7月8日、NEUTのラジオ番組「渋谷のニュートラル」の第7回目が放送されました。
メインパーソナリティを務めるのは、以前取材したヒップホップグループDos Monosのメンバーであり広告プランナーとしても活躍中のTAITAN MANとNEUT Magazine編集長のJUN。
第7回目の放送では、「まだ見ぬ、私たちが欲しい広告」を考える7月のNEUTの特集「AD, Not Found」に合わせ、前回に引き続き広告をテーマにトークしました。今回は、以前NEUTでも取材した、海外の広告祭でも受賞経験のあるフィルムディレクターのMotoyo ‘Jo’ Uzawaさん(以下、Jo Motoyoさん)をゲストに迎え、日本と海外の広告についてその違いや共通した傾向を探りました。
カンヌ広告祭とは?
最初の話題は、Jo Motoyoさんが参加したクリエイティブの祭典「カンヌライオンズ2019」についてだ。Jo Motoyoさんは自身が監督を務めた作品「Midnight/0時」でカンヌライオンズ開催中に行われる「Young Director Award(ヤング・ディレクター・アワード)2019」の短編フィルム部門で日本人女性初のシルバーを受賞した。先日、フランス カンヌで行われた授賞式に参加したJoさんによると、60年以上の長い歴史を持つ「カンヌライオンズ」は、もともとはカンヌ国際映画祭の幕間に上映されていたショートフィルムが、表彰の対象となり独立したものであり、初めは出品数が10作品程度だったという。現在では、毎年6000以上の作品が出品され、その部門も細分化が進んでいる。
では、どんな作品が賞を受賞しているのだろうか?数多くの作品が出品されている中でも、Jo Motoyoさんが感じたのは「金賞と呼ばれる作品の8割はソーシャルグッドとか女性をサポートするような作品やCM」ということだ。そのような状況で、会場では「多様性とか、ソーシャルグッドとかもう飽きた」というような声もあったことにJo Motoyoさんは驚いたという。これに対しTAITAN MANは「もう当たり前すぎてそれを前提にやっていくっていうのもあるんじゃないかな」と答えた。社会問題・社会課題をテーマにアプローチすることは前提として、さらに新しさや価値を生み出していくのかがこれからの課題と言えるのかもしれない。
広告にできる2パターンのアプローチ
「ソーシャルグッドな広告は割とシリアスなテーマが多いから深刻な調子になりがちだけど、そこを一周してキュートな方法でアプローチするのもいいな」。
続けてJo Motoyoさんは今回の広告祭に出品された作品の中で印象的だった広告としてスウェーデンの生理用品ブランドLIBRESSE(リブレッセ)のキャンペーン動画「VIVA LA VULVA(ビバ・ラ・ヴァルヴァ)」を挙げ、このように話した。この動画では海外でも日本でもタブー視されている女性器をモチーフに、可愛らしい色使いやコミカルな動きと明るい音楽で女性器をポップに表現している。社会貢献や社会問題を意識した作品には、確かに真面目で堅い雰囲気があり、あるいは生理用品のCMで経血が青かったり、女性がスキップをする演出など、性を扱う作品では不自然なくらいの爽やかさを意識したものが多いように思われる。そんな中で、「VIVA LA VULVA」のような作品は受け手にとっても飲み込みやすい作品になるのだろう。
「VIVA LA VULVA」
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一方で、JUNは同じく「カンヌ・ライオンズ2019」の受賞作品であるアメリカの新聞社The New York Times(ニューヨーク・タイムズ)の作品「The Truth Is Worth It」を挙げ「あれはシリアスだけどかっこいいし、アウトプットとして伝わりやすくわかりやすい」と語った。5つの映像からなるこのシリーズ作品では、ロヒンギャ問題やアメリカ国境において家族から引き離されてしまう子どものストーリーを取り扱い、報道機関としてのニューヨーク・タイムズの誠実な姿勢を表している。これに対しJo Motoyoさんは「茶化しちゃいけないものをストレートに伝える力とか勇気も、当たり前に評価されるべき」と、作品の内容や受け手を考えた使い分けが必要であることを強調した。
「The Truth Is Worth It: Resolve」
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クライアントとクリエイターは一緒に成長する必要がある
