「アイデアを出す力は鍛えられる」。ハリウッド大作を手がける若手アーティストに聞いた、“独学のコツ”【PR】

Text: YUUKI HONDA

Photography: KOTETSU NAKAZATO unless otherwise stated.

2019.8.20

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「本当に欲しい未来とは何か?」コンテンツ・レーベルblkswn(ブラックスワン)の若林恵(わかばやし けい)が代表を務め、ソニーをパートナーに迎えた、実験的な対話のプラットフォーム「trialog(トライアログ)」。

これまでに全5回が行われており、メインのコンテンツとなるトークセッションでは、「FINANCE & WORK」「TEAM BUILDING」などの身近でありながら奥が深いテーマに合わせ、佐久間裕美子、tofubeats、中村佳穂など、ジャンルや国境を超えて時代の先端で活躍する多彩なゲストを迎え、未来を見据えて対話し思考してきた。

そんなtrialogの6回目のテーマは「独学」。副題は「自分を成長させられるのは自分だけ」。

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左から水口哲也、SASUKE、田島光二、若林恵

今回はtrialogの代表を務める若林恵と共同企画者でゲームデザイナーの水口哲也(みずぐち てつや)が司会を務め、トークセッションのゲストにコンセプトアーティストとして国内外の映画制作に携わる田島光二(たじま こうじ)を招いた。また、ミュージックセッションでライブパフォーマンスを披露するゲストには、以前NEUTでも取材したSASUKEが迎えられている。

田島光二:コンセプトアーティスト。VFX制作会社DNEGを経て、現在Industrial Light & Magicに所属。学生時代に「3DCG AWARDS 2010」で最優秀賞、2017年にWIRED Audi INNOVATION AWARDを受賞。2018年、Forbesの30 under 30 Asiaに選出される。

SASUKE:クリエイター。10歳でNYのアポロシアターでのパフォーマンスを経験。直近では、元SMAPメンバーの稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾からなる「新しい地図 join ミュージック」の新曲「#SINGING」の作詞・作曲を手がけた。

水口哲也:ゲームデザイナー。ビデオゲーム、音楽、映像、アプリケーション設計など、共感覚的アプローチで創作活動を続け、代表作に「Rez」や「ルミネス」など。金沢工業大学客員教授、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科特任教授。

若林恵:編集者。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業後、平凡社入社、『月刊太陽』編集部所属。2000年にフリー編集者として独立。2012年に『WIRED』日本版編集長就任、2017年退任。2018年、黒鳥社(blkswn publishers)設立。

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トークゲストの田島は日本電子専門学校を卒業後、フリーランスとしてキャリアをスタート。のちに『ハリー・ポッター』シリーズなどを手掛けたVFX*1制作会社Double Negative(現DNEG)のシンガポール支社に入社し、『ヴェノム』『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』 『GODZILLA ゴジラ』などの制作に参加。

昨年末に『スター・ウォーズ』シリーズなどを制作してきたルーカスフィルムのVFX部門であるIndustrial Light & Magic(以下、ILM)に入社。直近では『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』『キングダム』の制作に関わり、映画制作に欠かせない役割を担うコンセプトアーティスト*2として、その腕を振るっている。

(*1)ビジュアルエフェクツ(Visual effects)の略称。現実にはないものを映像で作る視覚効果技術。映像をコンピューターで作るCGに対し、VFXは実際に撮影された映像を加工・合成する。
(*2)映画、ゲーム、アニメなどを構想する際に、作品に登場するキャラクターや世界観、舞台の背景などをビジュアルで伝えることも主な目的とした“コンセプトアート”を手掛けるクリエイター。

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そうした実績を持つ田島を交えて行われたトークセッションは、テーマである「独学」のほか、コンセプトアーティストととしての仕事論、0から1を生み出すアイデアの生み方まで多岐に渡った。

