁護士登録
労働事件(労働者側)、刑事・少年事件、消費者事件を中心に、離婚・相続等の家事や一般民事事件も幅広く取り扱う。

 

些細なことでもまずは相談してみて

紅子:太田さん、先日はありがとうございました。私は太田さんのおかげであの件を解決することができたけど、ああいう問題って誰にでも起こり得るにも関わらず、気軽に相談できる相手がいなくて、しかも弁護士に相談とかってなると身構えてしまう人も多いと思います。太田さんは普段、どういった相談を受けることが多いですか?

太田先生(以下:先生):普段受ける相談の内容は本当に色々で、セクハラ、パワハラ、DV、労働問題、それから最近だとネットのコンテンツを利用した架空請求とかもあるかな。

本来、「これどうなってるの?」って悩んだことについてはとりあえず全部相談してもらって、それが法的な問題になり得るかどうかっていう振り分けを弁護士と行うんだけど、実際のところは、やっぱりみんな弁護士と精神的にすごく距離がある。だから、「自分の今の問題は法律の問題なんだ」って思えた人しか相談に来ていないのが現状。

紅子:なるほど。その、「まずは相談したい」と思った時の“駆け込み寺”として弁護士事務所があるんでしょうか?

先生:そうだね。まずは弁護士事務所に来てもらって、法律の問題なのかどうか、振り分けてみるっていうのが方法の一つとしていいと思います。

紅子:おそらく、多くの人が何かトラブルがあった時にすぐ弁護士に相談しないのって、法と絡めて考えていないことだけではなく、弁護士に相談するとすごくお金がかかるって思っている部分もあると思うんです。実際のところ、その相談にかかる費用はどのくらいなんですか?

相談にかかる費用はどれくらい?無料で頼める方法はある?

先生:基本的には弁護士によって違いますが「法律相談料」っていうのを取っています。初回は無料でやっているところも結構あったり、テーマによっては無料というところもあります。費用がかかる場合はだいたい神奈川県内とか都内とかだと30分5000円(税抜)くらいが多いかな。

みんな勘違いしていることの1つとして、弁護士のところに来たらいきなり弁護を頼まなきゃいけないと思ってるんだけど、まずは相談してみて、それから弁護士に依頼するかどうか決めるのが普通の段取りです

それから、直接弁護士事務所に行く以外の選択肢として、弁護士会に相談してみる方法もあります。弁護士会は各都道府県に必ず存在していて、あらゆるテーマの枠が設けられているので、そこで自分の相談にマッチした弁護士を紹介してもらえるというメリットがあります。市役所や区役所にも交代で弁護士会の弁護士が居たりするので、そこに行って相談することもできますよ。

あとは、3回まで無料で相談できる「法テラス」っていう機関もあります。法テラスは法律相談を無料でできるのに加えて、実際に弁護を依頼する際にも一番低い価格で頼めるというメリットがあります。

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紅子:なるほど!無料の場所があると相談もしやすいですね。まとめると以下の3つがあるわけですね。

弁護士事務所に直接行ってみる
弁護士会に行ってみる
法テラスを利用してみる

 

若い子も気兼ねなく弁護士のところに来てほしい

紅子:現時点で、若い人からの相談も結構来ますか?

先生:若い人からは、残念ながらあんまり来ないんです…。私たちは加害者側の弁護士としてついたりすることもあるわけだけど、そういう時、この前の紅子ちゃんみたいな被害者側の人に連絡を取ったりしても、被害者側に弁護士がついてることは今までなかった。よくわかんないまま対応しなくちゃならないから、負担度は高いんじゃないかなと思う。

紅子:やっぱりそうなんですか。普通に友達と話をしてても、痴漢やDVや長時間労働を経験している子はたくさんいるのに、そのままやり過ごしてるようなケースがほとんどで表面化していない感じがしました。

先生:そうだね。例えば、私は夫婦間のDVの相談を受けることはよくあるんだけど、交際間での相談は受けたことがないんだよね。つまり、家庭を持つ世代の人たちよりも若い世代に起こっている、事件化されていない問題は実はすごく多いんじゃないかと思ってる。DVもそうだし、別れたいのに別れられないケースとか。あと乗ったことがある相談としては、裸の写真撮られちゃってるケース。リベンジポルノとかも相談に来てもらうことで事前に防ぐため動くことができることがもあるから、何か困ってたらとりあえず相談に来て欲しい。

