「ゴジラはホラー映画?」ホラー映画で扱う題材の推移で社会の意識を垣間見る、50年代・60年代のシネマヒストリー|Jo’s Cinema Talk 003

Text: Jo Motoyo

Artwork: moka

2020.11.26

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第2回の連載の最後に『ジョーカー』に触れたのですが、そのあとにNETFLIXでもう一度見ました。

「自分の人生は悲劇だ」と語る主人公のアーサーが、喜劇王チャップリンの映画を観ながら楽しそうに笑っているんです。

ちなみに観ていた映画は連載の第1回でも触れた、モダンタイムズのスケートのシーンでした。

映画の中で、主人公アーサーは「自分の人生は悲劇だと思っていたけど、気づいたんだ。喜劇だったんだ」と語るんです。

もちろんこんな小ネタは映画を見る上で知っている必要は全くなく、ただただ純粋に映画を見るだけでも本当に素晴らしい体験なのですが、ちょっとしたことを知っているだけで、急に映画が奥行きを増したりしますよね。

是枝監督の『映画を撮りながら考えたこと』の中で、「映画という太い川に流れる一滴の水として映画づくりに参加する」という表現をしていたのですが、そんな映画という太い川をこのワンシーンには感じました。

『ジョーカー』を観たことある人も、ない人も、このシーンを探しながらもう一度映画を観てみるのも面白いかなと思います!

「映像監督Joによる、Netflix時代だからこそ知りたい映画史『Jo’s Cinema Talk』」連載第3回、Joです!

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世界のKUROSAWA

1950年代は日本映画の黄金期でした。
当時、世界中で作られた映画約2800本のうち、制作本数トップはアメリカで全体の35%。次いで終戦すぐの日本が20%。

戦後の復興の中で日本の映画産業がものすごく花開いた時代です。

そしてこの時代に『羅生門』、『七人の侍』などを手がけた”世界のKUROSAWA”が誕生しました。
日本人で初めて世界の国際賞を獲ったのが、黒澤明監督でした。

黒澤明監督に関しては、色々な逸話がありますが、黒澤監督は当初、満足のいく出資金を貰えなかったので、出資金で『七人の侍』をラスト前まで作って、配給会社の人達に見せたそうです。
「ラストはどうなるんだ!!」という配給会社に向かって、「お金が足りなくて作れなかったです」と答えたそう。
もちろん配給会社や出資してくれている人は最後まで観たいから、追加出資するのですが、その交渉術ってすごいですよね。

最近は、”ベストを尽くす”というのを自分のテーマにしているので、このエピソードは個人的にとても胸に刺さりました。

ちなみに、黒澤明は周りが資金調達をしている間に、釣りに出かけてたという逸話が残っています。

そしてつい先日のニュースで、黒沢清監督の「スパイの妻」がヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞しましたね!

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まだ公開されていない映画ですが、今から観るのが楽しみな一作!!
少しホラー調のミステリー作品を作られる印象の黒沢清監督ですが、本作もミステリー作品らしいです。

ホラー映画から特撮というジャンルが生まれた

ちなみにホラーや犯罪劇、ミステリー作品って、1950年代くらいまでは低俗な作品とされていたそうです。そしてそういった作品群のことを“パルプフィクション”と呼びました。
そう、タランティーノ監督の名作と言われているあの映画の名前です。
直訳だと“くだらない/低俗小説”という意味らしいですが、おしゃれな題名ですよね。

実は私、恥ずかしいくらい怖がりでして、お化け系のホラー映画が全っっっ然観れないんです。
もう本当にダメなんです、観た後になんどもなんども頭の中でシーンがリフレインしてしまって、寝れなくなってしまうタイプでして、このお化け系ホラーのジャンルだけはあまりディグれない….という弱みがあります。

が、映画を語る上で、やはり避けられないジャンルなので、名作や大作、興行的的に大ヒットした作品だけはDVDでみるようにしています。そして一週間ほどその作品に呪われます。悪夢で起きたり、夜になると暗がりから人が這い上がってくるのではと怯えたり….まじで命がけの鑑賞です…。

でもそんな非日常体験をさせてくれる映画って、最高ですよね。

第2回の連載で、B級映画に触れたのですが、B級映画の大ヒット作とされる『フランケンシュタイン』(1931年)もB級映画の代表作であると同時に、ホラー映画の代表作ともされています。