今回はそんな示唆に富む対話の様子を、NEUTからレポートでお伝えする。

アイデアを出す力は鍛えられる

今回のトークセッションで最も話題に上がったのが、0から1を生み出すクリエイティビティの発揮の仕方について。

無から有を生むコンセプトアーティストを迎え行われた今回のトークセッションの肝となった、これからの時代のクリエイターに求められるヒントが散らばった対話が繰り広げられた。

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水口哲也(以下、水口):コンセプトアーティストというと、0から1を生み出すことを求められると思うんですが、それを会社の限られた就業時間の中で行えるのがすごいなと思っていて。

田島光二(以下、田島):細かく〆切が設定されているなどのマネジメントはしてもらってるので、考えることに集中できる環境ではありますね。で、実際に制作するときにはまず配給会社から作品のことを教えてもらうんですが、話やキャラクターの設定が決まってないこともあります。

水口:そういう状況だと相当な想像力が必要になりますよね。

田島:それでいうと、社内にパイレーツ・オブ・カリビアンに出てくるデイヴィ・ジョーンズ(*3)をデザインした人がいるんですけど、彼のアイデアは一つ飛び抜けてますね。みんなでデザインのアイデア出しをするんですが、彼が出してきた1枚の説得力は凄い。

(*3)『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズに登場するキャラクター。劇中に登場する幽霊船「フライング・ダッチマン号」の船長で、顔がタコの足で覆われているのが特徴。

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若林恵(以下、若林):その想像力の源を田島さんはどう分析しますか?

田島:そのキャラが作中でどういう役割をするのか、観客にどういう印象を与えるのか、そこを徹底して考えて理解する力がすごいんだと思います。あと、ぼくは配給会社からもらった情報に合わせたものを描きがちなんですけど、彼はそこから外れつつもみんなを納得させるアイデアを出してくるんです。この“外れる”ことはデザインにとって大事だと思います。

若林:なるほど。そういうアイデアを出す方法も技術の一つじゃないですか。そこは鍛えられるものなんですか?

田島:鍛えられると思います。新しいアイデアって何かと何かの組み合わせだと思うんですが、この組み合わせ方が凝り固まるとつまらないものしかできなくなっちゃう。だから常にアンテナを張っておくんです。街中で目にする何気ないものについても「あの形かっこいいな」と思ったら覚えておいて、「これとこれ組み合わせたら面白いかもな」と考える。

水口:よく写真を撮ってコラージュしたりしてイメージを組み立てる人もいますね。

田島:ぼくは頭の中でそれをやりますね。あとは一定のやり方に凝り固まってしまうと方向性も一定になってしまうので、慣れていないソフトを積極的に使ったりしてます。今は「Blender」っていう無料の3Dソフトにはまっています。いいですよ。

水口:「これはアイデア出ないな」と挫折したことはありますか?

田島:仕事を始めたての頃はありましたが今はないです。結局、ただ紙を前にアイデアを出そうとしてもアイデアは出てきません。調べたり人に話を聞いたり、そういうアイデアを出す前の下準備が大事なんです。例えば、知らない文字は絶対に書けないですよね。だから知識を増やさないといけない。

水口:それでもアイデアが出ないときはどうします?

田島:そういう時はまず適当に作って、それを組み合わせたり、角度を変えてみたりして、自分の頭をなんとか刺激してみますね。上手くアイデアが出ないときでも、必ず何かひねり出すようにはしてます。

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アイデアを出すことを田島は“組み合わせる”という言葉で表し、そのための下準備が大事だと語った。

彼にとってアイデアは思いつくものではなく、知識をもとに意図的に組み合わせて生み出すものなのだ。古典的な独学の手法といい、アイデアを出すための方法論といい、彼は何も突飛なことをしているわけではない。