第三者が介入することで逆上しちゃう心配があったり、親に知られたくないケースでも、弁護士には守秘義務があり、外に情報が漏れることはないので、影で相談に乗ることもできる。相談内容によっては必ずしも全部弁護士が解決するっていう手段を提案するわけではなくて、「これはここの窓口に相談してみたら」って他の機関を紹介することもできるし、必要以上に自分を責めて解決から遠ざかっちゃってる人には適切な判断を促したり、色々な方法を提案することができます。

小さな我慢の積み重ねで受けるダメージは軽くない

先生:少し余談にはなっちゃうんだけど、例えばセクハラをはじめハラスメントに対して、日本の裁判所はすごく遅れてるなって私は思っていて。なんでかっていうと、例えば「ちょっと触られただけ」とか「すれ違いざまにほんの少し触られる」とか。あるいは(私を指して)いまペンを持ってるよね。それを貸してって言うときに、触らなくていいのにわざわざ手を握ってくるとか。そういうのが職場で毎日あったとして、嫌じゃん。「嫌だと思う権利」は当然あるわけだけど、狭い職場なんかだと、そういうのをされてる側が適応障害(その場にいるだけで、その人がいるだけで怖くなるなど)みたいになっちゃって辞めざるを得なかったりする。それに対して「でも、そんなに大したことはされてないですよね」って言われがちなんですよ。

もっというと、性行為にまで及んでいた場合とかもある。そういう場合「女性は好きでもない相手と性行為をしないでしょう」なんて言われがち。まずこれが迷信ね。さらには「メールとかラインも楽しそうだし、付き合ってたんじゃないですか」なんて言われたりする。でも、職場が同じだった場合、普通揉め事を避けようとするでしょ。そういう場合何をするかっていうと、「またまた〜」みたいな感じであしらうんだよね。明確に辞めてくださいとか言えないんです。特にシングルマザーであったり、辞めるわけにいかない事情がある人は尚更。それで断れないまま性行為にまで及んでしまうと。でもその後、その人が精神的に破綻してしまった理由なんかを考えれば、その状況に耐え切れなかったからだって分かるはずなんだけど。そういう認識がまだまだ甘いから、ちょっと触られるくらい、そんな深刻じゃないでしょう、みたいなことを言われたりして、もうレイプくらいまで行かないと問題化されなかったり、そういうのがまだまだ司法の課題だなあと思ってます。

そういう意味で、若い子たちから弁護士が遠いもう一つの理由として「自分が悩んでいることは弁護士に相談するほどのことなのか」って思ってる部分も多いような気がしているんだよね。どうしたらそう思わずに来てもらえるかなって、こちらとしてはいつも思っていることです。

労働問題とかも、若い人の方が変な条件で働かされてることって多いから、そうなってくると忙しくて相談にも来れなかったりするんだよね。そういうときは労働弁護団っていって、決まった時間、電話で相談を受け付けてるところもあるから、そこを使ってもらってもいいと思う。匿名でもOKなので。これは結構よく電話かかってくるよ。電話一本で色々な選択肢を提案することができるので、無駄だって思わないでぜひ若い人にも利用してほしいなと思う。

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労働のことでも、彼氏・彼女のことでも、ちょっとしたことでも悩んだら相談してもらっていいんですよ。そのことを嫌に思わないですから。弁護士は。

紅子:弁護士としては全然ウェルカムなんですね。

先生:はい。裁判所に訴えるだけが方法じゃないし、さっきも言ったように色々解決の仕方を提案できたりもするので、自分の中で決めないで、とりあえず来て欲しい。

紅子:ありがとうございました。現在進行形で困っている同世代の子や、今すぐには必要じゃない人にもみんなに知っておいてもらえたらと思います!

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「黙っていても、自分のことは守れないよ」

一人一人が声の上げ方、助けの求め方を知っておく事で、掻き消されていた被害が可視化されやすくなり、同じ思いをする人を減らせるかもしれない。そうして「侵してはいけないアウトライン」の意識がはっきりしていくことで、今よりもっと他者同士が尊重される社会になるかもしれない。そんなことを期待しつつ、この記事を参考にして貰えれば嬉しいです。

BENIKO HASHIMOTO(橋本 紅子)

Instagram

神奈川県出身。音楽大学卒業後、アパレル販売をしながらシンガーソングライターとして活動を続ける。2015年5月に結成されたSEALDs(=自由と民主主義のための学生緊急行動)に参加しSNSやデモ活動を通して同世代に社会問題について問い掛けるようになる。

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Photography: Jun Hirayama

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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