ホラー映画で扱う題材の推移をみるのってとっても面白くて、1930年~1940年代は怪物に襲われるという題材が多く、それが1950年代になると、水爆実験や核実験による”核の脅威”へと変わっていきます。

日本に核が落とされたのは1945年。(ちなみにアメリカ初の核実験も同じく1945年)
テレビや新聞で世界中の人が「きのこ雲」を見たことが、こうやって映画にも繋がってくるのが当たり前っちゃ当たり前だけど、生活と映画が地続きに繋がっているんだなと実感できますよね。

1950年に生まれた世界的アイコンであるゴジラも、人間の核実験によって太古の生物が突然眠りから覚めて生まれた存在です。「核の落とし子」「人間が生み出した恐怖の象徴」という煽り文句がついていたそうです。

ゴジラといえばホラー作品という印象よりは特撮映画という印象ですよね!
ゴジラを作った円谷英二は『キングコング』(1933年)に影響を受けて特撮を研究したと言われています。

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ゴジラ作品は東宝にとってとても大きな存在で、
それを象徴するように新宿TOHOシネマズの上にゴジラがいますよね。

国内のゴジラシリーズの中で現状、一番興行収入がよかったのはなんだと思いますか?
ゴジラシリーズぶっちぎり一位の82億円もの興行収入を上げました。

正解はエヴァンゲリオンの監督である庵野秀明監督が手がけた「シン・ゴジラ」です。
次いで2位が「ゴジラVSモスラ」で22億円。
すごい数字ですね…。

東宝が経営している東宝スタジオが世田谷にあって、時折撮影で使わせていただくのですが、まず入り口でゴジラが出迎えてくれて、そのあとに黒澤明の7人の侍の壁画が見えてきます。
全て1950年代の作品です。

いかにこの時代の作品が東宝や日本の映画界にとって大きな作品だったが伺えますよね。

特撮好きな監督に、スティーブンスピルバーグ監督や、エヴァンゲリオンの監督である庵野秀明監督などもいます。
そして今回は、特撮好きであり、私の友人でもあり、映像監督でもあるPennackyくん(正体を明かさないまま、きのこ帝国、Yogee New Waves、前野健太のような人気アーティストなどのMVを手がける注目の若手映像監督)が、1945年公開の初代ゴジラに対してのコメントを寄せてくれました!

子どもの時にみた初代ゴジラは強烈で、モノクロ映像、逃げ惑う人々、登場人物は、全部、実話の出来事のように見えて、ゴジラが怖かったのを覚えてます。なんと言っても初代ゴジラの見どころは特撮。数々の名シーンがある中、僕が好きなのはゴジラが鉄塔に噛みつくシーン。全てがリアルなゴジラの中に垣間見える、特撮の手作り感と制作スタッフの工夫が、子どもながらにすごい!これはつくりものだ!と感動したのを覚えています。

ちなみにPENNACKYくんが言ってたのはこのシーンです。

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アメリカ大統領とマリリン・モンローの恋

1950年代を代表するアイコニックな存在であるマリリン・モンロー。

『七年目の浮気』のスカートを抑えるモンローが有名ですが、みんなが想像するこの全身像って映画の中では実は描かれてなくて、こういう風に上下に分けて描かれているんです。

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当時は映画の検閲が厳しかったので、このシーンは上映出来なかったのでしょう。

この写真は別撮りで撮影され、ポスターなどに使用されたため、マリリンといえばこのポーズ、という印象になったのだと思います。

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そしてさっきのYouTubeリンクの頭の方で、映画館から出てくる主人公リチャードとマリリンがいますよね。

二人は『大アマゾンの半魚人』という映画を見てきた設定になっています。
この作品、ぜひクリックしてポスターを見てほしいのですが、見覚えのある映画に似ていませんか?