では、何が彼を世界でもトップクラスのコンセプトアーティストに押し上げたのか。そう聞かれれば、それは何よりも絵を描くことが好きだというモチベーションなのだろう。

クリエイティビティを発揮しなければいけないからこそ〆切が必要

トークセッションで若林が「天下のILMでいくら給料もらってるんですか?」と投げた直球の質問に、田島が「…それ言ったら契約解除なので(笑)」と返し、会場の雰囲気が和んだ場面があった。

聞くところによると、ILMで働くコンセプトアーティストの給与制度はなんと時給制だという。

若林:そう、びっくりすることに時給らしいんですよ。ぼくと水口さんはそれを聞いて、「会社に長くいた方がいいじゃん」とかダサいこと言ってね。

田島:ぼくも最初はそう思いました(笑)。でも残業はさせてもらえないんです。するならプロデューサーに許可をもらわないとダメ。基本的に「今日これをやってください」ってことを就業時間内に終わらせないといけない。

若林:次から次へと仕事をしてる印象があるんですが、それも時間通りに収めていますか?

田島:はい。でもマネージャーがスケジュールを管理してるから、基本的にアーティストはそんなに時間を考えなくてもいいようになってます。「今日はここまでできる?」「いけるよ」って感じで、それに対応していく。

若林:それ、ある種の厳しさがありますよね。〆切が明確に決められているからだらだらできない。

田島:そうですね、だから毎日が勝負です。

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「〆切はクリエイティブの母」とある編集者に言われ、「まったくもってそうだ」と納得したことがある。

思えば、クリエイターの才能を発揮させるべく、「毎日が勝負」という環境を作り出す、これは古今東西で行われてきたこと――作家が作品を書くために温泉宿へ通うといった古くからある話――で、それを現代的なシステムに落とし込んだILMは、クリエイターにとってはむしろ、クリエイティビティを発揮しやすい場所なのかもしれない。

「リメイク」と「模写」

そうして時間内にタスクを完了させる、いわばオンとオフがはっきりした生活を送る田島だが、水口はそのライフスタイルに対し一つの仮説を立ててこう質問を投げかける。

「オフのどこかにアイデアを生み出す秘訣があるんじゃないですか?」

これに対して田島は、「なるほど…たしかにオフでも絵は描いてますね」と答え、トークは彼がオフに何をして独学に励んでいるかという方向に向かう。ここからの一連の流れの中で、田島流の独学が掘り起こされていくことになった。

水口:オフに描く絵のモチーフはどんなものなんでしょう。

田島:いわば練習なので、そういうときは写実的なモチーフの方がいいのかなと。そのモチーフに縛られる分、上手く描けていないと明確にわかるので。こういう練習はもうずっと、死ぬまでしてると思います。あとは自分が昔描いた絵を「リメイク」したり。

水口:そうやって何年も何年もかけて醸成していくんですよね。

田島:ですね。昔と考えてることは同じでも、できる幅が増えているので、昔できてなかったことがわかる。だから新旧の絵を見比べるといろいろわかりますね。

水口:他にも練習法、というか独学してることはありますか?

田島:絵に関しては「模写」が一番いいと思います。

水口:いわゆる名画を?

田島:まあそうですね。それもただ真似るのではなく、書いた人の思考を想像しながら模写するといい。ぐーっとその絵に集中していくと、「何でこの青を使ったんだろう?」「何でこの線を入れたんだろう?」って疑問がわいてきて…だからいつまでも学べるんです。

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田島流の独学は「リメイク」と「模写」にあるらしい。

両者の特徴を考えてみると、「リメイク」は“自分の絵”と向き合う手法で、「模写」は“他人の絵”と向き合う手法ということになる。共通しているのは、どちらも「昔の自分の絵」と「名画」と向き合うことで、過去から学んでいるという点だ。

言ってしまえば温故知新、ことわざにもなるような古典的な手法による独学である。これであれば、誰もが今から実践できる。

しかしここで付け加えておきたいのが、田島が何よりも継続してそれをやり続けているという点である。

彼は学生時代から絵を描くことになによりも時間を注ぎ、加えて描いた絵を人に見せてきたという。見せてはダメ出しをもらい、また見せてはダメ出しをもらい…というこのサイクルをずっと続けてきたのだとか。