「今まで広告は商品とその広告を作ったクリエイターのものだったけど、今その裏にいるプロダクト自体を作っている人たちのリテラシーがすごく問われている」。
さらに、もう一つ広告祭で感じたこととして、Jo Motoyoさんはこう語った。「カンヌ・ライオンズ」では「Creative Marketer of the Year(クリエイティブ・マーケター・オブ・ザ・イヤー)」と呼ばれるクリエイティブを利用して新しいことに果敢に挑戦した企業に贈られる賞がある。この賞からも分かるように、広告を実際に使用するかどうかの決断を下すのは商品を作る企業の上層部だ。Jo Motoyoさんらクリエイターが制作した作品も、実際の公開の前にクライアントが実施するマーケットリサーチによりお蔵入りとなることもしばしばあるようだ。Jo Motoyoさんは「私たちだけがリテラシー高くなっても、それを受け入れてくれるクライアントがいないと…」と続け、クライアントとクリエイターが同じレベルでやり取りをし、作品へのリテラシーを共有して共に成長していくことが必要なのではないかと話した。
関連して、ここまで海外の事例を中心に話してきた3人だったが、TAITAN MANが日本の最近の事例として参議院選挙に伴い従業員が選挙に行けるようにするために7月21日を全店休業にすることを発表したパタゴニアを例に挙げトークを展開した。「全店休業したらその日の売り上げ0になる。でもその方がブランドの価値が上がるというジャッジができている意思決定者は超クレバーでしょ」と語る。前回の放送に続き話題に上がったパタゴニアだが、企業の理念を社会に表明する方法として休業までする姿勢は注目を集めている。
問題が顕在化しにくい日本社会
「日本は問題を扱う力、捉える力が余りにも無くて不安になった」。
放送の冒頭で、Jo Motoyoさんは「多様性やソーシャルグッドに飽きた」と語る広告業界に関して疑問を呈していたが、番組後半ではさらにこの問題を深堀した。この問題に関して日本で出てくる意見としては「日本には問題がない」というものがあるようだ。人種も黄色人種が多くて、宗教もそれほど重視されず、女性差別問題も顕在化されていないと言われる日本だが、Jo Motoyoさんは「その問題が顕在化しにくいってことが問題」と指摘した。確かに、実際には多様なバックグラウンドを持つ人が暮らし、電車には痴漢を防止するための女性専用車両まである日本で、問題がないはずがないのだ。「当たり前のように差別があるし、それにみんな気づかないっていうのが怖い」と続け、広告業界だけではなく問題に向かっていく力が弱い日本社会を問題視するべきだとした。
社会にとって良い広告は問題意識から生まれる
「嫌なことを嫌だと言っていい」。
今回の放送のまとめで、Jo Motoyoさんが今日からできることとして挙げてくれたのは「嫌なものを嫌だと言うこと」だ。社会問題を扱った広告には、わざわざ問題を大事にして「傷口に塩を塗るな」というような意見が寄せられることがあるという。しかし、問題を問題として扱い、嫌なものに対してはっきりと意思表明をしていかなければ解決しない。少しずつでも声を上げていくことで、広告業界に、さらには社会に変化がもたらされるのかもしれない。
以上、第7回目の放送をダイジェストでお送りしました。
次回は8月12日16:10から放送の予定です。
Motoyo ‘Jo’ Uzawa
2019年に制作したショートフィルム 「Midnight/0時」がフランス カンヌで行われたYoung Director Awardにて日本人女性監督として初めてシルバーを受賞。その他、CMを始め、MVなどを精力的に手がける。映像制作プロダクションTOKYO所属。
TAITAN MAN
1993年生まれ。3人組ヒップホップグループDos Monosのメンバーとして活動中。2017年には韓国・ソウルでのライブやSUMMER SONIC2017への出演を果たした。2018年には日本人として初めてアメリカ・LAのレーベル「Deathbomb Arc」との契約を結び、初の音源「Clean Ya Nerves」をリリースした。2019年3月、1st アルバム「Dos City」をリリース。
JUN
1992年生まれ。成蹊大学卒業後、社会派ウェブマガジン『Be inspired!』の編集長を経て、現在は2018年10月に『Be inspired!』からリニューアル創刊した『NEUT Magazine(ニュートマガジン)』で創刊編集長を務める。「既存の価値観に縛られずに生きるための選択肢」をコンセプトとする同誌で、消費の仕方や働き方、ジェンダー・セクシュアリティ・人種などのアイデンティティのあり方、環境問題などについて発信している。