パッと思いついた方は、それ、正解です。
なんだろ〜と思った方は、ぜひこのポスターだけ見ておいてください。
もう少し時代が進んだときにこの連載でご紹介します。多分第5回くらいで。

ちょっと話題が映画史から逸れてしまいますが、わたしはマリリンが遺した映像の中でこの映像が一番好きなんです…。

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大統領(ミスタープレジデント)であったケネディに捧げた一曲。
当時マリリンとケネディは不倫関係にあったものの、その関係を解消した直後にこの舞台に立ってこの歌を贈ったといわれています。

司会のピーター・ローフォードがマリリンを紹介しても現れず、ローフォードが会話でその場を繋いでいると、突然ひょこっと可愛い歩き方で現れるマリリン。人の焦らし方が上手いですよね。
マリリンという一人の人間の性格を感じられる映像で、すごく好きです。

マリリンは精神的に不安定な人だったので、撮影に遅刻してきたり、無断で休んだりすることが多かったと『マリリン七日間の恋』やその他のマリリンエピソードでも描かれています。

『七年目の浮気』と『お熱いのがお好き』を監督したビリー・ワイルダーは楽屋にこもって出てこなくなったマリリンを楽屋から出てこさせるために、マリリンが歌うはずのパートを別の女優に歌わせたそうです。マリリンの楽屋に聞こえるような声の大きさで。
そしたら楽屋から出てきたらしい。
マリリンの性格を感じられるエピソードですよね。

世界の監督が参考にする“フィルムノワール”とは

「フィルムノワール」は完全な映画用語ですが、知っているとちょっと通っぽくてかっこいい単語なのでご紹介させてください(笑)。

フィルムノワールとは、要はミステリー作品や犯罪映画のことです。

よくギャング映画とも言われたりするのですが、正確には ”破滅に向かって進むサスペンスやミステリー要素を含む、アメリカで作られた犯罪映画” のことを指します。

今はもう少し広義なので、サスペンスやミステリー調で、退廃的な印象を持つ作品のことを指します。(最近の作品だと『ブレードランナー2049』とか、今話題の『TENET』などもフィルムノワール作品と言えます)

絶世の美女であるファム・ファタール(宿命の女性という意味)が物語の中で男を破滅に導く、というシナリオが多く、アルフレッド・ヒッチコックの「めまい」などが古典的なフィルムノワール作品です。

一人の女性に翻弄され、破滅に向かう男…というストーリー。

必ず物語が破滅に向かうというのも、フィルムノワールの特徴です。
めでたしめでたし、というよりは「え、これで終わったの!?」という内容が多いです。

前述した「めまい」はNetflixでご覧になれます。
この映画、タイトルデザインがめちゃくちゃかっこいいので、それだけでも見る価値があります。

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「めまい」にはファム・ファタール(宿命の女性)が二人出てくるのですが、まさかの展開で、映画として最後まで飽きずに見れる傑作ミステリーなので、ぜひ観て欲しい一作です。

フィルムノワールとか、ファム・ファタールとか、どことなくフランス語っぽいですよね。
そう、むしろフランス語なんです。
当時のフランス人たちが、アメリカで作られた犯罪作品をフランス語でフィルムノワール(フランス語で暗黒映画という意味)と呼び、アメリカにその言葉が逆輸入され、そのまま現在まで定着しています。

映画を観ながら”映画とは何か”を考える

1960年になるとフランスでヌーヴェルヴァーグという、シネフィル(映画通、映画狂という意味)の若い監督達で構成された一派が生まれます。

それまでの映画はスタジオで照明を焚き、大きなカメラを据えて撮影するのが主でしたが、ヌーヴェルヴァーグの一派は、基本的に外で自然光を用いて軽いカメラで撮影したりしました。

多分今でいうと、iPhoneで全編撮影するみたいなテンションだと思います。
めっちゃ攻め攻めのスタイルです。

代表的なものでいうと、フランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』やジャン=リュック・ゴダールの『勝手にしやがれ』など。

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勝手にしやがれは、ジャンプカットと言って、時間軸をぐちゃぐちゃに繋ぐような編集をしました。

フィルムをランダムに切って、適当に繋いだように見える編集によって、物語が複雑になる。

それによって観客がより一層その物語を深く読み解こうとする。

その映画が何を伝えようとしているのかを各々が深く考察する、という新しい映画の楽しみ方を提示しました。

ゴダールって実は昔、カンヌ映画祭に乗り込んで映画祭を中止させているんです。
当時の政治状況や警察による弾圧、そして映画産業のあり方や、そもそも映画を品評するということ自体に異議を唱えて、映画監督であるフランソワ・トリュフォーと共にカンヌ映画祭の会場に乗り込みました。

審査員である様々な著名人もそれに賛同し、その年のカンヌ映画祭は本当に中止になりました。

カンヌ国際映画祭粉砕事件と呼ばれています。
この行動の裏には、商業的な尺度だけではなく、純粋に映画が好きな人たちが多様な映画を観れるような環境を作るべきという意図があったと思うのですが、めっっっっちゃくちゃかっこいいと思いました。パンク精神を感じます。