またトークセッションの内の質問コーナーでも「休日の過ごし方は?」と聞かれた田島はこう答えている。

田島:旅行はあんまりしないですね。スポーツも読書も映画鑑賞もそんなにしないです。自分の関わった映画もそんなに観ないんですよ(笑)。それは次に関わる映画の絵を描く時にイメージの邪魔になるので観てないんですけど。まあ、絵を描くほうが楽しいので。

オフでも絵を描くことを好み、ふとした瞬間にも独学をしているという彼は、“好きこそものの上手なれ”を体現するような存在だった。

彼には天性が備わっているだろうし、これらは誰にもそう簡単に真似できるものではないだろう。しかし田島は何よりも努力して学び続けた結果、目標としていた世界的なVFX制作会社のILMで仕事をしている。努力次第で目標を現実にすることが可能だと証明している彼の姿は、多くの人を勇気づけるのではないだろうか。

「自分を成長させるのが困難な時代」

なぜ今回のテーマは「独学」だったのか。「本当に欲しい未来とは何か」を考える上で、このテーマが今話されるべき理由を、若林はトークセッションの前にこう語っている。

若林:今は自分を成長させるのが困難な時代だと思っています。一昔前の会社には教育の機能があったんです。でもいろんな理由があって、その機能を会社が捨ててしまったというのが僕の見立てです。なので、成長するための場は自分から求めないといけなくなりました。このあとライブをしてくれるSASUKEさんも、自分が作ってる音楽が「これでいいのか?」と常に手探りでやり続けているそうです。そういう意味でいうと、クリエイターはこれからの時代をいち早く掴んで生きている人とみなすことができると思います。せっかく来てもらったんだから皆さんには何かを作ってもらわないと困りますよ(笑)。

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ミュージックセッションでは、SASUKEが元号「令和」をテーマにした曲「新元号覚え歌」などを披露。インターネットを使いながら独学で音楽やダンスを学んだ彼は、中学校の合唱コンクールの曲の伴奏をサンプリングしたエピソードを交えながら機材を使っての作曲の過程を紹介した。

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同イベントではSony Future Showcaseとして、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの秋山賢成(あきやま けんじょう)によるPlayStation®VRを活用し、中高生がバーチャルリアリティーのコンテンツをつくるVR CAMPや新しいあそびのプラットフォーム「toio(トイオ)」を紹介するセッションが行われ、会場内には実物のtoioを体験できるブースが設けられた。

「自分を成長させるのが困難な時代」だからこそ、自ら「独学」しなければ成長できない。

そんな現代を生きるためのキーワードは、成長しなければと思わせる「モチベーション」なのではないかと思う。「独学」もそこから始まる。

今回trialogに参加した面々は、そういう意味ではそれぞれにモチベーションを抱えてこの場を訪れただろう。彼らがこれから何を独学し自分を成長させ、何をアウトプットしていくのか。

若林が笑いながらも「せっかく来てもらったんだから皆さんには何かを作ってもらわないと困りますよ」と言ったように、当日あの場にいた誰かが何かしらのアウトプットを披露し評価された時に、今回のtrialogは本当の意味で完結するのかもしれない。

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trialogとは、実験的な対話のプラットフォームです。

世の中を分断する「二項対立」から、未来をつくる「三者対話」へ。
trialogは異なる立場の三者が意見を交わす空間をつくり、
「本当に欲しい未来とは何か」を考えます。

代表を務めるのはblkswn コンテンツ・ディレクターの若林恵。
さらに、ゲームデザイナー/クリエイターの水口哲也が
共同企画者として参加します。ソニーのサポートのもと、
ジャンルや国境を超えた多彩なゲストを迎え入れたイベントを開催し、
対話のためのコミュニティ形成を目指してゆきます。

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