「大惨事のあと、アートに何ができるのか」。オノ・ヨーコ氏も参加する「カタストロフと美術のちから展」

2018.11.8

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東日本大震災や阪神・淡路大震災など記憶に新しい大災害から、日本では十分な議論が行われていない世界の難民問題、個人的な悲劇まで広義の「カタストロフ」をテーマとした作品までを扱った「カタストロフと美術のちから展」が六本木ヒルズ内にある森美術館にて2019年の1月20日まで開催されている。

同展示の区分は、大きくふたつ。まず「美術は惨事をどのように描くのかー記録、再現、想像」をテーマとし、アーティストの私的な視点で惨事を捉えたセクション1。「陸前高田」シリーズをはじめとする、東日本大震災で被災した故郷の風景を継続的に撮影した写真家 畠山直哉(はたけやま なおや)氏の記録があれば、スイス人アーティスト トーマス・ヒルシュホーン氏の壁が崩れ落ちた建物「崩落」のように「破壊(カタストロフ)」をテーマに制作されたものなど、起きてしまったカタストロフに対する多角的な受け取り方とその表現をみることができる。

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トーマス・ヒルシュホーン《崩落》2018年
制作協力:奥多摩美術研究所
Courtesy: Galerie Chantal Crousel, Paris
展示風景:「カタストロフと美術のちから展」森美術館(東京)2018年
撮影:木奥惠三 画像提供:森美術館

そして大惨事や悲劇から私たちが立ち直れるとしたら、そのために美術にはどのような役割を果たすことができるのかを考えさせられる「破壊からの創造ー美術のちから」をテーマとするのがセクション2だ。著名な現代アーティスト オノ・ヨーコ氏による来場者参加型の作品「色を加えるペインティング(難民船)」や、アーティスト集団Chim↑Pomが3.11直後に福島第一原発から700mほどの東京電力敷地内で撮影した映像作品「REAL TIMES」など、こちらもそれぞれ異なったアウトプットがみられる。

そのようにアーティストの表現を見せるだけでなく、鑑賞者である個人が自身の行動についても考えさせられるような、大規模な展示企画を行った森美術館キュレーターの近藤健一(こんどう けんいち)氏に、なぜ「カタストロフ」をテーマに展示を開いたのか、そして企画にあたっての思いをNEUTはインタビューした。

ー「カタストロフと美術のちから」という展示の名称にはどんなメッセージが込められていますか?展示の企画に込めた思いを教えてください。

「カタストロフ」は「大惨事」とも言い替えが可能ですが、この言葉を象徴的に使い、天災、人災、個人的な悲劇などを考察の対象としています。自然災害、戦争、テロ、難民問題、金融破綻など危機的問題が山積する今日において、美術に何ができるのか、その可能性を問う、という思いが込められています。

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ジリアン・ウェアリング 《自分の人生つかみきれない!》「誰かがあなたに言わせたがっていることじゃなくて、あなたが彼らに言わせてみたいことのサイン」シリーズより 1992–1993年
Cプリント、アルミニウム板 44.5 x 29.7 cm
Courtesy: Maureen Paley, London

ー今回の展示では、企画の核となった特定の作品があるのでしょうか?

2011年に発生した東日本大震災は、日本社会を大きく変えてしまっただけでなく、日本の現代美術界にも大きな影響を与えました。企画の核になった作品というものはありませんが、震災から7年以上が経過し、東京に住んでいる人々の震災の記憶の風化は著しい一方、いまだ復興が思うように進んでいない地域があるという現状を前に、展覧会を通して、さらなる復興を推し進めるような議論を再燃させたいという意図が、企画を立てる根底にありました。実際に展覧会参加作家40組のうち、4分の1が東日本大震災に関する作品です。

ー同展示では抽象画から、記録写真を使ったもの、ドキュメンタリー映像、映画、参加型の作品など、さまざまなジャンルの作品が展示されていますが、これはなぜでしょうか?

絵画、写真、インスタレーション、映像など、多様なジャンルを内包するのが現代美術の特徴なので、多ジャンルの作品を意図的にセレクトしました。また同じ手法を用いていても、写実・フィクション・極端な抽象化など、「惨事」の描き方はアーティストによって多種多様です。さらに、東日本大震災をテーマにしていても、絵を描くことで自問自答しながらその「惨事」に立ち向かうアーティストもいれば、自ら被災地に赴き、地域への参加や人々との対話を通して社会に変化をもたらすような作品を制作するアーティストなど、そのアプローチ方法もさまざまであることが、展示を通して感じていただけるのではないかと思います。

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Chim↑Pom《REAL TIMES》 2011年
ハイビジョン・ビデオ・インスタレーション 11分11秒
所蔵:森美術館、東京

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宮本隆司《KOBE 1995 After the Earthquake―神戸市長田区》 1995年
ゼラチン・シルバー・プリント 51×61 cm
所蔵:森美術館、東京

ー日本で取り上げられることが比較的少ない難民問題やパレスチナ問題などに関連した作品も、同展示では並べられていました。これにはどんな意図があるのでしょうか?

日本だけでなく、不穏な空気が立ち込める世界全体の状況にも言及したいと思っていました。難民問題やアメリカ同時多発テロ、海外での紛争や戦争に関する作品と並置することで、グローバルな視点で「カタストロフ」を語りたいという思いで選びました。

ー「カタストロフ」をテーマとする展示を、森美術館のような規模の大きい美術館で開催する意義はどのようなものだと感じていらっしゃいますか?

現代アートは、ジャーナリズムとは異なり、見る側が自由に解釈できる曖昧さや余白が残されています。悲劇そのものを見せるというのではなく、アートが持つ「問題を提起する力」、そして、「理想の社会や未来について考えるきっかけを与える力」がアートにあることを提示したい、という思いがありました。日本人は自発的に物事を考える機会が少ないといわれますが、展示作品を通して「この作品はいったい何を表現しようとしているのか」「自分にとってどんな意味が見出せるか」を考えてもらえたら。そして、この展覧会が悲劇を扱いつつも、未来への希望へつながっていくものになればいいと思っています。

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オノ・ヨーコ《色を加えるペインティング(難民船)》 1960 / 2016年
ミクスト・メディア・インスタレーション
展示風景:「オノ・ヨーコ:インスタレーション・アンド・パフォーマンス」マケドニア現代美術館(ギリシャ、テッサロニキ)2016年

キュレーターの近藤氏が話していたように、社会に存在する問題を視覚的に訴えることができるだけでなく、受け手に自由な解釈の余地を残せるのがアートだ。同展示のすべての作品のテーマである「カタストロフ」は、自然災害のように目に見える形だけではなく、人が内面的に抱える傷などの目に見えない形でも人間と関わってきている。そんな個人の内面的な「カタストロフ」についても話されているのが、今回の企画の特徴であるといえる。同展示の空間に足を踏み入れたなら、この社会における多様なレベルの「カタストロフ」にある、気づくことのなかった普遍性を肌で感じることになるだろう。

カタストロフと美術のちから展

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主催:森美術館
企画:近藤健一(森美術館キュレーター)
会期:2018年10月6日(土)〜2019年1月20日(日)
会場:森美術館(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階)
開館時間:10:00〜22:00(※会期中無休)
※火曜日のみ10:00~17:00
※2019年1月1日(火・祝)は22:00まで
※いずれも入館は閉館時間の30分前まで
入館料:一般 1,800 円、学生(高校・大学生)1,200 円、子供(4歳〜中学生)600 円、シニア(65歳以上)1,500 円
※本展のチケットで展望台 ・東京シティビューにも入館可(スカイデッキを除く)
一般のお問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)

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