映画を通して何か一つの分かりやすい解答があるわけではないというのがヌーヴェルヴァーグ作品の特徴でもあり、見終わったあとの感覚が非常に複雑というか、絶妙な気持ちにさせられます。

ヌーヴェルヴァーグ作品群をおしゃれ映画と感じる人が多いのは、観客それぞれに解答が委ねられているところだったり、答えがない心地よさが、”自由でおしゃれ”なイメージを与えるからなのかなと思います。

ちなみに私がゴダールで一番好きな作品が『はなればなれに』という作品なのですが、主人公3人が手を繋いでルーブル美術館を駆け抜けるシーンがあって、そのシーンは美術館の許可を取らずにゲリラで撮影されていて、これもパンク精神があるというか、タブーとされてる撮影方法を使った上で、それを感じさせないような軽やかなこのワンシーンがとても好きです。

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なんとなくフランス映画全体的に、このヌーヴェルヴァーグの潮流を感じる部分が多いというか、フランス映画って話が完結してないというか、物語に脈絡がない感じが多いなって思うことが個人的に多くて、その自由な感じがヌーヴェルヴァーグぽいと思ったりします。

ヌーヴェルヴァーグは「映画を観ることで映画とは何かを考察する」という、新しい映画鑑賞のスタイルを生み出したといっても過言ではないと思います。

ちなみにヌーヴェルヴァーグが影響を受けたといわれるネオレアリズモという潮流がイタリアにあって、そのネオレアリズモの代表作がフェデリコ・フェリーニが作った『8 1/2(はっか にぶんのいち)』なんですけど、この作品は“映画の中で映画を作っている”んです。
「映画を見ながら映画とは何か」を考察する映画ですよね。
『人生はお祭り、一緒に過ごそう』と主人公が言うのですが、このパンチラインがおしゃれな一作。

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ちなみに『8 1/2』はNINEというミュージカル映画にリメイクされています。
NINEの中でも『8 1/2』の中でも、「監督はイエス・ノーを言うだけ」っていうセリフがあるんですけど、実際はそんなかっこよくなくて、めっちゃ泥臭く働いています(笑)。

「全く新しい映画体験」でした

ここ最近、映画を全然見れていなくて、先日久々に映画館で話題の『TENET』を観ました。

通常のIMAXではなくて、フルサイズ IMAX GTテクノロジー(以下、フルIMAX)を搭載しているシアターで鑑賞しました。
日本では池袋と大阪にだけフルIMAXを搭載した映画館があります。

コメントをくれたPennackyと一緒に観たのですが、帰り道は後ろ歩きしながら駅までの道を歩き、映画の余韻に浸りました。

IMAXとフルIMAXってどう違うの?とよく聞かれるのですが、簡単に言うと、IMAXは横長、フルIMAXはその横長のスクリーンが更に縦長にも伸びたスクリーンのことです。
通常サイズのIMAXでは投影しきれない、上下の見切れている部分を投影することが出来る上映方法のことをフルIMAXと呼んでいます。

そもそも、映画館に入った時のスクリーンのサイズが見上げてしまうほど大きいので、映画への没入感が全然違います。

3Dや4DXで初めて映画を観たときは映画に没頭するというよりは、技術の荒さに目がいってしまい「まだ発展途上の技術だけど、これからもっと良くなっていくんだろうな」という印象を抱いたのですが、フルIMAXは全くもって新しい映画体験すぎて、あまりの没入感に圧倒されました…。

映画館が大きいため、音の作り方や響き方が全然違うので、臨場感がすごくて、映画館がもはやクラブのようでした(笑)。

フルIMAXの撮影に使用するフィルムかなり高額であることから、現状ではフルIMAXで制作された作品自体が少なく、フルIMAXを体感できるチャンスがかなり限られてしまうので、ぜひ一度、鑑賞できるタイミングで体験して頂きたいです。

今は映画館の入場制限も少し緩和されてきて、週末は入場制限なしでの上映で、食べ物の販売はなし、平日は一席飛ばしでの上映で、飲食の販売はあり、という映画館が多いと思います。

お友達や恋人と横並びで映画見れるのは、やっぱり楽しいですよね!
でも私は映画に没頭したいので、一席飛ばしの平日のスタイルが好きです(笑)。

みなさんはどっち派ですか?

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